特別企画

40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!【第3回】

カールツァイス「ZEISS Batis 2/40 CF」編

ZEISS Batis 2/40 CF。実勢価格は19万8,000円前後(税込)。装着ボディはα7 IV

「40mm単焦点レンズの素晴らしさを伝えたい!」というわけで始まった本連載。第3回となる今回は、カールツァイスの40mm単焦点レンズ「Batis 2/40 CF」をお届けします。

第1回目で、「40mm単焦点レンズは比較的小型・軽量なタイプのものが多く、手にしやすい価格帯に設定されていることが多い」といったことを述べていますが、本レンズに限っては、それらに当てはまりそうにありません。

外観・仕様

「Batis 2/40 CF」は、2018年11月に登場した35mmフルサイズ対応の40mm単焦点レンズ。ソニーEマウントおよびAFに対応した「Batis」シリーズのうちの1本です。カールツァイスは焦点距離40mmの本レンズを、Batisシリーズの標準レンズとして位置付けています。

本レンズの最大径×長さは91×93mm、質量は361gとなっています。前述の通り、高性能な標準単焦点レンズとしてなら妥当なサイズで軽量と言えますが、他社製の40mm単焦点レンズと比べると二回りほど大きく、重さは2倍ほどあることになります。

その一方で、妥協を許さず設計された高い光学性能も本レンズの特徴とされています。そのためにはサイズの大型化など厭わないところが、実にカールツァイスらしい選択と言えるのではないでしょうか。

しかし当のカールツァイス自体は、本レンズを「軽量な標準レンズ」としています。確かに近頃の高性能な50mm F1.4などに比べれば軽量かもしれませんが、焦点距離40mmのレンズに対するヨーロッパと日本の認識の違いが垣間見えるような気がしないでもありません(Made in Japanのレンズですが)。

もうひとつの大切な特徴として、近接撮影性能が高いことが挙げられます。レンズ名称にある「CF」は、クローズフォーカスの略だそうで、これはすなわち「近い距離でピントを合わせることができる」ということになります。

専用のレンズフードが付属します。付属というよりはレンズフードがあって本レンズのデザインが完成すると言った印象。レンズ、ボディと一体となった優美なデザインもBatisシリーズの特徴ですね。

操作系

操作系で目を引くのは、鏡筒上部に設けられた、Batisシリーズ共通の有機ELディスプレイ。デジタル表示で撮影距離と被写界深度を確認することができます。

ミラーレスカメラ用レンズは、撮影距離表示や被写界深度目盛をもたないレンズが多いのですが、キチンと最新式の表示装置を装備してくれているところは、さすが高級レンズと言ったところでしょう。暗がりでも見やすいので便利です。

一方でスイッチ類は少なく、AFの駆動範囲を決めるフォーカスリミッターのスイッチがあるだけです。フォーカスリミッタースイッチが備えられているのはBatisシリーズのなかでも珍しい方で、これはマクロレンズと同じく撮影距離範囲を制限することでAFの迷いを抑制するためだと思います。

作例

散歩の途中で出会ったシバイヌさんを撮らせてもらいました。お気軽な気もちで撮ったのですが、帰ってから画像を確認してビックリ。絞り開放のF2.0でもピントの合った眼の周辺は非常に高い解像感で表現されています。しかもギスギスしたものでなく、品の良さとどこか優しさを感じます。ヌケも良くボケ味も綺麗で、写りの良さはまさに一級の高性能レンズのそれ。日々の写真をこんな綺麗に写すというのも悪くないな……など思ってしまいました。

α7 IV/ZEISS Batis 2/40 CF/絞り優先AE(1/80秒、F2.0、+1.0EV)/ISO 100

お寺の山門の構造をF5.6まで絞って撮影。開放絞り値と比べるとさらに画面全体で解像感が安定するのは、まあ当然のこと。嬉しいのは、絞り込んでいっても、高い解像感のなかに品の良さを感じつづけられることでした。コントラストに優れた描写のおかげで、波打つ木目が細かなところまで生き生きと写っています。自分が良いと感じたものを、さらに豊かな表現で写しとめてくれるレンズだと感じました。

α7 IV/ZEISS Batis 2/40 CF/絞り優先AE(1/40秒、F5.6、−1.3EV)/ISO 1600

クローズフォーカスのレンズということで、最短撮影距離で花の蕾を撮ってみました。名称にたがわず良く寄れますし、被写体を大きく写せます。最短撮影距離は24cm、最大撮影倍率は約0.3倍となっており、35mmフルサイズ対応の現行ミラーレスカメラ用40mm単焦点レンズとしては、最も近接撮影性能の優れたレンズであることは間違いがありません。しかもカールツァイスならではの高い描写性能も確保。あんまりカッコよく撮れるので、ソニー「α7 IV」のクリエイティブルックをBW(モノクロ)にして雰囲気を出してみました。

α7 IV/ZEISS Batis 2/40 CF/絞り優先AE(1/40秒、F5.6、−1.7EV)/ISO 200

何かの資材の上で丸くなっていたネコを撮影。ここまで本レンズを40mm単焦点レンズとしては大きい大きいと連呼してきてしまっていますが、実際に使ってみると、ほとんど違和感を覚えることのないサイズ感でした。高性能な標準レンズだと考えれば、カールツァイスの言う通り、むしろ軽くて使いやすいと感じるほどです。カールツァイスがBatisシリーズで、焦点距離40mmの本レンズを標準レンズとした意味が、使っているうちによく理解できるようになりました。

α7 IV/ZEISS Batis 2/40 CF/絞り優先AE(1/160秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 100

まとめ

本連載で紹介するレンズのなかではちょっと異色な存在となりましたが、カールツァイスが提供するBatisの標準レンズだけに、その描写性能と使い勝手の良さは実に素晴らしいものでした。誤解を恐れずに言わせてもらえば、あらゆる面で「一線を画す」レンズだと言えます。

本文では触れきれませんでしたが、サードパーティー製ながらAFの速さと静かさ、精度においてはまったく問題を感じることがなく、ソニーのカメラボディがもつレンズ補正や瞳AFといった機能にもしっかり対応しているので安心です。

ただし、お値段は決してお手軽とは言えません。しかしそれも、カールツァイスというブランド価値と、それに伴うレンズ性能を考えれば当然と言えば当然と言えるでしょう。焦点距離40mmの画角に惚れ込み、最高峰の描写性能を探求するようになった先にあるのが本レンズなのかもしれません。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。