特別企画

深度合成で「うずらの惑星」を撮る!

小さな宇宙を大きく見せる方法

うずらの惑星を発見したのは2008年5月のことだった。元々自身の写真のテーマのひとつが身近な宇宙の発見なのだが、写真集を出版するにあたり編集者から、「表紙は宇宙っぽいイメージにしましょう」と言われて撮影したのが、うずらの惑星だった。

最初はただウズラの卵が、荒れた大地のような柄に見えたので接写してみたのだが、Photoshopで色調整をする際に何気なく「階調の反転」をしてみたら、青い海と白い雲の"惑星"に変化したのだ。

階調を反転させると、暗い部分は明るくなり、明るい部分は暗くなる。つまり暗い部分が明るい雲に変化した、というわけだ。

階調を反転させると色も反対の色、つまり補色になる。卵の明るいアイボリーの部分は濃いブルーに変わった。今まで、宙玉(そらたま)や手ブレ増幅装置など、いろいろな技法を考案してきたが、この「うずらの惑星」こそが、自分史上最大の発見だと言える。

ポイントはボケを確保しつつ深い被写界深度を得ること

今回は、また新しいアイディアがあって久しぶりにウズラの卵を接写してみた。撮影時にカメラの深度合成機能を利用して卵全体にピントが合うようにした。リアルな惑星は距離がすごく離れているので、ピントは惑星全体に合う。一方、ウズラの卵はサイズが小さいため(大きく写そうとして)マクロで撮影すると、どうしてもピントが浅くなってしまうからだ。

今回使ったのは、オリンパスのOM-D E-M1 Mark IIに搭載されている「深度合成」モードだ。1回シャッターを切ると自動でフォーカス位置を変えながら8コマの連写を行い、ピントの合った部分だけを合成してくれる。

OM-D E-M1 Mark II

この機能を利用することで、被写界深度の深い写真をカメラ内で作り上げることができるというわけ。

被写界深度を合成した作品づくりを始めた頃は、フォーカスブラケットした画像をPhotoshopで合成していたのだが、何十枚も合成する場合では画像データが重くなってしまうし、うまく画がつながらない(ボケた部分ができてしまう)など、修正がかなり大変だった。

最近はカメラ内で簡易的に深度を合成できる機能を利用するようになってきた。使用目的にもよるが、手間がかからずなかなか便利な機能なのだ。

次の写真は深度合成をする前の1枚と、複数の画像を合成した後のものだ。右の画像の方が深度が深くなっていることが確認できる。

深度合成をする前
複数の画像を合成

そして、ウズラの卵をテープで作ったリングの上に逆さまにして立て、俯瞰で撮影する。なぜこの卵は丸いのかと聞かれることがたまにあるのだが、卵を横からではなく、底面側から撮影しているからだ。それで球形に写るのだ。

今回のテーマは「惑星直列」

さて、今回久しぶりにウズラの卵を撮ろうと思ったのは「惑星直列」のアイディアを思いついたからだ。

惑星直列というのは惑星が一直線に並んだ状態を意味している。惑星が一直線に並んだ時に何かが起きる、というようなテーマの小説や漫画が描かれているので、この言葉を聞いたことがある人もけっこういるのではないだろうか?

で、その惑星直列のイメージで撮影したのがこの写真だ!

どうだろうか? ただの直列ではなく、並列にもなっている。もちろんこれは世界初の大発見だ。もし私よりも先にこれを発見したという人がいたら、ぜひ教えていただきたい。どこに報告をしたらいいのかよく分からないので、とりあえずこの場で発見の宣言をしておく。

タネ明かしをすれば、パックに入った卵をそのまま俯瞰撮影し、Photoshopで「階調の反転」をしたのだ。ちなみに、この写真は接写ではないので深度合成は不要。

深度合成テクニック・応用編(1)

さて、次の写真は何を撮ったものか分かるだろうか。

答えは、階段1段分。まず階段の上にカメラを置いて、フォーカスブラケット撮影した画像をPhotoshopで深度合成した。

合成といっても、別の画像を合成したわけではないので、バックの海も同一画面内のもの。右上にちょこっと写っているのは階段の手すりだ。このように画面全体にピントが合っているとサイズ感がわからなくなるため、階段を巨大な崖に見えるように表現したというわけだ。

これは合成する前の写真の1枚目。1番手前にピントを合わせているのでバックはボケている。この時は合計9点の写真をフォーカスブラケット撮影し、Photoshopの「レイヤーを自動合成」(編集メニュー)を使って合成している。撮影時の機材は、オリンパスOM-D E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROを使用。絞りはF8とした。

深度合成テクニック・応用編(2)

深度合成は、宙玉(そらたま)での撮影にも向いている。

宙玉とは、ボールレンズを取り付けたフィルターを使って、宙に浮かんだ玉の中に風景が映っているような写真を撮影できる方法だ。

玉の方にピントを合わせるとバックがボケるという仕組みがこのフィルターのおもしろいところだが、玉がレンズに近いので、どうしても被写界深度が浅くなってしまう。つまり玉の縁がボケてしまうというわけだ。この問題は、絞り込む(絞り値を大きくする)ことで縁をくっきりさせることで解決できるのだが、そうすると今度は逆にバックがボケなくなる。この絞り値のコントロールが、なかなか微妙なのだ。

今回は、一部をのぞきオリンパスOM-D E-M1 Mark IIにM.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroを装着、そこにsoratama 72をセットした組み合わせで撮影。この組み合わせではレンズ前面から玉までの距離が6cmという近さになる。しかも接写になるので玉はどうしてもボケてしまう。

藤の花を撮影した。ボケは美しくて気に入っているのだが、玉のエッジはくっきりしていない。

OLYMPUS PEN E-P5 / M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 + soratama 72 + 接写リング / F3.5

バックをぼかしつつ、玉をくっきりさせる方法の一つが深度合成だ。深度合成では画面内のすべてにピントを合わせるのではなく、メインの被写体だけをはっきりさせることも可能。

たとえば虫の撮影で、メインの虫だけをはっきりさせ、バックはぼかすというような方法。それが宙玉にも応用できる。あまり絞らずに深度合成をすれば玉をくっきりさせつつ、ボケを活かすことが可能だ。

デメリットもある。撮影枚数が8コマに限定されることや合成後の写真がトリミングされて小さくなること、完成後の画像はJPEGになることなどが挙げられる。しかし、気軽に被写界深度を深くできるので、ブツ撮りで画面全体にピントを合わせたい時なども含め、撮影の幅が広がる機能だと言えるだろう。

次の写真は宙玉で深度合成したもの。写真がズレると合成できないので、三脚を使って撮影する。バックをぼかしつつ玉もくっきり撮影できた。

オリンパスOM-D E-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro + soratama 72 / F8

奈良の燈花会で撮影。三脚使用不可の場所だったのと、ロウソクのボケをきれいに見せたかったので、手持ちで無理やり深度合成撮影した。完璧とは言えないがボケを生かした撮影ができた。

オリンパスE-M1 Mark II / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro + soratama 72 / F4

筆者より告知

「Soratama Photo」というFacebookグループを作りました。宙玉をはじめ、万華鏡や手ブレ増幅装置で撮影した写真を投稿したり、交流するためのグループだ。興味のある方はぜひご参加ください!

上原ゼンジ

(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「改訂新版 写真の色補正・加工に強くなる〜Photoshopレタッチ&カラーマネージメント101の知識と技」(技術評論社)などがある。