ミラーレス向けZEISSレンズ、その魅力と実力を探る

第1回:ZEISS新潮流「Batis」「Loxia」とは

AF vs MF、有機EL vs 距離目盛…キャラクターの違う2シリーズを俯瞰する

歴史あるレンズブランドとしてご存知のCarl Zeiss。Carl Zeiss(以下ZEISS)には現在、ミラーレスカメラ向けに4つのレンズラインナップを揃えている。

1つ目は、ソニーブランドで販売されるSony/ZEISSのEマウントレンズ。

2つ目は、APS-Cフォーマットの“Touit”と呼ばれるシリーズ。ソニーEマウントとフジフイルムXマウント向けがラインナップされている。

3つ目が、35mmフルサイズ対応の“Batis”と呼ばれるEマウント向けシリーズ。

そして4つ目が、同じく35mmフルサイズ対応の“Loxia”。こちらもEマウント向けである。

この連載ではこれらのうち、35mmフルサイズ対応のBatisとLoxiaシリーズを見ていくことにする。

シリーズ名フォーマットマウントAF/MF
TouitAPS-CEマウント
Xマウント
AF
Batis35mmEマウントAF
Loxia35mmEマウントMF

実写には、ソニーのα7R IIを使用した。

多彩なレンズを楽しめるソニーα7シリーズの魅力

ソニーα7R II。35mmフルサイズにして、有効約4,200万画素の裏面照射型CMOSセンサーを搭載。ボディ内手ブレ補正機構、倍率0.78倍のEVFといった各種装備も魅力的だ。

ソニーのα7シリーズは、世界で初めて35mmフルサイズセンサーを搭載したレンズ交換式ミラーレスカメラだ。ベーシックなα7、高画素のα7R、高感度のα7Sという3機種体制を確立し、現在ではそれぞれ2世代目となるα7 Ⅱ、α7R Ⅱ、α7S Ⅱへと進化を遂げている。

ミラーレス特有のフランジバックの短さから、マウントアダプターを介して多彩な他社製レンズを楽しめるのも特徴。35mmフルサイズ対応のレンズを、35mmフルサイズの画角のまま撮影できるのだ。ミラーレスカメラで多いAPS-Cセンサー搭載モデルやマイクロフォーサーズボディでは味わえない特色であり、交換レンズ好きにはたまらないシリーズといえるだろう。

また本連載で扱うBatisやLoxiaのように、ソニー純正のレンズではないものの、Eマウントを採用し、マウントアダプターを使わずそのまま撮影が楽しめるレンズも増えてきた。しかも2世代目のα7 Ⅱ、α7R Ⅱ、α7S Ⅱは、いずれもボディ内手ブレ補正機能を搭載。手軽にフルサイズの世界を味わえるミラーレス機となっている。

Batis……Zeiss独自の有機的デザインにAFを搭載

左からBatis 2/25、Batis 2.8/18、Batis 1.8/85。

Batisシリーズは、特徴的なデザインを持つEマウント用AF単焦点レンズだ。マウントアダプターを使うことで数多くのレンズを装着できるα7シリーズだが、ソニー純正以外の35mmフルサイズ対応レンズでAFが使えるのは、このBatisだけとなる。

また、レンズ情報をボディとやりとりしており、収差の補正にも活用されているのはもちろん、きちんとExifにも情報が記録される。この点も、マウントアダプターを介した撮影では実現できない。

斬新なスタイリングとα7ボディとのマッチングも良好で、意外にも手に馴染み撮影しやすい。

実際にボディに装着して手に取ると、レンズ鏡筒の上にある有機ELディスプレイに目がとまることだろう。電源をオンにするとZEISSロゴが浮かび上がり、撮影時は合焦距離を表示するほか、被写界深度も数字表示で示してくれる。遠い被写体の場合は被写界深度をカメラからの距離で、近い被写体は合焦したポイントからの距離で表示する。

表示設定は、フォーカスリングを回転させて行う。最短撮影距離から時計回りにリングを1回転させると、表示の単位をm(メートル)とft(フィート)に切り換えることが可能。無限遠の位置から反時計回りに1回転させるなどして、表示モードのオンオフや、MFおよびDMF時だけ表示するよう設定できる。

面白いのは、遠距離と近距離とで被写界表示が異なるところだ。遠距離では被写界深度の範囲を表示し、近距離では合焦位置からの深度範囲を距離で表示するのだ。

ここからは、先日発表されたBatis 2.8/18を含め、3本のBatisについて簡単に解説する。

Batis 2.8/18

Batis 2.8/18は、対角99度を誇るシリーズ中最もワイドなレンズだ。

フィルター径は77mm。フードを装着すると大柄のルックスになるが、実際に手にすると約330gの重さを感じない。

光学系はDistagonタイプの10群11枚構成となっており、特殊低分散ガラスレンズ、非球面レンズを用いて良質の写真を手にすることができる設計だ。

シリーズ共通の防塵防滴の金属鏡筒、マウント部のシーリング、有機ELディスプレイも施されている。

発売日2015年5月20日
希望小売価格19万4,000円(税別)
焦点距離18mm
開放F値F2.8
レンズマウントEマウント
AF機構あり
レンズ構成10群11枚
最短撮影距離0.25m
フィルター径77mm
外形寸法78×95mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量330g

Batis 2/25

25mmというZEISSらしい焦点距離を持つ本レンズは、Distagonタイプの8群10枚構成。対角82度という画角は、ストリートフォトグラフィーから風景まで幅広く活躍しそうだ。明るい開放値F2もうれしい。

発売日2015年8月6日
希望小売価格15万1,000円(税別)
焦点距離25mm
開放F値F2
レンズマウントEマウント
AF機構あり
レンズ構成8群10枚
最短撮影距離0.2m
フィルター径67mm
外形寸法78×92mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量335g

Batis 1.8/85

開放値F1.8の明るい中望遠レンズだ。ポートレートからスナップショットまで、印象的なボケが楽しめるだろう。光学系はSonnarタイプの8群11枚構成で特殊低分散ガラスレンズも採用。フローティング設計となっている。

このレンズのウリは、光学式手ブレ補正機能を搭載しているところだ。光量が少ないシーンでも安心して撮影できるのが心強い。もちろん、ボディ側の手ブレ補正機能にも対応しているので、α7 Ⅱシリーズとの組み合わせで威力を発揮する。

発売日2015年8月20日
希望小売価格14万500円(税別)
焦点距離85mm
開放F値F1.8
レンズマウントEマウント
AF機構あり
レンズ構成8群11枚
最短撮影距離0.8m
フィルター径67mm
外形寸法78×105mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量475g

Loxia……Exif情報やボディ内補正に対応する技巧派MFレンズ

Loxiaも3本のレンズがラインナップされている。同じZEISSのミラーレスカメラ用レンズながら、キャラクターはBatisと大きく異なる。

左からLoxia 2/35、Loxia 2.8/21、Loxia 2/50。

Loxiaは、MFを採用したコンパクトなEマウント用レンズ。絞りリングを搭載しているので、ピントと同様に絞りもダイレクトに操作でき、撮影する楽しみを味わえる。写真を撮る、という行為を大切にしたいフォトグラファーに、ピッタリのレンズシリーズである。

一見オールドレンズのようなルックスなのだが、キチンとレンズ情報をボディとやりとりしているので、Exif情報の記録にも対応するほか、ボディ内で設定する各種収差補正にも対応する。フォーカスリングを回すと自動的に視野が拡大するところも、オールドレンズとは異なる現行Eマウントレンズならではの利便性だ。

Loxiaシリーズは動画撮影にも配慮して、絞りリングのクリックを滑らかにすることが可能だ。バヨネットにある調整ネジを付属のツールで操作すればスムーズに絞りの操作ができるようになる。

Loxia 2.8/21

コンパクトながら凝縮感のあるレンズ本体は、いかにも写りが良さそうなオーラがでている。

11枚9群構成のDistagonタイプで、異常部分分散性の特殊ガラス製レンズと非球面レンズを多用。

軽すぎず重すぎないフォーカスリングは適度な粘りがあり、じっくりと正確なフォーカシングを可能にしてくれる。

ボディに装着してフォーカスリングをいじくっているだけでもいい気分になれるはずだ。

発売日2016年1月22日
希望小売価格19万4,000円(税別)
焦点距離21mm
開放F値F2.8
レンズマウントEマウント
AF機構なし
レンズ構成9群11枚
最短撮影距離0.25m
フィルター径52mm
外形寸法62.1×85mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量394g

Loxia 2/35

約63度というやや広めの画角を持つLoxia 2/35。オールマイティに使える画角と明るさが心強い。

光学系はBiogonタイプで、レンズ構成は6群9枚のとなっている。ソリッドでZEISSらしいレンズのルックスからは、硬派なイメージを受ける。

発売日2014年12月12日
希望小売価格13万6,300円(税別)
焦点距離35mm
開放F値F2
レンズマウントEマウント
AF機構なし
レンズ構成6群9枚
最短撮影距離0.3m
フィルター径52mm
全長62.1×66mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量340g

Loxia 2/50

F2という明るさを持つ標準レンズだが、非常にコンパクトにまとまっている。50mmということもあり、ポートレートからスナップ、そして風景まで活躍の場は広そうだ。

他のLoxiaと同様に適切なスムーズさを持つフォーカスリングと、節度感のある絞りリングを備える。ともに指がかりがよく、フォトグラファーの入力に対してしっかりと応えてくれるような仕上げがうれしい。

発売日2014年10月24日
希望小売価格9万7,300円(税別)
焦点距離50mm
開放F値F2
レンズマウントEマウント
AF機構なし
レンズ構成4群6枚
最短撮影距離0.45m
フィルター径52mm
外形寸法62.1×66.2mm(ピントリング最大径×レンズキャップ含む全長)
重量320g

次回予告:いよいよ実写をお届けします!

Batis、Loxiaのうち、まずはBatisシリーズをα7R Ⅱに装着して、モデルポートレートや街中ブラブラ撮影を敢行。焦点距離による使い分けや、レンズの良さを十二分に引き出した作例をご覧いただく予定だ。

協力:カールツァイス株式会社

三井公一