新製品レビュー

Canon EOS 90D(外観・機能編)

最新仕様が充実したAPS-C一眼レフカメラ

これまで一眼レフの老舗であるキヤノンやニコンからもフルサイズミラーレス機が発売され、フルサイズミラーレス機が当たり前の時代が到来したか、と思ったところに姿を現したのが今回取り上げるキヤノンのAPS-C一眼レフカメラ「EOS 90D」だ。その広告には「なぜ光学ファインダーか」「なぜAPS-Cか」などと挑発的な言葉が並んでいる。いったいどんなカメラなのだろうか。

EOS 90Dは、EOS 80Dの後継モデルとなるミドルクラスの一眼レフだ。デザインもEOS 80Dによく似ていて、バリアングル式の液晶モニターも同じく装備されている。同じAPS-Cクラスの一眼レフでライバル機といえば、ニコンD7500かD500になるだろう。しかし、もしかしたら最大のライバルは上位機となるEOS 7D Mark IIになるかもしれない。EOS 7D Mark IIは発売から約5年が経ち、さすがにやや古さを感じる。しかも実売価格を見ると、どちらが上位機なのかわからないような感覚になる。性能は十分と判断すれば非常にお買い得なので、これは迷いそうだ。

しっかりしたホールディングができるEOS 90D。ミドルクラスながら高級機を感じさせる質感と剛性感が伝わってくる。

外観はミドルクラスのミラーレスカメラと比べれば大きいが、それでもフルサイズ一眼レフカメラよりは小柄。APS-C機のメリットのひとつだ。グリップもしっかり握れるため安定感のあるホールディングが可能だ。またグリップを握ったときのガッチリ感も印象的だった。エントリーからミドルクラスには、ボディの質感や剛性感が物足りないと感じる機種もあるが、EOS 90Dにはそれがない。上位クラスに匹敵する感触を持っている。

ただしバッテリーとSDカードを入れた重さは約701gあり、APS-Cミラーレスカメラの「EOS M6 Mark II」と比べると300g近く重い。キットレンズのEF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS USMを装着すると1.2kgを超えてしまう。気軽に持ち歩きたい場合や、女性には重さが気になるかもしれない。

一眼レフと言えば必ずあるのがクイックリターンミラー。APS-Cサイズなのでフルサイズ機のミラーより小型だ。

一眼レフの要となるファインダーは、ペンタプリズムを搭載して視野率は約100%。ファインダー倍率は約0.95倍(50mmレンズ)だ。EOS 7D Mark IIの約1.00倍には届かないものの、クリアで見やすい。このスッキリ感は光学ファインダーならではの魅力だ。またEVFは表示画面を見つめているため、長時間撮影していると目が疲れるという話も聞く。最近のEVFは性能がどんどん向上しているものの、目への優しさや、被写体を見ているときのダイレクト感は、まだ光学ファインダーが優位と感じる人も多いだろう。

光学ファインダーの視認性も一眼レフには重要なポイント。EOS 90Dはインテリジェントビューファインダーで、測距エリア選択モードや水準器、アスペクト比などの表示も可能。クリアな視界と共に快適な撮影が行える。

基本的な操作部のレイアウトはEOS 80Dを踏襲している。ダイヤルのクリック感やボタンを押した感触も良好。一眼レフのEOSでお馴染みのサブ電子ダイヤルも使いやすい。EOSの熟成度の高さが伝わってくる。

EOS 80Dを踏襲する操作レイアウト。ボタンは多いが慣れれば指が覚えるので、スピーディーに設定変更ができる。表示パネルを見ると、Bluetoothのマークがあることに注目。
モードダイヤルは、中央のロックボタンを押しながら回す。シーンモードやクリエイティブフィルターを活用すれば、ビギナーでも手軽に様々な表現が楽しめる。
バッテリーはEOS 80Dと共通のLP-E6N/LP-E6。常温での撮影可能枚数の目安は、光学ファインダーでは約1,860枚、ライブビューでは約500枚だ(LP-E6N使用時)。
バッテリーLP-E6Nとバッテリーチャージャー。カメラ本体のUSB端子からは充電や給電ができない。

EOS 90Dでは、背面にマルチコントローラー1が追加された。これはジョイスティック状のレバーで、これまでのサブ電子ダイヤルの内側にあるマルチコントローラーは、マルチコントローラー2と呼び方が変わった。このマルチコントローラー1は、EOS 7D Mark IIのマルチコントローラーと同じく、ファインダーを覗いたまま親指でAF測距点移動などができる。これは非常に便利。他社でも同様のレバーを装備している機種が増えているが、やはりあると操作性は格段に向上する。

新設されたマルチコントローラー1。親指でスムーズな操作が行える。測距点選択のほか、メニュー画面の項目切り替えなど他の機能を割り当てることも可能だ。
EOSユーザーにはお馴染みのQボタンを押すと、各設定にすぐアクセスできる。設定したい機能の選択はマルチコントローラーだけでなくタッチでも可能だ。
ボタン類やダイヤル類をカスタマイズして、自分好みのEOS 90Dに仕上げられる。使いこなしのポイントのひとつだ。

先々代となるEOS 70Dから始まったバリアングル液晶モニターも健在。ハイアングルやローアングルが横位置でも縦位置でも撮りやすく、動画撮影時にも威力を発揮する。もちろんタッチパネルで、AF測距点選択や各種設定もタッチで行える。タッチパネルは、もはやデジタルカメラには必須の機能といえるだろう。

バリアングル液晶モニターは、光軸から離れるため使いにくい、と言う人もいるが、アングルの自由度はとても高いのでメリットは大きい。特に動画機能も重視している人には、こちらの方が扱いやすいだろう。タッチパネルはレスポンスも良く、スムーズなライブビュー撮影が楽しめる。

撮像素子は、APS-Cサイズのデジタル一眼レフでは最も多い約3,250万画素のCMOSセンサー。EOS 7D Mark IIを上回る高解像度の写真が撮れる。さらに映像エンジンはDIGIC 8。画素数と映像エンジンは、ミラーレスカメラのEOS M6 Mark IIと同じだ。感度の常用範囲はISO 100~25600。拡張でISO 51200相当に設定もできる。

AFはオールクロス45点測距。全測距点でF5.6光束対応のクロス測距により、画面の端でも高精度の測距が行える。またF8光束測距も最大27点で可能。エクステンダーを装着して開放F8になる場合でもAF撮影ができる。

そしてデュアルピクセルCMOS AFの搭載により、ライブビュー時にも高速AFで撮影できる。測距エリアは最大横88%、縦約100%なので、ほぼ画面全域だ。これも、EOS M6 Mark IIと同じ。EOS 90Dは、EOS M6 Mark IIを一眼レフカメラにしたようなスペックを持つ。

顔認識や瞳AFは、ライブビュー時のみ設定可能。光学ファインダーではできないのが残念だ。

EOS 80Dからの進化点としては、SDカードスロットが高速なUHS-II規格に対応したことが挙げられる。3,000万画素を超える高解像度で秒間約10コマ(ライブビュー時は約11コマ/秒)の連写をしたり、4K動画を記録したりすると、高速なメモリーカードは欠かせない。そしてパソコンへの転送も高速だ。快適な撮影やPC作業には、UHS-II対応は大きなポイントとなるのだ。

連写は、光学ファインダー時は約10コマ/秒、ライブビュー時は約11コマ/秒。今や驚くほど速いわけではないが、ミドルクラスの3,000万画素一眼レフでこのスペックは十分速いと言える。
EOSの一眼レフで初めてUHS-II対応になったSDカードスロット。3,000万画素を超える画素数や、4K動画にはありがたい。
側面前方の端子類。マイク端子、イヤホン端子、リモコン端子が並んでいる。
側面後方の端子類。上がUSB、下がHDMI。USBはMicro-B。今やパソコンやスマホでも標準になりつつあるUSB Type-Cではないのが残念だ。
ペンタ部にはポップアップ式の内蔵ストロボを装備する。ガイドナンバーは約12(ISO100・m)。室内や屋外で補助光が欲しいときに重宝する。

通信機能もEOS 80Dから強化された。EOS 80DでもWi-Fi機能は搭載していたが、EOS 90DではBluetoothも装備された。スマートフォン用のアプリ「Canon Camera Connect」を介して、EOS 90Dとスマホの常時接続が可能。カメラの電源をオフにしても、スマホやタブレットからカメラに保存されている画像の閲覧やレーティングが行える。またキヤノンが用意する写真共有サイトの「CANON iMAGE GATEWAY」を経由して、SNSへのアップロードもできる。

Wi-FiやBluetoothを搭載し、スマートフォンやタブレットとスムーズな連携が行えるのもEOS 90Dの特徴だ。今やSNSは当たり前の時代。EOS 90Dユーザーになったら、この機能はぜひ活用したい。
メニュー画面からスマートフォンとの接続設定が行える。

一眼レフならではの楽しさを備えながら、ミラーレス機並みのライブビュー機能も搭載するEOS 90D。次回の「実写編」では、実際に撮影した印象をお届けする。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。