新製品レビュー
Nikon D850(外観・機能編)
フルサイズ一眼レフカメラの頂点か 安価に感じるほどの多機能モデル
2017年9月26日 12:00
「その刹那に、かつてない精彩を」
8月24日にニコンD850は発表された。上の言葉はD850のキャッチフレーズとして打ち出されたものだ。
D850はD810の後継機種にあたるカメラ。D800が発売されたのが2012年、3,630万画素センサーを搭載し新しい高画素時代をスタートさせた。2014年にはその後継機種のD810が発売。一層高画素を使い切る新機能を充実させた正統進化モデルだった。
そして今回発表されたD850は、“精細”をさらに進化させつつ“刹那”という新しい領域に踏み込んだ、デジタル一眼レフカメラの完成形とも言えるモデルとして、ニコン100周年にあたるこの2017年に誕生した。
製品のポジションとコンセプト
D850は高画素モデルの35mmフルサイズ一眼レフカメラだ。ニコンのフルサイズ、FXフォーマット機にはD850よりも上位機種にあたるフラッグシップ機のD5、下位機種にあたるD750、D610などがラインアップされている。
D5はスポーツ、ネイチャー写真に特化したモデルであり、風景やスタジオ、その他一般ユースに向けたD850とはユーザー層がやや異なる。なお、連写性能という点では、APS-Cセンサーを搭載したDX機であるD500の存在も忘れてはならない。
他社の高画素フルサイズのライバル機を見てみると、キヤノンEOS 5Ds/5Ds R、EOS 5D Mark IV、PENTAX K-1、ミラーレス機ではソニーα7R IIなどがある。前モデルであるD810でもこれらの機種と高画質を争うことは十分に可能だが、D850はさらなるアドバンテージを持ってここに登場した。その魅力を詳しく見ていきたい。
大きさ、重さ
まずは大きさや重さをD810と比較してみたい。サイズはD850が幅約146×高さ約124×奥行き約78.5mm、D810が幅約146×幅約123×奥行き約81.5mmでほとんど変わらない。既存ユーザーにも違和感はないはずだ。
ただし重量(バッテリーと記録メディアを含む)はD810の約980gからやや増えて約1,005g。たった25gの差ではあるが、ボディ単体で1kgを超えたという感覚の差は重いかもしれない。
ボディデザイン
ボディデザインはD810と遠目では変わらないように見えるが、よく見ると大きく違っている。
ペンタ部にあった内蔵ストロボがD850では省略されているため、ペンタ部の曲面、エッジのカット、全体の造形、サテン塗装の質感などD5を彷彿とさせる高級感のある仕上がりとなった。
また内蔵ストロボがなくなりペンタ部の飛び出しが少なくなったことでPC-Eレンズの可動機能もフルに使用できるようになっている。
D850はボディにモノコック構造を採用していないため、グリップのホールド感はモノコックを採用したD750やD500などに比べると浅く感じる。だが、D810と比べるとグリップは平均で約4mmも深くなっており指掛かりはかなり改善された印象で満足度は非常に高い。
操作性
シャッターボタン周りではMODEボタンが省略されISOボタンが追加された。一般的な使用頻度を考えるとこのボタン配置は最適といえる。
電源レバーをONの位置からさらに右へ回すとイルミネータースイッチがONになるが、D5などで好評なボタンイルミネーションがD850にも採用された。夜間や暗い場所での撮影が多いユーザーにはとてもうれしい機能だ。
左肩の通称四葉ボタンは、右肩へ移動したISOボタンの代わりにMODEボタンが追加された。ISOボタンとMODEボタンがちょうど位置を交換した形だ。
外周部のドライブダイヤルの並びに変更はないが、細かいところではすべり止めのローレット加工が平目からアヤ目に変更されている。
背面右側のボタン配置は大きな変更がなされている。
AFのフォーカス位置をセレクトするサブセレクターが追加され、AE-L/AF-Lボタンが省略された。サブセレクターの採用はスムーズなAFポイントの変更を可能にするため非常にうれしい仕様変更だ。
なお、AE-L/AF-Lボタンはなくなったが、その機能(ファンクション登録できる項目含め)は、サブセレクター中央にそのまま移行されているので使用感は維持されている。
背面左側のボタン類は大きな変更はないが、一番下にマイメニューやレーティング機能を割り当てられるファンクション2ボタンが追加されている。
また細かいところでは、D810で一段下がった面に配置されていた再生ボタン、削除ボタンがD850ではメニューボタンなどと同一平面上に配置された。
前面のボタン類は基本的には変更なし。モノコック構造ではないためファンクション1ボタンの位置も浅いところにあり、変わらず押しやすい。
内蔵ストロボがなくなったことによりスロトボの調光ボタンは省略されている。またAF補助光もD850では省略されている。
撮像素子と画像処理関連
D850はD810より約1,000万画素も画素数をアップさせた有効4,575万画素の超高画素センサーを搭載した。
高画素になれば高感度性能が弱くなりそうなものだが、D850ではニコンで初めて裏面照射型のCMOSセンサーを採用することで常用感度はD810より1段分向上したISO25600を実現している。
D5と同じ画像処理エンジンEXPEED 5の高精度な処理により高感度でもノイズの発生を抑えており、室内スポーツなどの高感度撮影にも期待できる。
また、D810で高い評価を得た常用感度での最低低感度ISO64も変わらず実現。風景写真などにおいてスローシャッターの表現域の広さは他のカメラの追随を許さない。
D850からホワイトバランスに自然光オート、ピクチャーコントロールにオートが追加された。
自然光オートWBは紅葉や夕日などの撮影時に赤みを取り払いすぎず自然で印象的な写真に仕上げる。ピクチャーコントロールオートはスタンダードを元に、カメラが自動で階調や色の濃さ、明瞭度などを調整して画像を仕上げてくれる。
ファインダー
ファインダーはD810の視野率約100%・倍率約0.7倍から、D850では視野率約100%・倍率約0.75倍へアップした。倍率0.75倍というとD5の0.72倍を超えてニコンFXフォーマットのデジタル一眼レフカメラとしては史上最大の倍率。
まるでMF機かと思うほど大きなファインダーには、光学設計者の魂が詰まっているかのようだ。D850は超高画素モデルであるためピントは非常にシビアだが、ピントの山の見やすいマットも良く、0.75の倍率があればMFでも十分に撮影が楽しめそうだ。
液晶モニター
液晶モニターは約236万ドットの3.2型TFT液晶モニター。D810の約122.9万ドットと比べると約2倍の精細さとなっており非常に見やすい。
D850の特徴として、チルト式モニター&タッチパネルを採用したことがあげられる。これまで、D810やキヤノンEOS 5Dsシリーズなど高画素一眼レフカメラは可動式液晶を頑なに搭載してこなかっただけに、今回の採用はとてもうれしい。
チルト液晶の可動域は広く、上下90度で使いやすい。ただし縦位置方向に対応しなかったのは残念だ。
タッチパネルの操作感は反応がよくスムーズ。タッチAFの利便性はもちろんだが、画像再生時の拡大や拡大位置の移動など写真のチェック作業が非常に早くできるのが一番のメリットだと言える。タッチパネルはメニュー画面操作でも使用することができ、これが慣れてくると思った以上に便利で早い。
連写
高速連続撮影はD850の最も大きな特徴のひとつだ。ボディ単体で7コマ/秒、D5と同じバッテリーEN-EL18bを装填した縦位置バッテリーグリップを使用すれば9コマ/秒という高速連写が可能になる。
現在市場には10コマ/秒を超える高速連写機も多く、コマ数だけ見ればなんのことはないように見えるかもしれないが、あくまでもD850は4,575万画素の高画素モデルであることを忘れてはならない。
D810や他社高画素モデルは最高5コマ/秒であり9コマ/秒のD850がどれだけ速いかがわかるとはずだ。これだけの高速連写ができればスポーツやネイチャー写真でも十分に使用でき、高画素で高速連写という新たな表現域が見えてくる。
また、高速連写で重要な連続撮影枚数も十分なバッファメモリーを確保しており、14bitロスレス圧縮RAWで51コマ、12bitロスレス圧縮RAWなら170コマまで連写できるので、データ書き込みで待たされるようなこともなさそうだ。
D850は同社デジタル一眼レフで初めてシャッターカウンターバランサーを搭載。4,575万画素の高解像度でも機構ブレを抑制してくれる。またカウンターバランサーは連写時にも安定したシャッターを提供する。シャッター音はD810とはだいぶ変わった印象。D810がソフトでキレのある音なのに対し、D850はD5に近いような制振性に優れたキレッキレの音、といった印象だ。
別売の縦位置バッテリーグリップは、EN-EL15aが1つ取り付けられるホルダーと、単3電池8本が取り付けられるホルダーがセットになっている。
連写を9コマ/秒に上げるためには、D5と同じEN-EL18bバッテリーの他にバッテリー室カバーBL-5も別途必要になる。
AF
AFは高画素と高速連続撮影をサポートするためにD5と同じ153点のAFシステムを採用。153点のうち99点はクロスセンサーで高速、高精度なAFを実現している。
中央のフォーカスポイントで-4EV、その他のすべてのフォーカスポイントで-3EVの低照度AFも可能。またF8に対応するフォーカスポイントも15点ありテレコンバーターの使用領域も増えそうだ。
一方ライブビューでのAFは、像面位相差AFの採用が期待されたがD850では残念ながら見送られた。
しかし、コントラストAFながらも使用感自体はD810に比べかなり改善されており風景撮影でのストレスはほとんど感じない。特にタッチパネルの採用による素早いAF位置の変更がスマートで心地よい。画面の端でもピント合わせが可能だ。非常に小さな範囲にピント合わせをするピンポイントAFや、MFでのピント合わせが容易になるフォーカスピーキング機能も追加された。
サイレント撮影モード
電子シャッターを使用したサイレント撮影モードが搭載された。4,575万画素はごく僅かな機構ブレでも拾ってしまうので、中速~低速シャッターの多い風景撮影などでは完全にブレを抑えられる電子シャッターの採用はとてもうれしい。
「モード1」が全画素での通常の電子シャッターで、「モード2」はDXフォーマット、ノーマル画質(RAW保存なし)、30コマ/秒の高速連写のモードになる。
フォーカスシフト撮影
カメラが自動的にピント位置を移動させながら連続撮影するフォーカスシフト機能を搭載した。
フォーカスシフト撮影した画像をPhotoshop等のソフトで合成することで、大きな絞り値まで絞り込まずにパンフォーカス写真を生成できるため、4,575万画素の鮮鋭感を生かした写真を作り出すことができる。
ただし画像の合成はカメラ内ではできず、市販のソフトが必要となる。
インターバルタイマー撮影
8Kタイムラプスムービーの制作が可能なインターバルタイマー撮影機能も搭載。
長時間の撮影を見込んで、露出平滑化機能や電子シャッターによるサイレント撮影も備える。連続撮影した大量の画像を市販の編集ソフトで処理すれば8K動画が作り出せる。
動画機能
4K UHD/30p動画の撮影も可能。4Kが撮影できるカメラは増えているがドットバイドットでの記録方法が多く、クロップ撮影となってしまいレンズの画角が生かせないものが多い。
しかしD850では、FXフォーマットのまま4K撮影できるため超広角や魚眼といったレンズの特性を生かした撮影が可能だ。HDMIケーブルを外部機器に接続すれば、非圧縮ファイルの同時記録もできる。
通信機能
スマートフォンと常時接続を低電力で行う「SnapBridge」も搭載。撮影した画像の2Mサイズの縮小画像をスマートフォンがバッグに入っている状態でも自動転送してくれる。
撮影した画像に位置情報を付加したり、リモート撮影や画像閲覧など、さまざまな機能が手軽に楽しめる。なお、本機にGPS機能は搭載されていない。
記録メディア
記録メディアはXQDカードとSDカードのダブルスロットで、CFは廃止された。
D5やD500などと同じく高速書き込みが可能なXQDカードの採用は高画素で高速連写のD850には必然だろう。またSDカードはUHS-II規格に対応し、どちらのカードでも高速書き込みが可能となっている。
せっかく9コマ/秒の連写が可能なD850なので、最大限その性能を生かすためにもなるべく書き込みの早いカードの使用をおすすめしたい。
端子
端子の種類、配置はD810と変更なし。側面上段左上からヘッドフォン出力端子、外部マイク入力端子、中段がUSB端子、下段がHDMI端子となっている。また前面の端子としては、上がシンクロターミナル、下が10ピンターミナルとなっている。
電源
使用電池はD810と同じEN-EL15aを使用する。しかし同じバッテリーながらも撮影可能枚数は格段に向上しておりD810の約1,200枚から、D850では約1,840枚まで増えている。
D810ですでに撮影枚数は非常に多かったが、高画素化してもさらに枚数を増やしたD850には驚かざるをえない。
充電器もD810と同じMH-25を使用する。EN-EL15aを1本充電でき、約155分で満充電となる。
まとめ
D850はフルサイズ一眼レフカメラが到達すべき頂点に最も近いカメラではないだろうか?
一眼レフを使う喜びが見える大型の光学ファインダー、レンズを通った光を余すところなく描き出す4,575万画素のイメージセンサー、瞬間を切り撮る高速連写、思い通りの撮影アングルを可能にするチルト液晶とタッチパネル。
過酷な撮影状況下でも動き続けるニコンの一眼レフカメラにこれだけの性能が詰まったD850は、どんなところに持っていっても自分の感性に応えてくれる。そんな信頼のおけるカメラだ。
価格は40万円弱と安い買い物ではないが、はじめて価格を聞いたとき正直安いと思った。D810の初値が35万円弱だったことに加え、最近の他社高画素モデルは天辺知らずの価格高騰。そんな状況においてこれだけの機種が40万円なら安いと思ってしまうのもうなずけるだろう。
次回は実写編として、D850の圧倒的な描写力をレポートしたい。