ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証
【野生動物編】FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS × α7 III
小さな動物にも適したズーム焦点域 AF速度や連写、高感度性能もGOOD!!
2020年7月6日 12:00
ソニーの交換レンズ「FEレンズ」とフルサイズミラーレスカメラのロングセラーモデルである「α7 III」を組み合わせ、その魅力を探る本連載。毎回気鋭の写真家による作品と、そのインプレッションをお伝えしている。
今回は真摯な視線で北海道の野生動物を捉えた作品で知られる平井葉月さんが登場。人気の超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」と「α7 III」の実力について述べてもらった。野生動物たちの可愛らしい姿も楽しんでほしい。(編集部)
平井葉月(ひらい・はづき)
1988年、愛知県生まれ。旅行が好きで、旅先で撮影しているうちに写真の世界に興味を持つ。2017年に撮影目的で一人北海道を訪れたとき、豊かな自然の織りなす風景の美しさや、野生動物と人間が共存する姿に感銘を受け、度々訪れるようになる。次第に北海道をより深く知りたいという思いが強くなり、移住を決意。2018年12月北海道に移住。自然風景と野生動物を撮影する傍ら、作例提供なども行っている。
野生動物に魅せられて
野生動物との出会い、それは、私が北海道に移住した理由の一つです。
カメラを始めたきっかけは旅行。ありがちな理由で少し恥ずかしいのですが、素敵な風景が広がる場所や行った事のない場所を訪れるのが大好きで、その思い出の瞬間を写真に収めたいと思いました。写真を見返せば、いつでも当時の感動が蘇り、その時その場所に行けなかった人とも感動を共有できるところに楽しみを見出しました。
その後も旅先での風景撮影にどんどんのめり込み、いつの間にか「旅行のついでに撮影」から「撮影のための旅行」になっていったのです。
そんな中で訪れたのが北海道。風景目的で訪れた北の大地で、のびのびと暮らす野生動物に出会いました。動物が好きだったのもあり、見つけては車を停めてカメラを構えるのですが、やっとファインダーを覗いた時にはもういない。もたもたしている間に逃げられてしまっているんです。その時に負けず嫌いが発動して、「絶対に撮ってやる!」と北海道に通い始めました。
そこからは風景撮影と同じくらい野生動物の撮影が楽しくなり、気づいたら北海道に移住することを決めていました。
移住してからこれまで、たくさんの動物を撮影してきました。
どの野生動物にも共通していること、それは想像以上に近寄ることができない、ということです。個体差はありますが、こちらが距離を詰めようとするほど気づかれて逃げて行くのは動物の本能なのでしょう。やはり野生動物をダイナミックに撮ろうと思ったら、望遠レンズが必須です。
特に北海道では、「望遠レンズが標準レンズだ」と言われることがあります。望遠レンズの方が魅力的に撮れる被写体が多いこともあるのでしょう。
今回使用した「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」は、北海道という広大な土地で野生動物を撮る私にとって、まさに理想的なレンズでした。それまでは「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」を使っていましたが、もう少し被写体を大きく引き寄せたいという欲が出たことも度々ありました。
今回は北海道の遅い春を謳歌する野生動物の姿を、「α7 III」と「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を使って追いかけました。
長い冬が過ぎ、北国の北海道にも春がやってきた頃。満開のニリンソウに囲まれているのは夏毛に衣替えの真っ最中のエゾリスです。
木鼠とも呼ばれるエゾリスたちは、木登りが大得意。木から木へと飛び回るエゾリスが地上に降りて餌を探している最中、ひょっこりと顔をあげました。
その時間はわずか1秒ほど。「α7 III」はリアルタイム瞳AFが動物にも対応しているお陰で手前の草花にピントを取られることなくエゾリスの瞳にフォーカスすることができ、ニリンソウをたくさんフレームに入れられる構図作りに集中して撮影することができました。
暖かくなり過ごしやすくなった頃は子育ての時期。雪解けの頃に生まれたキタキツネの子どもたちが外の世界に飛び出します。
降り注ぐ日差しの中、子どもたちはワンパクそのもの。元気いっぱいの子どもたちの表情だけでなく、繊細な毛並みを写そうとF10まで絞って撮影しましたが、狙い通り輪郭に浮かび上がるフワフワの毛の細部まで映し出されています。
木の上でひと休みしているのはエゾフクロウの子どもたち。フワフワの綿のような産毛がとても愛らしく、春の森の人気者です。
兄弟仲良くお昼寝するところを別の木の下からこっそり撮影。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」が映し出す新緑の葉っぱの前ぼけが柔らかで美しく、お昼寝を見守っているような写真になりました。
「あと一歩」を実現する焦点距離600mm
「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を使って驚いたのは、ピント面の繊細な描写となだらかなぼけの美しさです。高い解像性能が野生動物の毛並みの一本一本まで写し出し、それに美しいぼけが加わることでよりリアルで立体感のある写真に仕上がります。加えてAFスピードも速く、動きの素早いエゾリスもしっかりと捉えてくれました。
さらに気に入ったのは、このレンズがインナーズームであることです。ズーム操作で鏡筒が伸び縮みすることなく、レンズの重心が変わらず常にバランスが取れています。ズームリングもとても軽いので、指先で細かく調整できます。細かい部分ですが、素早く動く野生動物を狙って集中する時には、こういった仕様が撮影を大きく左右するので、使ってみてさらに気に入りました。
野生動物を撮影していて時々起こるのが、動物が予想以上に近づいてきてしまうこと。この時も草むらにじっと隠れていた私に気づかず、子ギツネがこちらに向かって歩いてきたところを広角側の200mmで撮影しました。200〜600mmという焦点距離の幅があったからこそ、この一枚が撮れたのです。
とても冷えた朝、刈り取られた麦の根本が残る初夏の麦畑で夏毛のエゾユキウサギに出会いました。
畑は刈られたばかりのタイミングだったので綺麗とは言えない状態でしたが、低い位置から撮影する事で手前の畑の麦の足を前ぼけに使うことができました。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の美しいぼけとピント面の解像感、600mmという超望遠ならではの圧縮効果でメリハリのある一枚になったと思います。
北海道で桜といえば蝦夷山桜。本州でよく見られるソメイヨシノより花の色が濃く、密度が少ないのが特徴です。そんな蝦夷山桜に囲まれた樹洞にエゾフクロウが営巣していました。
かなり遠い距離で600mmでも足りないと感じたため「α7 III」に搭載された「全画素超解像ズーム」を使用し、600mmの約2倍の1,200mm相当で撮影しています。この機能のおかげで、フクロウの毛並みや羽の質感を迫って写すことができました。この時は記録方式がJPEGに限られますが、現場での設定の追い込みもまた楽しい作業です。
季節は少し遡って、蝦夷山桜が咲く少し前。雪解けから目をつけていた巣穴から、茶色い小さな動物が顔を出しました。キタキツネの子どもです。
子犬と見間違うほど小さくて可愛らしい子ギツネは、何やらゴソゴソしています。望遠側の600mmでファインダーを覗いてみると、自分の顔より大きいネズミを美味しそうに食べているではありませんか。掌より小さい子ギツネが命を繋ぐ瞬間、肉眼では捕らえられず600mmのレンズを通してやっと見える自然の営みに感動し、このレンズを使う意味を強く感じた瞬間です。
フルサイズセンサーならではの高画質
「α7 III」はフルサイズミラーレスαシリーズのベーシックモデルという立ち位置です。広いダイナミックレンジと滑らかな諧調、色再現性の高さなどの面でフルサイズセンサーの魅力を堪能でき、価格はそのバランスの取れた性能にも関わらずお手頃で手が届きやすい。
実際に触れてみるとα9と同じに感じるAFスピードとα7シリーズの広いダイナミックレンジを兼ね備えた、ベーシックモデルと呼ぶには高スペックな、いいとこ取りのカメラでした。
そんなα7 IIIを野生動物の写真と共に紹介します。
新緑の木々を駆け回るエゾリスがじっと動かなくなったと思ったら、手には発掘したクルミが。自分たちで秋に地面に埋めたごはんを掘り出しては食べるのです。
ほかのフルサイズミラーレスαにも言えることですが、コンパクトなボディは手の小さなひとには特に握りやすく、縦位置の撮影も苦になりません。エゾリスの毛並みや木の質感、背景のグリーンの自然な色合いはまるで被写体が目の前にいるかのような再現性です。
母キツネが狩りから帰ってくると、子ギツネは離れていた時間を取り戻すように目一杯甘え始めます。厳しい環境で暮らす彼らの親子愛は、特別強く感じるのです。
この日は日差しが強く、コントラストに悩まされるような場面でしたが、フルサイズセンサーならではの広いダイナミックレンジで背景は黒つぶれしておらず、境界線の毛並みは細部まで繊細に記録されていました。
豊かな新緑の森の中、お腹を空かせた雛のもとに、エゾフクロウのお母さんがお昼ごはんのネズミを運びます。太陽は高く、葉の反射が強かった場面です。
私にとって白飛びは表現の一つであり、太陽や雲、空などの眩しい箇所はわざと白飛びさせることがあります。しかしこの場面では爽やかな新緑の森を表現したかったので、葉の白飛びは防ぎたかった。「α7 III」はそんなわがままな願いを叶えてくれました。
連写、バッテリー、高感度性能。頼りになる撮影性能
私が動物を撮影するとき、今回の撮影も含めてほぼ必ず連写機能を使います。併せてサイレントシャッター機能を使えば、動物にシャッター音を聴かせることなく連写撮影できます。コロコロ変わる野生動物の一瞬の表情を、「α7 III」は音を響かせることなく1秒に最大10枚撮ることができる。少しの足音も致命的になる野生動物の撮影において、これは本当に大きなメリットです。
さらに動物撮影は生き物が相手、そのため撮影時間が読めません。朝の5時から夕方の18時半まで待機して一枚も撮れない日もあれば、2時間も3時間も撮影させてくれる日もある。そうすると、どうしても発生するのはバッテリー問題です。バッテリーが長く持てば持つほど撮り逃しが減るのは当然でしょう。「α7 III」のバッテリーはとても優秀で、今回の撮影中も電池の減りが気になる事はありませんでした。
動物を撮影していると、予想しない場面に出会うのも楽しみの一つです。子ギツネが一匹だと思ったら五匹出てきたり、急にエゾフクロウが木から飛び立ったり。そんな時に役立つのがカスタムボタンです。
例えば、私の場合はAELボタンにフォーカスエリアを割り当てて、子ギツネが一匹の時はフレキシブルスポットでピンポイントにフォーカスし、兄弟たちがフレームインしてきたら素早くワイドに切り替える。「α7 III」はカスタムボタン次第で撮影がしやすくなるカメラです。
とても天気の良い日、5匹のキツネを育てる母キツネと出会います。動かずじっとしている私を気にも止めず、母キツネは子どもたちに授乳を始めました。
とても天気がいいと言っても、彼女たちがいる日陰では明るさは十分ではありません。薄暗い中で命を繋ぐ母キツネの顔をしっかりと写したかったのでF9.0まで絞り、ISO感度の上限をISO 6400まで上げました。
授乳を終え、母キツネが再び狩りに出かけると、子ギツネはお留守番です。兄弟揃って私が何か悪さをしないか見張っているようです。
私の観察にも飽きたのか、そのうちみんな巣に帰っていってしまいました。残ったこの子は枝をガジガジ。ひとり遊びも得意なんだね。
ここまでの3枚は、日陰の暗い条件でISOを上げて撮影しています。ノイズやディテールの破綻に悩まされがちな高感度撮影ですが、ピント面の毛並みは繊細でシャドー部はディテールを保持しています。安心して感度を上げることができるカメラだということがわかります。
まとめ
野生動物の撮影は、思い通りにいかないことがほとんどです。相手も動物ですから当然のことでしょう。だからこそ楽しくて、気づいたら動物の可愛い仕草に夢中になり、もっと近づいて撮影したいと思うようになる。そんな時に焦点距離600mmの望遠性能があればよりリアルな動物の表情を切り取ることができるので、まさに理想の焦点距離です。
今回使用した「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」はこれ一本で望遠から超望遠まで幅広くカバーでき、描写やぼけの美しさは申し分なく、AF速度も速く動きに強い。動物を撮影するなら手に入れておきたい一本です。
併せて使用した「α7 III」は高感度性能も十分で、秒間10コマの連写機能と優秀なAF性能、さらにはボディにも5軸の手ブレ補正を備えています。しかもフルサイズセンサー搭載なのに手に取りやすい価格帯。フルサイズミラーレスが気になっている人も、2台目のサブカメラとしてもオススメできるカメラです。
動物が撮りたいけど機材に悩んでいる、という人がいたら、この組み合わせを一度手にとってみてください。きっと動物が撮りたくてたまらなくなるはずです。
提供:ソニーマーケティング株式会社