ソニー フルサイズミラーレスα7 IIIの実力をジャンル別に検証

【花編】FE 135mm F1.8 GM × α7 III

優しく柔らかいイメージを作り出す最高の組み合わせ

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/500秒・F1.8・+1.3EV) / ISO 100

撮影ジャンルごとに「α7 III」の実力を紹介するこの連載。写真家それぞれが「α7 III」とお気に入りのレンズを組み合わせ、作品とともにその使用感を語る内容だ。

今回は“春の花”を題材に、美しい花の写真で知られる北村佑介さんに担当いただいた。使用したレンズは「FE 135mm F1.8 GM」。ボディとレンズの実力を出し切った各作品を、じっくり堪能いただきたい。(編集部)

北村佑介(きたむら・ゆうすけ)

出版社勤務・埼玉県観光PRフォトグラファーを経て、ドリーミーフォトと呼ばれる花を撮るフォトグラファーとして独立。年間150回の写真教室や、書籍・雑誌・企業への写真提供を メインに全国で活動中。最近はメーカーへのレンズ作例写真の提供や、CP+などのトークショー出演も多数。著書に「花をながめて大切なことに気づく100の言葉」(かんき出版)・「最高の1枚を撮る・仕上げるで生み出す超絶写真術」(インプレス)などがある。

FE 135mm F1.8 GM
α7 III

柔らかく美しい前ぼけに魅入られて

カメラを手にした時から今までずっと、被写体は花だ。写真を始める前から散歩が好きで、歩いていて無意識に視界に入ってくるのが花だった。

花は日常がいかに素敵なものであるかを教えてくれる。そして花は美しい四季の移り変わりを教えてくれる。筆者が撮り続ける花の魅力を、少しでも伝えられたら幸いである。

花の撮影では、とにかく歩き回り、なるべく多くの好みのロケーション、シチュエーションを見つけることが大切だ。そのため荷物はなるべく軽量かつコンパクトに収めたい。細かいアングルや高さの調整を頻繁に行うので三脚は使用せず、手持ちで撮影する。視線を花の高さに合わせて撮影するので、ファインダーを覗くことはほとんどなく、液晶モニターを確認しながら撮影する。

花の撮影で使うレンズと言えば、多くの人がマクロレンズを最初に思い浮かべるだろうが、筆者は「FE 135mm F1.8 GM」をメインで使用している。主役になる花から引いて花を小さく撮り、その前後に大きく柔らかいぼけを生み出すためである。特にこのレンズが生み出してくれる前ぼけは、他のレンズでは類を見ないほど柔らかく美しいため、愛用してやまない。

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近所の公園に咲いていたヒメツルソバ。密集して咲いていたが、あえて飛び出ている花を撮って主役を明確にした。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/800秒・F1.8・±0.0EV) / ISO 100

主役だけが際立ち、それ以外が隠れているのは非常に柔らかい前ぼけのおかげ。「FE 135mm F1.8 GM」ならではの焦点距離とぼけ描写を生かした1枚だと思っている。背景の光が当たっている部分と当たっていない部分のグラデーションも非常に美しく表現してくれた。

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満開のネモフィラ畑での1枚。美しい一面の青の中で、少しだけ飛び出ている1本を見つけた。この写真も非常に柔らかい前ぼけのおかげで、作品に奥行きを出しながら主役の花だけに視線を集め、主役以外が柔らかく隠れることで引き立て役にまわすことができた。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/2,000秒・F1.8・-0.7EV) / ISO 100

今回の撮影のように花畑や花壇での撮影でメインの被写体と背景が同じ色になってしまう場合は、このように少しでも色のコントラストが効きやすい位置に配置すると主役が目立ちやすくなる。

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桜並木の下に真ん丸な綿毛が咲いていた。球状の花は、360度どこから撮っても花の形の良さがわかるのでとても撮りやすい。花の形を捉える、ということをそれほど強く意識しなくても良いので、むしろ好きな背景を選ぶことの方を優先できる。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/8,000秒・F1.8・-0.7EV) / ISO 100

135mmという画角の圧縮効果を活かして、後方の桜並木のピンク色を背景に使用した。

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解像力・ぼけ表現とも作品にマッチ

愛用している「FE 135mm F1.8 GM」だが、同じく愛用中のカメラボディ「α7 III」とのバランスはとても良い。レンズだけ見ると135㎜という焦点距離の大口径レンズという仕様上決して軽くはないレンズだが、「α7 III」と合わせた時のこの適度な重さがアングルや高さの細かな調整に丁度良いと感じている。レンズを手で支えた時のピントリングの位置や幅も絶妙で、マニュアルフォーカスでの撮影もスムーズだ。

ここまでで紹介した作品のように、背景と前景を大きくぼかして主役にスポットライトが印象的に当たるような作品の性質上、絞り開放で使用することがほとんどだが、このレンズの解像力は類を見ないほど高い。花の撮影はピントがものすごくシビアだが、これだけ解像力が高いと、撮影後に意図した位置にピントが合っているかどうかの判別がしやすいのでとても助かっている。

そしてぼけも類を見ないほど美しい。後ろぼけが美しいレンズというのは少なくないが、「FE 135mm F1.8 GM」のように前ぼけも美しいレンズというのは限られている。花を柔らかく撮る私の写真にとって、前ぼけというのは大切な要素なので「FE 135mm F1.8 GM」は作品づくりになくてはならない存在だ。

それに加えてフレアやゴーストもよく抑えられている。逆光で撮影することも多いのだが、筆者の撮影方法ではゴーストはほとんど見たことがない。光が強い朝や夕方に逆光で撮影した時、フレアがたまに出現するが、フレアを生かした作品を創ることもあるので個人的には問題ない。そのような撮影条件でも、アングルや高さを調整すればフレアを抑えることもできる。イメージによって使い分け、表現を追い込むことができることがありがたく、このレンズの性能の高さを実感する。

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日本一のポピー畑の端っこに、小さなポピーが咲いていた。 隣のつぼみと会話をしているように見えたので、そのイメージを大切にして撮影した。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/250秒・F1.8・-0.3EV) / ISO 100

少し上から見下ろすように撮ったので、決して遠近感の抜けが良いシチュエーションではない。それにも関わらず、ぼけが綺麗でイメージ通りの作品を撮ることができた。もちろん花は動かすことができないので、時折この作品のようにアングルと背景のバランスを取らなければならないタイミングが来るが、そんな時でも主役の前後に生まれる美しく柔らかいぼけと解像力が助けてくれる。「FE 135mm F1.8 GM」の性能がよく現れたシチュエーションといえる。

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夕暮れ時の満開のネモフィラ畑。咲いている列に沿って構図に収めてみた。アングルと高さを微調整して、沈む少し前の夕陽の光を上の方に入れ、フレアを意識的に取り入れたことで、時間帯を表現できた1枚となった。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/8,000秒・F1.8・-1.7EV) / ISO 100

明暗差が大きいシーンではあったが、階調は白く飛ぶことも暗部が潰れることもなく、繊細な色と光がしっかりと表現されている。ともすれば凡庸な表現になってしまうこのようなシーンを印象的に描いてくれる「FE 135mm F1.8 GM」の性能の高さに加え、「α7 III」の感度性能とダイナミックレンジの広さも実感する撮影となった。

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表現力を上げてくれるダイナミックレンジ

「α7 III」をメインで使うようになった理由の一つが、ダイナミックレンジの広さだ。明暗差が大きいシーンで撮ることも少なくないのだが、ダイナミックレンジが狭いと、明るい部分が白く飛んでしまったり、暗く沈んだ部分の細かなグラデーションや質感が表現できない。「α7 III」を使用するようになってからは、そのようなシーンでも安心して撮影に臨めるようになった。フルサイズセンサーならではのダイナミックレンジの広さで、明部も暗部もその場で見た通りにしっかりと表現されるからだ。

また、RAW撮影後のレタッチで明るさや色を調整するときに、自然な色合いや諧調が破綻することなく思い通りに追い込める点も信頼している。

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公園の木々の下にひっそりと咲いていたシクラメンを撮影。主役の花は薄く淡いピンク色だが、ハイキーにし撮影してもその淡い色が飛ぶことなくしっかりとか表現されていた。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/800秒・F1.8・-0.3EV) / ISO 100

この写真は全体の色のバランスが重要で、前ぼけ、後ろぼけ共にレタッチで色を足したが、RAWのレタッチ耐性も非常に優秀なため、イメージ通りの作品に仕上げることができた。

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カリフォルニアポピーを、最短撮影距離近くまで寄って撮ってみた。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/1,000秒・F1.8・+1.0EV) / ISO 100

「FE 135mm F1.8 GM」を使用して驚くことの一つが、想像以上に被写体に寄れること。最短撮影距離は0.7mだ。体感だと数値以上に寄れる感覚がある。普段これほど寄って撮ることはあまりないが、花の撮り方のバリエーションが増えるので寄れるに越したことはない。小さい花を撮るときは特に重宝する機能だろう。ポピーや背景の緑の色表現も良好だ。

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鳥たちが落としていった一輪の河津桜。地面に落ちていた花を手すりの上に置き、反射させて撮ってみた。河津桜は色と形がとてもはっきりとしていて主役感を出しやすいので、置いて撮るのにも向いている。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/1,600秒・F1.8・+1.0EV) / ISO 100

風が吹いていて、置いたら素早く撮らないと花が落ちてしまうシーンだったが、「α7 III」と「FE 135mm F1.8 GM」の組み合わせはAFも非常に優秀。素早くピントを合わせて撮り、問題なく撮影を終えることができた。自然なハイライトの美しさは、フルサイズセンサーがもたらすダイナミックレンジの広さならではだ。

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公園の花壇から1本のマリーゴールドが顔を出していた。杭を前ボケにして、主役以外を隠している。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/400秒・F1.8・+0.3EV) / ISO 100

明るさの足りないレンズで撮影する時、人工物は基本的にぼかし役に充てにくいのだが、「FE 135mm F1.8 GM」は人工物であっても綺麗にぼかしてくれるところがお気に入りだ。ごちゃっとした背景だったが、綺麗にぼかしてくれた。公園の花壇周りで花を撮ると人工物が入ってしまうことが多いので、このレンズがもたらすぼけ描写にはいつも助けられている。

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花撮影で必須のチルト式モニター。ほぼすべてAFで撮影

花の撮影でカメラに求めることは、まず何と言っても液晶モニターがチルト式であるかどうかである。

筆者は花とレンズの高さを合わせることを基本としている。花は、丁度良いアイレベルの高さに咲いていることは少なく、大半は低い位置か高い位置に咲いている。そのため、チルト式でないと花とレンズの高さを合わせることができない。だから「α7 III」のチルト式モニターは、筆者の撮影スタイルにとって必須のものなのだ。

測光モードは、基本的には「ハイライト重点」を使用している。ハイキーな作品を創ることが多いので、天敵はやはり白とびとなる。ハイライト重点に設定しておけば、画角の中に入ったハイライト部に合わせて露出を適正に合わせてくれるので、白とびさせてしまうことがグッと減る。

「α7 III」のAF精度は本当に申し分ない。特に花はしべの先端にピントを合わせるので、シビアなピント操作が求められる。「α7 III」の場合、ほとんどのシーンにおいてAFで問題なく撮影できる。

「α7 III」は豊富なカスタムボタンを備えている。筆者はシーンが変わるごとにWBとカラーフィルターを変化させているので、WBを一番シャッターボタンに近いC2ボタンに配置している。このカスタムのおかげで、「WBを変える」→「シャッターを押す」という一連の流れをスムーズに行うことができる。

また、花の撮影でAFに速度を求めるシーンはほとんどないが、風が吹いている時などはやはり速いに越したことはなく、とても助けられている。

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圧巻の桜並木。初めて訪れた場所での1枚だが、こういうシーンに出会えると写真をやっていて良かったと心から思う。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/800秒・F1.8・±0.0EV) / ISO 100

朝陽に照らされた芝が輝いて綺麗だったので、ローアングルで芝を前ぼけに取り入れた。まさにチルト式モニターが活躍する場面だ。光が当たっている部分と当たっていない部分のグラデーションがとても美しい。

こういった遠景の撮影時も、絞り開放で前ぼけを入れることによって、見せたい部分を明確にできる。

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同じ場所で、今度はアイレベルで撮ってみた。花とレンズの高さが合っているため、抜け感が良い。右側から朝陽が差し込んでいるのだが、フルサイズセンサーが捉える繊細な諧調がこの時間帯の清涼感を見事に写し出している。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/800秒・F1.8・±0.0EV) / ISO 100

この写真もわずかではあるが上部に前ぼけを創り、柔らかさを演出している。この表現は135mmという焦点距離ならではだ。

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今度はシクラメンをシンプルに撮ってみた。シンプルとはいえ地面すれすれからの視点なので、チルト式モニターでないと撮影に苦労するだろう。

α7 III / FE 135mm F1.8 GM / 絞り優先AE(1/320秒・F1.8・+0.3EV) / ISO 100

このようなシンプルな花の写真は、色や写すサイズ感等で個性を出すことを意識している。

また、どの向きから撮るとこの花の形の良さが一番生きるか、ということも意識した。枯葉が占める面積が多く、色が全体的にオレンジに寄っていたため、WBを通常より少し暗めに落として撮った。

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まとめ

筆者はこの「FE 135mm F1.8 GM」を発売直後から愛用してきたので、この記事を書くことができてとても嬉しく思っている。このレンズが花の撮影に最適ということが、少しでも伝われば幸いだ。

花の撮影では、主役に据える花以外の写したくないものを隠したり、作品全体に「柔らかい」というイメージを与えるためには前ぼけが必須である。その前ぼけをここまで柔らかく美しく生み出してくれる「FE 135mm F1.8 GM」は、花の撮影にベストな1本であると言ってもいいだろう。

組み合わせて使用する「α7 III」も、もちろんなくてはならない存在だ。チルト式モニターやカスタムボタンの数、ボディ内手ぶれ補正機能など、花の撮影に必要な機能が詰まっている。

他の撮影ジャンルではあまり触れられないかもしれないが、チルト式モニターの鮮明さは特筆すべきだ。ファインダーを覗かなくともピントの確認が行えるので、流れを止めることなく撮影ができる。

作品紹介で言及してこなかったがバッテリーの持ちも良く、満充電しておけば、丸1日かけて撮影する日でも心配はいらないだろう。充電は数日に1回程度しかしないこともあるが、撮影先でバッテリー切れになったことはほとんどない。筆者はずぼらなところがあるので、とても助かっている。

発売してからしばらく経つが、まだまだ「α7 III」で花を撮り続けるつもりだ。

少し贔屓(ひいき)した考え方であることは承知しているが、花は日常を最も分かりやく彩ってくれるものだと思っている。家の周りの散歩道や通勤・通学路でも、少し意識するだけで名所や絶景スポットと同じくらい素敵なシーンを目にすることができる。至る所で花が咲き誇っているこの季節、身の回りの花を撮ってみてはいかがだろうか。

制作協力:ソニーマーケティング株式会社

北村佑介