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「機動力」でマイクロフォーサーズに集中するオリンパス

OM-D E-M1X発表会より カメラ/レンズの追加写真も掲載

OLYMPUS OM-D E-M1X

オリンパスが1月24日、プロ向けに位置づけるカメラの新機種「OM-D E-M1X」を発表した。仕様詳細と発表会レポートは既報の通り。

いまやミラーレスカメラは、新製品発表会が翌朝のニュース番組で取り上げられるほど広く知られた話題。今回も「ニコンとキヤノンが本格参入したミラーレス市場に、オリンパスも34万円の新機種を投入」という具合で、発表会場の様子が報じられていた。

地殻変動を経て

E-M1Xのベースとなるモデルは2016年12月に発売された「OM-D E-M1 Mark II」。E-M1Xとともに、引き続きオリンパス機のフラッグシップに位置づけられる。

引き続きフラッグシップの1台となる「E-M1 Mark II」には、限定2,000台の新色「シルバー」が追加。
E-M1のシルバーとは異なる質感。パンダ配色のダイヤルはOM-4 Ti風か?

E-M1 Mark IIの登場から今回のE-M1Xまでには、ご存知の通り、ミラーレスカメラ市場に地殻変動とも言うべき変化があった。その中心が2017年5月にソニーが発売した「α9」であることは論を待たない。シャッターを切ってもファインダーが瞬きしない「ブラックアウトフリー」と、それを活かした秒20コマのAF追従撮影は業界に衝撃を与え、一眼レフカメラに追いつけ追い越せの存在だったミラーレスカメラの地位を押し上げた。

上記のOM-D E-M1 Mark IIも電子シャッターで秒18コマのAF追従連写ができたわけだが、α9は35mmフルサイズという大型センサーで、かつ高速読み出しによって電子シャッター撮影に付きもののローリングシャッター歪みも抑えるという総合力が強かった。何より「秒20コマのブラックアウトフリー連写」という1点で押し通したのが功を奏した。

2018年のデジタルカメラ市場は、ミラーレスカメラの中でも高級・高価格帯の35mm判フルサイズのカテゴリーに新規参入が相次いだことで盛り上がった。ニコンが「Z 7」「Z 6」、キヤノンが「EOS R」を発売し、キヤノンはより小型軽量で操作が簡単なエントリー機も追加投入すると聞く。

冒頭の通りテレビや新聞でもフルサイズミラーレスカメラが取り上げられるようになったのは、ニコン・キヤノンという一眼レフカメラの2強メーカーがソニーなどの新勢力を無視できず、自らが得意とする一眼レフ市場を食いかねないミラーレスカメラへの本格参入にいよいよ重い腰を上げた、という見方によるものだろう。

加えてこの春には、ミラーレスカメラ市場で最も長い経験を持つパナソニックが満を持して投入するフルサイズ機「LUMIX S1R」「LUMIX S1」も姿を現す。独自のFoveonセンサーで得られる画質で根強いファンを持つシグマのフルサイズミラーレスカメラも、2019年の発売が予告されている。いずれにしても現在は、カメラ業界全体としてのトレンドが「フルサイズミラーレス」に一極集中している。

オリンパスは「機動力」でマイクロフォーサーズに集中

そんな中、パナソニックと同じマイクロフォーサーズシステムを展開してきたオリンパスの動向が注目されていた。パナソニックはマイクロフォーサーズとフルサイズの両方を育てていくと発表しているが、オリンパスも35mmフルサイズのような新フォーマットに行くのか、それとも今後もマイクロフォーサーズ1本で戦うのか。

そうして迎えた1月24日のE-M1X発表会では、「オリンパスは今後もマイクロフォーサーズ1本に集中する」という明確な発言があった。こうした発表会の質疑応答で将来の話に言及すると「35mmフルサイズなども含め、あらゆる可能性を模索しながら研究を続けている」と濁すのがどこもお決まりだったが、今回のオリンパスはマイクロフォーサーズの機動力でいくと断言した。

35mm判やAPS-Cサイズに比べて小さな撮像フォーマットとすることで、システム全体が小型になり撮影者の機動力が高まるというのが、マイクロフォーサーズの強みとして打ち出されている。

その決意表明の象徴として予告されたのが、2020年に発売予定の「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」だ。いささか気の早い発表にも感じるが、こうした象徴的な製品が予告されることは、そのメーカーの思想に共感しているユーザーにとって今後を考える上での安心材料となる。また、新しいレンズロードマップも公開された。

M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(モックアップ)
同社初のテレコン内蔵レンズとなる。切り換えスイッチは右側。望遠端400mmに1.25倍を掛けると、35mm判換算で1,000mm相当となる。同時発表の2倍テレコンでさらに倍(2,000mm相当)。
前玉部分。後部にフィルターが入らないので、前面に一般的なレンズフィルターを装着するのだろう。フィルター径はまだ秘密だった。サイズの目安はiPhone X。
"白筒"といえば長らくキヤノンのイメージだったが、最近はプロ向け望遠ズームの象徴として広まりつつある。
2019年夏に発売される「M.ZUIKO DIGITAL 2× Teleconverter MC-20」(モックアップ)。150-400mm TC1.25×に取り付けると最大で35mm判換算2,000mm相当になるのがアピールポイント。
2019年1月時点の最新ロードマップが公開。100-400mmクラスのF2.8 PROズーム、「9-18mm」の望遠端を延ばしたような広角ズーム、広角から標準域の大口径単焦点など、ますますの充実が期待できる。中間クラスの「M.ZUIKO PREMIUM」がなくなっていた。

E-M1X、発表会で見つけた驚きポイント

E-M1 Mark IIの発売時には、SNSをきっかけとして「手持ちで2秒」という言葉がキャッチコピーのように広まった。同時に登場した12-100mm F4のPROレンズ(シンクロIS対応)と組み合わせると、広角端24mm相当でシャッタースピード2秒の手持ち撮影でもブレない、というものだった。

E-M1Xではそのイメージを取り入れてか、「手持ちで4秒」とでも言うべき作例を示した。撮影データをよく見ると、小さい文字で12-100mm F4 PROの100mm側で撮影とある。つまり、同じレンズを使いつつ「24mm相当の広角端で2秒」から「200mm相当の望遠端で4秒」にジャンプアップしているのである。これは技術的ロマンを味わう意味でも実機を試してみたくなる。

E-M1X「手持ちで4秒」の作例。

また、NDフィルターのようなスローシャッター効果を画像合成で再現する「ライブND」や、機械学習を使った「インテリジェント被写体認識AF」など、発想力が光る新機能も搭載。これらはデュアルエンジン搭載のE-M1Xでのみ使える機能だが、E-M1 Mark IIに対しても可能な範囲でE-M1Xの新機能を提供していくそうだ。

「インテリジェント被写体認識AF」は、AFモードを「C-AF+TR」に設定した後、歯車メニューから「追尾被写体設定」を選ぶ。
デフォルトではOFFになっているので、3ジャンルの中から目的の被写体を選ぶ。
発売時点では上の3ジャンルだが、今後のファームウェアアップデートで増えるとのこと。
さらに高められた防塵防滴性をアピール。
シャワーのような水流を当て続ける動画が用意されていた。
「雨天でもレインカバーいらずの撮影」を目指したという。
ボタンの突出量なども細かく検討したという。プロ機っぽい顔つきだ。
記録メディアスロットは、ツマミを引き起こして回転させる方式。防塵防滴性確保のために密閉性を高められるという。
各種カバー部分は、防水カメラと同様のラバー素材でシーリング。
E-M1Xと300mm F4 PROのカットモデル。
上部の黄色い長方形がGPSセンサー。EVFの光学系は新規設計。イメージセンサー付近はヒートパイプを設け、4K動画撮影時の発熱に配慮している。

強みに特化し、確かな存在に

何となくフルサイズミラーレスの話題で持ちきりな業界トレンドの中、「機動力」こそが自分達の強みとしてマイクロフォーサーズへの集中を表明したオリンパス。こうした明確な主張は、そのカメラシステムの将来性・継続性をユーザーが判断する大事な材料となる。

現在のデジタルカメラ市場ではフルサイズとマイクロフォーサーズのみならず、中判やAPS-Cについても各社がそれぞれにアピールする。しかしそれらのアピールには、撮像フォーマットの大小という物理事情を超えるほど明確な主張はあるだろうか。

価格帯やレンズラインナップの揃え方に目立った違いはなく、スマホ全盛時代に未だガラケーっぽいメニュー画面しか用意されていないこと(これはオリンパスもそう)なども踏まえると、現在のデジタルカメラは何となく轍の上を走っているような印象で、デバイスの進化によるスペックアップ以外には大きな流れが見えてこない。

写真はスマートフォンで撮る時代と言われても、まだまだカメラとカメラメーカーのブランド力は強い。この強みを今度は「カメラありき」の発想から脱却した上で分析し、それぞれの誇りと強みを反映した闊達なカメラ開発が今後広がっていくことに期待したい。そんなことを、今回のオリンパス新製品発表は考えさせてくれた。

本誌:鈴木誠