OLYMPUS OM-D E-M1Xが拓く新しい動体撮影の世界

高速に走る車を追い続ける“モータースポーツ認識AF”

スポーツ写真家・小城崇史さんに聞く

アマチュアクラスながら、ポルシェ・アウディ・メルセデスなどのGTカーで争われるこのレース。モータースポーツ認識AFは車体のフロント部に正確に合焦する。このカットではクルマが左に向かうところを捉えているが、実際にはその前から追尾動作を行い、タイミングを見てレリーズしている。(Blancpain GT World Challenge Asia 2019)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F11) / ISO 320

今年2月に発売されたオリンパスの「OM-D E-M1X」は、他のオリンパス製ミラーレスカメラと同じマイクロフォーサーズ規格を採用することで得られた「機動力」を維持しながら、より安定したホールディング性と操作性を実現した、まったく新しいタイプのプロフェッショナルモデルであることが特徴だ。

特に、ディープランニング技術を応用することで、「モータースポーツ」「飛行機」「鉄道」といった特定の被写体を自動で検出したうえで、最適なポイントにフォーカスし、かつ追尾する「インテリジェント被写体認識AF」の搭載は、OM-D E-M1Xの先進性を語る上で欠かすことのできない新機能となっている。

当サイトではそのオリンパスOM-D E-M1Xを愛用し、すでに多くの作品を発表している3名の写真家にインタビューを試みた。

第2回目となる今回は、モータースポーツはもとより、野球、サッカー、テニス、バスケットボールなど、国内外の多くのプロスポーツ取材を第一線で手がけている小城崇史さんにお話を伺った。(聞き手:曽根原昇 作品キャプション:小城崇史)

小城崇史

作者プロフィール:1962年東京都生まれ。広告写真スタジオから独立の後「スポーツを写真で表現」することに目覚め、アメリカ・メジャーリーグ取材を始めとする国内外のプロスポーツ取材を数多く手がける。サッカーJ2・FC町田ゼルビアオフィシャルフォトグラファー。日本写真家協会(JPS)日本写真学会(SPIJ)日本スポーツプレス協会(AJPS)国際スポーツプレス協会(AIPS)各会員。筑波大学芸術専門学群非常勤講師。

OLYMPUS OM-D E-M1X

ミラーレス本格運用の兆しあるモータースポーツの現場

——モータースポーツの撮影というと、大きな一眼レフカメラと大砲みたいなレンズで高速連写……といったイメージがあります。小城さんはミラーレスカメラをお使いになっていてデメリットは感じられませんか?

デメリットですか? ありません。むしろ、システムのサイズをコンパクトに抑えられますし、EVFでリアルタイムに効果を確認できたり、AFエリアが画面の隅まで届いていたりと、メリットの方が多いです。AF性能だって抜群によいので安心して使えます。

——私のような動体撮影の初心者がOM-D E-M1Xでモータースポーツを撮っても大丈夫なレベルですか?

もちろんです。一般の方ですと観客席からの撮影ということになると思いますけど、観客席の方が距離があって撮影位置も高い分、安定して被写体を捕捉できるので、オリンパスのOM-Dシリーズカメラなら絶対に大丈夫。これは保証しますよ。

モータースポーツ認識AFだけでなく、通常のC-AFも高い合焦制度を誇るのがE-M1Xの良いところだ。2倍のテレコンバーターMC-20を装着した40-150mmで、AFターゲット9点に設定しクルマのサイドビューを狙う。IS-AUTOの設定だが、車体はシャープに、ホイールは激しく回転する様を画質の劣化なく切り取ることができた。150mmから300mmの画角はMC-20なしでは実現できなかっただけに、撮っていて新鮮味を感じた。(Blancpain GT World Challenge Asia 2019)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverer MC-20 / 140mm(280mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F11) / ISO 160

——最近では鈴鹿の8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)の取材に行かれたそうですが、そうした過酷な現場ではシステムの小型化は確かに大きなメリットとなりそうですね。

前後も含めて8時間以上の間、コースのあちこちとプレスセンターをひっきりなしに行ったり来たりするのでこちらも耐久レースですよ(笑) でも、おっしゃる通り、カメラもレンズも小型化できるから、移動の負担は随分軽減されます。これは本当に助かりますね。

——OM-D E-M1Xはミラーレスカメラとしては大型の部類だと思いますが、それでも一眼レフカメラより負担は少ないですか?

あくまでミラーレスカメラとしてはです。ミラーレスに乗り換える前のカメラに比べたら全然小さいですし、フォーサーズ規格のカメラなので大きいとはいってもやっぱり小さい。逆に大きくなったことで耐久性や防塵防滴性の信頼感が増したことは嬉しいことです。

——私もOM-D E-M1Xを使っていてグリップ一体型の安心感は強く感じています。

鈴鹿の8耐は夏ですからね。小さくて堅牢性が高く、防塵防滴に優れていることは素晴らしい限り。僕はレインカバーを使わない派ですので、雨でも行動が制限されないのは嬉しいです。

あと、僕は撮影時にいつもモバイルバッテリーを持ち歩いていますが、OM-D E-M1Xになってバッテリー給電ができるようになったのも大きなメリットなのです。いちいち専用充電器を用意しなくてもいいし、コンセントを確保する必要もない。

複数の車両を画面内に入れたい時に重宝するのがズームレンズだ。M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROはOM-Dシステム定番の望遠ズームレンズだが、サーキットで使うにはやや焦点距離敵に厳しいものがある。そこで新たに発売されたMC-20を装着し、程良いアングルを探すとこんなシーンにめぐり会うことができた。モータースポーツ認識AFが先頭を行く車両に合焦することで、レースらしいシーンを捉えることができた。(Blancpain GT World Challenge Asia 2019)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20 / 200mm(400mm相当) / マニュアル露出(1/1,000秒・F5.6) / ISO 320

一度しかない瞬間をモノにする「モータースポーツ認識AF」の実力

——ところで、OM-D E-M1Xといえば「インテリジェント被写体認識AF」が話題です。そのうちのひとつ「モータースポーツ」は小城さんの撮影にピッタリだと思いますが、実際に使われていますか?

それはもちろん。フォーミュラーカーでもバイクでも、車体を検出すれば問題なく全体を認識してくれますし、ヘルメットを検出できれば積極的にヘルメットにピントを合わせてくれるのでモータースポーツを撮る上では今までにない便利さがあります。

——ヘルメットが見えている場合は、やっぱりヘルメットにピントを合わせるものですか?

原則、ヘルメットにピントが来るようにするのが基本です。カメラの機種によるので一概には言えませんけど、通常のAFだと車体の先頭にピントを合わせがちなことが多かったのに、モータースポーツ認識AFならカメラが自動的にヘルメットを認識してピントを合わせてくれます。

今年から乗員保護のためのHalo装着が義務づけられたFIA F3 アジアンチャンピオンシップのマシンを狙う。モータースポーツ認識AFのコツは、自分が撮ろうと思った場所よりも遠くからシャッター半押しで被写体を追いかけること。このカットはドライバーのヘルメットを正しく認識していることがわかる。(FIA F3 Asian Championship Round3)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F11) / ISO 200
同じマシンを後追いで狙う。上り坂のカーブに立ち向かう戦いをモータースポーツ認識AFは正確にトレースしてくれる。前後のカットも正確に合焦していたが、ジャック・ドゥーハンの孤独な戦いぶりが垣間見えるこのカットを選んだ(ちなみにジャックは、往年のGPライダーであるミック・ドゥーハンの息子)。(FIA F3 Asian Championship Round3)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F13) / ISO 250

——すごいですよね。それではOM-D E-M1Xの登場と同時にバリバリとモータースポーツ認識AFを使われていたということですね。

いやいや、さすがにそうはいきません。と言うのは、モータースポーツの現場であるレースはそうしょっちゅう開催されているものでもありませんし、いざレースに臨むときはもう本番の撮影です。レース中はいろいろなドラマがありますけど、その瞬間を撮るチャンスは一度しかないわけです。そうなるとぶっつけ本番で新機能を使うわけにはいきませんよね?

——ではどのようにして使い始めたのですか?

250kmで動く身近な被写体で試し撮りをしました。具体的には羽田空港に行って飛行機を撮ったり、目的の速度を出している新幹線の撮影ポイントに行って機能を試したり。

——インテリジェント被写体認識AFの「モータースポーツ」のお話を聞きに来たら、「飛行機」や「鉄道」で試し撮りをされている。意外な真実を垣間見た思いです(笑)

「瞬間を撮るチャンスは一度しかない」ですからね。そうやって予行練習をして手応えを感じたからこそ、本番でも使っているのです。一度しかないチャンスを撮るという意味では、その瞬間にOM-D E-M1Xを使っているわけですから、僕にとってはこのカメラが信頼に足る相棒となっている証でもあります。

——モータースポーツを撮影されるときは、全てモータースポーツ認識AFを使っているのですか?

今のところ通常のAFとフィフティ・フィフティくらいです。僕はOM-D E-M1 Mark IIが登場したころからミラーレスを本格運用し始めましたけど、その頃から使っている通常のAF設定は今でもよく使っています。ドライブモードはAF追従する「連写L」で、AFターゲット選択は「9点グループターゲット」に設定するといった具合です。

ただ、OM-D E-M1Xのファームウエアが先日(6月19日)にアップデートされて、インテリジェント被写体認識AFの精度がかなり向上しました。それから僕のインテリジェント被写体認識AFの使用頻度もアップしていますので、将来的にはさらに使用頻度が高くなる可能性がありますね。

画像提供:オリンパス株式会社

高性能望遠レンズシリーズでますます活躍の場が広がる

——なるほど、長丁場の8耐では有効な機能ですね。ところで、レンズは何をよく使われるのですか?

いま一番よく使っているのは「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」ですね。35mm判換算で600mm相当。これに最近発売された2倍のテレコンバーター「M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20」を状況によって使い分ければ1,200mm相当までいけます。モータースポーツでは敢えて自動車やバイクを小さく写して、空いた空間にスポンサーロゴを配置することで印象的な写真にすることもあるので、必要なところを切り撮れる高性能な望遠レンズやテレコンバーターの存在がありがたい。

部分アップで可能な限りクルマを大きく捉えるべく、コースを見下ろすことのできるポジションからマシンの動きを追った一枚。シャッタースピードを遅めに設定することで、ホイールの回転や路面の描写でスピード感を表現することができた。(Blancpain GT World Challenge Asia 2019)
OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO / 300mm(600mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F11) / ISO 160

——600mm F4.0相当で全長227mm、質量1,270gというのは、ひと昔前には考えられない小型軽量ですよね。撮影時は一脚など使われるのですか?

場合によっては一脚を使うこともありますが、ほとんどのシーンでは手持ちで撮影します。レンズの手ぶれ補正機能とOM-D E-M1Xのボディー内5軸手ぶれ補正機能の組み合わせで、最大6段分の手ぶれ補正が可能ですので、手持ち撮影の安心感も段違いです。これは、サッカーの撮影などでよく使う「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」でも同じですし、来年発売予定の超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」が登場すれば、さらに活躍の場が広がることになると大いに期待しています。

そういえば、オリンパスの超望遠レンズを使った場合、遠い被写体を写した時の像のゆらぎが少なくて、それも撮影の助けになってくれています。なぜですかね? レンズのボディサイズが小さいから、日射で熱せられる鏡筒内の空気の影響も少ないということなのかな? まあ、とにかく僕のモータースポーツ撮影で信頼できるシステムであることに間違いはありません。

まとめ

インテリジェント被写体認識の「モータースポーツ」を本格運用するために、比較的身近に体験できる「飛行機」や「鉄道」で試し撮りをするという、小城さんの話が個人的に相当ヒットした。しかし、それは「瞬間を撮るチャンスは一度しかない」というプロならではのシビアな必要性からの行動である。

結果的には、カメラ登場からの数少ないレースの現場で、モータースポーツ認識AFを使い多くの印象的な作品を撮られているのであるから、OM-D E-M1Xのチャンスをものにする力はかなりのものだ。

前回の広田さん、今回の小城さんのように、その道のプロの話をマジマジとお聞かせいただくと、なぜか猛烈に望遠レンズが欲しくなってくるのだから不思議だ。インテリジェント被写体認識AFがあれば、初心者でも鉄道や飛行機といった動体を容易に撮影できる。筆者は普段、本格的に動体を撮影することはそれほどないが、インタビューを通じてOM-D E-M1Xが持つ魅力を別の面から実感している今日この頃だ。

井上雅行・小城崇史 写真展「Racing 2&4」

小城崇史さんの写真展が8月30日から開催される。モータースポーツ写真家・井上雅行さんとのコラボレーションで、スーパーフォーミュラ、鈴鹿8時間耐久ロードレースの瞬間を捉えた作品。いずれもOM-D E-M1Xのモータースポーツ認識AFで撮影したという。モータースポーツ認識AFの実力を知るには絶好の機会だ。ぜひチェックしてほしい。(編集部)

オリンパスプラザ東京 クリエイティブウォール

会場:東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル 地下1階
開催期間:2019年8月30日(金)〜9月4日(水)
開催時間:11時00分〜19時00分
トークショー:8月31日14時00分〜15時00分 オリンパスプラザ東京 ショールーム内イベントスペース
※井上さん、小城さんによる作品解説など。OM-D E-M1Xの使用感なども披露される予定だ。事前予約は不要。

オリンパスプラザ大阪 クリエイティブウォール

会場:大阪市西区阿波座1-6-1 MID西本町ビル
開催期間:2019年9月13日(金)〜9月19日(木)日祝休
開催時間:11時00分〜19時00分(最終日15時00分まで)
トークショー:9月14日(土)15時00分〜15時40分 オリンパスプラザ大阪 ショールーム内
※小城さんによるモータースポーツ撮影に対する考え方、OM-D E-M1Xの使用感など(井上さんの出演予定はない)。

提供:オリンパス株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。