OLYMPUS OM-D E-M1Xが拓く新しい動体撮影の世界

撮影者よりも先に車両を見つける? 悪条件でも信頼できる“鉄道認識AF”

鉄道写真家・広田泉さんに聞く

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 135mm(270mm相当) / 絞り優先AE(1/500秒・F3.2・-1.0EV) / ISO 200

今年2月に発売されたオリンパスの「OM-D E-M1X」は、他のオリンパス製ミラーレスカメラと同じマイクロフォーサーズ規格を採用することで得られた「機動力」を維持しながら、より安定したホールディング性と操作性を実現した、まったく新しいタイプのプロフェッショナルモデルであることが特徴だ。

特に、ディープラーニング技術を応用することで、「鉄道」「モータースポーツ」「飛行機」といった特定の被写体を自動で検出したうえで、最適なポイントにフォーカスし、かつ追尾する「インテリジェント被写体認識AF」の搭載は、OM-D E-M1Xの先進性を語る上で欠かすことのできない新機能となっている。

当サイトではOM-D E-M1Xを愛用し、すでに多くの作品を発表している写真家にインタビューを試みるものである。

今回は、日本はもとより世界各地で長年にわたり数多くの写真を撮り続けている、鉄道写真家の広田泉氏にお話をうかがった。

広田泉

1969年東京生まれ。鉄道写真家である広田尚敬の次男として生まれ、2歳で初めて鉄道写真を撮る。染色職人、会社員、会社経営を経て2002年にフリーランスの写真家としてデビュー。国内外で写真展を数多く作品を発表している。写真教室や撮影会、ツアーなど各種イベント、テレビなどで鉄道写真の楽しさを広く伝えようと活動中。また2011年、各地の復旧支援を続ける中で写真集「ここから始まる」を自社出版して被災した路線をつなげる活動をはじめた。


OLYMPUS OM-D E-M1X

「機動力」を活かして2台のプロフェッショナルモデルを使い分ける

——オリンパスのミラーレスカメラ(マイクロフォーサーズ規格のデジタルカメラ)はいつ頃からお使いですか?

だいぶ以前から使っていましたけど、本格的に鉄道写真で使うという意味では、2013年に発売された初代OM-D E-M1が最初でした。当時はまだミラーレスカメラを仕事で使うプロカメラマンは多くなかったと思いますが、手ごろな大きさながらしっかりした造りで、操作性やAF性能もよく、ミラーレスカメラの将来性に大いに期待を感じたことを覚えています。

——その後、2016年には後継機となるOM-D E-M1 Mark IIが登場しましたね。

はい、OM-D E-M1 Mark IIになって、僕が鉄道写真を撮るために「もっとこうなって欲しい」と思っていた部分、特にAFやEVF(電子ビューファインダー)の性能が大幅にアップしてくれました。というわけで、いよいよミラーレスカメラを完全に信頼して、メインで使うようになったのがOM-D E-M1 Mark IIです。すごくお気に入りのカメラで、OM-D E-M1Xを使うようになった今でもよく使っていますよ。

—— OM-D E-M1 Mark IIとOM-D E-M1Xはともに現行のプロフェッショナルモデルという位置づけですね。どのように使い分けているのですか?

それはやはりボディサイズの違いです。より高いホールディング性や操作性、独創的なAFシステムを必要とする時はOM-D E-M1Xを、長時間機材を持って移動しなければならないような時は、より小型で携行性の良いOM-D E-M1 Mark IIというふうに使い分けています。

どちらかをメイン機にどちらかをサブ機にといった使い方もしますが、同じレンズを使えて同じ画質で撮れるところもオリンパスのカメラの長所のひとつだと感じています。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 85mm(170mm相当) / 絞り優先AE(1/1,600秒・F4.5・-1.3EV) / ISO 200

鉄道写真というと三脚に大砲みたいなレンズを付けたカメラを据えて車両を待ち構えるというイメージがあるかもしれませんが、少なくとも僕の場合は、ほとんどのシーンを手持ち撮影でこなします。ですので、機動性の高いオリンパスのマイクロフォーサーズシステムのカメラはとてもありがたい存在です。

——おっしゃる通り、三脚を構えて大量の写真を撮るものだとばかり思っていました。

意外に撮影枚数は多くないものですよ。ただ、一瞬を逃さず撮ることが大切なので、その時のために撮影地や時間、構図などは念入りに下調べします。1枚の写真のために賭ける時間という意味では、結局丸1日を費やすことだって多くあります。

広田さんにとってのOM-D E-M1Xとは

——広田さんにとって、新しい戦力となったOM-D E-M1Xの長所はどこでしょうか?

ホールディング性の良さ、操作性の高さ、先進のAFシステムですね。あと、シャッターを切ったときの心地よさが素晴らしく、使っていて気持ちよくなれるといったところも重要です。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 75mm(150mm相当) / 絞り優先AE(1/3,200秒・F3.5・-1.3EV) / ISO 200

——私も使い心地のよさに惚れてOM-D E-M1Xを購入してしまったクチなのでとてもよく分かります(笑) ところで、OM-D E-M1Xの縦位置グリップ一体型形状はミラーレスカメラとして大きいという意見もあるようですが……

確かに大きいですよね(笑) でも、この大きさには意味があって、実はそのおかげで卓越した安定性や操作性の高さが実現できているのだと思います。ボタンやダイヤルのレイアウトも絶妙で、本当に使いやすさを感じます。縦位置と横位置の両方にマルチセレクターも装備しているから、どんなシーンでもAFエリアの選択がやりやすい。

それと、これは僕のオリジナルな豆知識ですけど。2個入れられるバッテリーのうち、右側(グリップ側)だけ入れて1個にすると、長時間カメラを構える場合のバランスがとてもよくなります。人それぞれだとは思いますが。

——本当ですか!?……あっ! 本当だ! バッテリー2個時とはまた別の、良いウェイトバランスができますね。

バッテリー室は本格的なロックレバーで開閉する仕組みになっていますが、同様のロックレバーがメモリーカバーの開閉にも採用されていたりして、こうしたこだわりが、カメラ好きとしては嬉しくなりますよね。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 150mm(300mm相当) / 絞り優先AE(1/2,000秒・F3.5・-1.3EV) / ISO 200

鉄道認識AFに唸る

——OM-D E-M1Xの特長として先進のAFシステムについても挙げていらっしゃいましたが、こちらはやはり新機能のインテリジェント被写体認識AFのことですか?

インテリジェント被写体認識AFの中の鉄道認識AFは絶大ですね。向かってくる電車でも走り去ってゆく電車でも、的確に運転席を認識して正確に捕捉しつづけてくれます。真横から撮影する場合のように、運転席が見えない場合は電車全体の形を認識して、やはり的確にピントを合わせてくれます。これは、鉄道写真家としての心が折れてしまうほどの高い実力です(笑)

画像提供:オリンパス株式会社

——心が折れる、ですか??

MFのフィルムカメラ時代から、正確なピント合わせに腐心して経験を積んできたわけです。ところが、霧が濃かったり、雪が降りしきっていたりして、AFでもピント合わせが難しいような時に、撮影者の僕よりも先に正確に電車を認識してくれちゃうのです。嬉しくもあり、なかなか自尊心が挫かれる瞬間でもあり……(笑)

——広田さんよりも先に電車を認識してしまうとは、鉄道認識AFの完成度は驚くほど高いということですね。

いやいやまったく(笑) 実際それ以外にも、オリンパスの多彩な機能には助けられることが多いのも事実で、OM-D E-M1 Mark IIにも搭載されている「プロキャプチャーモード」なども鉄道撮影では非常に有効です。鉄道写真ではトンネル出口や樹木、建造物などの陰からいきなり電車が現れるといったシーンが多いのですが、「来るな!」と思ったときにシャッターボタンを半押して、次に「ここぞ!」と思って全押しした前の写真を最大35コマ記録できるので、決定的な瞬間を取り逃がすことがありません。これも本当にありがたい機能です。

OM-D E-M1X / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 40mm(80mm相当) / 絞り優先AE(1/1,000秒・F3.2・±0.0EV) / ISO 200

他にも、画面の隅々までとどく広範囲な測距点や、設定の結果がリアルタイムで反映されるEVF(電子ビューファインダー)など、ミラーレスカメラが鉄道写真に与えてくれる恩恵はとても大きいと感じています。オリンパスが前面に押し出す機動力、それに選べる2つのプロフェッショナルモデル機のおかげで、撮影シーンの可能性は格段に広くなりました。これからも鉄道写真はもちろん、昔から好きだったのりもの全般の魅力をのがすことなくどんどん撮影していきたいと思います。

まとめ(インタビューを終えて)

「小型軽量なミラーレスカメラ」という潮流のなかにあって、思い切ったサイズ感を打ち出したOM-D E-M1Xであるが、それは決して機動力を損なうものでなく、むしろ操作性と信頼性を向上させるものであることを広田さんは教えてくれた。

さらに、インテリジェント被写体認識AFの対象のひとつである「鉄道」は、鉄道写真家である広田さんの心を折ってしまうほど、素早く的確に電車を捕捉し続けるという。広田さんは世界の各所で特殊な形状の列車で試したが、いずれの場合でも驚くほど正確に認識したそうだ。

ミラーレスカメラというジャンルを世に広めることに貢献してきたオリンパスであるが、OM-D E-M1Xの登場によって、ただ小さく軽いというだけの特徴を超え、デジタルカメラだから可能とする新たな世代に駒を進めていることを実感せずにいられない。

広田泉写真展「のりものばかり2019 〜鉄道写真家が撮りたくなった乗り物の写真〜」が開催

広田泉さんがロケ先で心惹かれて撮影した、意外にも「鉄道以外ののりもの」で構成された写真展。9年前から撮り貯めていたという作品群に注目だ。

オリンパスギャラリー東京

開催期間:8月9日(金)、8月19日(月)〜8月28日(水)
開催時間:11時00分〜19時00分
休館:木曜日、8月10日〜8月18日
ギャラリートーク:8月24日(土)14時00分〜15時00分

オリンパスギャラリー大阪

開催期間:9月6日(金)〜9月19日(木)
開催時間:10時00分〜18時00分(最終日は15時00分)
休館:日曜日・祝日
ギャラリートーク:9月7日(土)13時00分〜14時00分、9月14日(土)13時00分〜14時00分

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。