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【インタビュー】2008年の戦略を訊く[キヤノン編]

~一眼レフの魅力をキープしながら間口を広げる

 PMA08、フォトイメージングエキスポ2008(PIE2008)では、各社から気合の入った新製品が発表された。秋にはPhotokinaも控える2008年だが、これを機に各社の戦略について本田雅一氏がインタビューした。シリーズでお届けする。

 昨年の4月にキヤノンの一眼レフ事業の指揮を執ることになった打土井(うちどい)正憲氏。その最初のインタビューはこちら( http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/09/10/6980.html )に掲載されているが、就任から1年をかけて何を変えようとしてきたのか。とかく優等生的で、性能や機能は不足ないものの、面白味に欠けると言われるキヤノンのデジタル一眼レフカメラだが、何を見据えて製品を開発しようとしているのだろうか。


Kiss X2のライブビューを手始めに

イメージコミュニケーション事業本部 カメラ事業部 打土井正憲事業部長
──昨年、お話を伺った時、何か新しいことをやろうというエネルギーを感じました。実際に打土井さんが本格的に関わった製品というのは、これから登場する製品なのだと思いますが、いくつかについては方針を決めたところがあるのでしょうか?

 ライブビュー時のコントラストAFに関して、EOS Kiss X2に搭載するように指示しました。ライブビューに関して、EOSの開発チームは非常に慎重でした。よく“キヤノンは技術を社内に持っているハズなのに、売れているうちは出し惜しみする”などと言われますが、まったくそんなことはなく、キヤノンなりに一生懸命にライブビューに関して考え、研究しています。そのライブビューに関して、少し考え方を変えてやり直しをしました。

──考え方の変更というと、具体的にはどのような点でしょうか?

 コントラストAFを現時点の技術レベルで実装しても、位相差検出式の現行AFセンサーよりも低速なAFにしかなりません。完成度が低いものを製品に搭載はできない。これが従来の考え方でした。一眼レフカメラという製品は、メカニズム的に長い間改良されてきて、非常に完成度が高い製品です。コントラストAFも、“とりあえずできました”ではダメで、位相差検出式と同等レベルの完成度まで上げないと使い物になりませんし、使ってもらえません。

 しかし、Kiss X2に関しては、せっかくデジタルカメラの時代になってコントラストAFも可能になったのだから、まずはできる限りの範囲でトライしようと考えたんです。前回のインタビューで、“EOSは完成度は高いけれどつまらない”と本田さん、話したでしょう。ある意味、自分たちの拘りが大きすぎて殻を破れないところがあった。だから面白味のない製品になる。ならば殻を破ってやろうと。そこで、まず手始めとしてライブビューの仕様変更をかけたんです。

 確かに現在のコントラストAFは、静物やマクロ撮影、風景などの撮影に向くもので、動く被写体を撮影するための機能としては完成度は低い。しかし、一方で明らかに向く用途もあるじゃないかということで、Kiss X2に搭載しました。

──コントラストAFの速度を上げるためには、センサーや映像プロセッサの性能を上げるだけでなく、レンズ側にも何らかの工夫が必要なのではありませんか? ボケ具合と距離差の関係など、光学特性が判断できないと難しいように思うのですが。

 コントラストAFの性能向上にはさまざまな手法、アプローチがあります。レンズの制御もやり方次第です。レンズに情報を持ったり、新しい機能を加えるといったやり方もありますが、これではコントラストAFが高速なレンズと、そうではないレンズが混在してわかりにくいかもしれません。また、“最終的にライブビューで自由な位置にピントを合わせることができればいい”という考え方でいけば、必ずしもイメージセンサーの情報を使ったコントラストAFでなくてもいいでしょう。


EOS Kiss X2 Kiss X2のライブビュー表示

固定概念にとらわれず、自由な発想で

──ソニーのα350はペンタ部に小型センサーを搭載して、従来的な一眼レフカメラのメカニズムとライブビューを融合させました。考え方としては、以前にもオリンパスがE-330で実装した手法に近いものですが、こうした新しい手法の開発に投資は行なっていますか?

 キヤノンは一眼レフカメラのあるべき姿を求めていきます。必ずしもラディカルな製品を作ることを考えて開発しているのではなく、ライブビューの活用方法としてどのような方法が一眼レフカメラとして最も適しているかを考えて、開発していきます。

──ということは、AF以外にもトライしようとしていることはあるのですね。

 もちろん、いろいろと考えていることはあります。まずは、ライブビュー時のAF速度で位相差検出式に追いつくこと。そして、機能的にも幅を拡げるアイデアを練っています。

──エントリー機ならば、ユーザーもコンパクト機からのステップアップユーザーが多いでしょうし、新しいことには取り組みやすいのでは?

 一眼は一眼です。コンパクト機の真似を中途半端に一眼レフカメラがしても失敗するでしょう。しかし、完全に新しい切り口で一眼レフカメラを拡張・進化させるのであれば、受け入れられる可能性はあります。それが機能なのか、それとも大きさや使い勝手の面での進歩なのかは議論のあるところでしょう。しかし、デジタル一眼レフカメラとして、画質、速写性能、レンズの交換といった要素は、キッチリとその魅力をキープしたものでなければなりません。

──コンパクト機では“おまかせ”機能が流行していますね。ライブビュー向けにキャプチャしている映像を使って、一眼レフならではの“おまかせ”は考えられないでしょうか?

 もともと、一眼レフカメラに初めてプログラムAEを入れたのはキヤノンでした。良い写真を撮っていただくために必要な機能は、積極的に入れていきます。一眼レフカメラである以上、懐の深さは必要ですが、間口はなるべく広い方がいい。目的は良い絵、思い通りの絵を撮影できることですから、その目的を誤らなければいい。

 たとえば、バーコードでAEのプログラムを変更する機能を実装したことがあります。当時はあの方法しかなかったのですが、今ならばもっとスマートにできるかもしれません。一眼レフカメラで思い通りの絵を撮影しようと思えば、その写真を撮影するための方法を学ばなければなりません。それが“使いこなし”となりますが、ユーザーにはもっと被写体や構図に集中してもらった方が良いことも多いでしょう。


──たとえばですが、ライブビューを使って被写界深度の範囲を視覚的にわかりやすく見せるとか、露出パラメータの変更が撮影結果にどのような影響を及ぼすのかなど、撮影そのもの任せるだけでなく、ユーザーが撮影時に変更するパラメータを決定する参考情報を提供するといったこともできるのでは?

 あまり固定概念にとらわれず、自由な発想で考えてみたいと思っています。たとえば被写体を認識し、動きを検出してシャッタースピードにフィードバックをかけてプログラムを変更するといったこともできるでしょう。カメラ内部で分析できる要素が多いので、可能性の幅は非常に広い。

──Kiss X2は、いわば“ど真ん中ストライク”を狙った製品ですが、新しいことに挑戦するのであれば、これとは別にエントリー機を持ってもいいのではないでしょうか?

 既存の概念にとらわれず、ビジネス的にも儲からなくていいから、思う限りのアイデアを詰め込んだ製品を作れと言っていますが、なかなか開発の現場ではそうした企画が現れてきません。一眼レフカメラの本質を見据えながらも進化できるポイントは、まだまだ数多くあります。コンパクト機のデジタル化による進化とは別に、デジタル一眼ならではの進化の方向もあると思っています。当然、まだまだ不満ですから、開発は続けています。


画素数を上げながら画質を改善する

──前回のインタビューでは、イメージセンサーに関してキヤノンが他社に追いつかれてきたという話がありました。

 具体的には、ソニーのCMOSセンサーの性能が良くなりました。しかしキヤノン製の方が良い部分も数多くあるし、S/Nだけではなく総合的な画質という観点では、まだまだキヤノン製の方が良い。他社製のセンサーでも、もし安く調達できて、性能も良いのであれば、もちろん使いますよ。そのときに一番良いセンサーを使います。

──ノイズ対策に関しては、再度、他社を突き放すことはできるでしょうか?

 当然、改良するための研究開発は行なっていますし、その一部はKiss X2のセンサーにも入っています。いろいろな要素技術を詰め込んで、総合的にノイズ対策を行なっています。新しい機種が出るごとに、少しずつセンサーも進歩しているんです。オンチップノイズ除去は、もともとキヤノンが先行して開発していますから、その積み重ねで高感度時のノイズは減っています。

──昨年、600万画素機が意外に数多く販売されました。S/N改善と画素数をどのようにバランスさせるかは、メーカーだけでなくユーザーにとっても悩みどころですが、その判断の閾値が以前とは変化していませんか? 具体的には画素数への渇望感が緩和され、その代わりにS/Nの良さを重視したいというユーザーが増えたようにも感じるのですが。

 うちは両方に対して同時に取り組みます。画素数とノイズは、まったく別の切り口の要素で、両方とも向上させる必要があります。より大判の用紙へのプリントも増えていますし、トリミングすることも考えれば画素数はまだ足りません。ノイズを改善するために画素数を意図的に落とすという方向ではなく、画素数を上げながら画質を改善するという方向です。

 現在のセンサーも、いろいろと巷では言われていますが、同じサイズにプリントした際の画質は現在のセンサーの方が、(超ローノイズと言われた過去の製品よりも)高画質な結果を得られます。ピクセル単位での比較ではなく写真上の決まった範囲内の描写能力といった観点で表現力を評価してほしい。


フルサイズのラインナップも増やしたい

EOS 5D
──35mm判フルサイズのセンサー搭載機に関しても、EOS 5D後継機の開発を指示したという話がありました。現在はプロ向けと5Dの2ラインですが、5Dのラインナップが増加する、あるいは位置付けが変更されることはありますか?

 個人的には、可能ならば増やしたいと思っています。フルサイズセンサー搭載機を、ひとつのジャンルとして確立させていきたい。併売できる市場では、APS-Cとの併売をと考えていますが、しかし本体のプラットフォームをいくつ持たなければならないか? と考えると難しい面もありますから、急にラインナップが増加することはありません。ミラーボックスの設計もAPS-Cとは違うものにしなければなりませんから。

──とはいえ、35mm判に拘ってフルサイズ機を購入するユーザー層は、レンズシステムにも拘りがあるでしょう。そうした意味では、フルサイズ機をもうすこし低価格なレンジに持ってくるのも良いと思います。

 そうですね。コストパフォーマンスに優れたAPS-Cセンサー採用機がある中で、画質やレンズ描写などを求めてフルサイズ機を買ってくれる方々は本当の写真ファンだと思いますから、そこには趣味として入って来やすい価格帯の機種を将来的にはラインナップしたい。一眼レフカメラは開発スパンの長い製品なので、簡単にラインナップを今年後半から増やせるわけではありません。しかし、APS-Cからフルサイズまで、各センサーサイズごとに、どのように製品ラインナップを構成するのかは、今まさに議論すべきテーマだと思います。

 前述したように一眼レフカメラは長い歴史の中で積み重ねてきた操作性、使い勝手がありますから、システムトータルでの操作性や機能、使いやすさを時間をかけて吟味しなければなりません。単に最新のコンポーネントを組み込んで一眼レフカメラとして機能する製品をでっち上げるだけなら、短期間で次々に出すことはできますが、製品仕様や細かいメカ部分の設計を練って、練って、時間をかけてテストして製品化していますから。


──昨年4月に就任後、すぐにフルサイズ機の後継機種に着手することを指示したというお話でした。最近は企画着手から製品が登場するまで、だいたい1年半ほどの時間がかかっていますから、今年もっとも大きなイベントであるPhotokinaには、5D後継機種が発表となってもおかしくはないですね。

 フルサイズ機に対する期待の大きさはこちらにも伝わっているので、可能な限り良い製品に仕上げます。楽しみにしておいてください。画質に関しても、付加価値に関しても、大きく進歩したものになるでしょう。

──これも前回のインタビューで出た話題ですが、カメラを使う際の感覚的な気持ちよさなどを数値化したいという話がありました。その進展はいかがでしょう。

 プロジェクトを組んで、研究開発に当たらせています。成果はいくつかは出ていますし、それ以外にも出るように継続的に努力しています。単にメカとしてのカメラの動きや音だけでなく、キヤノンの一眼レフカメラをユーザーはどのような製品だと捉えているかなど、ユーザーイメージなども含めた幅広い活動です。簡単に数値化できることではありませんから、まずはどんなカメラが気持ちよく撮影できると感じられるのかをさまざまな条件で調べています。

──前回のインタビューで、筆者がキヤノンの一眼レフカメラは優等生だけどつまらないと言ったのは、特に中級機において上下のラインナップに挟まれ、自ら“アマチュア向け中級機はこの範囲に置かれる製品である”と殻を作って閉じこもっているように感じていたからです。中級機はもちろん、コスト的に上位機種に比べて厳しいわけですが、そのコスト制限の中で、各部の技術的要素を詰めて、詰めて作ったものであれば、つまらないとは思わないと思うんです。これはソツなく、要求仕様を完全に満たすだけでは得られなくて、その先にあるものでしょう。

 カメラに対する設計者の思い入れというのは非常に大きなものです。しかし、製品ラインナップを作って事業として開発していく中で、思い入れで作るよりも、要求仕様やコスト制限を満たすことに優先順位を置くようになっていた時期もあったかもしれません。しかし、現場におけるそうした雰囲気は、徐々に変化してきています。

──ところで、フルサイズ機の後継については“いつかはお楽しみ”とのことでしたが、もうすこし枠を拡げてラインナップ全体では、Photokinaまでに何か“新しいお楽しみ”は登場するのでしょうか?

 それはもちろんありますよ。今年はまだ始まったばかりです。まず1台を発表しましたが、継続的に、期待を裏切らない製品を出していきます。



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  キヤノンEOS Kiss X2関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2008/02/05/7809.html


( 本田 雅一 )
2008/04/17 17:01
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