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Canon EXPO 2005で御手洗社長が基調講演

~デジタルイメージング事業が事業拡大に大きく寄与

 10月26日、キヤノンは、「Canon EXPO 2005 in Tokyo」のキーノートスピーチを実施。御手洗冨士夫社長が「経営の本質を求めて キヤノンの挑戦」をテーマに、1995年から取り組んでいるキヤノンの経営改革、日本の風土、文化を生かした製造業のあり方、ものづくりへのこだわりなどについて話した。


エクセレントカンパニーへの転進

 講演の冒頭、御手洗社長は1995年に社長に就任した当時を振り返り、「前任者の急逝によって、急遽社長に就任することとなり、当初は私自身も大変混乱していた。しかし、時代が20世紀から21世紀に移り変わる時期にあたり、キヤノン自身も20世紀型経営から21世紀型の経営へと橋渡しを行っていくことが、自分自身の使命だと感じた。そのために、会社の持っているポテンシャルを引き出して、エクセレントカンパニーへと転身させていかなければならないと考えた」と話した。

 自身が23年間、キヤノンU.S.A.に勤務し、米国の企業を目の当たりにしたことで、米国の優良企業の自己資本比率が高いことに対し、日本企業は借入金が多く、自己資本比率が低いことを痛感。

 「当時のキヤノンは、有利子負債依存度が33.6%であり、このような脆弱な体質では研究開発を継続的に続けていくことは難しい。キヤノンの体質を変えなければならないと感じた。経営に対する考え方も根本から変更し、部分最適ではなく、企業全体の最適を考え、売り上げではなく、利益重視の体質へと転換をはかった。また、パソコンをはじめ、赤字となっていた7つの事業からの撤退を決定。734億円の売り上げ損失となったが、その分毎年300億円程度出ていた赤字の解消をはかった」。

 経営改革のために、長期経営計画を策定。1996年から2000年までの5年間をフェーズ1として、高級カメラを製造するベンチャー企業として出発した20世紀のキヤノンの企業像を、財務体質を含めて大幅に改善することを推進。

 2001年から2005年までの5年間をフェーズ2として、製品力の強化を進めた。

 「今年、2005年は第2フェーズの最終年にあたる。製品力強化を実現する仕上げの年となった」。


改革の鍵はセル生産と3D CAD

 1995年から進めている改革の中で、生産革新として多品種少量生産の時代にあわせた生産体制の整備を実施している。その象徴となるのが、工場での生産体制を、従来のベルトコンベア式の生産からセル方式に切り替えたことだ。

 「セル生産は、作業に従事する人の習熟度が上がればあがるほど、少ない人数での生産が可能となる。当初は60人体制で行なっていた生産が、次の段階では30人、さらに次の段階で20人、さらに10人と関わる人数を縮小できる。スキルが高い人であれば1人ですべてをこなすことも可能。実際に7年間で45,000人相当の省力化を実現した。スペースについても、ベルトコンベア方式では20km相当以上のラインが必要だったため、その分のラインが減って、100万平方m相当の空きスペースができた。このスペースは部品置き場に転換。外部に発注していたものを近くに持つことで、仕掛品が目に見えて現象し、在庫の数も4日から5日へと短縮することができた。こうした生産革新の結果、2,400億円相当のキャッシュを借入金返済に充てることができた。連結売上高における原価率の引き下げにも寄与した」。

 設計のスピードアップを実現するためには、社内の設計部門すべてに3D CADを導入した。

 「成果として、仕様の変更などが簡単に行なえるようになり、試作機を制作するコストと時間が大幅に短縮した。その結果、新製品の投入にかかる時間が大幅に縮まって、18カ月から12カ月となった。製造業にとっては、常にニーズにあった製品を投入していくことが重要で、新製品の投入が早いタイミングで実施できることで、売り上げにおける新製品の占める比率が44.1%から、64.8%へと上昇。新製品の投入スピードがアップすることで、商品の陳腐化を防ぎ、価格下落も防ぐことができるようになった」。

 こうした取り組みが功を奏して、業績は9年間で大幅に向上。売上高は9年間で1.7倍に拡大し、税引き前利益は4.7倍となり、有利子負債の大幅減少も成功した。

 「この10年間、順調に成長を続けてきたことで、21世紀の飛躍の足がかりをなんとか実現することができた」。


セル生産への切り替え
3D CADの導入
革新の成果

デジカメ世界市場は2008年に1億台に

 2006年からは長期経営計画のフェーズ3に入るが、「グローバルな経済環境の中で、体力を十二分に生かした、新たな価値創造を行なっていくことがキヤノンのつとめだと考えている」と御手洗社長は指摘する。

 具体的には、(1)グローバル化、(2)ブロードバンド化という大きな2つの潮流が世界を取り巻いているとする。

 「グローバル化の中でも中国の発展はめざましく、安い、速いを実現する世界の工場としての中国という側面と、魅力ある大市場としであるといえる。ブロードバンド化は急速に進展しており、世界で1億9,000万人がブロードバンドにアクセスできる環境となった。制止画にかわって、動画を使ったシステムの必要性が高まり、デジタルイメージングが大きなブレークスルーとなるだろう。先月、当社はマイクロソフトと戦略的な提携関係を結んだ。次期Windowsである『Vista』に、当社の次世代カラーマネジメント技術「Kyuanos(キュアノス)」をベースに開発された色情報管理システム「Windows Color System」として搭載されることとなった。この技術によって、高度なデジタル製品を相互接続することが可能となり、製品のデジタル化は一気に進むだろう」。

 ブロードバンド化の進展による動画コミュニケーションニーズの高まりは、キヤノンの戦略にも大きな影響をもたらす。


ディスプレイを新基軸に
 「ディスプレイを事業の新基軸に据えていく必要がある。当社では、プロジェクションテレビ、有機EL、SEDと3つのディスプレイ技術を中核としていく。中でも、SEDは社内で開発した技術であったが、東芝という最良のパートナーを得て、いよいよ来年リリースすることとなった。全ての面で既存のディスプレイに優位性をもった商品だと考えている」。

 コンシューマ向け事業では、デジタルカメラ、プリンタ、ビデオカメラ、そしてディスプレイ事業を展開する計画だ。

 コンシューマ向け事業の主軸となっているのが、デジタルカメラ事業。「全世界での市場規模は、2008年までには1億台規模となるだろう。そのうち25%のシェアを獲得して、ナンバー1の座を保持するのが当社の戦略となっている」。

 ビデオカメラについては、「ハイ・ディフィニッション規格に対応した製品を順次投入し、動画事業の拡大をはかる」方針だ。

 そして、「リビングの中心にSEDテレビを置いて、これを家庭内の情報の窓口と位置づけ、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの映像を無線で接続して利用できる環境を作っていく」としている。

 オフィス機器事業については、デジタル複合機Rシリーズをさらに進化させていく。

 「他のアプリケーションとの組み合わせによって、ワークフローに最適なシステム構築を行い、あらゆる情報を保管したり、検索したりすることができるシステムを作りあげる」 その他、インダストリー分野や医療分野にも積極的に展開していく計画としている。

 「X線が撮れるデジタルカメラは日本の発明品で、医療の発展に大きく貢献した。今後は動画にも対応したものを投入していく」。


21世紀になっても製造業が日本の中心

 キヤノンでは、こうした事業の拡大に向けて、研究開発費を強化。昨年は売り上げの約8%にあたる2,750億円を研究開発費としていたが、2010年にはこれを5,000億円に拡大する。

 「このうち半分を基礎研究にあてて、次の事業ドメインを見極める体制を作る」。

 生産体制の見直しをはかる、三位一体のものづくりの強化も進める。

 「開発と生産は近い距離にあればあるほどメリットがあると考え、国内生産の再構築を進めてきた。365日、24時間体制で動くことが可能な自動化ラインなどによりコストダウンをはかるとともに、ものづくりの根幹である技術情報の漏洩を防ぐ。こうした取り組みが、キヤノンをエクセレントカンパニーとしていくために必要な取り組み」。

 純利益、時価総額、売り上げについても、米国の経済誌である「フォーブス」などが実施している全世界トップ企業の100位以内に入ることを目標として掲げる。

 「現在は純利益はトップ100入りしているものの、時価総額、売り上げは100位外。全部の分野でトップ100入りを目指す」。

 さらにこうした企業の成長を支えるのは、「やはり人」と従業員の重要性を強調。

 「人というのは、その国の文化などに根ざした部分が大きい。合理性を追求するにしても、国や状況を鑑みないと答えを誤る。米国型経営が最適といわれているが、それをそのまま日本に持ってきても、木に竹をつぐようなものでうまくいくわけがない。日本ではやはり終身雇用がおさまりがよいスタイルではないか。ただし、年功序列によって社員のやる気が失われるという部分があるので、平等が前提となっている社会の常識を変えることが必要。世界のあらゆる産業が競争によって行われている。今後も、日本企業が競争力を高めていくためには、基本理念、価値観を変えていくべきだろう」。

 終身雇用制を守りながら、競争力をもつために、キヤノン自身は、「自発」、「自治」、「自覚」の3つからなる「三自の精神」を基本としたと説明する。

 「三自の精神のもと、自分自身の成功体験と会社の成功とをマッチして考えることができる、いわゆる愛社精神が大きなパワーを発揮してきた。古くさい考え方と思われるかもしれないが、決して廃れていないものだ」。

 また、日本においては製造業が重要な産業であることをあらためて強調した。

 「日本のGDPの30%を占めているのが製造業の売り上げ。21世紀になっても製造業が日本の中心であることにかわりはない。ただし、グローバル化によって、転換期を迎えていることも確か。生産拠点が移管されたことで、国内の生産技術の空洞化が起こっているが、中国も日本の高度成長期と同様に、従業員の賃金があがることになるだろう。そうなったら、さらに安い労働力をもった地域に生産拠点を移すのが最適なのか。今後も日本の製造業は、イノベーションの継続により世界最先端の技術開発を続け、生産においても世界をリードする生産技術を持っていくべきではないか」。



URL
  キヤノン
  http://canon.jp/

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( 三浦 優子 )
2005/10/27 10:06
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