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【PMA 2005】「写真を撮る文化」をデジタル世界でも定着させたい

~ペンタックス 鳥越興 上級執行役員インタビュー

 昨年10月に発売した*ist Dsがスマッシュヒット。根強い人気と軽量/コンパクトを重視した新しいタイプのデジタル一眼レフカメラで、存在感を示すペンタックス。米オーランドで行なわれたPMA 2005では防水型コンパクトデジタルカメラとDAレンズ1本をラインナップに加えた。ペンタックス上級執行役員イメージングシステム事業本部長の鳥越興氏に話を伺った。


銀塩とは逆の道を辿るデジタルカメラ

ペンタックス イメージングシステム事業本部長の鳥越興 上級執行役員
--どのインタビューでも、デジタル一眼レフカメラ市場全体の過熱ぶりについて伺っているのですが、この点をどのように見ていますか?

鳥越 確かにやや過熱気味だと思います。フォトカルチャーに携わっている企業人として、あまり熱を出しすぎて業界が倒れてもらっても困ります。我々は元々、一眼レフカメラのメーカーとして成長してきた経緯がありますから、この分野への思いは人一倍あるつもりです。その思いを活かしていきたいですね。

--“一眼への思い”とは、具体的にはどのようなものなのでしょう?

鳥越 一眼レフカメラはコンパクトカメラとは全く異質な製品です。写真を撮影するプロセスを楽しみ、交換レンズによる違いを楽しみ、全体のシステムを充実させる楽しみ、それらを使いこなす楽しみなどです。

 今のデジタル一眼レフカメラ市場は、一気に一般向けへと花開こうとしており、かなり急激な伸びを示しています。本来なら、ゆっくりと種を蒔いて、ユーザーとメーカーが共に育ち、スグに成果を刈り取らずに大きな木、新しいカルチャーへと発展して欲しいと考えています。

--つまりペンタックスとしてはデジタル一眼レフカメラという受け皿を取得したユーザーを育てながら、共にカルチャーを作るということですね。どのようにして、そのプロセスを実践していくのでしょうか。

鳥越 “写真を撮るカルチャー”とは、我々の企業文化そのものでもあるんです。少々長くなりますが、これは歴史を紐解けばなるほどと思っていただけるのではないでしょうか。

 銀塩フィルムカメラ時代、レンジファインダーカメラなどもありましたが、どちらかといえばコンシューマ市場は一眼レフカメラからスタートしています。'52年に我々がクイックリターン式の一眼レフ「アサヒフレックス」を発売して以来、一眼レフカメラを中心に市場が成長してきました。最盛期は'78年の127万台です。ユーザーもメーカーも共に育ちながら写真文化が形成され、やっと10万円でシステムが買える時代になった。コンパクトカメラが生まれたのはその後の事です。

 極めつけはストロボが内蔵されたピッカリコニカでしたね。何しろストロボを別に持ち歩かなくても、小さなボディひとつで写真が撮影できるんですから。その流れは、オートフォーカスが内蔵されたジャスピンコニカで決定的になりました。ストロボ内蔵、オートフォーカス、それに2焦点レンズ(2段階焦点距離切り替え式レンズ)の3要素が、コンパクトカメラ爆発の起爆剤だったと言えます。


 我々ペンタックスは一眼レフカメラのメーカーでしたが、写真文化を創ってきたメーカーとして、写真文化がコンパクト機の方向に行くならば、やる必要があるだろうと思って参入しました。当時、2焦点ではなく3焦点レンズで出したいと開発に掛け合った記憶があります。その後、'86年にズーム70(35~70mmズームレンズ内蔵)を発売し、お客様に認めてもらうことができました。

 そうしているうちにコンパクトカメラ市場は400万台規模になり、我々もワイド35mmが主流だったところに28~120mmのズームレンズを内蔵させるなど、写真をより楽しめるよう取り組んできたというのがこれまでの歴史です。そうこうしているうちに、今度はデジタルの時代になってしまった。ところが、デジタルカメラ市場は、銀塩とは全く逆方向に動きました。


“一眼レフへの思い”を製品にそっと入れていきたい

--全く逆方向というのは、どのような意味でしょう?

鳥越 デジタルでは、まずコンパクトカメラが先に市場で認知されました。デジタルカメラはフィルムカメラよりもずっと小型化が容易ということもあり、写真文化が生まれる前にお手軽に誰もが気軽に持ち歩いてスナップできる環境ができあがってしまった。市場が成熟する前に、もう成熟市場であるかのような状態になってしまったわけです。

 たとえば銀塩コンパクトカメラの国内市場は、最盛期でも400万台です。以前よりも手軽になった、あるいは買い換えサイクルが早いといったところで、2倍以上にまで一気に売り上げが伸びると市場は壊れてしまいます。しかもコンシューマ向けのデジタル一眼レフカメラは登場が遅かったこともあり、一眼レフを皆さんに購入していただける価格になる以前に、市場が先に成熟してしまったのです。

--しかし銀塩カメラの場合、長年にわたって売れたため、年間市場をデジタルカメラとは比較しにくい面もありますよね?

鳥越 はい。銀塩コンパクトカメラの時、世帯普及率は最高で90%ぐらいになっていました。国内4000万世帯のうちの9割がカメラを持っていたわけです。デジタルカメラの場合、世帯普及率は国内で50%を超えた程度、アメリカが一説には40%、欧州は30%ぐらいと言われています。その中で、コンシューマ向けのデジタル一眼レフカメラ市場が立ち上がったのは、実質的には昨年からです。

 そうしたユーザーのほとんどが手軽なコンパクトデジタルカメラから、写真の世界に入ってきました。そうしたユーザーは文化としての一眼レフカメラと写真の世界を知りません。彼らに対して、一眼レフの楽しさ、カルチャーを伝え、なるべく簡単に写真文化に接する楽しみを知ってもらわなければ、銀塩カメラ時代と同じような一眼レフ市場を作ることはできないでしょう。一眼レフカメラはコンパクトカメラよりも良い面もたくさんありますが、便利さだけで言えばかないません。それでも今、このデジタル一眼レフカメラの付加価値を認めていただき、市場が拡大している。ここで蒔かれた種を大切に育てなければなりません。


*ist D *ist Ds

--*ist Dシリーズは、いずれも幅広いレンズが利用可能なマニアックな面と、ハイパーマニュアルに代表される、写真撮影の技法を学びやすくする工夫、それに液晶パネルへのヘルプ表示など、デジタル一眼レフカメラを単に高性能/高画質なデジタルカメラとして使うのではなく、本来の“写真撮影を楽しむ”世界へと誘う工夫が凝らされていると思います。先ほどの写真文化を育てるという思想が、*ist Dシリーズの哲学へと繋がっているのでしょうか。

鳥越 はい。せっかく一眼レフカメラの世界に入ってきていただけるのですから、種から育てて写真を楽しんでもらいたいと考えています。エントリークラスの製品から揃えたのも、デジタルではじめて一眼レフカメラに触れるエントリーユーザーを拾い、少しづつでもユーザーを育てたいという考えからです。おっしゃるように、ハイパーマニュアルなども、ユーザーを育てるという意図を具現化したものですね。

 リッターカーを購入して運転を学んで、車の事をよく知ってもらえれば、将来、そのユーザーも4,000ccの高級車やスポーツカーのユーザーへと育ってくれるかもしれません。


ユーザーがステップアップできるモデルも用意する

--ペンタックスは*ist Dシリーズでユーザーを育てながら、4,000ccまでステップアップするデジタル一眼レフカメラを用意するのでしょうか?

鳥越 もちろん、我々も近いうちに用意します。具体的には写真で言う4,000ccは大中判の世界です。ご存知のように、我々は写真館/スタジオ向けの中判システムに強い。現在、そうした市場に急速にデジタル技術が流れ込んできています。我々は645や67といったフォーマット向けにレンズシステムを提供してきましたから、その資産をデジタル時代にもお客様に活かしていただけるように、ラインナップを整えていきたいのです。

--エントリーモデルである*ist Dsもまた、非常に多くのレンズ資産を再活用できるボディですね。

鳥越 レンズは資産です。もちろん、デジタル時代に即した新しいレンズ開発も必要ですが、過去に投資したレンズの資産は、決してないがしろにはできません。650万本のKマウントレンズが世の中に出荷されていますし、中判用レンズを活かしたいというユーザーもいるでしょう。*ist Dシリーズの基本コンセプトのひとつは、これらを無駄なく活用できることです。

--リッターカーと4,000ccの間には、大きな隙間がありますが、*ist Dシリーズで写真文化に触れたユーザーは、次にどこにステップアップすれば良いのでしょうか?

鳥越 トップエンドが中判ユーザー向けのプロフェッショナル機種とすれば、*ist Dシリーズはローエンド。その間には大きなギャップがありますが、もちろん将来的にはエントリーユーザーがステップアップできる“真ん中”の製品も作りたいと考えています。

--今のラインナップに関するお話は、どれぐらいの時間軸での事でしょうか?

鳥越 中級機に関しては、従来機の後継も考えなければなりませんし、今年中にそれが可能かどうかはまだよくわかりません。来年中ぐらいには出したいという希望はあります。4,000ccに関しては意外に近いタイミングかもしれないですよ。我々のデジタル一眼レフカメラビジネスは昨年からスタートし、おおよそ3年計画で製品ラインを充実させていきたいと思ってきました。とはいえ、ペンタックスの基本スタンスは“売れる製品を企画する”ことではなく、“写真を撮影するユーザーにとって良いものを”というものですから、時間に拘っているわけではありません。

--それはやはり、写真文化のための、写真を楽しんでもらうための、といった部分を表しているのでしょうか?

鳥越 カメラの世界というのは、ユーザーとメーカーが直接、密にコミュニケーションできる業界だと思っています。ユーザーも写真が好きならば、メーカーも写真文化のために努力を重ねている。そうした部分を活かし、ユーザーからのフィードバックに耳を傾けた製品作りをしたいものです。


デジタル時代に変化する事、変化してはいけない事

PMA 2005で展示された*ist Ds シルバーモデル
--デジタル時代になってペンタックスが最も大きく変化したのはどこでしょう?

鳥越 デジタルカメラではカメラ屋だけでなく、家電屋さんも参入しました。彼らの経営手法はとても速い。そのスピードは我々にとっても多いに参考になりました。これにより、従来型のカメラベンダーのビジネスモデルは根底から変化しなければならなくなりました。

--ではペンタックスは、ビジネスモデルの変化に合わせ、どのように変化していくのでしょう?

鳥越 デジタルの世界で進化の速度が上がることは仕方がありません。企業として、その速度には対応していかなければならない。しかし、だからといって製品をコロコロと変えていては本当の意味でのカメラユーザーは育ちませんし、ついてきてくれないでしょう。我々が脈々と持ち続けてきたカルチャーは、そのまま今後も保ち続けるつもりです。たとえばペンタックス製品は、軽量、小型、使いやすいといったところが評価されてきました。きちんとしたこだわりのある物作りをマジメにやる事。それをスピード経営の時代にも忘れないことが必要だと思っています。

--ペンタックス製品のこだわりと言えば、外観のフィニッシュやデザインにも、強いポリシーやこだわりを感じるところも多いと思います。

鳥越 特にボディ表面のフィニッシュや色といった、ユーザーの所有感を満たす部分には力を入れています。たとえば*ist Dsに追加されたシルバーモデルですが、同じシルバーでも何種類もの塗装があります。その中からこだわって選び、気に入らなければ最後の最後まで探し続ける。実際、今回のシルバー塗装はかなりこだわりました。

 ユーザーの皆様からは“ペンタックスはマジメな会社だ”と言っていただけていますが、そう感じていただけている事そのものが我々の資産だと思っていますから、それは今後も活かし、また失わないようにして行きたいと思います。


DAレンズの最新作「smc PENTAX-DA 50-200mmF4-5.6 ED」
--最後にレンズについても伺わせてください。APSサイズのセンサーに特化したデジタル専用のDAレンズがラインナップされていますが、一方でフィルムカメラユーザーに対してはFAレンズを提供していかなければなりません。今後のレンズ開発はどの方向に向かうのでしょうか?

鳥越 今後は*ist Dシリーズユーザーに向けたDAレンズが新規開発レンズの中心になっていくでしょう。

--単焦点のLimitedレンズもDAレンズで揃えていくのでしょうか?

鳥越 既に発売させていただいた40mmのパンケーキ型レンズもLimitedシリーズのひとつですが、これに限らず“Limitedテイスト”のDAレンズも開発していきたいですね。ある意味、Limtedレンズのような商品は、我々のような小規模なメーカーにしか出来ないと思っています。Limitedが追っているユーザー層は、決して“マス”ではありませんから、マスをターゲットにしたメーカーはシリーズ化できないでしょう。これは我々の会社だからこそ、という特長だと捉えていますから、今後も拡充させていきます。

 実はデジタル専用レンズの開発に関しては、結果論ではありますが、我々は2つのアドバンテージを持っていると思っています。まずフランジバックが短くAPSサイズセンサーに合わせた専用レンズを設計する上で有利な事。またレンズ駆動モーターを本体内に持っていますから、パンケーキレンズなどコンパクトかつデザインの自由度で有利なレンズを作りやすいんです。

--Limitedシリーズの拡充はペンタックスらしいと言えるかもしれないですね。ユーザーの多くはズームレンズとのセット購入だと思いますが、そこから単焦点へと向かうユーザーが多いのでしょうか?

鳥越 我々のデジタル一眼レフカメラはエントリーモデルですが、3割強のユーザーはズームレンズとのセット販売ではなく、カメラボディだけを購入していかれるようです。また、デジタル一眼レフカメラを投入後、急に単焦点レンズが売れ始めました。これは面白い現象です。こうしたユーザーの期待を裏切らないシステムの充実をさせていきたいですね。


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( 本田 雅一 )
2005/02/25 16:51
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