デジカメ Watch
最新ニュース
【 2016/01/26 】
【 2016/01/25 】
【 2016/01/22 】
【 2016/01/21 】
【 2016/01/20 】

【PMA 2005】HP、A3ノビ9色フォトプリンタ「Photosmart 8750」を発表

~9色インクシステムの詳細を説明

Digital Focusに展示されたPhotosmart 8750
 PMA 2005の前日イベント「Digital Focus」で展示されていたHewlett-Packard(HP)の新フォトプリンタ。直後に正式発表され「Photosmart 8750」という名称が発表された。

 日本で既に発売されている同社製プリンタとヘッドの基本性能は同じだが、カートリッジ構成の一部が変更されている。フォトインクはフォトブルーインクに変更され、ライトシアン、ライトマゼンタ、フォトブラックの構成が、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークブルーの3色構成に変更されている。

 日本での発売が発表されていないこの製品だが、PMA 2005会場ではMAGNUM PHOTOなどプロラボ関係者から非常に高い評価を受けていた。「この機種でハイエンドコンシューマのフォト印刷市場に切り込む」と現地のマーケティング担当者が意気込むだけの画質を持った製品だ。

 同社は既に日本以外では8色インク構成のプリンタを販売しており、今回はダークブルーが追加されて9色になっただけだ。インク滴サイズも日本メーカーのものに比べれば大きい。それでも出力サンプルを見る限り、非常に魅力的な画質を実現しているPhotosmart 8750にはどのような技術的背景があるのか。PMA 2005のためにオーランドにやってきたHPのカラーサイエンス担当技術者に話を伺った。




グレーインクはカラー印刷のため“でも”ある

 グレーインクを用いた印刷は、HPが一昨年から取り組んできたものだ。日本では発売されていなかったが、Photosmartシリーズに3カートリッジ同時装着モデルを用意し、そのひとつを2階調のグレーとフォトブラックインクが収められたフォトグレーインクカートリッジにすることで高画質化を実現しようとした。

 グレーインクの目的は2つある。ひとつは当然ながらモノクロ印刷だが、もうひとつはカラー印刷のためだ。カラー印刷の画質向上を意外に感じるかもしれない。しかし、グレーを明暗のコントラスト表現に用い、色の違いをカラーインクで表現するようにすると、階調性や色のブレがグッと少なくなる。

 たとえば濃い色を作るとき、通常はCMY(もしくはCMの薄いインク)を混色して色を作る。つまり明暗階調と色相に分解すると、明暗階調部分はプロセスブラック(混色で作る黒)ならぬプロセスグレーで表現しているわけだ。混色によるグレー表現は色がブレやすく制御が非常に難しい。完全に色相トーンが一致したグレー階調を作るのは至難の業。これはつまり、混色による階調をベースにグラデーションを作る限り、色転びのない表現を行なうことが非常に難しい事を示している。

 実際にはキャリブレーションやドライバレベルの追い込みで、ほとんど判らないレベルにまで色転びを抑えることは可能だが、コンシューマ機ではなかなかグレー階調のニュートラル性を追い込むことはできない。製品ごとのバラツキももちろんあるだろう。しかし、元々がニュートラルなグレーインクで階調を作れば、この問題を大幅に軽減できるわけだ。

 また混色が多くなると色純度が下がるため、特に暗い部分での色再現域が狭くなる問題がある。グレーインクを用いるとシャドウ部の色再現の自由度が大幅に上がるというメリットもある。


2種類のフォトブラック

 ところで従来のフォトインク、グレーインクには、それぞれフォトブラックというインクがある。以前までの8色プリントでは、この2つが別々のカートリッジに収められていたが、実はこの2つのインク、特性が異なるそうだ。

 フォトカートリッジのフォトブラックに比べ、フォトグレーカートリッジの黒はより反射率が低く、シアン周辺の色度域にあるピークもないフラットな反射特性を持つという。つまりフォトグレーカートリッジの黒の方が、より黒く色が転ばないということだ。

 またフォトグレーカートリッジに使われているインクは、いずれも光源による色のシフトが非常に少ないのも特徴。蛍光灯と太陽光の違いはほとんどなく、白熱灯ではややシフトするものの、ほぼ知覚できない程度の範囲に収まっているというデータも示された。
 つまり、どんな環境で見ても、色相がぶれないモノクロらしいモノクロ写真を印刷できるわけだ。実際、フォトグレーカートリッジが利用できる国内発売済みの同社製プリンタでモノクロ写真の印刷に挑戦してみると、これまでのインクジェットプリンタにはないニュートラルなグレートーンで写真が描かれる。

 もちろん、このことはモノクロ写真に興味を持つユーザーにとっても重要だが、前述のようにニュートラルなグレーで階調を作り出す事が、色相のブレを抑えるために効果的。モノクロ印刷品質の高さは、そのままカラー写真のクオリティ向上に繋がるわけだ。


追加されたダークブルーの意味

 さて、やっとPhotosmart 8750の話になる。新機種ではダークブルーが追加され、フォトカートリッジのフォトブラックをダークブルーに置き換えた新カートリッジが使われる。 その理由は「パソコンディスプレイや銀塩写真に対して、青の再現域が最も不足しているため」だという。

 ダークブルーインクは混色で作るブルーに比べ、色純度が高いため青方向の色再現域が拡がる。濃度の高い青は人間の目では区別が付きにくく、色再現域を拡げてもあまり意味がないと言われるが、色再現域が拡がったことでブルー周辺のカラーマッピングを最適化できるメリットが大きいようだ。

 また混色ブルーでは、特に高濃度で色がシフトしやすいが、最初からダークブルーがインクとして入っていればそうした問題もない。

 CMYK以外のインクを追加すると、今度はカラーマッピングの管理が難しくなり、絵作りのバランスが崩れる懸念があるものの、HPの場合はグレーでコントラスト全体をコントロールしているため、特色追加によるバランスの崩れも最小限に抑えられる。

 もちろん、仕組みは仕組み。新しいインクシステムを使って良い絵が出るかどうかは、製品の作り込み次第ということになる。PMAで披露されたPhotosmart 8750はまだ未完成ということだが、サンプルには実力の一端が垣間見える出力も散見された。青インクの効果を強調する、やや恣意的なサンプルが多かったのは残念だが、青を強調していない写真を見では色転びの少ない安定感のある発色だった。

 一眼レフデジタルカメラユーザーの増加と共に、A3ノビクラスのフォトプリンタ市場は伸びているという。市場全体における売り上げ比は僅かだが、フォト印刷に興味を持つユーザーに対するアピール度が高いのがA3ノビフォトプリンタだ。日本での発売を期待したい。



URL
  HP(英文)
  http://www.hp.com/
  ニュースリリース(英文)
  http://www.hp.com/hpinfo/newsroom/press/2005/050218a.html


( 本田 雅一 )
2005/02/24 00:31
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.