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【インタビュー】デジタル一眼レフで巨大画像を制作する内原恭彦氏

~200万画素デジカメのワクワクした感じを

内原恭彦氏。後ろは1D MarkIIで撮影したスティッチング作品
 キヤノンによる新人写真家発掘のためのコンテスト「写真新世紀展2004」が東京 恵比寿の東京都写真美術館で開催中されている。その会場で同時に昨年の同展グランプリ受賞者である内原恭彦氏の個展「うて、うて、考えるな。」が併催されている。

 内原氏は2003年の写真新世紀グランプリのほか、2002年のエプソンカラーイメージングコンテスト大賞も受賞している。また、ニコンD100などのデジタル一眼レフカメラで1日に4GBに及ぶスナップを撮影し、その日のうちにホームページに掲載する活動でも知られている。

 今回の個展に展示されているのは、D100やキヤノン EOS-1D MarkIIで1つの被写体を数十に分割して撮影し、その画像を貼り合わせることで数億ピクセルにも及ぶ巨大な超高解像度画像を作り上げる「スティッチング」という技法で生み出された作品。ファイルを開くだけで30分かかるなど、その壮絶な制作過程は弊社刊「デジタルカメラマガジン」12月号の連載「見るまえに撮れ」で詳細に語られている。

 個展会場で内原氏に、制作の詳細やデジタルカメラとの関わりについて伺った。

 なお、内原氏の個展と写真新世紀展は12月19日まで東京都写真美術館で開催。入場無料。毎週月曜日は休館。

※ 個展会場でのインタビューを、編集部で再構成したものです。文中敬称略


被写体ありきで始めたスティッチング

内原氏の作品の一部。中央がスティッチングを始めるきっかけになったクズ鉄の山
--スティッチングを始めたのはなぜですか?

[内原] (クズ鉄の山を撮影した作品を指して)あの被写体に出会ったのが大きいですね。600万画素程度では細部を表現できないと考え、D100でクズ鉄の山を13枚にわけて撮影し、スティッチングしました。

--Photoshopで手動で画像をつないでいるそうですが、なぜスティッチング専用ソフトを使わないのですか?

[内原] スティッチングソフトは完全にはつないでくれないからです。また、1枚1枚の画像がPhotoshopのレイヤーになっているほうが、後から微調整しやすいからです。完全で使いやすいスティッチングソフトがあれば使いたいのですが。

--ファイルを開くだけで30分かかるということですが、どんなPCをお使いなのですか?

[内原] ThinkPad X30です。タイへの移住を画策していたときに、X30以外のPCは売り払ってしまいました。移住はやめましたが、ノートPCに慣れるとデスクトップPCを部屋に置きたくなくなって、それでX30を使い続けています。さすがに作業に時間がかかって苦しいので、引っ越したら新しいPCを買うつもりです。

--制作期間はどのくらいかかったのでしょう?

[内原] 作品ごとに違いますが、1週間から1カ月といったところです。プリント後に画像がつながっていない場所を見つけて微調整しますから、そういう時間を入れると2、3カ月はかかっています。

--スティッチングの撮影はどのようにしているのですか? 何か特別な機材は使いますか?

[内原] 普通の三脚にカメラを乗せて、手で動かして撮影しています。モーターでカメラの動きを制御するスティッチング用の機材も世の中にはありますが、持っていません。ホームレスの家を撮った作品では、急ぐ必要があったので手持ちで撮りました。どうしても画像が足りなくてつながらないところもあったので、この作品に付いては絵を描くように画像を足したところがあります。水準器も持っていません。水準器くらい買ったほうがいいと思いますが(笑)

--D100でも1D MarkIIでも28-200mmレンズをお使いですね。

[内原] イージーで素人くさいレンズですが、僕には使いやすいです。広角はあまり好きでないし、スティッチングはできるだけ望遠で撮りますから。値段も安い。ただ、画質には不満があります。

--撮影時の画像形式はRAWですか、JPEGですか?

[内原] 絵がきれいでシャープなので、RAWを使っています。ホワイトバランスなどを後で調整できるし、16bit画像を撮影できますから。


スライドショーで、流れとして写真を楽しむ

--内原さんといえば大量のスナップというイメージがあります。

[内原] 以前は1日に500枚撮影したこともありますが、スティッチングを始めてからは枚数が減って、最近では1枚も撮らない日さえあります。スティッチング作業のために1日10時間もPCの前にいたりするせいもありますが、スティッチングのように気合が必要な作業をすると、すぐ撮影できてしまうスナップが物足りなく思えてきて、以前ほど撮れなくなってしまいました。でも、スナップを撮らないのはスポーツ選手が基礎トレーニングをやっていないようで、危機感を覚えています。写真はスポーツに通じるところもあって、撮影しないとだめになっていきますから。

--大量のスナップ撮影といえば、写真新世紀の審査員でもある森山大道氏が思い起こされますが、影響はありますか?

[内原] '99年にデジタルカメラを買ってすぐ、1日にメモリいっぱいまで撮影するなど、大量のスナップ撮影を始めました。2003年に「≒森山大道」という映画を観るまでは、森山大道さんの名前は知っていましたが、どういうことをしている人なのかまでは知りませんでした。映画を観てから森山さんが書かれた本を読んだのですが、共感することばかりでした。

--今回、スナップはプロジェクタで投影されるムービーという展示になっています。

[内原] デジタル写真はPCに取り込んで、スライドショーとして見るのが一番好きです。スナップでは、1枚では街を撮り切れません。スライドショーには流れとして写真を見る面白さがあります。そういう面白さを表現するために、あのような展示になりました。また、プリントとは違ったものにしたいし、写真だけど、写真には収まりきらないことをやりたいと思っています。

--ムービーですが、スチルカメラで撮影していますね。ビデオカメラではだめなのでしょうか。

[内原] デジタルビデオカメラの画像の大きさは720×486ピクセルに限定されてしまいますが、デジタルスチルカメラならより高精細な画像が撮れます。デジタルカメラはシャッターを押せば1,000枚だって撮り続けることができます。デジタルカメラのスチル画像でしかできないことをやりたいと思っています。


フィルムのほうがきれいなのは先刻承知だけど

--デジタルカメラ以前から写真をやっておられたのですか?

[内原] 写真はサイバーショットF55を買ってからです。それまでもデジタルカメラは面白いと思っていましたが、PCへの接続性が悪かったり、画像が独自フォーマットだったりして、使いにくいと思っていました。

--コンパクトデジタルカメラからデジタル一眼レフに変えたのはなぜですか?

[内原] まずは画質がよかった。それに枚数が撮れ、バッテリーが持ち、起動も速い。大きいこと以外はすべてが一眼のほうがいいです。ただ、300万画素くらいのコンパクトカメラで撮った写真でも、よい写真はよい写真ですから、コンパクトデジカメによる撮影にも興味はあります。

--フィルムカメラは使わないのですか?

[内原] 森山大道さんも使っていたリコーGR1を2カ月使ったことがありますが、向いていなかったようです。焦点距離28mmは広すぎるし、僕が使っていたGR1はピントが合わないことが多かった。それに、PCで処理するのが前提ですから、スキャンに時間がかかるのも大変でした。

--デジタル以外では写真をおやりにならないのですか?

[内原] デジタルが好きです。フィルムだったら写真をやっていなかったでしょう。デジタルでは階調が出ないし、フィルムのほうがきれいなのは先刻承知です。が、デジタルのほうが相性がよいのです。今はフィルム派の写真家が多いですが、デジタルだけの写真家もこれから出てくるでしょう。

--今後について教えてください。

[内原] スティッチングに関しては、今は技術的にラフで、完璧ではありません。今後は完璧なスティッチングを目指すか、逆に、画像のつなぎ目を消さないような表現に向かうかもしれません。つなぎ目を消すのはごまかしでもあるので。

 スティッチングだけにこだわるつもりもありません。またスナップに戻るかもしれません。200万画素のサイバーショットで写真を撮っていたときの、ワクワクした感じを取り戻したい。



URL
  内原恭彦氏のページ(Son of a BIT)
  http://www.dep.sme.co.jp/uzi/
  写真新世紀
  http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/index.html
  デジタルカメラマガジン
  http://home.impress.co.jp/reference/270412.htm


( 田中 真一郎 )
2004/12/02 01:21
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