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【インタビュー】
タムロン開発者に聞くデジタル一眼専用レンズの展開


タムロンのブース
 もっともよく知られたレンズメーカーの1つであるタムロンは、Photokina 2004においてAPS-Cサイズのセンサーを採用したデジタル一眼レフカメラ向けにイメージサークルを最適化したDi IIシリーズの開発発表を行なった。


 これまで同社は、Diシリーズとしてデジタルカメラに適した光学特性を持つ製品群を提供してきた一方、焦点域に関しては35mmフォーマット向け製品から仕様を変更する事はなかった。ところが、今回のAF18-200mm F3.5-6.3 XR Di II(28~300mm相当)とSP AF11-18mm F4.5-5.6 Di II(17~28mm相当)では、焦点域だけでなくイメージサークルまでAPS-Cサイズに合わせている。

 Di IIシリーズの背景について、光学設計部門のトップを務める取締役 技術開発本部 本部長の狩野國弘氏および、メカ設計を務める映像事業本部 設計技術部 機構設計課の黒木隆幸氏に話を伺った。


AF18-200mm F3.5-6.3 XR Di II 狩野國弘氏(左)と黒木隆幸氏

外観、サイズ、重量まで28-300の使い勝手を維持

 新製品、中でもAF18-200mm Di IIはAPS-Cサイズセンサー採用のデジタル一眼レフカメラを使うユーザーにとって非常に魅力的な製品だ。ベストセラーレンズのAF28-300mm F3.5-6.3 XR Diとほぼ外観を同じくするAF18-200mm Di IIの機構部についてコメントを求めてみた。

「鏡筒や外装部など構造的にはAF28-300mm Diとほぼ同じです。サイズも同寸で外観も似ていますし、重さもスペック上は3g、AF18-200mm Di IIの方が重いのですが、ほぼ同じだと考えていいでしょう。しかし、中身のメカは外観からは想像できないほど変わっています」

―具体的にはどのような点が変化しているのか?

「AF28-300mm Diは軽量コンパクトな高倍率ズームでありながら、ズームリングの動作が非常に滑らかで画角をピタリと決められる点が大きな特徴でした。その背景にはレンズ移動を行なうカムの形状や配置など、さまざまな部分での工夫があります。AF18-200mm Di IIは外観こそ変わっていませんが、光学系は全く新設計のため、これを一からやり直さなければなりません」

―結果的にAF28-300mm Diと同等のサイズ、重量を実現できた。メカの操作性に関しても同レベルを達成できた?

「現在はまだ開発中ということもあり、ズームリングの滑らかさはやや劣ります。しかし、製品発売までには同等の操作感を実現させます。AF18-200mm Di IIはイメージサークルが小さくなったとはいえ、フランジバックは従来と変わりません。その中でさらに短焦点距離にする必要があり、レンズ群の移動距離が大きくなっています。これまでもカム配置や形状をギリギリのところで詰めていたため、それをさらに改善するのは大変な苦労でした。光学設計の面でも、そのまま素直に設計すれば間違いなくレンズが大きくなり、重量もサイズも大きくなってしまいます。しかし、結果的にはほぼ同じ外観や操作感を実現できました」

―これまで35mmフィルム用のレンズをデジタル対応にしたDiシリーズは発売していたが、焦点域は従来製品を踏襲していた。今回、イメージサークルと焦点域の両方をデジタル一眼レフカメラ向けに振ってきたが、これはいつ頃から計画してきたものなのか?

「ひとつには、自分たち自身で納得できる性能・特性の製品を作りたかったからです。あえて開発に時間をかけ、デジタルで十分に高い性能を発揮させることに注力しました。イメージサークルをAPS-Cサイズに限定した製品の開発は、今年の初めぐらいからですが、基礎研究としては昨年ぐらいから始めていました」


デジタル専用レンズに求められる高精度AFへの対応

―今回、イメージサークルまでを最適化したデジタルカメラ専用レンズを開発するにあたって、どのような点に特に配慮したのか?

「この手の高倍率ズームレンズは、どうしても倍率色収差やディストーション、ゴーストが出やすいものです。しかも、倍率色収差やゴーストは、デジタルカメラではなおさら目立ちやすい。今回は特にゴーストのシミュレーションを念入りに行っています。精度に関しても、銀塩向けに作っていた社内規格よりも厳しいものにしました。デジタルでは、よりAF制御の精度に対する要求がシビアになっていますから、その対策も行なってあります」

―ワイド化とコンパクト化を両立するため、機構部で相当な苦労があったとのことだが、光学設計の面では従来とどのような違いがあるのか?

「APS-Cサイズのセンサーを用いたカメラにより、従来よりも広角化への要求が強くなってきています。そのためにレンズの曲率、硝材、非球面度、製法などにより厳しくなっています。おそらく、ユーザーの皆さんは小さなセンサーサイズに最適化しているのだから、レンズはもっと小型軽量にならなければいけないと思ってらっしゃるでしょう。しかし、各社が35mmフィルム向けに開発したマウント規格のままでは、フランジバックが長いままになるため、広角化とコンパクト化を両立することは非常に難しいと言えます」

―キヤノンはEOS Kiss Digitalと20Dで利用できるEF-Sレンズで、数mmではあるがレンズ後端を延ばしてフランジバックを短くしている。これだけでも、かなりの違いがある?

「ほんの数mmでもフランジバックが短くなれば、レンズ全体のサイズをコンパクトにできます。しかし、それを我々レンズメーカーが活かすには、APSサイズと35mmとで別々に開発しなければなりません」


AF精度を上げなければならない理由

―先ほど、AF精度に対する要求が35mmフィルム時代よりも上がっていると話していたが、Di IIは単にAPS-Cイメージサークル版のDiなのか? それとも、従来のDiに比べてより光学的にデジタルカメラに適した製品に進化しているのか?

「はい、Diでは倍率色収差やゴーストの発生を抑制する設計になっていましたが、Di IIではさらにフォーカス精度の向上を目指して設計しています。レンズのフォーカスリングには距離と絞りごとのピントが合う範囲が刻まれていますよね。あのピントの合う範囲は、銀塩時代に決められた錯乱円の直径以下に結像することを示しています。しかし、高画素化が進んだ現在のデジタルカメラは、その錯乱円よりも画素が小さくなってしまいました。つまり、銀塩時代の基準で“ピントが合っている”とされる領域内でもフォーカス感の違いがデジタルではスグにわかってしまうのです。モニタ上で等倍表示すればいいのですから」

―Di IIでは、画素サイズの縮小とピクセル等倍鑑賞という特殊な環境にも対応できるように配慮したということか。タムロン内部でのフォーカス精度基準はどこまで厳しくしたのだろう?

「もう銀塩時代に基準としていた方法で製品を追い込んだとしても、ピクセル等倍でピントがきちんと合っている、とは見なしてもらえません。そこで我々は、銀塩時代よりもずっと小さな錯乱円を基準にした設計をDi IIで導入しています」

―フォーカス精度と言っても、レンズ単体でできることばかりではない。AFの場合、ボディ側の測距精度やカメラからレンズに送られてくる情報によって、速度や精度も変わってくるハズだ。レンズだけで解決できる問題ではないのでは?

「どんなボディに取り付けた場合でも、うまくフォーカスが合っていないと、それはレンズの精度が悪い、という話になってしまいます。詳しくは言えませんが、さまざまなベンダーのボディで、同じようにフォーカス精度を出せなければなりませんから、その点はかなり腐心しているところです」


APS-Cイメージサークル対応製品の今後

 レンズメーカー製レンズのトップを切って、シグマがAPS-Cサイズイメージサークルのレンズシリーズを発表。それに追随する形で、タムロンとトキナーがこのPhotokinaで同様の製品を発表した。

―しかもタムロン製レンズの中でももっとも人気が高いAF28-300mm Diのデジタル版とも言うべきレンズだ。今後は同様に高い人気を誇っているAF28-75mm XR DiのDi II版や得意の90mmマクロなどのデジタル専用版も期待したいところだ。具体的に計画は存在するのか?

「昨年ぐらいまでは、センサーサイズのトレンドが今後どうなっていくのか。ハッキリと見えていませんでした。将来は35mmフィルムサイズになるのか、それともAPS-Cサイズに収斂するのか? そこで35mmフィルムとAPS-Cの両方に対して共通の製品ラインナップで対応するようにしていました」

「しかし、各社からAPS-Cサイズセンサーが多数登場し、今後主流になっていくだろうと予想できる状況になってきました。しかし一方で、APS-Cに収斂するか否かが業界内で確立されたわけではありません。また、35mmフィルム向けとAPS-Cサイズ向けの2本立てで製品ラインナップを作るというのは、レンズメーカーとしてリスクが大きい。今後の状況を注意深く見ながら、今後のレンズを企画していきたいと考えています」

―それはまだ、APS-Cサイズイメージサークルに特化したDi IIに関して、さほど積極的ではないという意味なのか?

「いえ、消極的というわけではありません。しかし今後、イメージセンサーのサイズがAPS-Cに収斂するか否かは流動的な部分もあります。Di IIシリーズには、Diシリーズで人気の高い製品を市場動向に合わせて投入していく用意があります。我々の予想よりも銀塩からデジタルへの移行が進んでいるという認識は持っています。タムロンとしての方針ではなく、あくまでも個人的なコメントになりますが、APS-Cサイズで各社の製品が出そろった事で、開発のウェイトはAPS-Cサイズセンサー向けに徐々に移っていくでしょう」


タムロンのホームページ
http://www.tamron.co.jp/
ニュースリリース
http://www.tamron.co.jp/news/release/news0928.html



( 本田 雅一 )
2004/09/30 13:14
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