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鈴木ゆりあ写真展「TRAFFICAL ZONE」

写真展リアルタイムレポート

※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





 予備知識なしに、会場に並べられた写真を見ると、怪訝な思いに捉われるかもしれない。最初は写されているものが何か、皆目、見当がつかないはずだ。

 キュレーターの挨拶文で、街にある断片を撮影したものだと分かると、少しこれらのイメージとつながりが生まれるのを感じる。見続けるうちに、これら切り取られたイメージが、本来のモノとしての機能や形状から乖離した美しさを得ていることに気づくとともに、それらすべては作者のレンズを通して初めて発見されたことに驚く。

 写真展「TRAFFICAL ZONE」はGALLERY 21で開催。会期は2009年2月17日(火)~3月29日(日)。会期中無休。入場無料。開館時間は10時~20時。

 所在地は東京都港区台場2-6-1 ホテル グランパシフィック LE DAIBA 3F。問合せはKLEE INC PARIS TOKYO(TEL:03-5410-1277)。


20歳で2度目の個展

会場は天井が高く、スポットライトが作り出す光も美しい
 作者は高校を卒業後、写真作家を目指して作品制作活動を続けている。現在若干20歳(この個展の途中で21歳を迎える)の新鋭だ。彼女が写真に目覚めたのは15歳の時。中学の卒業旅行として母親と出かけたイタリアでだという。

「彫刻家ニキ・ド・サンファルの作品を配したタロット・ガーデンに行ったら、写真が撮りたくなったのです。建物を持って帰りたい、このイメージを残したいという衝動だったと思います」

 この旅から帰って、新聞でサンファルを撮った写真展が開かれることを知り、足を運んだ。写真家松本路子さんの展示で、その時から彼女が開いているワークショップに参加し始めた。

 鈴木さんは最初、普通のスナップを撮っていたが、1枚の写真から目指す作品世界が大きく変わったという。その1枚とは、彼女の部屋にあった青いパーカーの袖口を撮った写真だ。

「部屋で突然、写真が撮りたくなり、被写体を探していると、ふとその袖口が目に付いた。撮る瞬間、とても気持ちが良かったし、プリントを見ると、撮った時の高揚感が甦る1枚だった」


鈴木ゆりあさんは、会期中に21歳の誕生日を迎える 会場は中央に吹き抜けの空間がある回廊になっている

撮り方はスナップショットだ

「あの1枚で、彼女は写真だから描き出せる視点、イメージがあることに気づいたのです」と松本さんは言う。それ以来、撮影し、作品をセレクトする作業を2人で繰り返してきた。

 鈴木さんは撮りたい気持ちが起こると、街に出かける。近所を回る時は歩きだったり、自転車で出かけることもある。

「同じ道を何度も行ったり来たりすることもあるので、結構、不審者に思われているかもしれない」と鈴木さんは笑う。


使用カメラはニコンF80。撮影はすべて手持ち。F1.4やF2.4で被写界深度を浅く撮影することが多い

 その行動は、明確な目的があるわけではない。ただ感覚を鋭くしていって、被写体を探すのだ。

「ハッと思う瞬間って、撮りたいものがはっきり見えているわけではないんです。例えば自転車で走っている時など、急にあそこに何かがあると感じるのです」

 彼女の撮影方法を聞いていると、森山大道さんのそれと似通った部分を感じる。森山さんも街を歩き回り、シャッターを切っていくことで、感覚を研ぎ澄ましていく。森山さんの視点が街や人の気配に向かうのに対し、鈴木さんは街の片隅に埋もれた断片に反応する。

 多分、鈴木さんの撮影も、一種のスナップショットなのだ。


「毎日光の具合、自分の気持ち、街の状態が違うから、何度撮った場所でも飽きないし、撮りたいものが見つかる」

ニューヨークの街に刺激を受けた

 今回の展示は、2つのパーツで構成されている。中央の壁面には、2007年に行なった初個展からの作品を置き、外側の壁面にはそれ以降に撮られた作品を展示した。

「被写体となるモノそのものより、その前に立っている私と、私とそのモノを包み込む空気みたいなものを大切にしています」

 作品を制作するそのスタンスは以前から変わらないが、2つの壁面を彩る作品群には、大きな変化が見て取れるだろう。

「2007年の10月にニューヨークを旅行しました。ギャラリーを回って、刺激を受けたかったのです」

 が、実際は街が発散するざわざわしたエネルギーが最も印象的だったという。「どこかクリアな鋭さ」を感じ、それ以降、被写体の切り取り方が変わった。

 内側の壁面に並べられたモノたちは、撮影された時に至るまでの時間の経過が感じられ、どこかに人の存在も見え隠れしている。それがアメリカ旅行以降は、そういった余分な情報が削ぎ落とされ、新たなモノとして捉えなおされているようだ。


シンプルな光景の中に、意外な美しさが発見できる

「人の写真を見ていても、違う瞬間とつながることがある。そういう写真の力が好きだし、大切だと思う」

名前が見つからないイメージに囲まれて

 コンパクトなティッシュペーパー、ゴミ箱に捨てられていたビニール袋、錆びたパイプ・・・・・・。被写体となっているのは、身近に存在するものばかりなのだが、彼女が掬い取ったイメージは、これまでに見たことのない物体に見える。

 それが作品の前で、作者に何を撮ったものか説明を受けると、とたんにそのイメージが変容し、自分の中で接点を持ち始める。モノは名前を与えることで、その存在が知覚できる。それがリアルに体験できる瞬間だった。

 ただこの会場に、キャプションは一切つけられていない。来場者はこの美しいイメージの群れの中で、ここでしか味わえない不可思議な戸惑いが楽しめるはずだ。




URL
  ギャラリー21
  http://www.klee.co.jp/art/g21/index.html
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2009/02/26 19:28
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