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倉田精二「都市の造景/ENCORE ACTION 21 around MEX」

――写真展リアルタイムレポート

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倉田さんは東京芸大で油絵を学び、写真を始めたのは20代後半になってからだ
 倉田精二さんは6×7の中判カメラを手に、1970~80年代の東京をスナップしてきた。その被写体となったのは暴走族、ヤクザ、ゲイ、夜の女たちなど、アウトローと呼ばれる人たちだ。その写真展で1979年度木村伊兵衛写真賞、99年には写真集「ジャパン」で講談社出版文化賞を受賞している。

 その作者が、世紀末を迎えた頃から新たなモチーフとして見出したのが東京に張り巡らされている首都高速道路中央環状線だ。かつて被写体を求めて街を歩き回った作者は、バイク、時に自動車を駆って狙うイメージを探した。

 そこで1枚ずつのフィルムに焼き付けた光景は、昼と夜の時間に採集した『光の出来事』だ。「建物はいくら建て替えられても、それはシンボルでしかない。街並み全体を変えるのは道なんだ」と作者はいう。写真だけが捉えられる都市の断片を、作者は抉り出している。

 倉田精二「都市の造景」はプンクトゥムで開催。会期は2009年1月23日(金)~2月28日(土)。日曜、月曜、祝日休館。入場無料。開館時間は13時~19時。所在地は東京都中央区京橋1-6-6 ハラダビル2F。問合せはTel.03-5250-5001。

 会期中、ギャラリーにてトークイベントを開催予定。決定次第、ギャラリーのWebサイトに掲載。


「写真は数の問題が宿命としてある」と倉田さんはいう。ギャラリー側は展示点数を10点ほどで提案してきたが、話し合いの末に30数点に増やしている


街を変えるのは道だ

「東京の変貌ぶりが気になりだしたんだ」と倉田さんはいう。生まれは日本橋で、ずっと東京に暮らしてきた。

「齢を重ねると、どこかに回帰したい気持ちが生まれるのかねえ。多くの人にとっては自然だったりするのだろうけど、僕にとっては東京だった」

 バイクで街を走っていた時、倉田さんはこの光景を見つけた。街の光景を大きく変えるのは、人の流れを作る道であり、その最たるものが東京都区部を新たに結ぶ首都高速道路だ。

「道と道とを新しくつなげる時は、ものすごい祝祭みたいなものだよ。夜間に多くの人が集まるなか、人工光で照らされた巨大なコンクリートの塊が、吊るし上げられ、設置されるんだ」

 このシリーズは、昨年4月に「都市の造景」としてエプサイトでカラー作品を発表し、今回はモノクローム作品を初披露する。


工事現場には撮影とは別に、時々行って顔をつないでおくという

昼と夜の光を長時間露光で捉える

 中央環状線のある光景を倉田さんは「光の出来事」として捉えた。そして、自然光のもとで見える昼の景色と、人工光が照らされる夜の現象を1枚の写真に収めることにしたのだ。
「スナップの手法じゃなくて、スタジオでポートレートを撮る時と一緒。写真が持つ情報量を生かし、時間を選び、さまざまな光を記録していった」

 日中にカメラを設置し、昼の光景を撮影。一度、シャッターを閉じて、夜になるのを待ち、再度、露光する。太陽光に照らされた道路や建物に、車のヘッドライトや月や星の軌跡が写し込まれるのだ。
 露光時間はその時々で異なり、数十分から数時間まで開きがある。ただカメラを一度設置したら、二度の撮影を行なうため、長時間、そこから離れられない。最長で同じ場所に12時間いたことがあるという。

「幹線道路で撮ることが多いから、大型車が通ると地面が振動する。それでブレてしまい、捨てたフィルムはかなりあるよ」

 撮影には長時間、カメラを設置できる場所を選びたいが、いつもいい場所が得られるわけではない。歩道橋の上はしばしば使うロケーションだが、交通の妨げになるなどで、警察官に注意されることもある。

「ファインダーを覗いて集中している時、肩を叩かれたことがあって、その時は驚いて飛び上がった。テロの警備による職質だったけど、そのまま撮影できた。けど、これから下の道を皇族が通るという日には、否応なく退去させられたね」


カメラは4×5をメインに、6×12のパノラマカメラと、6×7、6×9を使用

同じシーンをカラーとモノクロで撮ることもあるが、基本的には光の条件で使い分けているそうだ

「僕の中でストリートスナップは終了」

 撮影を行なった場所は「数え切れないほど」だという。バイクか四輪に機材を積み込み、東京を走る。歩くのと車で移動するのでは、街の見え方が違う。

 1970年代、スナップショットを撮り始めた頃も、最初は街を歩き回った。そのうち人の流れが見え、シャッターチャンスに出会いやすい曜日もわかってくる。

「いつもカメラを持って街を流していると、そのうち撮ってくれって頼まれることも出てきてね。プリントを買ってくれるから、それでフィルム代くらいにはなったよ」

 今回の撮影では、首都高速道路株式会社の協力も得ているが、一番重要なのは工事現場で働く人からの情報だという。

「大がかりな工事だから、日々、そんなに変化があるわけじゃない。実際の作業工程の情報を現場でもらう。それがわからない間は、闇雲に通っていたけどね」

 ストリートスナップについて、倉田さんは「もうゲームオーバーだよ」と語る。それは肖像権などがうるさくなって撮りづらくなったということではなく、撮るべき被写体がなくなったからだという。

「ある時から、自分の密着(プリント)を見ていて、写真が面白くなくなってきた。それまで隠されていたものが、一つずつ表に出てきてしまったからだと思う」

 倉田さんにとって、シャッターを切る行為は、刺激的な光景への素直な反応であり、その感性が現代においてこのモチーフを発見した。作者の道をめぐる旅は、しばらく続きそうだ。







URL
  プンクトゥム・フォトグラフィックス・トウキョウ
  http://www.punctum.jp/
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2009/01/29 13:55
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