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(c) Hideyuki Motegi
撮影にはポラロイドのモノクロフィルムであるタイプ55を使用。プリントの四隅に現れている現像ムラも、今回の作品を構成する重要な要素の一つだ
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茂手木秀行さんは1986年にマガジンハウスに入社。クロワッサン、ターザン、ブルータスの編集部を経て、現在、ポパイ編集部に所属
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自分の頭の中にあるイメージを形にして、人に伝える。それが茂手木さんの作品制作の基本スタイルだ。本業はマガジンハウスのスタッフフォトグラファー。忙しい仕事の合間をぬって、プライベートでも常に自らの作品を作り続けている。
「フォトグラファーは写真を撮ることで生きている。僕にとって、生きることは写真を撮ることなんですよ」と彼はいう。一つの作品はまた別の作品のアイデアを生み、いつもいくつかのプランを平行して手がけているという。
今回の作品は、ある晩、彼自身が夢に見た幻想の風景に刺激されたもの。国内の海辺をモチーフに、写真でしか実現できないイメージが並ぶ。実に銀塩ライクなテイストだが、これらはデジタル処理により可能になった表現世界なのだ。
茂手木秀行写真展「海に名前をつけるとき」はコニカミノルタプラザで開催。会期は2009年1月14日(水)~23日(金)。会期中無休、入場無料。開館時間は10時半~19時(最終日は15時まで)。ギャラリーの所在地は東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル4F。問合せはTel.03-3225-5001。
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この作品は、とりわけ照明で見え方が変わる
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展示は静けさや動きなど、共通したイメージで壁面をまとめながら、入口から出口までの流れを考えている
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フレームは使わず、1枚のペーパーを裏打ちして展示している
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■ ポラロイドタイプ55で撮影
作品の着想は、ふとした時に思いつくという。きっかけは何らかの映像だったり、言葉が浮かぶこともある。今回の作品は夢で見たイメージだ。静寂な海のような場所で、その光景を写真にするため、選んだ機材は4×5カメラと、モノクロのインスタントフィルムであるポラロイドタイプ55だ。
茂手木さんは1990年頃からデジタル処理を手がけ始め、2000年からは撮影機材もすべてデジタルに変えている。それがポラロイドを使ったのは20分の長時間露光で撮影したかったことと、フイルムならではの偶然性が欲しかったからだ。
「画面の端にできる現像ムラによる枠がほしかったこともあります。これは1枚1枚で形が違って現れるところが面白い」
長時間露光は、写真を始めた学生時代からテーマにしていたもので、「撮影データは経験上、身についています。学生時代に作ったデータシートも保管してありますけどね。この夢のイメージを撮ろうと思った時には、20分の撮影で行なうと決めていました」という。
■ 1日4カットが限界
撮影場所の選定はGoogle Earthで行なった。
「堤防の形や、なだらかなカーブを描く海岸線をポイントに選ぶほか、光の差し込む方向や撮影場所が確保できるかを調べました。ただどこもまったく知らない場所ではありません。かつてクロワッサン編集部で温泉特集を手がけた時などに、日本全国はまわっているので、どんな風景があるか、おぼろげな記憶はあります」
効率よく撮影できるようにコースを組むが、1日4カットが限度だったという。タイプ55フィルムは撮影後、現場でネガを定着、水洗、乾燥しなければならない。ちゃんと撮れているか確認して、次の撮影地に向かうのだ。
「雲のトーンがほしいので、曇りの日を選んで撮影していました。ただ20分撮影していると、途中で天気が変わってしまうことがあるんですよね」
作品展での発表を想定しているので、一つのシリーズで50~100点の作品を目標に制作する。完成までにかかる日数は大概、3年程度だそうだ。
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(c) Hideyuki Motegi
ロケ地の選定はGoogle Earthで行ない、ほとんどイメージ通りだったという。堤防を波が洗うかどうかの確信まではなかったが、波が高くなる冬を選んで訪れたという
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■ D3の登場でデジカメでの長時間露光も可能に
撮影したネガをスキャンして、画像処理を行なった。ポラロイドは気温によって現像の進行が異なるため、粒子にムラが出てしまうのだ。
「夏は粒子が細かくなり、冬は粒子に偏りが出てしまう。それを統一するため、パソコン上で粒状を作り直しています」
長時間露光によるこの撮影もニコンD3が出てからは、デジタルカメラでも可能になったという。ノイズの発生が少なく、後処理でカバーできるし、絞り込んだ撮影をしているので、デジタルならではの極端なシャープさも出ない。今回はフィルムによる撮影のみを使用したが、今後はまたひと味違った長時間露光によるイメージが見られるかもしれない。
出力に使ったのはコニカミノルタのデジタル印刷機「デジタルコンセンサス」だ。これは銀塩ペーパーにレーザー露光させ、デジタルプルーフを出力する機械だが、ほかのデジタルプリンターに比べて、ルックアップテーブルが細かく作成でき、出力の安定性が高いという。ダイナミックレンジが狭い分、黒の締まりに欠けるが、ペーパーの背面に貼るパネルを黒色にして補強している。
「ペーパーの厚みが薄いので、バックシートの色で見え方が変わるんですよ」
この出力サービスは業務用途向けなので、一般の窓口は整備されていないが、1枚あたりの料金は1万円程度とほかのデジタル銀塩プリントに比べて若干割安なようだ。
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(c) Hideyuki Motegi
この座礁したロシアの石油タンカーは、移動中に偶然出合った光景だった(筆者)
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■ 基になるのは感性
現在、茂手木さんはポパイ編集部で、男性ファッションを中心に撮影している。時には写真ページで40ページを越す記事もあり、「ラフデザインがないことも多く、そうなると作品制作と変わらない仕事になります」という。
仕事の中でも育てられているし、自分の作品を作ることでも、自らのものの見方を広げ、自分を表現する力を養うことになっていると茂手木さんは話す。
「経済的な見返りはないけど、充足感は何物にも代えがたい。それによい作品を持っていれば、よい仕事が回ってくるのも事実だよ」
いつも持ち歩く手帳には、思いついたネタがいくつも書き込まれている。実現するのは、そのうちのいくつかだ。
「海に名前をつけるとき」の対になるシリーズとして、空をモチーフにした「星に名前をつけるとき」をすでに撮り始めている。また『ディビジョン・オブ・ザ・スカイ』のタイトルでは、世界中の電線を撮りためているという。そうした作品の基になるのは、論理性ではなく、感覚的なもの。
「だから最近、友人以外の写真家の作品は見ないようにしています。作品の着想に影響を受け、知らず知らず模倣してしまいたくないですからね」
茂手木さんは写真表現に対して貪欲かつストイックなのだ。デジタル表現を切り開くフォトグラファーとして注目しておきたい一人だ。
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(c) Hideyuki Motegi
これも現地で発見した素敵なモチーフとの出合い
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■ URL
コニカミノルタプラザ
http://konicaminolta.jp/plaza/schedule/2009january/gallery_a_090114.html
写真展関連記事バックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/
市井康延 (いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。 |
2009/01/16 16:16
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