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【インタビュー】キヤノン、デジタル一眼レフ開発の最前線

~カメラ開発センター所長&副所長に聞く

カメラ開発センターの村野 誠所長(左)と大原 経昌副所長
 2004年にEOS-1D Mark II、EOS 20D、EOS-1Ds Mark IIとデジタル一眼レフのラインナップを一新したキヤノン。同社でデジタル一眼レフの開発を統括する、カメラ開発センターの村野誠 所長と大原経昌 副所長に、山田久美夫氏がインタビューした。本稿は、2004年11月24日に行なわれた山田久美夫氏によるインタビューを、編集部が再構成したものである。(文中敬称略)


3つの柱は変わらない

--20Dと1Ds Mark IIの発売おめでとうございます。
各社デジタル一眼が出てきましたが、フルラインで製品を用意しているのはニコンとキヤノンだけで、シェアも2社で9割以上を占めています。このままでは、残りの10%弱のシェアを、数社で分けることになりそうです。

村野 各社からいい製品が出てきていますから、これからは違うでしょう。ユーザーの選択肢が広がったのはいいことだと思います。

--ラインナップとしてエントリーのKiss Digitalがあって、20Dがあって1D系が2つある。ユーザーサイドでは、20Dと1D系の間が開きすぎているということと、Kiss Digital Lightの噂も出ています。

村野 基本的にはプロ向け、ハイアマ向け、一般向けの3系統で行くのは変わりません。

大原 銀塩カメラでもバリエーションはありましたが、実際には柱は3系統でしたし。

--それぞれの機種の値段が、銀塩よりも倍になっているので、中と上が離れて見えるんですね。

大原 デジタル一眼レフの価格が高いと思われる部分はあるのでしょうが、「現状がそうだ」ということです。デジタル一眼は発展途上の製品です。今の価格が、最終的なプライスポイントではありません。もっとこなれてくることもあるでしょう。

--ハイエンド系は価格が先に決まっているんでしょうか? それとも結果としてあの値段になったのでしょうか?

大原 どのランクでも「この機種なら値段はこのへんだろう」というのはあります。一方で「これだけのいい物を作ろうとすれば、これだけの値段になる」というところもあって、一義的には言えません。現状で言えば、これだけのデジタル一眼レフを作ろうとするとこの価格になる、という傾向はあります。

--ところでダストリダクションはどうされますか? デジタル一眼からPictBridgeでダイレクトプリントしたり、じかにデータを入稿するというケースもこれからはあると思いますが、その際にカメラマン側の不備でデータにゴミが入っていた、というのは問題になるでしょう。

村野 技術的ないろいろな検討はしています。

大原 現行機種でもほこりを目立たせない工夫をしています。センサーの前にはローパスフィルターがありますが、これらの距離が近いとゴミが目立ちます。ですから、ローパスフィルターはセンサーよりもすこしレンズよりに置くようにしています。

 上級ユーザーの方のほうがよりゴミに対してセンシティブで、メンテナンスも自分でされますが、初心者はそうではありません。だから、1D系よりも20DやKiss Digitalのほうが、ローパスフィルターがレンズよりにおかれています。もちろん、ローパスフィルターとセンサーの間にはゴミが入らないような構造をとっています。


EOS-1D Mark II EOS-1Ds Mark II EOS 20D

キヤノンのカメラは冷たい優等生?

--ラインナップにある機種間の、色の差が追い込めなくなってきたように思います。Photoshopなどで色を揃える方法もありますが、純正ソフトではやりにくい。EOS Dシリーズのサブは、やはり同じモデルにせざるをえません。1D系を2台揃えるのはつらいので、20Dあたりをサブにしたいわけです。そうなるとメインとサブで色を揃えるのが大変なのです。

村野 機種間では仕上げは違いますが、色は共通にしていると認識しています。すくなくとも以前よりは揃っているはずですし、今の世代は揃えるようにしています。

大原 1Dと20Dではセンサーも違うし、1Dのほうが後処理に対して冗長にしてあるという違いはあるでしょう。

--EOSシリーズは一眼レフを知っているのを前提とした操作性になっているように見えます。Kiss Digitalあたりはその前提をとったほうがいいように思えるのですが。

大原 Kiss Digitalに関してはある程度は盛り込んだつもりですが、GUIに説明をつけるなど、今後も考えていく余地はありますね。

村野 ユーザビリティテストはやっていますが、追い込みが足りないかもしれません。

大原 UIに関しては改良の余地があるとこちらでも思っています。お客様の撮りたいという欲求に、ストレートに応えられるようにしていかなければなりません。

村野 銀塩で初心者向けのEOSを作ったことがあるのですが、あまり受け入れられませんでした。だから、ハイエンド向けになってしまうというところもあると思います。

--キヤノンのカメラは優等生で顔が見えない。それは安心感にもつながるが、ちょっと真面目過ぎないだろうか。「好きだけど愛せない」カメラだ。

村野 それがうちのカメラの特徴かもしれません。カメラの守るべきものは守る。それがあってこその発展ですから。


画期的な20Dの秒間5コマ

--20Dの開発はいつごろからですか?

大原 デバイス、メカ、電気などの要素ごとに作業のステップや期間が違うので、いつからだったとは明確にならないのです。ずうっとやっていた、ともいえます(笑)

村野 20Dでの改良点は多岐にわたります。D30のころから延々と考え続けてきた技術が結実したものといえます。

--20Dには余裕がみえますね。デジタルやメカのバランスがよくとれています。

大原 いえ、20Dにはすごく苦労しました。D30から始まったミドルクラスでは、デジタル系が進化しましたから、カメラ機能ももう一段よくしたかったのです。そのためのいろいろな要素技術も開発しました。

 8Mピクセル秒間5コマで撮影するのは、このクラスでは大変で、メカ的にはまったく新規です。ひとつひとつの目標も高かったので、本当に実現できるのかなと思うこともありました。

 個人的には、今回はストロボを高くポップアップできるようにするのが難しかったですね。EF-S17-85mm F4-5.6 IS USMを付けていても使える内蔵ストロボにしたかったのです。これだけ大きな角度で動くので、閉めたときにボディとの間に隙間があかないようにするのが大変でした。そのために新しい機構を採用して、隙間があかないようにしました。



--質感にも気をつけられたということですね。

大原 質感と言う点では、塗装も、マグネシウム構造も大きくは変わっていません。しかし、マグネシウムを生かすために各部のスキマや段差をなくすのに気を使いました。人間の目はそうした部分にシビアなので。

--秒間5コマを実現するにあたっての苦労は?

大原 このクラスで、AFとAEをやりながら秒間5コマを実現した機種は、銀塩のEOSでもありませんでした。秒間5コマとうたっていても、AFに追従すると5コマではなくなっていました。AFに追従しても5コマであるようにすることは、秒間3コマを5コマに引き上げるのと同じくらいの努力が必要でした。

 AFとAEのためには、ミラーが下がっている時間がどうしても必要になります。ミラーのバウンドは、ファインダーのみやすさだけでなく、AFにも悪影響を及ぼしてしまいます。ですから、ミラーのバウンドを防ぐための工夫をしました。

 クリックリターン機構は、原理的にはミラーを上げる機構と下げる機構が分かれています。最近は上げる機構しかないものもありますが、20Dには上げる機構も下げる機構も入れたので、ミラー動作のキレがよくなりました。


--ミラーのバウンド以外ではなにかありましたか?

村野 一眼レフカメラの開発では、限られたバッテリーのエネルギーと、限られた時間をどのように配分するかについて、たいへん多くの細かい工夫がされています。

大原 バッテリーでレンズのモーター、撮像素子、ミラーなどを駆動しなければなりませんが、すべてが同時に起こるとバッテリーの電力ではまかないきれませんし、今の速度は出せません。これらを与えられた時間内にどれだけ効率的に動作させせようとすると、様々な技術が必要になります。

--ミラーボックスとシャッターを新規に作っていますが、ボディ全体ではもうすこし小さくならなかったのでしょうか。

大原 理屈の上では小さくする余地はありますが、左右のバランスなどからホールド性のことを考えて大きさを決めています。

--EF-S17-85mm F4-5.6 IS USMは、手ブレ補正が付いていますが、けっこう暗い。手ブレ補正なしでズーム全域F2.8やF3.5でも成り立つのではないでしょうか?

村野 そうするとレンズとしては口径が大きくなってしまうので。

--APS-C用の単焦点レンズがありませんね。

大原 いまのところは単焦点レンズに代表される画質的なものは、EFレンズのLレンズをお使いくださいということです。EF-SレンズはEFレンズを置き換えるものではないのです。


1.3倍と等倍の2本立ては続く

--1Ds Mark IIと1D Mark IIとではGUIが微妙に違いますね。

大原 GUIを細部まで一致させる意識は弱かったかもしれません。直接的に、撮影するときに操作する部分は一致させるようにしています。

--1D系は大きすぎ、重すぎるという意見もあります。

大原 大きくて重いという問題は認識しています。この重さが妥当だと主張するつもりはありません。大きさについては、ホールディング性との兼ね合いもあるので、難しいところもありますが。


--D2Xのような、画面中央部だけを使った高速連写モードは検討されましたか? 高画素と高速連写を両立する方法として有効だと思うのですが。

大原 1Ds Mark IIは35mm判フルサイズのカメラとして開発したので、高速連写向けの製品とは違うものとして作られています。

--1D系はCFとSDのスロットが装備されていますが、CFとSDメモリーカードの同時書き込みはできないのですか? あるいはSDとCFで画像をコピーできると、CFに撮影して、とくに大事なものだけカメラ内でSDにバックアップする、という使い方ができてよいのですが。

大原 システム的に難しかったのです。スロットが2つになったとたんに、システムが複雑になりました。もちろん要望はあるので、改良は続けます。

--1D MarkIIの1.3倍センサーはこれからも生き残っていくのでしょうか。

村野 当面はこのままです。現在の最適な選択肢が1.3倍と等倍のセンサーなのです。

大原 将来、技術的に進化すればどうなるかわかりませんが、現在ではスポーツ関係などで1.3倍が支持されています。また、1.3倍サイズはAPS-Cサイズよりひとまわり大きいぶんだけ、同じテクノロジーで作れば性能はよくなります。

--1Ds Mark IIの画素数16Mはどんな根拠で決まったのですか?

村野 現時点で狙った性能を出せるのが、この大きさだったということです。

--20Dのセンサーを単純に35mm判に広げれば、2,000万画素になる、と考えてしまいがちなのですが。

村野 センサーだけ考えればそうなのですが、処理をするPCの能力なども考えて、総合的に決めています。

--今日はありがとうございました。



( 山田久美夫 )
2005/01/18 01:32
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