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【インタビュー】スクエアモードはブログ文化が生んだ

~リコー Caplio GX100開発陣に聞く

Caplio GX100
 ハイエンドデジカメとしては異例のヒット作となったGR DIGITALに続いて、リコーがハイエンドデジカメ市場に投入したCaplio GX100。24mmからの広角ズーム、着脱式EVF、1:1の正方形フォーマットなどの興味深い装備はどのように生まれたのだろうか。

 インタビューに応じていただいたのは、同社パーソナルマルチメディアカンパニー ICS事業部の樋口博之氏(企画)、畑大介氏(プロダクトマネージャー)、篠原純一氏(メカ担当)、牧隆史氏(ソフト担当)、中平寿昭氏(エレキ担当)、そしてテクノロジーセンターの小野信昭氏(レンズ担当)の6名だ。


なぜCaplioなのか

左からCaplio GX8、GX100、GR DIGITAL
──まず、Caplio GX100(以下GX100)の位置づけを教えてください。

樋口 弊社では2004年にCaplio GX、2005年にCaplio GX8を発売しました。GXシリーズは28mm(35mm判換算、焦点距離は以下同様)からの広角ズームとマニュアル撮影機能、ホットシューやコンバージョンレンズに対応した拡張性を備え、主にハイアマチュアのお客様向けに販売してきました。

 続いて2005年にフラッグシップ機のGR DIGITAL(以下 GRD)を発売しましたが、これはGXシリーズとはコンセプトが異なる製品でした。そこでGX8の後継機を出して欲しいという強い要望をいただいていましたので、GX100を発売したのです。

──GX100はGRDと外観も操作性も似たところがあります。この2機種の違いはどこにあるのでしょう。

樋口 GRDは高画質と携帯性にこだわったカメラです。GX100は、携帯性よりもズームレンズ搭載や、マニュアル撮影の操作性など、表現力にこだわったカメラです。発表会で湯浅(パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデントの湯浅一弘氏)が申し上げたとおり、GRは切れ味鋭いナイフ、GXはいろんな引き出しを持った多機能ナイフと言えます。

 また、GRDは普段からポケットに入れておく、撮影の意図がない日常でも身に付けていて、いざというときに即座にシャッターを切る、ストリートスナップ向けのカメラ。GX100は、撮影する意図を持って外出するときに携帯し、じっくり構えて撮るカメラとも言えます。


左からGX8、GX100、GRD
──先ほどGRDをフラッグシップ機とおっしゃいましたが、GX100はGRDよりも画素数が多く、ズームレンズを搭載し、ボディも大きくなっています。一般的な見方では、GX100のほうがGRDよりも上位機種のように思えます。

樋口 GXシリーズは、「Caplio」というブランドのハイエンドモデルです。その上位機として、最高水準のレンズにこだわったGRDがあります。性能の高いものが上位にあるべきとの考えから、フラッグシップはGRDとしています。


意図してGRDに似せたわけではない

グリップ形状を検討するためのモックアップ
──GX100には、GRDのイメージが非常に濃い外観を与えられていますが、これは意図したものなのでしょうか。

樋口 あえてGRDに似せたわけではありません。ブラックのボディ色は、GXシリーズのユーザー層の志向にあわせたものです。

 グリップ形状がGRDに似ていますが、先ほども申し上げたとおりGRDは携帯性を重視してボディサイズを決めていますが、GX100ではボディサイズよりも握りやすさを重視してデザインしました。しかし、さまざまなグリップ形状を検討するうちに、使いやすさの点でGRDライクなグリップになっていったのです。

 操作系については、カメラ間で操作系が異なるのはよくないので、統一しました。

──GRDでは、ファームウェアのアップデートによって機能拡張が行なわれています。GX100でも同じような機能拡張が行なわれるのでしょうか。

 GRDは長く使っていただくフラッグシップ機として、ファームウェアによる機能拡張で機能の陳腐化を防いでいます。GX100はコンシューマー機のCaplioシリーズがルーツなので、ファームウェアによる機能拡張の計画は今のところありません。

──GRDのようにGX100でも、ダイヤルの回転方向を選べるようにしてほしいという要望があるようです。

 GRDのその機能は、GRD発売前後のデジタル一眼レフと操作方法と合わせて欲しいという要望に対応したものです。しかしその後、市場のデジタル一眼レフのダイヤルの回転方向は、だいたい右回しで絞りの数値が大きくなるように揃ってきました。なのでGX100では、回転方向を右回しに設定してあります。


──ボディ周りでGRDよりも優れているところ、改良されたところはあるのでしょうか。

 GX100ではFn(ファンクション)ボタンを新設しました。AF/MF切替やAEロックを割り当てることを想定しています。これら以外にADJ.レバーで割り当てできる機能も設定可能ですが、AF/MF切替とAEロックはFnボタンのみの機能です。Fnボタンにこれらの機能を割り当てると、Fnボタンを押すだけでAF/MFがトグルで切替わったり、AEロックができるようになるので、よりすばやく操作できます。

 さらに、FnにAEロックを割り当てておき、マニュアル露出時にFnボタンを押すと、その時点での絞り値に固定して、シャッタースピードを調節して適性露光になる機能も設けました。

篠原 細かいところですが、GX100では背面スイッチの突き出し幅をGRDより増やして、EVFを覗きながら手探りで操作できるようにしてあります。見た目はGRDのほうが上品ですが、操作感はGX100のほうが軽快に仕上がっています。

 それからGRDで改善要望が寄せられていた、電池室のツメを新設しました。これで、蓋を開けただけで電池が落ちることはなくなりました。

 あとは、リングキャップをはずす方法を変更しました。GX100ではリングキャップ取外しボタンを押すようにして、一眼レフカメラのレンズ交換と同じような操作感にしました。

樋口 GX100では、ストロボが手動ポップアップできるようになっています。GRDでは、意図せずにストロボボタンをさわって、ポップアップさせてしまうことがありましたが、GX100ではこれを防ぐようにしたのです。


新設されたFnスイッチ
背面スイッチ

GX100(左)とGRDのストロボ
──ストロボ位置とポップアップ方法がGRDとは異なりますね。

 ズームレンズを搭載して鏡筒が大きくなったので、GRDと同じ位置にストロボを置くとケラレるようになりました。なので、ストロボの位置をより前に出し、高くする必要があったのですが、そのためにはここに置くしかありませんでした。

 それから、デザインを一眼レフカメラっぽくまとめたかったのもあります。このカメラのデザインの大きな決定要因は、ストロボの位置ですね。

篠原 GX100の開発では、ストロボとEVFをどうまとめるかが、大きな課題でした。


ストロボの内蔵方法を検討するためのモックアップ 閉じ時に前側を塞がないタイプのポップアップ方式フラッシュも、デザイン段階では検討されていた

外付けにするならいいEVFを

──GX100の大きな話題のひとつは、着脱式EVFです。なぜこのようなEVFが生まれたのでしょうか。

樋口 もともとは、光学ファインダーをボディに内蔵しようというところから始まりました。GRDは外部ファインダーの装着率が40~50%と高かったですし、GXシリーズには光学ファインダーが内蔵されています。

 しかし、24mmからの3倍ズームをカバーするような光学ファインダーは大きくなりすぎて、内蔵は現実的ではありませんでした。かといって、GRDのような外付けファインダーも、ズームレンズなので使いにくい。それならEVFにしようということになりました。見えという点では光学ファインダーのほうが優れていますが、視野率70%の光学ファインダーよりは、100%のEVFを選んだわけです。また、EVFには、パララックス(視差)が無い、ホワイトバランスなどの各種情報も同時に表示できる、ワイコンを付けてもケラレないというメリットもあります。

 着脱式にしたのは、EVFでも内蔵するとやはりボディが大きくなりすぎるからです。外付けなら、使わないときにははずしてボディを小さくできます。


着脱式EVFのモックアップ
内蔵EVFのデザイン画とモックアップ。レンジファインダーカメラのようスタイルだった

内蔵EVFを検討したモックアップのバリエーション

チルトするEVF
──EVFのチルト機構はなぜ装備されたのでしょう。

樋口 ウェストレベルというと言いすぎですが、ローアングル撮影がしやすいようにと考慮した結果です。アスペクト比1:1のスクエアフォーマットがあるので、上から覗けたら面白いだろうという考えもありました。二眼レフのように、EVFの画像を逆像にしてほしいという要望まで出てきました(笑)

──EVFの仕様を教えてください。

篠原 大きさは0.2型で、画素数は20.1万相当です。この大きさの中で、もっとも画素数が大きく、画質のよいものを選びました。

 それからEVFの接眼光学系は、レンズ1枚の構成で済まされてしまうことも多いのですが、GX100では4枚構成にしています。内訳は、非球面レンズ1枚を含むプラスチックレンズ2枚、ガラスレンズ2枚です。

 外付けしたことで、ある程度スペースの自由度ができたので、視度補正機能も充実させました。仕様表では-1±4Dptとなっていますが、実際にはそれ以上の視度範囲をカバーしており、今まで「視度補正があっても自分には合わない」と諦めかけていた人からも喜ばれています。

中平 EVFのフレームレートは60fpsで、液晶モニターより高くなっています。光学ファインダーと見えが比較されるわけですから、より滑らかな表示になるようにしました。

──EVFの接眼レンズになぜそこまでこだわったのでしょう。

小野 4枚ものレンズを使ったのは、倍率とアイポイントを稼ぐためです。瞳径を確保することで、目が光軸からずれても視野がケラれないようにしました。また、接眼したときにトンネルの中をのぞいたような印象がないように、見かけの視野角が大きくなるようにも配慮しています。

 外付けにするならいいものを、とEVFには力を入れています。

──オプションの専用ケースは、EVFをはずしても、付けたままでも入れられるようになっていますね。

 GRDで、外付けファインダーをつけたまま入れられるケースを出してほしいという要望がありましたので、GX100のケースで実現させました。カメラ本体のみ/EVFつけたままの両方で使えるようにするために、ケースのEVF部分は、うまくまとめるのに苦労して、5回くらい試作しました。


24mmでも自然な描写を

──レンズは、コンパクトデジカメでは珍しい24mmからの広角ズームです。24mmともなるとレンズ設計が大変だと思いますが、なぜ21mmでも28mmでもなく、24mmという画角になったのでしょう。

樋口 GXシリーズでは28mmからの広角ズームを他社に先駆けて採用してきました。しかし、ワイコンを付けずにもっと広角を撮影したい、という要望が寄せられました。プロカメラマンの皆さんには、24mmレンズでの撮影はアマチュアにはむずかしい、といわれましたが、GXシリーズのお客様にはあえてチャレンジしたいという方が多かったのです。また24mmなら、カメラの使い方としては21mmほど違和感がないという理由もあります。

小野 GX100は、GX8と同等以上のディストーションに抑えていますが、やはり画角が広いのできびしかったです。しかし、歪みを抑えるレベルは以前のGX8よりも上がっています。

 それから、最近ではPCで等倍で画像をご覧になる方も多く、そうした鑑賞形態で目立つようになったパープルフリンジ、色にじみを気にされるユーザーが増えました。なので、倍率色収差が小さくなるように設計しています。

 レンズ性能を追求するとレンズは大きくなりますが、あまり大きいとGX100のコンセプトからはずれてしまいます。これについてはメカ設計との綿密なやりとりで小型化しました。

──最近では、レンズで生まれるディストーションはしかたないものとして、画像処理で補正するカメラもありますが、GX100ではそのような方法は考えられなかったのでしょうか。

樋口 デジタルによる補正は考えませんでした。画像処理で補正すると、画角が変わったり、不自然な絵になることもあります。GX100のようなハイエンドカメラの場合は、PCなどでユーザーの意図で補正していただくほうがいいと考えました。

──24mmでも開放絞りはF2.5を実現しています。ここまでがんばらなくても、F2.8くらいでも十分なように思えるのですが……

小野 開放F2.5を死守するように、と開発しました。GXシリーズの開放がF2.5だったので、24mmにして暗くなったと言われるのがいやでしたから(笑)。GX100にはステップズームという、画角を28mm、35mmなどに固定しておく機能がありますが、広角端をF2.5にしたことで、28mmでもF2.7の明るさを確保できました。


ワイコンを装着したGX100
──ワイコン使用時は19mmになりますが、これはどうして19mmなのでしょう。

 まず、20mmは切りたかった。最初は18mmを検討しましたが、大きく重くなりすぎ、装着時のバランスが悪くなるので19mmとしました。

 ワイコン装着時はパッシブAFセンサーが一部ケラれます。なので、ケラれる部分を除外して動作させるようなこともしています。

──そういえば、Caplio Rシリーズでは廃止されたパッシブAFセンサーが、GX100では装備されていますね。

 パッシブAFセンサーは、カメラの電源を入れてから切るまで、ずっと測距し続けますから、レスポンスが向上します。「一気押し」と呼んでいますが、半押しせずにAFして撮影する機能を、GX100にもどうしても付けたかったのです。


ブログ向きの1:1フォーマット

スクエアモードでの撮影
──GX100はリコー初の1,000万画素機でもあります。なぜ1,000万画素だったのでしょう。

中平 広角になれば高い周波数成分の被写体が増えるので、画素数を上げるのは必然といえます。レンズの広角端が28mmから24mmになるということを考えると、800万画素が1,000万画素になってもまだ足りないくらいです。

 ただ、高画素化で画素ピッチが小さくなったり、手ブレ補正機構が入ることで配線長が長くなったりと、アナログ的には条件はきびしくなる一方でした。

 そのため、新しい画像処理エンジンを採用し、結果的にはGX8よりいいのはもちろんのこと、GRDよりもノイズや解像感はややいいくらいになりました。

──GX100の絵作りの方向性を教えてください。

中平 GRDは素材性重視の絵作りでしたが、GX100はGRDにくらべればそのままで画像を使う人が多いと想定し、GRDやGX8より彩度を高くして、見栄えをよくしています。

──リコーの絵作りは、ノイズつぶしには積極的でないようです。

中平 はい、そのとおりです。ノイズをつぶして不自然な画像を作るよりは、ノイズを残す方針を採っています。プロカメラマンの方にお話を伺うと、ノイズをつぶすよりは、解像感を重視したいという意見が多く聞かれます。

 ノイズ処理は、ノイズを消す副作用で絵に悪影響が出ない範囲でやっています。また、PCでもノイズをつぶす手段はありますから。

──4:3、3:2、1:1と、多彩なフォーマットを備えているのもGX100の特長ですが、16:9は採用されていないのですね。

樋口 撮像素子の上下がかなり切れてしまいますし、16:9のプリンタ用紙があまりありません。また、GXユーザーにはテレビでつないで見るという人が少ないのも、採用しない理由のひとつです。

──1:1のスクエアフォーマットは、どうして誕生したのでしょう。

樋口 ちょうどEVFのチルト機構を検討している時期が重なったのもありますが、GRDブログで、画像を1:1にトリミングしているユーザーがよくいらっしゃったのが契機です。1:1には、ブログで写真を大きく見せられるというメリットがあります。ブログは縦長の空間で写真を見せますから、大きく見せようと思うと縦位置の写真が増えます。GRDブログのトラックバックには縦位置写真が多いんですね。で、1:1ならわざわざ縦位置に構える必要もなくなる。1:1は、ブログの文化が浸透したからこそ出てきたフォーマットではないでしょうか。

 1:1を実現するには、液晶モニターやEVFへのスルー画の両側を切るための、CCDの制御を作るのが大変でした。

──最後に、リコーのコンシューマー向けデジカメのラインナップは、カメラや写真に対して意識の高いユーザーに向けた製品で占められています。今後もこの方針は続くのでしょうか。

樋口 はい。リコーのラインナップは、記念日にしかカメラを持たないユーザーではなくて、毎日カメラを持って写真を撮るのが好きな人をターゲットとしています。それがリコーのこだわりです。



URL
  リコー
  http://www.ricoh.co.jp/
  製品情報
  http://www.ricoh.co.jp/dc/caplio/gx100/

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( 本誌:田中 真一郎 )
2007/05/14 00:00
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