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ATP工場見学記(1)

~ATP製メモリーカードの特徴とロードマップ

 デジカメを始めとするデジタル家電の隆盛にともない、新規参入が相次ぐメモリカード。昨年、株式会社ケンコーが国内での取り扱いを始めた「ATP Electronics」(以下ATP)も、新興メモリカードベンダーの1社だが、同社製品は弊誌「記録メディア転送速度テスト」でいきなりトップクラスの転送速度を叩き出して話題を呼んだ。ATP製メモリカードは転送速度だけでなく、防水防塵性能や耐久性なども備えており、数あるメモリカードの中でもコストパフォーマンスの高さが注目を集めている。

 そのATP台湾の本社と工場を訪問する機会を得た。ATP製メモリカードの特徴や製造工程、ATPのロードマップなどについて2回にわたってレポートする。


メモリカードのパッケージングに特化

ATP台湾本社が入居するビル
 ATP台湾本社は、台湾の首都である台北の、内湖科技園区にある。内湖科技園区はここ数年で開発された、ハイテク企業のための街だそうだ。

 ATPは1991年に、現社長のTim Hsieh氏が米国で創業し、サーバー向けのDRAMモジュール、SDメモリーカードやMMCと中心としたフラッシュメモリカードの製造、販売を行なってきた。

 ATPでは、フラッシュメモリを韓国Samsungから、コントローラを台湾Silicon Motionからそれぞれ購入し、台湾南部の高雄にあるOrient Semiconductor Electronicsの工場で基板への装着や外装ケースへの組み付け、テストなどを行ない、ATP製品として出荷している。ATPのような、メモリ自体は他社から購入し、最終的なメモリカードとして仕立てて販売する作業を、「パッケージ」という。

 Samsungからはフラッシュメモリを購入するだけでなく、完成したMMCをSamsung純正製品として供給している。また、OSEのCalvin Lee社長がATPの会長を兼務するといった、関係企業との密接な関係の維持にも努めている。

 さらに、MMCの標準化団体であるMMC Association(MMCA)では、同社のDanny Lin副社長がマーケティング委員会の共同議長に就くなど、主導的役割を果たしているとしている。

 ちなみにATPの売上は2004年が1億3,000万ドル、2005年が1億6,700万ドル。2005年は売上の60%をフラッシュメモリ製品、残りがサーバー用DRAMとしている。

 先日、ATP製品の日本におけるディストリビューターである株式会社ケンコーが、新たにATP製CFを2月下旬より発売すると発表したが、これを皮切りに、2006年はUSBフラッシュメモリ、カードリーダなどのアクセサリ類、メディアプレーヤーなどへの進出を計画しており、日本市場に注力することで2億5,000万ドルの売上を見込む。


ATPのTim Hsieh社長 ATPの概要 2006年の見通し

独自技術で信頼性を向上

 ATP製SDメモリーカードは22.5MB/secの高速な転送速度で注目を集めたが、同社がもっともアピールしているのは、防水/防塵性能と耐久性能に基づく高い信頼性だ。

 高信頼性を支えるのが、DRAMモジュールの製造で培われた独自技術「System In Package」(SIP)技術だ。SIPは、基板上のフラッシュメモリやコントローラ、配線などを基板ごと特殊コーティング(同社ではモールディングと呼ぶ)して、外気から遮断してしまうもの。

 他社製の防水防塵を謳うメモリカードでは、基板やフラッシュメモリを格納するケース(メモリカードの外装)のみが密閉構造となっている。もちろんATP製品でも密閉構造のケースを採用しているが、これだけでは完全とはいえないという。ケースの密閉構造が緩んだ場合でも、SIPでは基板がまるごとコーティング剤で密閉されているため、基板上の配線が水や塵に侵されることはない。

 さらにSIPは、基板や配線を、衝撃や静電気などから守り、耐久性を向上させることにも貢献している。加えて、通常はチップと基板がハンダ付けされるのに対し、ATPではエポキシで接着することで、基板からチップがはがれにくくなっている。他社製カードでは圧力や衝撃で基板上の配線がはずれてしまったりすることがあるそうだが、同社製カードではその危険が少ないという。


ATP製SDメモリーカード(中央)は基板ごとコーティングにより密閉されているため、ケース(外装)を開けても基板が見えない。他社製(左右)はケースを開けるとすぐに基板が見える CFでもSIPによる密閉構造が採用されている ATP製SDメモリーカードの内部。左はチップが装着された基板。中央はチップ装着後にコーティングして密閉された基板。これにカバーをつけて右のような製品になる

マイナス40度で氷漬けになっても動作する マイナス40度~85度での温度試験が行なわれる 1.5mの高さからの落下による耐衝撃試験

 同社では全製品に次のようなテストを行ない、耐久性を確保している。

 ・気温40度、湿度93%で500時間連続動作
 ・85度で500時間の高温テスト
 ・マイナス40度で168時間の低温テスト
 ・マイナス40度から85度までの500時間サイクルテスト
 ・1.5mの高さから10回の落下テスト
 ・1万回の抜き差しテスト
 ・15Kボルトの静電気保護試験

 また、マイナス40度以上の環境下に数カ月保存して動作させるテストなども行なっている。

 なお、カードスロットの抜き差し回数は2万回が保証されている。これは1万回のテスト後にコネクタの減りを計測し、消耗率を導き出すことで保証された回数としている。


 一方、高速な転送速度のために、Samsung製のSLC(Single Level Cell)と呼ばれるフラッシュメモリを採用している。

 SLCは、日本で一般的なMLC(Multi Level Cell)と比較して高速で、消費電力が低いというメリットがある。大きさとコストではMLCより不利という側面もあるのだが、日本の大手メーカー製SDメモリーカードでは、低速な低価格モデルにMLC、高速なハイエンドモデルにSLCを採用した例があるという。

 また、フラッシュメモリチップを基板に接続する配線には金ワイヤーを採用しているが、これも高速化に貢献しているそうだ。


SLCとMLCの比較。SLCはチップのサイズとコストでは不利だが、速度や消費電力では有利
チップを基板に接着していることも耐久性向上につながる。ワイヤには金を採用 ちなみにメモリチップは基板に4枚重ねで装着。SDメモリーカードでは1枚の基板に2枚のチップを並べることができるので、合計8枚のチップを入れることができる

USB付きSDやSDHCも計画

 さて、前述のとおり取り扱い品目をSDメモリーカードから広げて売上増を計るATPだが、ATP台湾本社では、その具体的なロードマップが公開された。

 すでに発表済みだが、容量2GBのCFを2月下旬から日本市場に投入。2GB製品が2月下旬に日本で発売される予定で、PIEには4GB品をサンプル展示するという。もちろん高速なProMaxシリーズで、SIPによる高信頼性もSDメモリーカードと同様だ。

 SDメモリーカードでは、現行のProMaxシリーズよりもさらに高速な155倍速製品「ProMax II」シリーズを投入。3月には容量2GB、6月には容量4GB製品を出荷する予定で、3月に日本で開催されるPhoto Imaging Expo(PIE)には4GB品のサンプルを展示するとのことだ。このほか3月にはminiSDの2GB製品も予定されている。

 また、最近注目を集めているUSB 2.0端子付きのSDメモリーカードを4月にサンプル出荷、6月に大量生産する。USB端子のカバーは既存のどの製品とも違って、端子カバーが左右に分かれる構造を採る。これにより構造を簡素化し、さまざまな状況で使いやすくするとしている。

 先ごろ発表された大容量の次世代SDメモリーカード「SDHC」も、早くもロードマップに組み込まれている。容量4GBの製品が4月にサンプル出荷、5月に大量生産開始の予定だ。


メモリカードのロードマップ USBフラッシュメモリなどを含めたメモリカードのロードマップ ATP製のUSB端子付きSDメモリーカード。カバーの開き方に注目

メモリカード以外の製品も

小型USBフラッシュメモリ「Petio」。上はその基板。メモリカードと同様にSIP構造を採用している
 ATP製USBフラッシュメモリは欧米ですでに発売されているが、こちらも第1四半期には日本に投入される予定だ。欧米で発売されたのは、SIPによる高信頼性を生かした「USB ToughDrive」という製品で、全体をゴムで覆った大柄な製品だが、主に日本市場を見据えて小型の「Petito」という製品も開発されている。USBフラッシュメモリでは珍しいことだが、ATP製品らしく転送速度が高速であることもアピールされている。

 USBフラッシュメモリに関してはさらに、第1四半期中には指紋認証機能付きの製品が、第2四半期には外装のカスタマイズが可能な「Petito II」が、第3四半期にはモノクロ液晶ディスプレイに空き容量や時計、温度を表示する製品が計画されている。

 フラッシュメモリではないが、メモリカード関連のアクセサリも手がける予定だ。4月にはSDメモリーカード/miniSD/microSD/MMCmicroをサポートするUSB対応カードリーダーを予定するほか、これに先立つ3月には、MMCmicroやmicroSDをメモリースティックデュオスロットで使用するためのアダプタが計画されている。



URL
  ATP
  http://www.atpinc.com/
  OSE
  http://www.ose.com.tw/

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ケンコー、転送速度22.5MB/secの「ATP ProMax CFカード」(2006/01/25)


( 本誌:田中 真一郎 )
2006/01/31 01:35
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