デジカメアイテム丼

シグマ「USB DOCK」

レンズのピントやAF速度を調整できるアクセサリーを試す

 シグマから発売された「USB DOCK」は、同社から発売されている一眼レフカメラ用交換レンズをユーザー自らがカスタマイズできるようにと開発されたアクセサリーだ。

USB DOCK本体。実勢価格は4,980円前後。大きさは手のひらにちょうど収まるくらい。
裏面はレンズに接続するためのマウントとなっている。カメラマウントがそのまま取り外されたようで面白い。使用するレンズのマウントに合わせたマウントのUSB DOCKを選択する必要がある。

 レンズ内のメモリーに書き込まれたファームウェアの更新や、オートフォーカスの精度の微調整などは、一般的にメーカーにレンズを送って調整してもらう必要がある。通常この作業を依頼するにはメーカーへの発送から手元に戻ってくるまでに1~2週間程度の期間がかかってしまう。USB DOCKは、こうした作業を撮影者自身で行なえるようにした画期的なアクセサリーだ。


最新のレンズファームウェアを即座に反映

 USB DOCKでカスタマイズできるレンズは、シグマのプロダクトライン「Art」、「Contemporary」、「Sports」のいずれかに属する製品となる。執筆時点では、これらのラインに属するレンズは「35mm F1.4 DG HSM」、「30mm F1.4 DC HSM」、「17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM」、「120-300mm F2.8 DG OS HSM」の4本だ。USB DOCKのシグマ用とキヤノン用は発売済みで、ニコン用は7月に発売される予定。ソニー用とペンタックス用は発売時期未定となっている。ミラーレスレンズ(DNシリーズ)用は今のところ発売の予定はない。

 USB DOCKでできることは、「ファームウェアの更新」、「AFにおけるピント位置の微調整」、「AF駆動時の速度の調整」、「AFの合焦を可能とする被写体との距離範囲の設定」、「手ブレ補正機構の反応のしかたの選択」だ。これらは、それぞれ設定しようとするレンズが持つ機能に準じた内容で調整が可能となる。

レンズにUSB DOCKを取り付けたところ。付属のUSBケーブルでUSB DOCKとパソコンを繋ぎ通信させる。
USB DOCKのUSB端子コネクター。
USB DOCKは専用ソフト「SIGMA Optimization Pro」で制御する。ソフトはシグマのWebサイトから無料でダウンロード可能。
表面にはUSB接続状態を確認するためのLEDがある。USB接続中は点灯、データの通信中は点滅する。
USB DOCKをパソコンに接続しない状態でSIGMA Optimization Proを起動すると、USB DOCKを接続するように促す画面が表示される。
対応レンズを初めてUSB DOCKに接続すると、Optimization Proの画面にレンズファームアップ実行を促す画面が立ち上がる。この最初のファームアップにて最新ファームウエアがダウンロードされレンズ内のファームウェアが書き換えられる。ただしレンズ内のファームウエアが既に最新版となっている場合は書き換えは行なわれない。
Optimization Proは起動時にインターネットとの接続を確認する。インターネット接続が無い場合は接続を促す画面が表れる。インターネット接続が無い場合はレンズファームウェアのダウンロードができないので、レンズ内ファームウェアの書き換えはできない。
レンズ内ファームウェアの書き換えが完了すると、完了メッセージが表示されレンズを取り外すことが可能となる。今後は対応レンズをUSB DOCKに接続しOptimization Proを起動するごとに最新ファームウェアが公開されているかが確認され、最新ファームウェアが公開されていた場合はダウンロード後に書き換える。
ファームウェアはサービスメニュー内の「ファームウェアアップデート」ボタンを押して更新させることも可能。また、接続されているレンズのシリアル番号やファームウェアのバージョンもレンズ情報として表示される。画面左側にはこれまでOptimization ProがUSB DOCKを介して情報を取り込んだことのあるレンズ名も一覧として表示される。これらの情報はパソコン内に保存されているので、インターネットに接続していない状況でも表示される。また消去することも可能だ。

 ファームウェアは、その機器を制御するために組み込まれた専用のソフトウェアだ。デジタルカメラ本体のファームアップ(ファームウェアのバージョンアップ)は比較的こまめに確認、更新している人も多いだろうが、レンズがファームアップされても更新せずにそのまま使用しているケースが非常に多い。レンズにファームウェアが組み込まれていることに気づいていない人も多く、またレンズのファームアップを行なうにしても、一旦メーカーに送ってメンテナンス扱いで行なわなければならない場合もあるからだ。

 しかしファームアップにはその機器の動作不具合の修正や細かな調整が施されているので、できるだけ最新のものとしたい。その点からも、ユーザー自身でレンズのファームアップを可能にしてくれるUSB DOCKの意義は大きいと言える。


AF微調整は被写体までの距離に応じて設定可能

 AFの微調整についても実際に行なってみた。先ほどまでのファームアップの手順に従い最新バージョンであることを確認できたら、Optimization Proのサービスメニューからカスタマイズを選択する。ここで行なえるカスタマイズはレンズによって異なる。

 単焦点レンズであれば、カメラから被写体までの距離を4つの範囲に分けてそれぞれフォーカスの微調整が行なえる。一方ズームレンズであれば、まず焦点距離を4つのエリアに分けて、そのエリア内で被写体までの距離を4つの範囲に分けてそれぞれフォーカスの微調整が行なえる。つまり全焦点域と被写体との距離との組み合わせで16ブロックの調整可能枠ができることになる。

 フォーカスの調整はまず現状を確認するところから始まる。確認法はいたってシンプル。なにかに実際にAFでピントを合わせたうえで撮影して、そのフォーカスがきちんと狙った箇所に合っているかを撮影画像から判断する。

ターゲットして、フォーカス精度を確認するための立体スケール「datacolor Spyder LENSCAL」を使用した。明確にAFが反応する白と黒のコントラストの高いキューブパターンと、そこから実際のフォーカス位置までのズレを正確に確認することができるスケールとで構成されている製品だ。
今回はシグマのSportsラインに属する120-300mm F2.8 DG OS HSMを実際にフォーカス調整していく。まずはターゲットを三脚などに取り付け任意の場所に立て、それにカメラを向けて三脚に固定する。このとき可能な限りターゲットとカメラは正対するように位置、高さを合わせる。今回は300mmに焦点距離を合わせ、実際にAFでフォーカスを合わせたうえで撮影する。
撮影した画像でピント位置にズレがあるかをよく確認する。カメラの液晶モニターなら拡大表示で確認。より正確に判断するならばパソコンに取り込んで等倍拡大してズレの有無、方向と度合いを確認する。
その後レンズからカメラボディを取り外し、かわりにUSB DOCKを装着する。
USB DOCKとパソコンを付属のUSBケーブルで接続、Optimization Proを起動する。
120-300mm F2.8 DG OS HSMのOptimization Proフォーカス調整画面。焦点距離が120mm、150mm、200mm、300mmの4つのエリアに分けられており、さらに最短撮影距離から無限遠までの4つの範囲に分かれている。まずは現在のターゲットとカメラの距離、撮影したレンズの焦点距離のそれぞれに符合するブロックを選択する(ここでは300mm、3m程度の場合)。基準点より前にピントが合っているならプラスにしてピント位置を奥へ、基準点より奥にピントが合っていたならマイナスにして手前側にピント位置をずらす。
調整値を入力したら「書き込み」ボタンを押してレンズ内のファームウェアに調整値を書き込む。書き込みが終わったらUSB DOCKを取り外しカメラボディを取り付けて再度撮影。この画像をチェックして基準点にピントがあっていなければ再びUSB DOCKを取り付けOptimization Proで調整値を入力して書き込み、再度撮影してチェック。最適な調整値を見つけるまでこれを繰り返す。このブロックが完了したら、焦点距離と被写体との距離の組み合わせを変えてチェック&調整。このレンズでは16ブロック全てでこれを行なう必要がある。
全16ブロックを調整したところ。これでこのレンズのAFは、今回使用したカメラボディとの最適化がなされたことになる。
単焦点レンズの30mm F1.4 DC HSMのOptimization Proフォーカス調整画面。単焦点レンズなので最短撮影距離から無限遠までの4つのブロックのみ。


Sportsラインのレンズは更なるカスタマイズも可能

 Optimization Proでは、Sportsラインのレンズのみに搭載された「カスタムスイッチ」へのカスタムモード設定もできる。

Sportsラインに属する120-300mm F2.8 DG OS HSMには2つのカスタムスイッチ「C1」と「C2」が搭載されている。それぞれにカスタムモードを登録することで、被写体や撮影環境に合わせて切り替えて撮影できる。
カスタマイズメニューのなかの「カスタムモード設定」ボタンを押してカスタマイズ画面へ移行する。
2つのカスタムスイッチのうち、カスタムモードを登録したいスイッチを選ぶ。もちろんそれぞれに違う設定を登録することも可能。
カスタムモード設定画面。設定できる内容は「AF速度の調整」、「フォーカスリミッターの調整」「OS(手ブレ補正機構)の調整」。この中から設定したい項目を選ぶ。
「AF速度の調整」画面。製品出荷時設定の「標準」、AF駆動速度優先の「速度優先」、合焦点付近での駆動の品位を優先する「品位優先」のいずれかを選択する。
「フォーカスリミッターの調整」画面。スライダーを動かしてAF駆動させたい被写体との距離を制限することができる。例えば離れた距離のスポーツ選手を撮る場合は近距離のものには反応しないように遠距離のみに、近距離でバストアップポートレートを撮るなら遠距離はカットしてAFの駆動範囲を狭めてAFの無駄な駆動を予防する、といった使い方だ。
「OSの調整」画面。ここでは手ブレ補正機構の反応の仕方を3パターンから選択できる。製品出荷時設定でオールラウンダーな「スタンダード」、手ブレを強力に補正してファインダー像を安定させる「ダイナミックビュー」、構図調整の為の動きと手ブレとの違いを判断して構図調整の動きには緩やかに、手ブレの動きはしっかりと補正する「モデレートビュー」のいずれかを選択する。ここで設定される項目は、カメラのファインダーを覗いた際の像の安定性に関するものだ。撮影時の手ブレ補正の効果には影響しない。


レンズのパフォーマンスを最大限に引き出すために

 このようにUSB DOCKとOptimization Proの組み合わせで行なうレンズのカスタマイズは、非常に細かな点まで好みに仕上げることができる。ここまで撮影者の好みに合わせてカスタマイズできるシステムは私の知る限りでは無かったと思う。中級以上のデジタル一眼レフには、カメラ側でAFのピント位置調整を行なえるモデルもある。もちろんその機能でもAFの微調整は可能だが、レンズの焦点距離および被写体との距離ごとに調整するということは不可能だ。

 ただし、USB DOCKとOptimization Proで設定したAF調整値は、そのときに組み合わせていたカメラにおいて最適化されたものであるため、違うカメラにそのレンズを装着した際には異なる結果となる恐れもある。そのような場合には、レンズの調整値はそのままにしておいて、カメラ側のAF調整をレンズに合わせるように行なう事で2台のカメラ間の差異を縮めることもできるはずだ。

 ここまでの解説を読むと非常に細かく、かつ根気強く調整する必要があるということが判るだろう。しかしこのような地道ともいえる調整を行なう事で、写真のクオリティを確実にあげることができるのだ。

 特に最近のシグマレンズはハイクオリティかつ明るいレンズが揃ってきている。それゆえに絞り開放で撮影した際の被写界深度の浅さは、そのままフォーカスのシビアさに繋がる。開放でビシっとピントを合わせた写真を撮りたいという人には、ぜひとも、USB DOCKとOptimization Proの組み合わせでキッチリと調整していただきたいと思う。

礒村浩一

(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy