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藤原新也とR-D1による写真展「フェルナンド・ペソアの午後」開催中

~藤原氏インタビュー「この作品展は、ひとつの到達点であり、結晶」

タイルにインクジェットで出力された作品展の看板
 写真家の藤原新也氏がエプソンのレンジファインダーデジタルカメラ「R-D1」で撮影した作品の写真展「フェルナンド・ペソアの午後」が、東京 新宿のエプソンイメージングギャラリー エプサイトにおいて開催されている。会期は2月5日まで。会場時間は10時30分~18時。入場無料。

 R-D1の画質を高く評価した藤原氏が、ポルトガルでR-D1により撮影した80点の作品が展示されている。出力にはインクジェットプリンタを使用しており、米国でのみ販売されているマット系のインクジェット用紙「ベルベットファイン」を使用し、用紙の質感も楽しめるようにカバーで覆わず、パネルに貼ったままの状態で展示されている。ベルベットファインは日本での販売も検討しているとのこと。

 さらに「家庭のリビングルームでくつろいでいるような写真展にしたい」という藤原氏の意向を受けて、会場を6つの部屋に区切り、家具を置いてヨーロッパの家の部屋のような空間を演出。それぞれの部屋の壁紙も氏がデザインし、インクジェット対応壁紙に大判プリンタで出力して制作したという、非常に凝った会場構成も見所のひとつ。

 エプサイト支配人の鵜澤 淑人氏は「エプサイトといえば大判プリンタによる大きな作品が多かったのですが、今回はR-D1や、ベルベットファインという用紙とあいまって、家で楽しむようなサイズでもこんなにいいものができる、味わいがある、ということを肌で感じてもらいたい」と、今回の展示の趣旨を語っている。

 なお、1月8日の午後2時~3時30分まで、会場にて藤原新也氏のサイン会が行なわれる。参加条件は、エプサイトでポートフォリオを購入するか、藤原新也氏の写真集、書籍を持参すること。午前10時30分より、エプサイトで整理券を先着100名に配布する。


大小5つの部屋で構成される会場 通路越しに違う部屋の作品を覗けるのもこの会場構成ならでは ソファにかけて見る作品と立ってみる作品では、展示する高さを変えてあるのにも注目

部屋ごとに壁紙が異なる 左から「R-D1の父」セイコーエプソン IJP企画推進部の枝常伊佐央部長、エプサイトのキュレーターである本尾久子氏、エプサイトの鵜澤淑人支配人

カメラとプリンタ、紙の三位一体を見てほしい

藤原新也氏
 ご厚意により藤原新也氏に作品展の見所をお聞きすることができた。以下は2005年1月7日に行なわれたインタビューを編集部で再構成したものである(文中敬称略)。

--今回の作品展に至る経緯を教えてください。

藤原 今回、エプサイトに「R-D1を使っていますよ」という表示があるんだけど、僕はあんまりやりたくなかった。エプソンのカメラとプリンタとエプサイトを使って作品展をやるということは、エプソンとの提携でやっているんじゃないかと色眼鏡で見られちゃう。実際にはそうじゃなくて、たまたまR-D1で撮ってみたら、今までのデジタルカメラっぽさ、いやらしさっていうのかな、それがちょっと違うなあという感じがしたのでやってみようと思った。たまたまそれがエプソン製品だったというだけ。

 ライカのレンズは解像力重視でなくって、トーン(階調)重視。解像力っていうのはデジタル志向なんだよね。日本のレンズは解像力から作り込んでいく。CCDの持っている冷たさを、階調表現が豊かなライカのレンズが払拭できるのではないかと思った。で、撮ってプリントアウトしてみたら、今までのデジタルカメラとは雰囲気が違った。これはちょっと使えそうだな、と。

 それから暗部のラチチュード、暗部の表現がいかにできるかが重要。僕の写真には暗い場所で撮影したものも多い。藤原はアンダーで撮っているといわれるが、実は暗い部分を暗く撮ろうとしているだけなんだ。暗い部分を適正露光で撮影すると、明るく写ってしまう。R-D1は暗部の表現がすごくできる。「俺向き」だと思った。

--今回の作品はポルトガルで撮影されています。

藤原 R-D1は初めて旅に持って出たデジタルカメラ。それまで、デジタルカメラは旅になじまない、という感じが僕の中ではあった。旅っていうのはすごくアナログじゃない。デジタルとはどうも相性が悪い、という感じが常に付きまとっていた。デジタルカメラは電源が必要で、自分の尻尾が電源につながっていなきゃいけないという束縛感とか、バッテリーチャージャーだとかがカメラより大きいというのが嫌で、デジタルカメラを旅に持って出る気が起きなかった。

 R-D1はライカと同じで、持っていても「カメラをかついでますよ」という感じでなく歩ける、歩行ができるカメラだった。それと、バッテリーとバッテリーチャージャーが小さくて負担にならない。

 スタジオ撮影を除けば、カメラは結局、日本にいようと外国にいようと歩きつつ撮る世界なんだ。旅に携行できないのは欠陥だと思う。

--なぜポルトガルで撮影されたのですか?

藤原 旅行先もアナログっぽいところということで、ポルトガルにした。僕は渋谷の街をよく撮るんだけど、渋谷にはデジタル的な冷たさがよく合う。日本のド田舎やポルトガル的なものは、デジタルとは相性がよくない。アナログ的な世界をデジタルでどれだけ表現できるか、という冒険でもあった。


--旅に出ての撮影の結果はいかがでしたか。

藤原 予測のとおり暗部に関しては、今のフィルムよりも出た。ピーカンのかちっとした部分は、デジタルっぽさが残ってしまうけど。

 問題はデータの保管。今回はPCを2台持っていったのだけど、やはり負担になる。まだフォトストレージは発達段階。ストレージがよくなればPCは不要になるので、問題にならないだろう。

--どんなレンズをお使いになりましたか?

藤原 ズミルックス 35mm F1.4と、ノクチルックス 50mm F1。広角はリコーのGR 21mm。


壁紙は藤原氏がデザインし、インクジェット専用壁紙に出力された
--今回の作品展では壁紙も制作されたということですが。

藤原 写真展は、'70年代から'80年代にかけては贅沢なことがいくらでもできた。写真展は儲かるものではないのだけど、無駄なことをいくらでもできた。僕にはそのころの気持ちが残っていて、今回のような大掛かりな作品展になった。そういう馬鹿をやらせてくれるところが最近なくなってきたのだけど、エプソンはやらせてくれた。

 写真を見せるなら雑誌で見せればいい。写真展では、空間に入った臨場感を見せなければいけないと思っている。

 ここが大事なんだけど、今回の作品展もお金になっていない「遊び」。(編集部注:会場で販売されるポートフォリオなどの売上げは、全額が新潟中越震災の復興義援金として寄付される)。お祭りやってみよう。それでなにかが活性化するはずだ、と。


--作品を出力する用紙も、「ベルベットファイン」という特別なものをお使いです。

藤原 ここ2、3年でデジタルカメラはよくなっている。インクジェットプリンタもここ4、5年で、これ以上改良するのは無理かなというところまできている。デジタルをいかにアナログっぽく表現するか、を考えると「紙」になる。常に紙の問題に突き当たってきた。ベルベットファインはデジタルとの相性がよかった。

 ただ、R-D1ではCCDの大きさと画素数の問題から、プリントの大きさが制約される。僕のクオリティ感では、R-D1ではA4までなら許容できる。

 「藤原といえばアナログ」というイメージがあるが、裏ではデジタルを相当やってきた。今回の作品展で、この10年でやってきたことのひとつの成果を出せた。ひとつの到達点であり、結晶なんだ。デジタルの作品展のクオリティとしては群を抜いている。だからこそ会場構成も凝った。

--作品を収録したDVDを販売されていますが、これを制作された意図は?

藤原 写真展に来たら、何か持って帰りたい人もいる。本当は写真集を作る予定だったが間に合わなかったので、ポートフォリオとDVDにした。DVDには展示されている全作品と、展示されていない作品も入っている。会場に展示されているものを持って帰りたいという人のために作った。

--印刷したものと、スクリーンに表示するものでは表現が異なるように思いますが、そのへんはいかがでしょう。

藤原 今回は時間の制約があったのでこのような形をとった。制約の中ではかなりよくできた。動くメディアだから、時間をかければ相当面白いものができるという感触を覚えている。DVDでしかできない表現もあるだろう。


会場で販売されるタトウ入りポートフォリオ。900部限定 こちらは100部限定で販売されるDVD


URL
  エプサイト
  http://epsite.epson.co.jp/
  藤原新也氏のホームページ
  http://www.fujiwarashinya.com/main.html


( 田中 真一郎 )
2005/01/07 22:00
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