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【PMA09】不況だからこそリリースサイクルを短縮

~Foveonセンサーの外販も視野に入れるシグマ
会期:2009年3月3日~3月5日(現地時間)
会場:米国ラスベガスコンベンションセンター


シグマの山木和人社長
 PMA09には「10-20mm F3.5 EX DC HSM」、「18-50mm F2.8-4.5 DC OS HSM」、「50-200mm F4-5.6 DC OS HSM」と新レンズ3本に加え、この春に発売を予定している41mmレンズ(35mm判換算)と新映像エンジンTrue IIを搭載する「DP2」、それにTrue II搭載でJPEG画質や動作パフォーマンスの改善を図るデジタル一眼レフカメラ「SD15」の試作機を持ち込んだシグマ。

 2008年11月のFoveon買収に関する話も含め、PMA09期間中に山木和人社長から話を聞いてみた。


こんな時期だからこそ、高性能で付加価値の高いレンズを

10-20mm F3.5 EX DC HSM
 実はPMA09が始まる前、2007年9月以来の景気後退や年末以降の円高から一番大きな影響を受けているのはシグマではないか。今後の同社の動きに影響はないだろうかと、やや心配な気持ちを持っていた。

 ご存じの通り、シグマはレンズ組み立てに使うほとんどの部品を内製しており、好調時にはそれが高い競争力へと繋がっている面もあった。棚卸し資産増加の局面にも、自社ですべてを賄っていれば、素早く対処することができる。巨大なひとつの工場で、絞り羽根の1枚からプレス加工や塗装まで行なっているが故の長所ともいえる。

 しかし一方で、減産の幅が大きくなり工場全体の稼働率が落ちた状態が続くと、すべてを自分の手元に抱えているだけに、会社を運営するための固定費が大きくのしかかってくる。1つ1の部品を含め、すべて国内生産となるため、円高の影響も大きいはずだ。

 などと考えていたが、いらぬ心配だったようだ。

「円高の影響は大きいですし、短期的な数字では厳しい面もあります。しかし、我々は株式公開をしていないため、短期的な収支にとらわれず、長期的な視野で経営できるという大きな利点があります。一時的な景気動向に左右されない物づくりをしやすいのはシグマの強みです」と山木氏。

 投資を控えるどころか、逆に製品の開発サイクルを早めるための布石を打っているという。円高によりキャッシュフローが目減りする中で、新製品をリリースするサイクルを短縮化することで中期的なキャッシュフローを維持しようというわけだ。

 シグマはこれまでも、定番の商品のリフレッシュを行ないつつ、新しい製品を開発してラインナップを増やしていくサイクルを続けてきたが、その速度を速めることで最新のカメラにマッチする製品を多く取りそろえ、売上を伸ばそうという、かなりアグレッシブな戦略だ。

 しかし、「企業規模を大きくしていこうとは考えていない」(山木氏)とも話す。景気対策として短期的には新製品のリリースサイクルを早めるが、長期的にはかねてより山木氏が目指してきた「製品の売上数を増やすのではなく付加価値を高めること」に注力していく。「シグマの製品は安物というレッテルを剥がし、ユニークで価値のある、あこがれを持って見てもらえるブランドにすることが最終目標であることに変わりありません」と山木氏は話す。当初よりカメラメーカーになることを目指して起業したシグマらしい考え方だ。

 「ウチの工場は交換レンズ工場として非常に大きな規模ですが、かとってほかの大規模な生産工場に比べれば人がたくさんいるわけじゃありません。しかし、工場のある会津は過疎地域で、たとえ我々の小さな会社といえども、地域経済に与える影響は小さくありません。雇用を維持するためにも、きちんと長期的な視野で対応していく責任があると思って運営しています」(山木氏)


ボディとセットで売れるレンズでも勝負を

 もちろん、高付加価値製品で勝負できる目算あっての発言だ。このところシグマはメーカー純正のキットレンズとの直接競合は避け、大口径レンズや超望遠といった、光学的スペックの面で特徴のあるレンズを出すことで独自性を出そうとしてきた。しかし、エントリークラスのボディがたくさん売れる普及期には、ボディとセットで販売されるキットレンズの売り上げに偏る。そこでシグマなりに考えたエントリークラスのデジタル一眼レフカメラに似合うレンズを開発した。

 新製品の「18-50mm F2.8-4.5 DC OS HSM」と「50-200mm F4-5.6 DC OS HSM」は、いずれもメーカー純正のダブルズームキットに添付されるレンズを意識した製品だ。スペック面で見ると、両方に手ブレ補正機能が組み込まれていることに加え、標準ズームの開放F値がF2.8になっているところなどにユニークさが見られる。


18-50mm F2.8-4.5 DC OS HSM 50-200mm F4-5.6 DC OS HSM

 しかし、このレンズで重視していたのは、山木氏によると質感や操作性だ。エントリー機向けキットレンズは、いずれも質感や操作性の面で少々残念な出来のものが多い。徹底して安価にするには致し方ないところもあるが、山木氏は「せっかく一眼レフカメラを買ったのですから、レンズも質感の高いものが欲しいでしょう。フォーカスリングも操作しやすく、鏡筒も塗装されていた方が、ユーザーの満足感は高い。日本ですべてを作るということは、それなりに製造原価も高くなるということですから、細かなところまで本格的なレンズと同じ仕上げにして付加価値を訴求したい。もちろん、この仕様でメーカー純正と同価格帯の勝負をするのはウチとしても厳しいのですが、質感や操作性はレンズにとってとても重要な部分だと思います」と話した。メーカー純正のキットレンズに真っ向から挑んだ製品ともいえるだろう。このあたり姿勢は、とてもシグマらしいところだ。


DP2はレンズ性能に自信アリ

DP2
 一方、この春の発売が予定されているDP2は、展示された製品を見る限り、かなり完成度が上がってきている。発売予定について「具体的な日付はまだいえません。画質面で練り込みをしているので、これでOKといえるようになれば発売します。桜の開花には微妙な時期ですが、寒い地域ならあるいは間に合うかもしれません。ワールドワイドで同時には発売できないのですが、日本向けには優先的に配分する予定です」(山木氏)と、まだ決まってはいないが、最終的な画質、特にレンズ性能には自信があるという。

 実はレンズそのもののスペックはフォトキナ2008から変化していないが、仕様には手が加わっているという。当初の仕様で評価機を組み上げたところ、「品質管理担当の女の子にダメだしをもらってしまいまして」と山木氏。中心部の解像度は十分だったものの、周辺部の解像度に軽い低下が見られたという。

 そこでレトロフォーカスの設計にレンズを変更して画質重視の設計に変更した。その分、全長が長くなって鏡筒が収まらなくなるところを、工夫してなんとかDP1とほぼ同じサイズにするのに時間をかけたそうだ。まずは製品版の出荷を待ちたいところだ。

 DP2と同じTrue IIを搭載するSD15に関しては、ひとまず動作するようになった機体を持ち込んだが、こちらの完成度はまだ高くないという。しかし、操作レスポンスやJPEG記録時の画質は間違いなく上がっているそうで、年内には発売を予定している。


カメラメーカーになるために撮像素子の差異化が重要だった

PMA09に持ち込んだSD15
 最後に2008年11月のFoveon買収に関しても話を訊いてみた。カメラも生産しているとはいえ、基本的には交換レンズメーカーとして認知されているシグマが、イメージセンサーの会社をまるまる抱えるという判断には、多くの業界関係者が驚いた。

 「カメラメーカーになりたいという我々の夢は何度かお話していますが、カメラメーカーとして生きていくためには、撮像素子の確保と差異化は重要です。まだまだやるべきこと、進化させるべきことが多いセンサーですが、その可能性を今後も追求していきたい。すでにFoveonセンサー搭載のカメラを持っていただき、ベイヤーセンサーとは異なる写りに喜んでくださっているお客様がいますから、それを正しい形で進歩させていくためにも、Foveonを自社の下で育てていきたいと考えました」(山木氏)

 こうしたテクノロジー企業の買収では、常に技術者流出というリスクを伴う。異なる文化を持つ国の会社が買収したとなれば、なおさらのことだ。しかし、その点でも流出は最小限に抑えられ、主要な技術者はすべてFoveonに残っているという。

 ひとつにはFoveonセンサー搭載のカメラが発売され、もともと写真が好きだったメンバーはもちろん、一眼レフへの搭載をきっかけに写真に親しみ始め、その結果、写真が好きになったという技術者が多いからだと山木氏は説明する。

 「確かに経済的に成功したい。お金持ちになりたいという技術者もいるのでしょうが、彼らの基本的なモチベーションは、自らの技術への誇りです。自分の開発した半導体製品が、カメラという形になって顧客の反応がダイレクトに伝わることが面白いと話し、みんなが高いモチベーションで開発を続けています」(山木氏)

 やや心配なのは、いくらファブレス(工場なしの半導体企業)とはいえ、シグマ製カメラしかFoveonセンサーを使っていない状況で、独自センサーを開発するだけの費用対効果を得られるのか? という点だ。


デジタル一眼レフカメラ「SD14」に搭載された「Foveon X3ダイレクトイメージセンサー」
 しかし、この点に関しても山木氏は「科学技術用途や測定器、監視系、FA用といった主に企業向けの分野で外販を行ないます。業務用でも従来は3CCDが使われていた分野にFoveonセンサーを用いたアプリケーションの提案を行なうつもりです。カメラに関しても現時点で計画はありませんが、門前払いをすることはありません。ベイヤーとは映像処理の手法が全く異なるので、それを理解していただいた上で使っていただけるのであれば歓迎します」と話し、センサーの外販ビジネスにも興味を示した。

 もちろん、それでも投資としてはリスクが高い。このことについて山木氏も、当然、リスクの高さは認識しているようだが「“こういう会社になりたい”という目標がハッキリしていて、そのためには特徴のあるセンサーが必要。今、できることを可能な範囲で頑張るだけです」と潔い。

 「交換レンズメーカーとして生き残る道もありますが、それでは事業として頭を打つことは十分に予想できます。産業向けや組み込み用レンズの設計、製造の請負(EMSビジネス)などの行き先も考えられますが、シグマとしての価値判断をするなら、そっち(B2Bビジネス)よりも、自分たちでアイディアをひねり出して考えた完成品を、直接エンドユーザーに使ってもらいたい。従業員にも働く価値として、自分たちが生み出している商品を個人のカメラユーザーが購入して使ってくれるという満足感を感じ、そこに将来性を見て欲しいという気持ちもあります」(山木氏)

 純粋にカメラが好き、写真が好きという気持ちを会社経営という形で示すシグマの手法で、どこまで大メーカーに対抗していけるのか。シグマの今後の商品展開に期待を持たせる決意表明だった。



URL
  シグマ
  http://www.sigma-photo.co.jp/

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シグマ、イメージセンサー開発企業「フォビオン」を買収(2008/11/11)


( 本田雅一 )
2009/03/12 17:23
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