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【インタビュー】2008年の戦略を訊く[富士フイルム編]

~FinePix 10周年記念モデルは第2弾も

 PMA08、フォトイメージングエキスポ2008(PIE2008)では、各社から気合の入った新製品が発表された。秋にはPhotokinaも控える2008年だが、これを機に各社の戦略について本田雅一氏がインタビューした。シリーズでお届けする。

 世界最小最軽量のメガピクセルカメラとしてFinePix 700が発売されたのが、ちょうど10年前の1998年3月4日のこと。1/2型150万画素CCDを搭載したこの機種が、現在ではすっかり定着しているFinePixブランド最初のカメラである。それ以前からデジタルカメラを開発していた富士フイルム(当時は富士写真フイルム)だったが、本格的にコンシューマに向けて売り出したのは、この機種が初めてだった。

 富士フイルムは今年、FinePixの10周年を記念して集大成と言えるカメラを多数用意しているというが、そのうちの2機種が先日発売されたFinePix F100fdと同S100FSである。新製品のコンセプトについて、富士フイルム電子映像事業部商品部担当課長である河原洋氏と、同事業部営業部担当課長の岩田治人氏に話を訊いた。


S100FSとF100fdは10周年イベントの第1弾

河原洋氏(左)と岩田治人氏
──デジカメWatchでの富士フイルムへのインタビューは2006年のPhotokina以来になります。その間、富士フイルムはFinePixの弱点と言われた手ブレ補正機能をCCDシフト式で実現し、さらにxDピクチャーカードに加えてSDHC/SDメモリーカードにも対応するようになるなど、大きく舵を切ったように見えました。まずは昨年の動きを簡単に振り返っていただけますか?

 我々はずっと高感度撮影の利点について訴求してきました。この点は昨年も、そして今も変化していません。高感度でも高画質を実現するため、特にノイズをいかに下げるかについて取り組んでいましたが、同時にニーズの高かった画素数に関しても、1,200万画素にまで向上させたのが昨年です。また、一般に撮影される写真の7割に人間の顔が含まれていることから、顔認識について力を入れてきたのも一昨年秋からの継続した戦略です。顔認識に関しては、我々はDPEシステムのフロンティアで培ったノウハウがありますから、顔認識の速度、精度、そして顔認識の露出への反映といった面でアドバンテージを持っていると思います。

 加えて、それまで我々が不得手だった若年層、具体的にはハイティーンから20代前半までの層に対して強くアピールするため、昨年はデザインを重視したZシリーズの商品力強化を意識して行なっていました。

──では昨年の戦略を受けて、今年はどのように商品、富士フイルムの独自性を打ち出していくのでしょうか?

 ご存じのように今年はFinePixを発売して10年という節目の年です。そこで記念碑的なコンパクトカメラの集大成とも言える製品を開発しました。それがF100fdです。そしてフィルムメーカーとして写真表現にこだわった高倍率ズーム機として、S100FSも同時に発表しています。10周年イベントとしては、この2機種がまずは第1弾となります。


ノイズリダクションへのアプローチを変えて高画質化

F100fd
──富士フイルムのコンパクトカメラというと、一時は画素数ばかりに頼らず、良好な高感度特性と独特のソフトなタッチの描写など、画質面で評価を受けていましたが、昨年は高感度時の画質でやや評判を落としました。この点は改善されていますか?

 実際に同じサイズの用紙にプリントした際の画質という意味では、昨年発売したF50fdも決して高感度画質の悪い製品ではありません。むしろ改善しています。

 とはいえ、お客様からの意見は真摯に受け止めており、F100fdは1,200万画素でありながら、最高ISO12800相当までの高感度撮影が可能になっています。ISO1600相当までであれば、普通にカメラとして常用できる画質を実現しました。

 加えて横顔、あるいは回転した位置の顔、顔の大小など、顔認識可能な範囲が大幅に拡がっています。元々、専用LSIで顔認識を行なっているため、顔を検出する速度は非常に高速でしたが、認識可能な範囲が拡がることで実用的な顔認識撮影ができます。また検出速度が速いため、被写体が動いている場合でも連続して追従するように顔を追いかけます。


F100fdに搭載された第8世代スーパーCCDハニカム
 さらにダイナミックレンジについても、高性能なCCDの良好なS/N比を活かして、きちんと幅広い輝度範囲の情報を映像として表現するよう工夫しました。F100fdに搭載されているCCDはスーパーCCDハニカムHRですが、ワイドダイナミックレンジを誇るスーパーCCDハニカムSRに近いワイドダイナミックレンジを、新開発の素子で実現できたため、これを活かした絵作りをしています。

 そして忘れてはならないのは、要望が多かった広角端28mm相当のワイド5倍ズームを搭載したことです。このように、従来のFinePixシリーズのユーザーから要望されていたさまざまな要素に対して、その答えを用意した製品になっています。ユーザーインターフェイスも手軽に使えるよう配慮しつつ、機能的には使いこなしがいのある高機能さも兼ね備えています。

──F50fdと比較してノイズが減った理由は何でしょうか?

 富士フイルムの製品は従来から、センサーで発生するノイズの種類を判別し、ノイズとエッジを的確に判別して処理することで、高感度時の画質を向上させてきました。従来は特に輪郭と高周波数成分に特化してノイズ処理を徹底的に行ないましたが、今回は中域から低域にかけてのノイズ判別を強化し、より積極的にノイズを除去しています。また、ノイズ処理で解像力が下がるという意見もありましたので、解像感を下げないようチューニングを施しています。

──つまり適応的にかけているノイズ処理の、適応処理部分を強化したことで、よりアグレッシブなノイズリダクションをしても問題が起きなくなったという理解でいいでしょうか?

 そうですね。アルゴリズムや考え方など、基本的なノイズリダクションの方向性は同じですが、アプローチの手法を変えたという方が正しいかもしれません。


フィルムシミュレーションで使い慣れたフィルムの雰囲気を

S100FS
──従来機種にもフィルムと似た感覚で絵作りを変えられる「FinePixカラー」という機能がありましたが、S100FSではフィルムシミュレーションとしてフィルムと同じブランドが付くようになりました。

 S100SFは主にネイチャーフォトを撮影するユーザー向けに開発しました。手ブレ補正はF100fdとは異なり、補正レンズを用いた方式です。風景撮影で持ち出したとき、レンズ交換でゴミが付きやすいことを考えれば、S100FSのようにレンズ固定式の高倍率ズームを用いるという選択も良いのではないかと考えています。

 もちろん、前提として高画質である必要がありますから、組み合わせるレンズの特性に合わせてマイクロレンズを配置した専用の2/3型センサーを用いています。

 S100FSの“FS”とはフィルムシミュレーションの略です。フィルムメーカーとして、同じブランドを表示する以上、同じ色再現性でなければなりません。その点に関しては相当に練り込んであります。

──フィルムとデジタルカメラの色再現域は異なりますから、完全に同じというよりは、印象として同じ絵作りになるように配慮したことだと理解していますが、それにしてもフィルムブランドをそのまま持ち込むというのは、メーカーとして思い切りが必要だったでしょう。なぜ今回、フィルムシミュレーションを前面に押し出そうとしたのでしょうか?

 ネイチャーフォト系のユーザーに話を伺っていると、使い慣れたリバーサルフィルムの特性に近い絵を出すために、RAW現像で工夫をしてフィルムのシミュレーションをやっている人がかなりいらっしゃいました。しかし、簡単にフィルムと同じような特性は出せません。ある写真では似た雰囲気を出せても、別の写真ではRAW現像のパラメータを微調整しなければならない。

 デジタルになれば便利になるというのが一般的な認識ですが、ネイチャーフォトのユーザーの中には、むしろフィルムの方がシンプルだったという意見の方もいます。そこで使い慣れたフィルムの雰囲気を簡単に引き出せるようにして、ユーザーは撮影に集中してもらおうと考えたのがS100FSです。


S100FSのフィルムシミュレーションモード設定画面
──各ブランドのフィルムは、それぞれいくつかのバージョンがありますが、どれを基準に絵作りを行っているのでしょう。フィルムとカメラでは厳密には色再現域が違いますから、測色的に同じ色にはできませんよね?

 たとえばベルビアにはオリジナルモデルのベルビア50、感度を上げたベルビア100、それに最新のベルビア100Fがあります。リファレンスにしているフィルムはありますが、重要なのは印象が同じになることで、皆さんが想像しているベルビアのイメージに近い映像を得られます。また、フィルムシミュレーションブラケット機能を付けましたので、3つの異なるフィルムで連続撮影する撮り方もできます。

──各フィルムブランドは色再現だけでなく、ポジとネガという違いもありますよね。このあたり、トーンカーブも変化しているのでしょうか?

 ネガに撮影し、印画紙に焼き込む場合はポジとは明暗の描き分け方が違います。アスティアはポジの中でもっとも滑らかなトーンで描かれますから、少しダイナミックレンジを拡げて通常の200%に近いダイナミックレンジとし、ソフトな雰囲気となります。ポートレートモードも写真館などのポートレート写真をシミュレートしたものなので、同様に200%近いダイナミックレンジになっています。

──ベルビアモードなどはセンサー自身のS/Nが悪いと、破綻が目立ちやすくなりそうな印象ですが、2/3型センサーだからこそ実装できたのでしょうか?

 CCDのサイズは直接は関係ありませんが、センサー自身のダイナミックレンジが拡がったため、フィルムシミュレーションのような画像処理をできるようになりました。

──では同等のダイナミックレンジを持つセンサーを搭載した機種ならば、今後はほかの製品にもフィルムシミュレーションを展開していくのでしょうか?

 ほかの機種へのフィルムシミュレーションの搭載は検討していますが、どこまでフィルム銘柄と絵作りの関係が浸透しているかという問題もあるので、現時点では未定です。

 それぞれのフィルムシミュレーションの特徴を申し上げますと、プロビアは自然な雰囲気を出しながらも、好ましく感じる記憶色を出します。忠実な色再現を行なうと、地味でパッとしない発色になりますから、あえて忠実性よりも見た目に自然に見える色としています。一方、忠実性という意味ではアスティアモードの方が高い。

【お詫びと訂正】記事初出時、F-クロームモードがプロビアを基準に絵作りされているとの記述がありましたが、これは誤りでした。また、ほかの機種へのフィルムシミュレーション搭載予定はないと記述しましたが、「搭載は検討中だが未定」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。


高感度性能でダイナミックレンジも拡大

──ダイナミックレンジが拡がったという話がありましたが、従来、富士フイルムは広ダイナミックレンジを実現するセンサーとして、スーパーCCDハニカムSRを使っていました。今回、HRでダイナミックレンジの広さをうたうようになったのはなぜでしょう?

 今回はHRでも、ダイナミックレンジ400%を実現できました。ご存じのようにSRは大小の画素を並べるため、小型化するのは難しい。そこでHRでも広ダイナミックレンジを実現できるなら、ということで、今回はHRで製品化しました。ただ、今後に関してはセンサーの製造技術が向上する可能性もあるので、今後、コンパクト機がすべてHRになるというわけではありません。


スーパーCCDハニカムは、フォトダイオードを市松格子状に並べることで、解像度、高感度、高S/N比を実現するセンサー(FinePix S3 Proの発表会でのプレゼンテーションより) スーパーCCDハニカム SRは、ハニカム内に高感度なS画素と、ワイドダイナミックレンジのR画素を並べている(FinePix S3 Proの発表会でのプレゼンテーションより)

──ダイナミックレンジ400%を1枚のJPEGに収めるモードがありますが、一方であまり広いダイナミックレンジを収めようとすると、全体の絵のコントラストが下がります。そのために非線形なトーンカーブで輝度レンジを圧縮しているのでしょうが、どのようなポリシーでトーンカーブを決めているのでしょう。

 シャドウ側の階調を用いて全体的に輝度を持ち上げ、その分、余裕の出るハイライト側の階調を圧縮して収めるような処理します。このため、ハイライト近くのトーンは軟調になりますが、シャドウから中間輝度周辺までのコントラスト感はキープできます。言い換えると、アンダーで露出させて、白ピーク周辺のディテールを出しているということです。このため、ダイナミックレンジ200%ならISO200以上、400%ならISO400以上でなければ設定できません。

 今回の2機種でダイナミックレンジ400%を実現できたのは、上記のような処理を行なっているため、暗部ノイズが十分に抑えられていないとノイズが目立つからです。高感度性能を高めることで、ハイライト側を広く収めるということができました。

──今年、コンパクト機では昨年にパナソニックが実装した「おまかせiA」をきっかけに、“おまかせ”が流行していますね。マクロ撮影などのモードレス化なども含む総合的な自動化ですが、絵作りの面では、業務用DPEマシンでのノウハウもあり、シーン認識は得意なところだと思います。富士フイルムなりのおまかせアイデアはありますか?

 以前に発売したFinePix F50の時も、フルオートで簡単な操作を実現するというテーマで開発しました。F100fdについても“最強コンパクト”ですから、当然、シャッターを押せば誰でも良い絵が出せるように開発しています。シーン認識で良い絵を作るという切り口は、我々の得意分野ですから、今後も改善を重ねていきたい。

 ただ、今後はキーワードとしての“おまかせ”ではなく、おまかせで撮影した時にどのように判別するのか、精度の競争になっていくでしょう。フルオート化は各社とも取り組んでいるテーマですから、今後、大きく進歩していくと思います。業界内の空気としても、センサーの画素数議論はしたくなくなってきていますから、今後はフルオートの良し悪しというのが評価の基準になっていくかもしれません。

──ところで、今回の2製品はFinePix10周年の第1弾とのお話でした。ということは第2弾もあると考えていいのでしょうか? その中には一眼レフカメラも含まれていますか?

 現時点で将来の製品についてはなんともお話できませんが、期待はしてください。ただし、一眼レフについてはノーコメントです。我々はこれまでも、一眼レフカメラを比較的長いスパンで開発してきましたし、もうしばらくS5 Proをよろしくとお伝えしたいと思います。またレンズをあまり交換せずに高倍率ズームで利用するのであれば、S100FSも良い選択肢だと考えています。カメラの形式ではなく、撮れる絵の良し悪しで判断する議論になれば、決して一眼レフカメラにも負けない機種だと考えています。



URL
  富士フイルム
  http://fujifilm.jp/

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( 本田 雅一 )
2008/04/03 00:01
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