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キヤノン、写真新世紀公開審査会を開催
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~勢い吹き返した定番コンテスト。応募者、点数とも過去最高
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優秀賞受賞者(1列目)、審査員とキヤノン コーポレートコミュニケーションセンター・平澤所長(2列目右から3人目)
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キヤノンは1日、「写真新世紀東京展2006」を開催中の東京都写真美術館1階ホールで、トークショーと公開審査会を開催した。
写真新世紀は若手写真家の登竜門のひとつ。公募作品から6名の審査員が1名ずつの優秀賞を選出し、写真新世紀展で優秀賞受賞作品を展示する。その会期中に公開審査を行ない、グランプリ1点を決める。今年は1,505人から計46,170点の応募作を集め、応募数はともに過去最高を記録している。
公開審査会の壇上には向かって右に審査員諸氏(荒木経惟氏、飯沢耕太郎氏、ボリス・ミハイロフ氏、南條史生氏、日比野克彦氏)が並ぶ。左には優秀賞受賞者が控え、1人ずつ作品をスライド上映しながら審査員に作品を解説、アピールしていく。なおレギュラー審査員の森山大道氏は欠席だった。
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壇上で審査員に向けて、1人ずつ自作を解説しアピールしていく
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喜多村みか氏と渡邊有紀氏
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プレゼンテーションの順番は氏名のあいうえお順で行なわれた。トップは「TWO SIGHTS PAST」を出品した喜多村みか氏と渡邊有紀氏。作品は同じ写真学校で学ぶ2人がお互いのスナップを撮影したもの。当初は何気ない気持で始めたことだが、写真を撮り、それを見ることで相手に対するコンプレックスや憧れをより強く意識し始めたという。
2人ともが同じ思いを抱いていて、最終的に「写真を通して向き合うことで、素直に受け入れられなかった部分を気づかせてくれるきっかけになった」と口を揃える。
この作品を選んだ飯沢氏が「互いのポートレートは単発のものはあるが、4年半という長い期間で撮られたものはない。最初見た時はぴんとこなかったが、何かが気になるものが残り、ゆっくり見た時、2人のたたずまいが印象に残った」とコメント。荒木氏は「お互い絶対に撮らせない部分があると思う。それは裸になっていないから。ただそれをやったらこれはダメだよ」と指摘していた。
清水朝子氏の「On her skin」は南米・ボリビアにある塩の湖を撮った作品で、その静けさと美しさが多くの来場者の眼を惹いた。彼女は個展を2度経験し、写真に何ができるかを考えるようになったという。その結果、「写真機の力」を信じることにした。この作品は、被写体の持つパワーを紙の上に宿らせることを考えて制作した作品だ。
この作品を選んだ南條氏は「イメージの強さ」に驚きを表明しつつ、やや理が勝ったプレゼンテーションに「枠にはまりすぎないようにしたほうがいいかもしれない」と指摘していた。ミハイロフ氏は「何かの夢が詰め込まれているが、私の目指す世界ではない。センチメンタルに溺れないようにしたほうがいいだろう」と論評した。
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高木こずえ氏と「insider」
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「insider」で応募した高木こずえ氏は東京工芸大学芸術学部写真学科4年生。高木氏がこの作品を始めるきっかけとなったのは、男の子を撮った1枚の写真だったそうだ。彼は曖昧な表情を浮かべていたが、右と左の表情が違うことに気づいた。それで右だけで作った顔と、左だけで作った顔を並べてみると、同じ人の違う表情というより、似ているけど明らかな別人がそこにいた。それは1人の人の中にいるので「insider」というタイトルをつけたという。
選出は森山氏。ミハイロフ氏は「双子の写真と思っていたので、審査では感心しなかったが、今の話を聞いて作品の面白さに気づいた」と告白。作品の見方と伝え方の難しさを示す論評となった。
「found」を制作したpalla氏は、スクリーンで作品を制作する工程を上映しながら、壇上を跳ね、歩き回りながら解説。1枚の映像をPhotoshop上で、平行に何度も何度もずらしていくと、突然、意味のあるイメージが誕生する。それを見つけた(found)作品だ。
選出はミハイロフ氏。「写真からアートに移行する瞬間が示されている」と推薦理由を説明する。審査員の質問に答える形でpalla氏は、自分が生まれた場所が大阪の湾岸地域で、地方から移り住んだ人の多い場所であることを語り、そして、そこが再開発でなくなりつつあることを話した。「それについて何も感慨はないのだが、自分はそういうところを撮っている、再現しようとしている気がする」と制作のモチベーションに触れている。
母を被写体にした「陽子×末代」で応募した山田いずみ氏は、自分が不安にさせるものに惹かれる傾向があるといい、その存在が母だったという。タイトルの「陽子×末代」は彼女の母が持つ2つの名前だ。「母が夜、きれいに化粧をして陽子になって出かけるとき、2度と帰ってこないのではという不安を何度も感じた。母は憧れで、自分だけのものにしたくて写真を撮り始めた」。
選者は荒木氏。まず母が生きているかを聞き、「写真に死のにおいがあったから。だからエロスを感じる」と絶賛する。その荒木氏の賛辞に対し、ミハイロフ氏が「裸がないよ」と茶々を入れると、すかさず「顔が一番の裸なんだ」と荒木氏は切り返した。
辺口芳典氏の作品「AKITARAOWARI」は言葉が先に生まれ、写真が後からできたという。プレゼンは作品の解説というより、彼の発する言葉で作品が成り立っているようだった。
審査員もこのパフォーマンスに圧倒され、「photoラップっていう表現も面白い」といった声も出た。選んだ日比野氏は「『無関心をたたき起こす』という言葉があったが、それは自分? 世間に向けてなのかな」と聞くと、「まずは自分です」と答えている。加えて日比野氏は「言葉をそぎ落としすぎると元素記号だけになってしまいかねない。言葉と写真の可能性は過小評価されているから、今後が楽しみだ」と期待を表明。ミハイロフ氏も「言葉のランゲージと、写真のランゲージがパラレルに存在する」と評価した。
17時過ぎにプレゼンテーションは終了。審査員は別室協議の上、約1時間後の18時から発表。それまで来場者は展示室を見て過ごすが、プレゼンテーションを聞く前と後では作品の見え方が変わっていた。
グランプリの発表は、キヤノン コーポレートコミュニケーションセンターの平澤哲男所長より行なわれた。「審査は最後まで審査員諸氏から鋭いコメントの応酬があった」と審査会の様子が伝えられた後、高木こずえ氏の名前が呼ばれた。
審査員の講評で飯沢氏は、昨年は特に写真新世紀展の行き詰まりを感じていたことを明かし、「今回の応募を見て、日本の写真家が持っているエネルギーは相当なものがあると感じた。新世紀展がどうなるかはわからないが、希望は見えてきた気がする」と、今年の成果を強調した。
ミハイロフ氏は「あなたたちの勝利は私たちの死を意味する」とユーモアいっぱいの賛辞を述べ、初めて参加した日比野さんは「この公募展は写真の新しい可能性を求めるものなのですかと確かめると、そうだと答えが返ってきた。けれど、作家は新しいものを追い求めることは気にしなくていいと思う。自分を追い求め続けることが大事なんだ」と、まだ見ぬ参加者も含めてにエールを贈った。
■ 荒木氏とミハイロフ氏のトークショーも
トークショーは公開審査に先立つ13時半より開演。演者はゲスト審査員のボリス・ミハイロフさんとレギュラー審査員の荒木経惟さん。ミハイロフさんは1938年、ウクライナ生まれで、旧ソ連出身のアーティストだ。2人は1998年に佐谷画廊で2人展「冬恋」を開くなど、作家としての交流が深い。
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荒木氏が進行役で、ミハイロフ氏の作品をスライド上映し解説していく
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荒木氏とミハイロフ氏が東京をスナップして歩いたビデオを上映
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まず以前、2人で六本木から新宿をスナップして歩いたムービーを紹介。荒木さんは「花園神社には男根があるんだけと、皆んな知らないんだ。そこを教えてあげた」と早速、アラーキー調のトークを投入。
続いてミハイロフさんが自作を解説。彼はエンジニアだった28歳で初めてカメラを手にした。当時のソ連ではタブーだらけの環境で、理想社会から逸脱した表現は一切認められない時代だ。「女性は美しくあるべきものとされていたなかで、女性のヌード写真を撮ったことが職場にばれてクビになってしまった」。
と、同時に写真表現の面白さに気づき、作家活動を開始した。スライドショウのあと、会場からの質問を受け、2人が回答したが、そのひとつに「シャッターを切るとき、何かを感じているのか、なぜその瞬間を撮ろうと思うのかを教えてほしい」との問いがあった。
それに対し荒木さんは「何かを感じているからシャッターを切るのだが、その時、それが何だかわからないこともある。ただそこに下心はないんだ」とコメントしている。写真家にとって、写真を撮ることは目的や結果ではなく、創作の過程だということだ。
■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
写真新世紀
http://www.canon.co.jp/scsa/newcosmos/
■ 関連記事
・ キヤノン、「写真新世紀東京展2006」を開催(2006/09/28)
( 市井 康延
)
2006/12/04 16:33
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