“もっと新製品が出てくると思ったのに、物足りないかなぁ”。
昨年のPMAは、多数の新製品が発表、あるいはモックアップ公開など、非常に多くのニュースが充実していた。それだけに、具体的な新機種の計画さえ明らかにならなかった今回のPMAに、物足りなさを感じている読者も多いだろう。
PMAの本来の目的は、全米のディーラーへのお披露目会である。一般向け、あるいはプレス向けの展示会ではないため、必ずしも新製品発表の場として使われないのは致し方ないところだろう。
その上、今回は開催期間中の月曜日が米国の祭日(プレジデントデー)。PMAの開催は日曜日からで、祭日を絡めた連休に仕事をせず、休暇に出かける人が多かったことも、やや盛り上がりに欠けた理由だったのかもしれない。PMAは来年、またラスベガスに戻る。今年はほとんどプレスカンファレンスが行なわれなかった、PMA前日の土曜日にも、多くの発表が並ぶことだろう。
とはいえ、現地に足を踏み入れてみると、何も感じられない展示会だった、というわけではない。コンパクトデジタルカメラに対する取り組みと、好景気に沸くデジタル一眼レフカメラ市場の着地点を模索するメーカーの考え方が浮き彫りになってきたからだ。
■ “手ブレ”に対するスタンス
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松下電器の手ブレ補正を搭載した普及機「DMC-LS1」
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一昨年、昨年と国内で最も躍進したデジタルカメラベンダーは、松下電器だったように思う。大型液晶モニターや手ブレ補正レンズといった要素は、ディスプレイで写真を手軽に再生して楽しんだり、高画素/低感度化が進んでしまったコンパクトデジタルカメラでラフな撮影をしてもそこそこに写してくれたり、とユーザーニーズのツボが押さえられている。
“本来なら闇雲な高画素化へと進むのではなく、S/N特性と画素数のバランスを取った撮像センサーを使うべき”という意見があるのはわかるが、現実問題としてISO50が標準的な感度となってしまっているコンパクトデジタルカメラの問題は目の前にある。撮像センサーメーカーが、新規設計のセンサーでは画素を増やさなければ付加価値を提供し続けられないビジネス構造に問題があるが、こうした構造にはユーザー自身も加担している部分があり、センサーメーカー、カメラメーカー、ユーザー、そのすべての意識が変わっていかなければ問題解決へとは向かえないというのが実情だろう。
各社へのインタビューの席上、上記の問題についても話題に上ったが、イメージセンサーのトレンドをメーカー側でコントロールするのは難しい、という意見が大勢を占めた。となれば、何らかの手法で誰もが手ブレなく撮影できる方法を探さなければならない。
ところが、松下電器の躍進を支えてきた手ブレ補正レンズをコンパクト機に導入する事に関しては、各社とも否定的な意見が多い。今回、DSC-H1の12倍ズームレンズに手ブレ補正機能を組み込んだソニー、手ブレ補正レンズの関連特許を多く保有するキヤノン、高倍率ズームモデルで手ブレ補正機能を組み込み交換レンズにも採用しているニコンなども、高倍率ズーム機以外での手ブレ補正機能組み込みは、当面見送る方針のようだ。
これには、もちろん技術的な側面もあるだろうが、一様に各社は「2~3倍ズームのコンパクト機では手ブレ補正不要」と話す。室内では近距離撮影が多く、オート撮影時にはストロボが自動発光する。一方、望遠端を使う場面は屋外であることが多いため、感度問題が顕在化しにくい。またシャッター速度が遅くなると被写体ブレの問題も出てくる。
手ブレ補正レンズを使ったことがある読者ならわかるだろうが、手ブレ補正機能は手ブレを軽減することはあっても、手ブレを防止することはできない。ならば、鏡筒を大きくする必要がある手ブレ補正機能を、トレードオフを考慮した上でも採用する必要はないというわけだ。
ただ、だからといって手ブレ補正が不要とは思えない。いずれにしろ、今後、ユーザーが判断を下すことになるだろうが、光学手ブレ補正に関しては特許の問題もあり、必要だからどのメーカーも組み込むというわけにはいかないところが悩ましいところだ。
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富士写真フイルム FinePix F10
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一方、ご存知のように富士フイルムはISO1600時のノイズを抑えたFinePix F10をリリースし、この問題に取り組んでいる。感度が上がれば被写体ブレも抑えられるわけで、確かに有効な手段ではある。むやみにストロボを焚いて、その場の雰囲気がきちんと写真として残らない、なんてことも防ぐことができる。
とはいえISO1600時の画質はそれなりで、ディテールが喪失気味になる。ISO800ではかなり改善されるが、ノイズ感低減の80%程度はソフトウェア処理によるものだという。もちろん、スーパーCCDハニカムとの組み合わせだから可能、とは言えるようだが、増感時のノイズ改善と手ブレ補正、両方に取り組むというのが、やはり王道じゃないだろうか。もちろん、現在のISO1600ネガ並に“感度が高くても十分だよ”と言えるぐらいになれば話は別なのだが。
各社とも問題は認識しつつ、商品性とのバランスを考えて取り組んでいるようだが、まだまだ簡単に答えが出る状況ではなさそうだ。
■ 中級機への道筋を作ったKiss Digital N
PMA直前に発表されたキヤノンのEOS Kiss Digital N(Kiss D N)。新製品の中では、こいつが群を抜いた話題だったことは言うまでもない。既にキヤノンのショールームには展示されているようだから、実物に触れた読者も多いだろう。
と、その前にメールで何名かの読者から頂いた「旧Kiss Digital(Kiss D)のどこがそんなに悪いのか」との質問に応えておきたい。同様の感想は、以前にPC WatchでD70を試させてもらった時にも漏らしていたのだが、自分で購入したカメラの事。自分の使い方や好みにそぐわなかっただけで、良い/悪いといった議論とは別だと思っている。なので、あくまでも個人的なコメントとして添えたつもりだ。
ならば、わざわざ触れる必要はないだろう、という意見もあるだろう。しかし旧Kiss Dで僕が感じたのは、中級機以上のEOSと同時に使った時の違和感だけではない。
画角を決めてシャッターボタンを押せば、とにかく写真が撮れる。これはいいことだ。しかもKiss Dの画質は十分に良い。ただ、そこからユーザーがステップアップしよう、と考えたとき、カメラの入門書にあるような初歩的な技法を使おうと思っても、カメラ側がそれを受け入れてくれない、というのはどうかな? という疑問は感じていた。
大部分のユーザーは、もしかすると全自動モードやシーンセレクトしか使わないのかもしれない。カメラを学ぼうとも思わないのかもしれない。でも、せっかく高価な一眼レフカメラなのだから、ユーザーが思い立ったとき、その次の段階へと進む道筋はあった方がいいと思う。
PMAの話題とはかけ離れるので、このあたりでやめておくが、Kiss D Nでは、そうした部分がかなり改善されている。シャッターボタンを押せば、とにかく何とかなるという点に変化はない。しかしその先、カメラの振る舞いとは違うことをユーザーがしたいと思い始めたとき、きちんとそれに対応する機能が用意された。これは画素数が増えた事よりも、ずっと重要な点だと思う。
加えてカメラ表面の仕上げやシャッターを切った時の感覚、ダイヤルの操作感など、感覚面で改善されたポイントは多い。バッテリや操作性が他のEOS Digitalとは異なるなど、中級機との併用では不便な面はあるが、小型・軽量な一眼レフカメラとして1台、手元に置いておきたいと思う製品になった。
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キヤノン カメラ開発センターの大原経昌副所長(右)と、岩下 知徳取締役
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キヤノン カメラ開発センターの大原経昌副所長は「今回の最大の目標は、20D並の画質や起動速度などを、カメラらしい操作性を維持したまま小型化し、なるべく軽く仕上げる事。ほぼ目標は達成できた」と話す。「サイズを小さくするだけならば、グリップの反対側をバッサリ落とせばいいが、それではカメラとしての使い勝手、バランスが悪くなる。カメラらしいフォルムと小型化を両立させるため、いかに内部のレイアウトを工夫するか、その上で小型化で不利となるノイズ対策をどうするかが開発のテーマだった(大原氏)」。
ちなみにシャッターの切れや音、ミラーショックなどが上質になったことに関しては「スイング型のミラーはそのまま継続して採用している。異なるのはモーターの方向で、ミラー支点部の回転軸とモーターの回転軸を同じ方向に合わせて配置した(従来は垂直に配置)。このためダイレクトな駆動が可能になり、シャッターの切れが良くなっている(大原氏)」という。
今後、評価は続々と出てくるだろうが、なんとも憎たらしいぐらい隙の少ない製品だ。
■ 着地点を模索し始めたカメラメーカー
デジタル一眼レフカメラに関して、もうひとつ取材のテーマとしていた事がある。それは過熱気味のデジタル一眼レフカメラ市場において、どのように着地点を見つけていくのか? というテーマだ。
もちろん、今はまだ縮小が見えているわけではない。現時点は、市場が拡大しているのだから、みんなで良い製品を投入し、さらにユーザーの幅を拡げていきながら発展していこう、という拡大期だ。
しかし拡大が急すぎると、それに伴う競争も激しくなる。良い面もあるが、一方で急激に落ち込んでしまうリスクも背負う。一眼レフカメラという製品形態は、ある意味、ユーザーにとってとても不便なものだ。今、デジタル一眼レフカメラを購入している層のうち、何割かは、ブームに乗って一眼レフカメラという商品がどのようなものかを知らずに購入しているのではないだろうか。
“画質や操作性、レスポンスがいいデジカメ”として使うというのも、ひとつの方向ではある。しかし、将来的に市場が成熟してきても、根強く存在感のあるカテゴリとして残っていくためにも、中身のないバブル的な市場の膨らみ方ではなく、一眼レフというカメラの形態が理解される方向で進んでいくのが理想だ。
これはもちろん、デジタル一眼レフカメラに取り組んでいるすべてのベンダーの願いでもあるのだろう。ただ、企業としては、そこに市場があれば、ニーズに応える製品をライバルに負けじと投入していかなければならない。インタビューの中でも、ほとんどの回答者は、“懸念はある。しかし市場からの要求や他社との競争もある。市場動向をコントロールすることはできない”といったニュアンスの感想を漏らす事が多かった。
またある関係者は「銀塩では一眼レフでしか撮れなかったような望遠系の写真を、今なら一体型の高倍率ズーム機で撮影できる。これらの性能が改善されれば、必ずしも一眼レフでなくてもいい。銀塩の時ほどの潜在需要は無いのでは」と話した。
もっとも、先のことなど誰もわからない。各社、できることをやりながら、着地点を模索する。
キヤノンとニコンは、デジタル一眼レフカメラ市場の着地点探しについて、それぞれ異なるアプローチで話をしたが、いずれも本質的なところは同じだ。製品を縦に展開するのではなく、ニーズに合わせて横に展開する事で、デジタル一眼レフカメラを欲しがるユーザーの幅を拡げていくということだ。キヤノンは天文写真向けなどのアレンジ製品を既に発売しているが、この幅を拡げていく。ニコンも、上級、中級、初級といった区別で開発をするのではなく、ユーザーニーズごとの物作りを目指す。
またニコンは、新技術を矢継ぎ早に投入するよりも、長期間、不満なく使えるよう、その時点での最高の製品を作り、買い換えサイクルを長く取れるような商品の作りを実現したいと話した。ユーザーの満足度を上げることで、確実にユーザーに選んでもらえるように、ということだ。発売以来、コンスタントに売れ続けた大ヒット商品のD70もそうだが、途中メモリアップグレードなどを施して息の長い製品となったD1Xなどの前例がある。急速な進化の道を歩むこの分野にあって、2~3年以上のレンジで長期間満足できる製品の作り込みを重視する。
また、今回は何も新情報は無かったが、フォーサーズ規格でオリンパスと松下電器が提携した事で、カメラメーカーとは異なる血がデジタル一眼レフカメラに入ってくる。上位2社とは全く異なる堅実なアプローチでファンを増やしているペンタックスにも注目したい。今は見えない着地点へと軟着陸できるかどうか。おそらく2~3年後には結果が出ている事だろう。
■ URL
PMA 2005 レポートリンク集
http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/pma2005.htm
( 本田 雅一 )
2005/02/28 18:54
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