デジカメ Watch
最新ニュース
【 2016/01/26 】
【 2016/01/25 】
【 2016/01/22 】
【 2016/01/21 】
【 2016/01/20 】

【インタビュー】ニコン・デジタル一眼レフカメラ戦略の現在と未来


ニコンデジタル一眼レフカメラの最上位機種「D2X」
 いよいよ待望のフラッグシップデジタル一眼レフカメラ「D2X」を発表したニコン。独ケルンで開催中のPhotokina 2004のプレスカンファレンス会場には、会場から溢れるほどの報道陣が詰めかけた。

 そのプレスカンファレンスでも、新製品について熱弁を振るったニコン常務取締役 兼 上席執行役員 映像カンパニー副プレジデントの富野 直樹氏に、ニコンのデジタル一眼レフカメラ戦略について語っていただいた。


なぜD2XはLBCASTではないのか

撮像素子の有効1,240万画素CMOSセンサー
 すでに日本国内での発表を済ませているD2Xは、2003年のD2H発表時から“いつ発表されるのか”とニコンの一眼レフカメラユーザーが待ちこがれた待望の新製品である。そのD2Hはニコンの独自開発によるCMOSセンサーLBCASTを搭載していた。LBCASTは一般的なCMOSセンサーに比べ、浅い入射角にも対応しやすいなどの特徴を持つなど、カメラ用撮像素子として優れた特徴を持つとニコンはアナウンスしている。

 しかし、D2Xに採用されたセンサーはソニーと共同開発による1,200万画素のAPS-Cサイズセンサーだった。なぜ、あれほどまでに優位性を謳っていたLBCASTの採用を見送ったのか。まずはセンサーに対するニコンのスタンスについて伺ってみた。

「非常にフランクに言えば、開発のタイミングによるものという事です。つまり、今回のD2Xを発売するタイミングでは、ソニーと共同開発したデバイスを用いる事が最善の選択だったということですし、前回のD2HではLBCASTが最適なイメージセンサーだったのです」

―ではD2Hで使われた最初のLBCASTの次バージョンは、高画素のD2X用ではなかったのか? ソニーのCMOSセンサーのどのような点を重視して、D2Xに採用したのだろう?

「D2Xでは画素が増加しましたが、1,200万画素で軽快な撮影を求めると、センサーの読み出し速度が高速である必要があります。我々が求める高速性に応えられるセンサーが、ソニーと共に開発していたマルチチャンネル読み出しのセンサーだったのです」

―基本的な読み出し方式がCMOSと同じLBCASTでも、同様のマルチチャンネル読み出し機能を実現できたのではないか? LBCASTはそうした設計に向かない要素があるのか?

「いえ、LBCASTでもD2Xに採用したCMOSセンサーと同様の高速マルチチャンネル読み出しを実現できます。実際、LBCASTの出力をマルチチャンネル化したデバイスは、完成しつつあります。しかし、順を追って開発を行なっていますから今回の製品化のタイミングではベストな選択にまでは至らなかったということです」

―富野氏はD2Xのセンサーを紹介するとき“ソニーと共同で開発した、ニコン向けのクローズドなセンサーである”と話していた。これは今回採用したセンサーが、他社には販売できないニコンだけのものであることを意味しているのか?

「今回のセンサーに関しては、ソニーも我々もさまざまな障害を乗り越え、一生懸命に製品化に向けて努力をしてきました。ですから、我々向けのみに供給して頂いていますが、両社で合意が取れれば他社にも販売して良い事になっています。いずれはそうなるかもしれません」


1,200万画素化で失ったものは何もない

ニコン常務取締役兼上席執行役員、映像カンパニー副プレジデントの富野 直樹氏
―約600万画素だったD1Xから1,200万画素のD2Xになり、センサーサイズはそのままDXフォーマット(APS-Cサイズ)を維持している。もちろん、その間に多数の技術革新はあっただろうが、D1Xと比較して高画素化で失ったものは何も無いのだろうか?

「よく言われるように、同じ技術で作るのであれば、画素ピッチが小さい方がS/N比では不利となります。しかし、最終的な画像出力の品質は画素単位のS/Nだけで決まるわけではありません。画素から電荷を読み出し、運んで、処理を施して画像となるのです。今回、画素が小さくなっている分のデメリットは新技術で完全にカバーしています。またセンサー自身の特性も向上しています」

―ではDXフォーマットのままでオーバー1,000万画素にしても、特にデメリットとなるような問題はないということか?

「はい。しかし、現時点で2,000万画素にしろと言われれば、それはDXフォーマットでは難しいでしょう。1,200万画素ならば問題はありません」


―Photokina 2004のプレスカンファレンスでは、フルサイズに関してもニーズ次第では採用する用意があると話していたが、具体的に何らかの研究開発は行っているのか?

「135フォーマットフルサイズに関しては、我々もその可能性を学んでいるところです。しかし、フルサイズセンサーは決して安くはありません。100万円を超えるカメラを、顧客はどれだけ買ってくれるでしょうか。それはビジネスになるのでしょうか? 現時点では、もう少し時間がかかると考えています。我々が1年前にDXフォーマット用レンズについて発表した時、今後、少なくとも3年間はDXフォーマットでの最適解を求めていくと発表していますから、当面はその方向となります」

―フルサイズを求めているのはエンスージャスト層というイメージを持っているが、プロからのフルサイズの要求はどの程度あるのか?

「フルサイズセンサーに関しては、プロあるいはハイアマといった区別はあまり関係ないでしょう。フルサイズを求めている顧客は、センサーがフルサイズになることで、あらゆる面で35mmフィルムの一眼レフカメラに近付くのでは? と考えているのでしょう。しかしある意味、すでにデジタルイメージセンサーは、その領域(フィルムの表現力)を越えています。では、すべてをデジタルにするべきか? というと、話は単純ではありません」

―つまり、単純な切り口でフィルムとイメージセンサーを比べるべきではない?

「フィルムかデジタルかという議論は、この際にはあまり意味はないでしょう。'99年9月に初めてのデジタル一眼レフカメラD1を発表し、すでに5年が経過しました。その間、我々はフィルムをイメージセンサーでの置き換えることを目指して開発を進めてきました。しかし、これからの5年間はフィルムの置き換えではなく、もっと使い方を拡げる方向で開発をしていきたいと考えています。これまで、製品ラインナップの“三角形”は1つだけで、その頂点も1個だけでした。しかし、これからの5年は写真を楽しむための三角形、使い込んで作品作りを楽しむための三角形があってもいいでしょう。ですから、今日のプレスカンファレンスで、私はCOOLPIXに関してもトップモデルを“フラッグシップ”と表現したのです」


同じD2でもXとHは別モノ

―D2Xの実機に触れてみると、画素数比では3倍以上になるにも関わらず、そのレスポンスや操作感はD2Hとほぼ同等に感じる。これだけ軽快に撮影できると、D2Hの必要性を感じる場面はかなり限られてくるのでは?

「やはりそう感じていただけますか(笑)。D2シリーズに限らず、デジタルカメラは時間の流れに伴って急激に進歩しています。ですから、D2Hが必要となる領域が限定されるのも、ある意味では当然とも言えます。しかし、両社は価格も大きく違いますし、想定される使われ方も異なります。画素数がさほど必要ないならば、D2Hの方が良い場面もあります」

「我々としては画素数競争をしたいとは考えていません。それよりも、さまざまな切り口での深みを出していきたい。たとえば画質といっても、さまざまな切り口があるわけです。S/Nの良し悪し、階調の滑らかさなど、さまざまな切り口の中で最良のカメラは何かという解答は1つではありません」

―D2HからD2Xまでしばらく間が開きました。見た目や操作感は非常に似通った両者ですが、その間に進化したポイントどのような点でしょう。

「外装部は別として、その中身はすっかり別のものになっています。映像処理用のASICはもちろん、カメラとしてのメカ部分や自動露出の進化も果たしています。カメラの基礎部分を良くしていかないと、せっかくイメージセンサーを良いものにしても、それを活かすことができないからです」

―レンズメーカーなどに話を聞くと、高画素のデジタル時代になってピクセル等倍で評価される傾向が強まり、結果として諸収差やオートフォーカスの精度などの点で、以前よりも厳しい目が向けられているという。1,200万画素へとジャンプアップしたD2Xは、この点に関する対策は施されているのか?

「AF精度の向上が求められている事はもちろん把握し、すでに対策を行なっています。昨年のDXフォーマット専用レンズを作った理由も、1つにはAF精度の問題がありました。DXフォーマット対応レンズはデジタルに合った規格になっていますが、その中にはAF精度向上も含まれています。もちろん、マウントは共通なのですが、現在の高画素デジタルカメラの画像をピクセル等倍でディスプレイ上で確認するチェック方法に、昔のレンズでは対応できない場合もあります。“20年前のレンズだから仕方がない”と思っていただければいいのですが、現実にはあらゆるレンズでデジタルカメラでの画質を求められてしまう。その点、“DXレンズなら大丈夫”と言えます。AFの精度だけでなく、解像度も従来のニッコールレンズよりも向上させていますからね」

―DXレンズはレンズ側の対応だが、カメラ側の仕組みとしてAF精度向上のための工夫はしているのか?

「ええ、すでにD2Xの中に入っています。どの程度、というと具体的な数字は持ち合わせていませんが、1,200万画素というセンサーの解像度に対応できるだけのオートフォーカス精度を実現しています。またオートフォーカスだけでなく、マニュアルフォーカスでも従来よりもピントを合わせやすくなっているのが、実機をごらんになるとわかると思います」


今後は5ラインナップ体制に

―最後に今後のラインナップ展開について話を伺った。現在、ニコンのデジタル一眼レフカメラは、トップモデルのD2X、D2Hに加え、エントリーモデルのD70、ミドルレンジのD100という3ラインナップだ。しかし、D100がやや古さを感じるようになってきている事に加え、より低価格で初級者向けやハイアマチュア向け製品が欲しいといった声も聞かれる。さまざまな声に対して、ニコンはどのように応えていくのか?

「まず現行機種についてですが、D70とD100はその特徴は全く異なります。とにかく良いデジタル一眼が欲しい人や銀塩カメラから初めて乗り換える人には、やはりD70がいいでしょう。しかし、いい写真をゆっくりと自分の手で作品として仕上げたいという人にはD100の方がいいと思います。同じように見える機種でも、それぞれの特徴、良さは異なるのです。では今後はどうするのか? D70とD100の上にも、下にも新しい製品を投入します。また、ある機種の後継モデルも登場します」

―そうすると全部で5つの製品ラインとなります。それは少々、多すぎるのではないでしょうか? D100後継の性能をD2Xに近づければ、D70でも中級機のエリアはカバーできるように思える。

「それだけユーザーニーズが多様化している、ということです。お客様の使い方は実に多彩です。我々はそれぞれのニーズにもっとも適した製品を開発し、提供するためにラインナップの拡充をしていくつもりです」


ニコンのホームページ
http://www.nikon.co.jp/
製品情報(D2X)
http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/digital/slr/d2x/



( 本田 雅一 )
2004/10/01 11:45
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2004 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.