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小栗昌子写真展「トオヌップ」
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写真展リアルタイムレポート
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※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。
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小栗昌子さんの写真集「百年のひまわり」は、審査員だった森山大道氏に絶賛。06年には日本写真協会新人賞を受賞
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名古屋生まれの小栗さんは、柳田国男の「遠野物語」に触発されて、1998年、遠野を旅した。そこでこの土地と人に魅せられ、移り住むことにした。それから10年間、撮り続けてきた写真をまとめたのが、この「トオヌップ」だ。
小栗さんは2005年に、遠野に住む初老の姉弟の日常を写した「百年のひまわり」で、ビジュアルアーツフォトアワードを受賞している。彼らはこの「トオヌップ」を構成する世界の住人でもあったのだ。作者が初めて遠野を訪れて感じたのは、「そこに生きる人と、風景の力強さ」だったという。
小栗昌子写真展「トオヌップ」はギャラリー冬青で開催。会期は2009年3月3日(火)~31日(火)。日曜、月曜、祝日休館。入場無料。開館時間は11時~19時。最終日は14時まで。所在地は東京都中野区中央5-18-20。問合せはTel.03-3380-7123。
■ ずっと人を撮ってきた
小栗さんは、高校を卒業後、求人情報で広告スタジオの募集を見て就職し、写真の道に入った。そこで自分の写真を撮ってみたい思いに駆られ、翌年から写真専門学校に通うことにしたのだ。
「口下手ですし、人付き合いが得意な方ではありませんが、人が好きなんですね。だから最初から人を撮っていました」
「遠野物語」を読んだのは、卒業後4年ほど経ってからで、その頃は名古屋で写真を撮っていた。思い立って旅した遠野はお盆の時期で、偶然訪ねた村は祭り「舟っこ流し」の準備の真っ最中だった。
「夕方から藁で大きな舟を作るのですが、それに参加させてもらいました。その日は公民館に泊めてもらい、近所の人に朝食まで用意してもらいました」
遠野で感じたのは、この土地に根を下ろして生きている一人一人の存在の確かさだ。この地に移り住むことを決めて、名古屋に戻った。
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プリントはすべて67のアスペクト比にトリミングして展示した。人の容姿に合っていて、ポートレイトに向いていると思うからだ
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プリントの販売も好調のようだ(右下のピンが売れた枚数を表す)
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■ 1999年から遠野で暮らす
1年弱ほど名古屋で働き、100万円ほどの資金がたまったところで引越した。その間、一度だけ住む家を決めるために、遠野に行っている。
「自動車で一般道を使い、片道2日間ほどかけて往復しました。遠野での生活が楽しみで、どんどん気持ちが高まっていましたね」
住み始めるとスーパーでのアルバイトを決め、休日には周囲の集落を歩いた。畑仕事をしている人、道で出会った人に話しかけ、自分が写真を撮っていることを伝える。
「撮られるのは恥ずかしいから嫌だという人がほとんどです。何度か遊びに行かせてもらって、ようやく初めて撮ることができます」
仲良くなっても、いつでも撮影するわけではない。「撮らせてもらうタイミングがある」と小栗さんはいう。
「相手が撮られる気分になると分かるんです。そうなってから、その人を最もよく表現でき、光の状態がよい場所を考えて撮影します」
カメラはペンタックスの645と67を使い、室内は暗いので三脚を立て、屋外は手持ちで撮る。67はピントがやや合わせづらく、小栗さんが持っているカメラは露出計が壊れていて、撮影時に少々手間取ってしまう。
「だから撮らせて頂く人に負担がかかる場合や急ぎの時などは645を使っています」
■ 光の存在が重要
今回の展示作品で眼を惹くのは、あえてオーバー気味に表現された光の存在だ。部屋の灯かりだったり、窓から入る陽の光、日差しに輝く木々の葉や山肌など。
「白と黒のコントラストをはっきりつけたいんですね。それと光は生きる基みたいなところがあり、太陽は生命そのものを感じさせてくれます」
遠野の気候は厳しいが故に、この地域で暮らす人々を強く逞しく育ててきた。
「家の中はとても暗いですし、生活の仕方も何十年も変わらないままです。ただそういう生活を私自身が大好きなんですね。今は都会に3日いると、早く遠野に帰りたいと思います」
小栗さんの撮影エリアは遠野市全体だという。いろいろな遠野の人と姿を知りたいし、記録したいからだ。
市の面積は約825キロ平方mで、これは横浜市のおよそ倍程度と広い。さらに四方を山に囲まれていて、その麓や山間に点在する集落を主な撮影地にしているため、移動は自動車で行なう。
撮影のアプローチはルポルタージュ的だが、表現はすべて写真に委ねている。キャプションなどの説明はつけず、一切を観る人の想像に任せる。例えば、会場に顔が黒く汚れたまま微笑んでいる若い女性のポートレートがある。
「雨漏りがするので、家の茅葺き屋根を修繕して、煤が付いてしまったんですね。茅は知り合いから、いらなくなったものをもらってきます。この写真は顔が汚れているのが面白いので、なぜそうなったか、確かな理由は必要ないと私は思います」
写真集「トオヌップ」の表紙を飾る一枚は、レンズをにらみつけるように見つめている男性のポートレートだ。
「笑っているカットもたくさんありましたが、それよりこの表情が一番この人をよく表していると考えて、これを選びました」
展示作品を見た時、自然と目に付き、想像力を刺激されるカットだ。
■ 今回の写真集は個展がきっかけ
この「トオヌップ」は、2008年4月に銀座ニコンサロンで個展を開いている。「百年のひまわり」から3年程が経ち、「近況報告みたいな気持ち」で行なったという。
この個展をきっかけに冬青社から写真集の話が持ち上がり、撮影を始めて10年という区切りもあって作品をまとめることになったのだ。
「遠野にはまだ住み続けるので、これからも撮りたい人が目の前に現れれば撮ると思います。ただ「トオヌップ」として撮り続けるかどうかは、今は分かりません」
が、小栗さんの中には今、一人撮りたいおばあさんがいるという。今年83歳を迎えた女性で、昨年から初めて独り暮らしをすることになったという。
「10数人の大家族に生まれ、同じような家庭に嫁いだ。それが孫や娘が都会に出て行ってしまい、3年前、ご主人を見送った。80歳を過ぎて初めて独りになってしまうのです」
相手あってのことで、今後、撮影が進められるかどうか分からないが、小栗さんは今後も自分の物語を綴っていくはずだ。今はギャラリー冬青で、小栗昌子の二つの遠野物語をゆっくり味わっておこう。
■ URL
冬青社
http://www.tosei-sha.jp/
写真展関連記事バックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/
市井康延 (いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。 |
2009/03/19 12:55
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