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織作峰子写真展「時」

――写真展リアルタイムレポート

「落合の醍醐桜」(真庭・岡山)
※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





織作峰子さん。桜は3年前に撮り始めたという。新たな織作峰子の世界を開くモチーフの一つ
 写真はある瞬間を記録し、その形を像にとどめる芸術だ。その捉えられたイメージは、ただその一瞬の事実を伝えることにとどまらず、観る人にさまざまな想いを抱かせる。それが写真の魅力であり、いかに想像力を喚起させるイメージをつかまえるかが写真家の手腕なのだ。

 この会場には主にヨーロッパのスナップと、日本の桜が対峙して置かれている。それも桜はカラー、スナップはモノクロームで出力した。ある種、異質なモチーフを組み合わせることで、そこに共通してある写真家の個性や色を感じさせようという作者の試みでもある。作者が長い時間をかけて切り取ってきた光景は、今、新たに綴り直され、違う時を刻み始めている。

 織作峰子写真展「時」はリコーフォトギャラリーRING CUBEで開催。会期は2009年3月4日(水)~30日(月)。火曜休館。入場無料。開館時間は11時~20時。最終日は17時まで。
 所在地は東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8F(入場は9Fから)。問合せは03-3289-1521。



外光の入る空間を生かした演出

ビル外側に掲示された桜が、ギャラリー内にもいい演出効果をあげている。最初はガラスに貼る計画だったが、ガラスが破損する恐れがあるとのことで、布張りにしたという。
 会場に入ると、今年、イギリスで撮影された5点のスナップが並ぶ。これはリコーGX200とGR DIGITAL IIで撮られたものだ。

 先に進むと、RING CUBEの円形の会場の内側に欧州各地のスナップが飾られ、左側には窓ガラスを背面に、大型プリントに出力された桜が置かれている。そしてビルの外側には、布にプリントされたさらに特大の桜が掛けられ、昼は外光に、夜はライトアップした光で、ギャラリー空間を演出している。

「銀座のメインストリートに面した円形のビルというユニークな形を効果的に使いたいと思って、外の桜のバナーを考えました。外側から見ても、ギャラリー内からも、この演出はとても好評です」と織作さんは言う。

 モノクロームのスナップは、PCM竹尾の画材紙スーラを使いながら、和紙風の味わいが出るように工夫した。用紙の周囲を手裂きにして、フレームも自らデザインしたものを使っている。桜とモノクロームのスナップは、互いに干渉しあわず、静かに呼応しあっているようだ。


入口に置いたコラージュ。右の上から2 番目の作品タイトルは「麻衣」(石川/日本)。『時』というタイトルには幾重にも想いが込められている GR DIGITAL IIとGX200で撮影したイギリス。フィルム時代からGRは愛用の一つで、レンズの良さとデザインを評価。織作さんが思う改良点は「高感度と、データ消去の処理スピード」だそうだ

好きなものを自由に撮ってきた

「私はいまだにずっと何の制約もなく、自分の好きな被写体を自由な感じで撮っています。プロの中で、一番アマチュア写真愛好家に最も近い写真家だと思います」と織作さんは笑う。プロとしての依頼仕事をこなしながら、自らの作品においてはアマチュアリズムを謳歌してきたということだ。

 これまで海外はアメリカ、ニュージーランド、トルコ、上海、スイスなど各国を旅し、作品をまとめてきたが、その撮影の多くは旅を楽しみながら、一人で回ることが多いという。

「5年前から撮影を始めたスイスは政府観光局の仕事で、最初はアテンドしてくれる人がいました。スイスはエリアによってドイツ語、フランス語、イタリア語圏に分かれ、言葉が違いますから。それでも1~2回行けば大体頭に入るので、あとは地図を頼りに回っています」

 日本にいると、どうしてもいろいろな仕事や雑用にまどわされるが、海外に出てしまえば自由になれる。

「だから旅は自分にとって、最高のオフ、リラクゼーションタイムなのですね」


「ブリエンツ湖に流る」(ブリエンツ・スイス)

むやみに撮らないことが大事

 織作さんが撮影で大切にしていることは「被写体と対話すること」と、できるだけ「無意識で撮ること」だという。一見、相反する事柄のようだが、織作さんの中では無理なく機能しているのだ。

「ある風景と対面して、シャッターを押す時は、いつか見たなっていう感覚がひとつあります。幼い頃、眼で見て覚えたことが深く自分の中に入っていて、それが呼応した時に撮影しているのだと思います」

 それを感じるためには、被写体との距離感の判断をつけること。特にデジタルになって、シャッターを切ることに懸命になってしまう人が増えているが、「撮る前に被写体と心を通わることが大事」だという。

 織作さんが撮影したフィルムには、ほとんど同じカットがないという。それはデジタルカメラを使っている時でも変わらない。

「言葉にすると論理的に聞こえるけど、とても感覚的なものです。だから撮影に入って気持ちが被写体に集中してしまうと、それ以外のことが眼に入らなくなり、何度も危ない思いをしています」

 会場にスイスのエッシネン湖を撮った1枚があるが、この撮影では、数メートルの崖から湖に転落したという。

「足元をまったく見ないで歩いていたら、突然、足元がすべり、空中に浮いた。服は破れ、全身を擦りむき、傷だらけになりましたが、カメラだけは落とさなかった。バランスを崩した時、『明日から仕事ができなくなる』って思ったんです」

 織作さんの撮影では、こうした怪我や小さな事故は、少なくないそうだ。


織作さんが崖から落ち怪我をした湖。「エッシネン湖夕景」(カンデルシュテッグ・スイス)

自分の中のセンスを生かす

 無意識で撮るというのは、自分の中にあるセンスに従うということだ。

「スタジオ写真でもそうですが、無造作に撮った最初のワンカットが一番良いことが多いんです。構図やデザインを考えて撮っていった写真は、最初の1枚に負けてしまうんですね」

 センスのない人はいないというのが織作さんの考え。それが個性であり、そこに写真の妙があるのだ。

 会場には、川や森、湖など自然の風景や、子どもや老人などのポートレートが並んでいるが、それらに共通した視線が感じられるはずだ。それが一人一人が持つセンスなのだろう。


画面の周囲をパソコン上で、にじませている。モノクロームの味わいをさり気なく引き立たせている。「スークの光線」(フェズ・モロッコ)

今後はテーマを決めた作品制作も

 桜は織作さんが3年前から撮り始めた新しいモチーフだ。女性ならではの感性で、女性性としての桜をとらえたいという。

「いろいろな表情を私にだけ見せてくれる。桜に向かっている時は、被写体が呼んでいるという感覚がいつもあります」

 桜の妖艶な部分を引き出す。これまでの織作さんの世界にはあまりなかった表現だ。

「これまで自由に撮ってきたので、そろそろテーマを決めた作品制作もしていこうと考えています。いくつかプランはありますが、具体的にはまだ決めかねているんです」

 夢の中のイメージを、淡いトーンの花で表現した「DIMENTIONS」は、20年来撮影を続けているシリーズだ。92年に写真展で発表し、94年に写真集としてまとめた。それを今年、新作を加え、大判の限定写真集として組みなおした。定価50万円で、50部はすでに予約済みという。

「6月に金沢21世紀美術館で開く個展では、会場に数十点のこの作品をフロア全体に広げる空間演出を考えています」

 このRING CUBEは、新しいステップに入りつつある織作峰子の世界が垣間見れる空間といえそうだ。

<2009年度織作峰子写真展予定>
◎6月24日(水)~7月12日(日)「DIMENSIONS」金沢21世紀美術館
◎9月4日(金)~10日(木)「MY SWITZERLAND」富士フイルムフォトサロン東京(以降、大阪、福岡、名古屋に巡回)
◎7月30日(木)~8月19日(8月8日~16日は夏期休館)「タイトル未定」オリンパスギャラリー大阪(東京に巡回)
◎10月29日~12月6日「タイトル未定」ハンガリー・ブタペストにて



URL
  RING CUBE
  http://www.ricoh.co.jp/dc/ringcube/index.html
  織作峰子
  http://www.orisaku.com/
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2009/03/13 15:30
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