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本展のディレクター役の市川泰憲さん。GR DIGITALは「フィルム時代のままのデザイン、画角、画質で、違和感なく使えた」という
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グループ展はいろいろあるが、今回のこれはちょっと個性的だ。メンバーはそれぞれ写真のプロであり、全員がリコー・GRシリーズの愛用者だということで結びついた。
仕掛け人は元月刊「写真工業」編集長の市川泰憲さん。「いわゆる業界に関わる人の中で、このカメラを使う人が非常に目に付くようになってきた。その使い方も日常の記録を超えた部分になっていることを感じたので、一度、作品を集めてみたら面白いと思った」と意図を説明する。
参加したのはGR DIGITAL11名と、フィルムカメラのGR21を使う1名の計12名。写真家、新聞社カメラマン、大学教授など、肩書きも仕事もさまざまな人たちが真面目に遊んだ空間だ。
写真展「The Independent GR」はギャラリーメスタージャで開催。会期は2009年2月2日(月)~14日(土)。日曜休館。入場無料。開館時間は13時~19時。最終日は17時まで。所在地は東京都千代田区西神田2-3-5 千栄ビル1F。問合せはTel.03-6666-5500。
※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。
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展示はシンプルに。フレームが1人1人まちまちなのはご愛嬌
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市川さんの作品は「僕の沖縄」。このモチーフは、新宿ゴールデン街のギャラリーバーで何度も作品をお披露目しているが、今回は昨年末撮影の新作も追加されている
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GR DIGITAL II
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GX200
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■ 細江英公さんが初めてデジタルカメラで作品を制作
写真家はカメラを操って、自らの感性でイメージを切り取っていくのだが、その行為の中には、カメラというツールが逆に写真家の感性を刺激している部分もある。GRを使う写真家の話を聞いていると、そのカメラに触発される要素が多いように感じる。
今回のメンバーで、最年長である写真家の細江英公さんは「わたしのロダン」というタイトルで、プリント1点と、写真絵本1冊を出品した。細江さんがGRデジタルに加え、GX200を使い始めたのは昨年9月から。久しぶりに訪れたフランスのロダン美術館で、試し撮りをしたところ、その感触の良さに撮影が進み、限定版の写真絵本の制作と、写真集の出版にまで計画が広がったのだ。
デジタルカメラに関心はあり、何台か持ってはいたが、それで作品を撮る気持ちにはならないでいたという。
「GX200のよいところは、ファインダーが使えること。長くキヤノンの25mmのファインダーを使っていて、それが僕の視角になっているんだ」
使い始めると、1cmまでのマクロ撮影に驚嘆し、そうなるとほぼ際限なく撮り続けられるデジタルの特長が実感として分かった。
「接写した次の瞬間、無限遠が撮れる。デジタルを使っている人にはもう当たり前のことかもしれないが、僕にとってはそれはすごく新鮮で革命的だった」
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細江英公さんは蛇腹型の写真絵本と、プリント1点を展示
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ほかの出展者に撮影モードを尋ねられた細江さんは「感度は何だろう。いずれにしても買ったままで、撮影モードはPだよ」と笑って答えていた
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■ 写真を始めた頃の高揚感が甦った
細江さんは今年76歳を迎える。初めて自分のカメラを手にしたのは60年前のことだ。
「写真を始めた時の自分を思い出した。長く写真をやってきて、今、この高揚感を感じることは、とても得がたい経験だ」
その刺激が「わたしのロダン」を生み、写真絵本、写真集の制作につながった。今回の作品は、ロダンの彫刻をモチーフにして、人間像を表現していく試みだ。
その彫刻は素材にブロンズを使ったものと、大理石のものがあり、表面の色からそれぞれを黒のロダン、白のロダンとしてまとめている。
「カラーで撮ってモノクロでプリントする。僕はモノクロの写真家だからね。モノクロの方が実在感、リアリティがあるんだ」
写真絵本は、和紙に出力した作品を蛇腹のようにつなげたものだ。
「屏風のように立てて眺め、白のロダンは白ワイン、黒のロダンは赤ワインを飲みながら楽しむと最高だよ」と笑う。会場に設置しているのはダミー版なので、自由に手にとって眺められる。
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撮影は9月と11月上旬の2回。普通は撮影できないロダン美術館の室内や、別館であるムードンにある美術館も撮影した
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写真絵本は限定30部を予定。写真集は日本では青幻舎から出版。仏米同時発売を予定
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■ 「撮るのが楽しくなる」感じが写真に出る
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根岸基弘さんは新聞社カメラマンの傍ら、プライベートでも個展を精力的に開いている
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根岸基弘さんは、毎日新聞社で出版写真部に所属するカメラマン。サンデー毎日など雑誌の撮影を行なうほか、プライベートでは夜の女性たちなどのポートレートを制作している。
「生きるエネルギーを感じさせてくれる人に会うと撮りたくなります」と根岸さん。撮影場所は相手のイメージに合わせ、働いている店や、街に出かけて撮ったり、相手の自宅にあがりこむこともある。
今回のSayakaxxさんは、知り合いに紹介されたタレントさん。彼女を撮るのは初めてで、ホテルを借りて、約3時間ほどで撮影した。
展示は6点。彼女を撮りながら、男女のちょっとしたストーリーを想像させる写真だ。
GRはフィルム時代には興味がなく、GR DIGITALを購入。今はGR DIGITAL IIを使う。スナップ用としては、嫌な歪みが少なく、ポートレート用には外部ストロボが使え、フルマニュアルで撮れる点が気に入っているという。
「単焦点だから割り切って撮れる。被写体に対して威圧感が少なく、混雑した場所でも邪魔にならないのがいい。なぜか、撮っていて楽しいカメラなんです。持っていると『可愛いカメラ』といわれるし」
コミュニケーションが潤滑になるメリットは大。それはしっかり写真に写りこんでいるようだ。
■ 作る実感がほしいからフィルムで撮る
唯一、フィルムでの参加は写真家の中島恵美子さん。おもに旅先でのスナップ撮影で、作品制作を行なっている。
「私にとっては旅が第一の目的なので、重い装備は嫌なんです」という。ビッグミニ、オリンパスペン、コンタックスT2、ヘキサーなど主だったコンパクトカメラは使っているが、「まず持ちやすい。使ってみて、作品を作れるという感触が強くあった。右の手のひらに第三の目を手に入れたような錯覚に陥るほど」と絶賛する。
今回、出品したのは2点。1点はロール紙に大きく引き伸ばした。沖縄・竹富島に旅した時のスナップだ。
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この作品を見た少なくない人が「合成?」と感じたほどのシャッターチャンス。展示した1×1.5mの特大プリントは、35mmフィルムから8×10のネガを起こし、そこからプリントしている
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中島恵美子さんはGR21を使用。「シャープさとピントの良さ」もGRの魅力だという
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人里はなれた道を歩いていて、遠くに鳥の群れが日向ぼっこをするようにとまっていた。人が近づいてきたことで飛び立った瞬間、1回だけシャッターを切った。
「何が撮れたか現像するまでわからない。印画紙に浮き上がってきた画像は、期待通りのイメージでした。けれどこれは偶然の出会いで得られたもの。そこが私にとって写真の魅力です」
フィルムを現像し、プリントすることで、旅を改めて体験する。一つ一つの写真に写り込んだ光、空気、雰囲気で一番よいものを選んでいくことが自己確認につながる。
「フィルムからプリントする工程は、私にとって作る実感を得るために欠かせないものなのです」と中島さん。
GRというカメラを通した12の残影。それぞれの世界観を楽しむもよし、一人一人の違いを見比べるのも興味深いはずだ。
■ URL
ギャラリーメスタージャ
http://www.gallerymestalla.co.jp/
細江英公
http://www.eikoh-hosoe.jp/
根岸基弘
http://profile.ameba.jp/negibou/
写真展関連記事バックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/
■ 関連記事
・ リコーGR/GXシリーズを使うフォトジャーナリズム関係者の写真展(2008/12/05)
市井康延 (いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。 |
2009/02/05 16:50
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