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「ランドスケープ 柴田敏雄展」

――写真展リアルタイムレポート


※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





柴田さんは普段、一切カメラを持ち歩かないそうだ。「撮影に出かけると、撮ることに集中します。それは絵画で絵筆を手にしている時に似ている」
 ダムに代表される山間部に展開される大規模な土木工事。柴田敏雄さんはこのフォトジェニックではない被写体を大型カメラで捉え、独自の風景写真を創造した。この写真を目にした人は、普段、環境破壊、自然の美観を損ねる対象としか扱われないこのモチーフに、意外な美しさを発見するはずだ。そして、そこには現代や、その国に生きる人々を物語るファクターが隠されていることに気づくだろう。

 作者はそのテーマを、自ら偶然撮った1枚の写真から発見し、発展させてきた。海外の主要美術館に作品が所蔵され、国内外で多くの個展が開かれてきたが、日本の美術館でその全貌を展観する展示は今回が初めてとなる。なぜ風景を写真に撮るのか。柴田氏のランドスケープは、その一つの解答になっている。

「ランドスケープ 柴田敏雄展」は東京都写真美術館で開催。会期は2008年12月13日(土)~2009年2月8日(日)。月曜(祝日の場合は開館し、翌日休館)および12月29日~09年1月1日は年末年始休館。開館時間は10~18時(木曜、金曜は20時まで。また1月2日~4日は10時30分~18時。いずれも入館は閉館30分前まで)。

 一般700円、学生600円、65歳以上500円。なお1月2日は入館料無料。所在地はJR恵比寿駅東口より徒歩約7分。

 12月23日に作者と写真評論家の飯沢耕太郎氏による講演会、1月2日と3日に作家による新春アーティストトークなど関連イベントも予定。最新情報は同美術館ホームページへ。


写真美術館初の試みである「音声ガイド」(500円)を用意。解説文、ナレーションは作者自身が行なっている。聞けば、より深く作品世界が読み解けるはずだ 柴田さんがこれだけの数の作品を、ここまで大きく伸ばして展示するのは初めてだ。モノクロ作品はすべて柴田さん自身がプリントを行なっている

長辺が1m40cmある特大のプリントを2点(中央の柱に飾られた写真)を展示。レーザー光で銀塩写真印画紙に出力する「ライトジェット」で処理している。それ以外のカラーは通常の銀塩プリントだ


回顧展だがトップは最近作で構成

 会場に入ると、まず最新作のカラー作品が目に飛び込んでくる。「この展示はレトロスペクティブ、回顧展としてやりたいという話でした。普通なら時系列的に並べるけど、僕は今制作しているものをまず見てほしいから、この構成にしました」と柴田さんは説明する。

 70年代から、大型カメラを使ったモノクロームで撮影を行ない、4年ほど前に完全にカラーに切り替えた。

「モノクロは30年以上やってきて、それだけだと、自分を狭めているような気がしてきた。それと印画紙がなくなる懸念もあったから。実際はカラーのほうが早く製品がなくなってきているんだけどね」

 国内ではすでに幅1mを越すカラー印画紙の在庫がなく、今回はこの展示のためにアメリカで印画紙を調達したそうだ。


写真のスタートは26歳になってから

柴田さんはさまざまな種類のレンズを使う。よく使うもので450mm NIKKOR-M 1:9から300mm 、210mm、150mm、120mm 、90mmなどだ
 柴田さんはセザンヌのような絵画を描きたくて、東京藝術大学に入学したが、大学では途中から版画やシルクスクリーンに興味が移った。

「学生運動で1年間、学校が封鎖された。それまで教室でずっと絵を描いていたのが、外で違うものを見るきっかけになったわけです」

 そこで映画や映像への興味も生まれ、就職先は映画会社を選んだ。映画監督の口はなく、広告を制作する東映シーエムに入社する。

「楽しかったんだけど、勤務時間があまりにも不規則で、それに耐えられなくなった」

 海外に行きたくなり、知り合いからベルギーが国費で留学生を募集していることを知る。

「5人募集していて、応募者は3人だったんです。その年、留学先の王立アカデミーに写真学科が新設され、学校側からそこへの入学を奨められた」

 1975年当時は、写真は雑誌など印刷媒体に使うもので、アート作品との認識はまだない。故に写真作家などという概念もできていない時代だ。

「日本では荒木経惟さん、森山大道さんが注目され始めた頃で、自分が写真をやるとはまったく思っていませんでした。それが写真は外に出かける作業が多い。それまで室内での作業ばかりだったので、とても新鮮で面白かったんです」


アンセル・アダムスのオリジナルプリントと出会う

 決定的だったのは、留学4年目にパリのギャラリーで写真展「アメリカンウエスト」を見たことだ。アンセル・アダムスをはじめとする作家の風景写真を扱ったもので、そこで初めて大型カメラで撮った写真作品を目の当たりにした。
「写真集では見ていましたが、オリジナルプリントは初めて。そこではギャラリー下の倉庫で、いろいろな作家のオリジナルプリントを見せてくれてね」

 そこにはジョエル・マイロウィッツの『ケープライト』もあって、それはどこにでもありそうな絹目のペーパーにプリントされていた。絵画やシルクスクリーンは特殊な素材を使うのが当たり前だったが、「頭の切り替え次第で、どこにでもある材料を使って作品が作れる。その事実がショックでしたね」と話す。

 技巧がまず第一に重視される絵画に対し、「考え方を表現するのが写真」。独学でアンセル・アダムスが提唱した撮影技法『ゾーンシステム』を習得しながら、4×5の大型カメラによる撮影に取り組んでいった。


何を撮ればいいのか、模索し続け……

神奈川県愛甲郡清川村宮ヶ瀬 1983
この1枚がある意味、柴田さんの原点となる

 写真を撮り始めて、最初は何を撮っていけばよいのかが見つからない。留学も5年目に入ったことで、帰国を決めた。以前の会社のつながりで、一時広告制作会社に属し、すぐにフリーになる。広告など撮影の仕事をこなしながら、作品制作を行なう日々は10年以上続いた。

「日本の現象、現実を表すもので、オリジナリティがある表現を探していた。人がやっていないことでないと意味がないと思っていました」

 高速道路を通った時、海外のそれと外観が似通っていたことが気になり、夜の高速道路を最初のシリーズとして数年撮り続けた。

 それと平行して、風景を撮影していた時、偶然シャッターを切った1枚にヒントを見つけた。それが上の写真だ。

「道の脇に詰まれた土が、生き物のように見えて気になったんですね。このプリントを見て、自然の中にある建造物の面白さに目が行くようになりました」

 美しい風景を撮影しようとすると、電線など邪魔な被写体が画面に入ってしまうことがある。絵画なら描かなければいいが、写真はありのままを写しこむもの。であれば、その邪魔だと思うものを撮っていけばいい。そう発想を転換したのだ。

 柴田さんはダムをモチーフにした作品が有名だが、このテーマを撮り始めても10年ほどは自分の中でダムを明確に意識していなかったという。
「ダムに向かって、整備された道が作られ、私が求める被写体が発見できる。初めは撮影地の目標としてダムを考えていました」


神奈川県 鮎沢パーキングエリア 1986
夜の高速道路のシリーズは1981年から86年頃まで撮影

撮影はワンシーンでワンカット

 88年からは8×10のエボニーSV810にカメラを換えた。撮影はひとつのシーンで、ほとんどワンカットしか撮らないという。

「フィルム交換も大変だし、現像作業に手間がかかるから、何枚も撮れませんよ」と笑う。それでも作品として発表できるのは、撮影した中の「5%、いや1%くらいしかないかな」というレベルだ。

 撮る時にいいなと思って撮った写真は、意外と面白くないことが多いそうだ。

 90年、東京都写真美術館が一次開館し、各国のキュレーターを集めた記念シンポジウムが開かれ、そこで作品をプレゼンテーションする機会に恵まれた。そこでニューヨーク近代美術館での新人写真家展「ニューフォトグラフィー8」に招かれたほか、アメリカでの作品制作の依頼を受けた。

「日本で見つけていたような風景がなく、そこでダムというモチーフに気づきました。この巨大な建造物にもそれぞれ日本的な部分と、アメリカ的な部分が見えてくる。一番の違いは湿度で、アメリカのダムは特に引いて撮ると、非常に乾いた光景になります」


Grand Coulee Dam,Douglas County,WA 1996
ダムの上から下を覗いた眺めに、それまで知っていたアメリカの景観と違う空間を感じた

カラーで撮り始めたら、初心者のように写真が楽しい

 カラーで撮り始めてから、被写体とする範囲がぐんと広がったという。モノクロはコントラストと形を重視して撮るが、カラーはそれ以外の要素も写し込むことができるからだ。

「カラーを始めた当初は、同じカットをモノクロとカラーで撮っていました。それまで見落としていた風景が見られるようになり、いつしかカラーだけで撮るようになりましたね。今は、写真を始めた頃のように撮影が新鮮で楽しいのです」

 写真家は撮影でまず現場を体験し、プリントにして、肉眼とは違った視点をもって、追体験していく。そこで、その場では気づかなかった風景の意味を発見するのだ。圧倒的なスケール感を持ち、秀逸なスナップショットのような味わい深さのある柴田敏雄のランドスケープは、大型のオリジナルプリントでこそ、真の魅力が伝わってくる。


栃木県日光市 2007


URL
  柴田敏雄
  http://www.02.246.ne.jp/~shi810/
  東京都写真美術館
  http://www.syabi.com/details/shibata.html
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/12/17 00:27
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