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大橋愛写真展「UNCHAINED」

――写真展リアルタイムレポート


※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





作品制作はハッセルブラッド、仕事ではおもにEOS-1Ds Mark IIIを使う。「カメラに頼っているので、最先端の製品を使うんです」と笑うが、実は伊奈英次氏仕込みの撮影技術を身につけているのだ
 大橋愛さんは今の若手写真家の中で、ユニークな立ち位置をとっている作家だと思う。広告、雑誌で活動しながら、作家活動も行ない、なおかつ昨年のフォトイメージングエキスポ2007では、エプソンブースで講師も務めた。現在は、彼女が出演している三菱自動車のテレビCM(パジェロミニ)が放映中だ。蜷川実花さん、長島有里枝さんらと同世代で、本人曰く「若手女性写真家ブームに乗り遅れた一人」と笑う。4年ぶりとなる個展のタイトルは「UNCHAINED」。知らず知らず何かに縛られていた心を解き放ってくれる光景が綴られている。

 大橋愛写真展「UNCHAINED」はフォイル・ギャラリーで開催。会期は2008年11月28日(金)~12月25日(木)。会期中無休。開廊時間は12~19時(日曜・祝日は18時まで)。入場無料。ギャラリーの所在地は都営新宿線・馬喰横山駅A1出口より徒歩2分、東京メトロ日比谷線・小伝馬町駅2番・4番出口より徒歩6分、 JR総武線各駅停車・浅草橋駅西口より徒歩8分。

 また、大橋さんは12月13日(土)にエプサイトでPhotographer’s WORKSHOPを開催。素敵なポートレート写真を撮るための撮影&プリント教室だ。


フォイル・ギャラリーは昨年9月にオープン。繊維問屋の多い東神田のビル2階にある。JR神田駅からも徒歩10分ほどでつく 会場の入り口にはカウンターがあり、書棚では写真集や雑誌を販売している

長く飾っていられる1枚を目指し

 大橋さんが作りたい究極のイメージは、部屋にずっと飾っていられる1枚だ。日々、変わる気持ちで見てもそれを受け止められるもの、季節や年齢を重ねることで、違う見え方ができるものが理想だという。
「最初の印象はきれいでもいい。けれどそれだけで終わらない余韻を響かせたい」

 そのひとつの形として、今回は世界各地の美しい風景にシャボン玉を飛ばして撮影した。ロケ地は東京、夕張、ケルン、セントルイス、ニューヨーク……。

 会場のひとつの壁面には、ドイツ、セントルイス、夕張、白金で撮った風景が違和感なく並んでいる。


以前の「longe daqui」の時より、シャボン玉の存在、輪郭が淡く、周囲に溶け込んでいっている

共通の感動や感情を探り当てるために

 シャボン玉をモチーフにしたのは、2002年に発表した「longe daqui(ロンジダキ)」からだ。大橋さんはその作品シリーズについて触れた一文で、「ロマンチックが作りたかった」と書き、その意図をこう説明している。

「ロマンチックなんて世の中のなんの役にも立たないかもしれないけれど、人々の共通の感動や感情には少し触れることができる」

 わかりにくい写真は作りたくないので、誰もが知っている明確なモチーフを使って撮ることにした。それが木であり、空、雲、それに光とシャボン玉を乗せた。
「撮ったのは1998年。強い光がほしいと思っていたところに、叔父が暮らすブラジルに遊びに行く機会がありました。その3週間の滞在中、1週間で撮りました」

 それは南の国の色と光を背景にした、ポップで、ちょっとメルヘンチックなイメージだ。


屋久島の風景を見てコンセプトが固まった

会場にキャプションはなく、各地で撮影された写真が並べられている
 大橋さんが作品を制作する時、まずはコンセプトを決め、撮影地を調べたうえで、実際の撮影にとりかかる。その時、大橋さんの頭には撮るべき絵が浮かんでいるという。

「絵が描けないから、その場所に行って撮るんです」と言って笑う。

 ただ今回のシリーズは最初、違う形で撮り始められ、それはお蔵入りになった。世界のモニュメント(記念碑)と、シャボン玉をあわせることで、おもちゃの『スノードーム』を模したイメージを作ろうと思ったのだ。

「実際、自由の女神やエッフェル塔の前でシャボン玉を飛ばして撮ってみました。その時、達成感はあったけど、写し終えたらそこで止まってしまった」
 ある時、屋久杉を撮る仕事があって、屋久島に行くと、そこで求めていた風景を見つけ、作品のコンセプトが明瞭に感じられた。

「きれいなだけでは、それ以上、想像力をかきたてることはできない。人間の中にある暗部、世の中の闇の部分を加えることで、美しさも増すし、イメージに広がりが生まれるのだと思います」
 屋久島にそのモチーフを発見した大橋さんは、仕事やプライベートで訪れた場所で、イメージに合った光と影のある風景を見つけ、撮影していけるようになった。


ロケ現場では観光客も一緒に撮影

 この記事の最初に大橋さんを写した写真を掲載しているが、その後ろに展示された作品は、四川省の九寨溝にある沼で撮ったものだ。深い森の中で、頭上の限られた一角から光が水面に差し込んでいた。 沼から周囲に光が放たれているように見えるが、それは沼に向かって浮遊するシャボン玉が水面に反射した光を受けたものだ。

「光の中心にはもっとたくさんのシャボン玉が集まって、漂っていましたが、光に溶けて写真には写っていません。写真より現場の方がもっときれいなんですよ。だから、この時も撮影中、観光客が集まってきて、写真を撮っていました。余裕があれば撮り方も教えてあげるので、私のロケ現場は盛り上がることが多いんですよ」

 ひとつのシーンにかける時間は長めだといい、この時で4~5本(使用カメラはハッセルブラッドなので1本が12枚撮り)撮影している。

 このほか2006年にはバドワイザーの仕事でドイツのワールドカップに行き、2007年10月には「フォトジェニックポイントin夕張」に参加し、それぞれ仕事の合間に作品を撮りためていった。


新作の制作も始まる

 このシリーズでは同名の写真集も発売されている。そこで「空間の中にアクセントを入れたいので、子どもとセルフポートレートも入れました」。
 ロマンチックからスタートしたシャボン玉は、そのカタチや光の色を変え、深みを増した。
「多少、人間の感情や機微がわかる年頃になったので、これからは内なるものを表現していきたい。まだ誰にも見せていませんが、次の作品は撮り始めています」

 大橋愛の世界はこれからどう深化していくか。まずはこの空間で、自らの魂を自由に解き放とう。


モチーフもさまざまな広がりを見せている





URL
  大橋愛
  http://eye-ohashi.com/
  フォイル・ギャラリー
  http://www.foiltokyo.com/
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/12/10 13:03
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