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永沼敦子写真展「虹の上の森」

――写真展リアルタイムレポート


※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





学校に入って、初めて写真表現の世界を知りました」と永沼さん。何も知らなかった彼女だが「写真家としてやっていけるという根拠のない自信はありました(笑)」
 永沼さんは2001年、東京綜合写真専門学校2年生の時、遊び感覚で購入したコンパクトデジタルカメラが面白くて、それ以来、コンパクトデジタルカメラで作品制作を続けてきた。選んだのは液晶モニターが自由に回転させられるタイプで、これだと「カメラが指先のようになる」という。

 2003年には、電車内の光景を自在なアングルで切り取った写真展「にせものトレイン」で、コニカミノルタプラザのフォト・プレミオ特別賞を受賞した。今回のシリーズは2005年から制作を行ってきた新作で、撮影場所は日本国内の山。単なるスナップではなく、もちろんランドスケープでもない不思議な光景が広がる。

 永沼敦子写真展「虹の上の森」は新宿ニコンサロンで開催。会期は2008年11月25日~12月1日。会期中無休。開館時間は10~19時(最終日は16時まで)。入場無料。ギャラリーの所在地は新宿駅西口から徒歩3分。

 11月29日13時から14時まで、作者によるギャラリートークを行なう。参加無料。予約不要。


撮影は偶然から始まった


何に見えるでしょうか。正解は「強風にあおられた女性の髪の毛」。撮られた本人は「馬の尻尾」だと思ったとか

 このシリーズを撮り始めたきっかけは、たまたま行った福島県の五色沼がきれいだったからだという。火山活動でできたカルデラ湖の風景に、どこか違う世界につながるイメージを感じたのだ。

「昔の日本に色濃くあったアニミズム、自然崇拝の気配を感じたというか、気持ちが少しザワザワッとする風景があったんですよね」

 そこから『火山でできあがっている風景』に興味を持ち、気になる山に登って撮り始めた。永沼さんがこれまで撮影してきたシリーズの撮影地はほとんどが街の中だった。

「5年間くらい、ずっと電車の中で撮っていたので、その反動ですかね。ハエが窓から飛び出したみたい」と笑う。

 ひとつ撮影を行なうと、次はどういう風景がほしいか、漠然とだがイメージが湧いてくるという。山の本を読んで、それに合った場所を探し、仕事の合間に撮影に行く。

「だいたい20カ所は登りました。そのうち富士山は5回くらい行っています」

 富士山に霊山としての魅力を感じたのかと思いきや、そういうものはまったくなく「あんなに高い所に、ものすごくたくさんの人が登っていることが面白いという。

「行く前に抱いていたイメージはたいてい、裏切られます。どこの山も登山道があまりにも整備されていて、キレイすぎなんですよね」

 だが、その風景の中に、彼女が心惹かれる光景が潜んでいるのだ。


最初の1枚に出てくる女性と、「馬の尻尾」は同一人物。その女性とは、本連載の2008年1月10日に登場した佐々木加奈子さん。永沼さんのお友達の一人です プリントはエプソンの PX-7000で出力。そのプリンタは2003 年、コニカミノルタプラザでの個展を行う時に購入したものだ

被写体の先を読む感覚


この撮影場所は箱根の小涌谷。何の作業をしているのか、作者にも分からない。ヨコ位置にしたことで、より不思議さが増している

 永沼さんの撮影方法は独特だ。通常のようにファインダーをのぞいて撮ることはなく、スタンダードポジションは胸のあたりで、液晶モニターを上向きにして撮影する。

「液晶モニターが回転するコンデジは、二眼レフのローライやハッセルのような感覚で撮れるのがいい」という。

 その構えだと「周囲の動きが把握できるような気がする。被写体の先を読む感覚が生まれて、そこが面白い」のだ。一眼レフは「周りの雰囲気が捉えにくい」ことで出番がない。

「撮影に、持ってはいっています。仕事での撮影はデジタル一眼レフを使っていますし。今回、1点だけ一眼レフで撮ったものを入れています」

 カメラを構える位置は被写体によって自由に変えたりするが、ノーファインダーで撮ることはないという。

 現在の使用機種は600万画素のニコンCOOLPIX S10と、1,210万画素のキヤノンPowerShot A650 IS。その使い分けは、その日、着ている洋服のポケットに入るかどうかによるそうだ。


デジタルカメラを使ってすぐ手応えを感じた


女性の肩をじっくり見ると、肌のきめや後れ毛がクリアに再現されている。それをじっと見ていると……

 永沼さんが最初に使ったコンパクトデジタルカメラは300万画素クラスだった。

「プリントのクオリティがどうこうは考えなかった。それより自分のイメージの撮りやすさや、いろいろな表現ができそうな感じがして、使ってみた時、これだっていう確信があった」と話す。そのあとで、まったく根拠のない手応えなんですけどねと笑いながら付け加える。

 その頃(ほんの7年前のことなのだが)はまだまだ銀塩が主流であり、学校ではデジタルカメラの使用には否定的だった。

「インクジェットプリントを提出すると、『こんなの写真じゃない』ってぽんと投げられたこともあります(笑)」

 さらにカメラを自在に操り、撮影するフレーミングには「こういう撮り方は銀塩写真を5年くらいやってからやるものだ」と叱られたそうだ。

 ただ永沼さんのカメラアングルは、1年生の時から個性的だったようで、担当講師の新倉孝雄さんに最初から「君はシャッターを押すだけで、映像がついてくるのでそのままやっていけばいいですよ」と言われていたそうだ。その個性がデジタルカメラを得て、さらに磨きがかかったといえるだろう。

「私自身は、どこがどういいのか。新倉さんに言っていただいたことが、いまだに理解できていないんですけどね」と永沼さんはいうのだが。


いつも今回で最後の制作だと思う

 永沼さんが思い描く作品世界は「ドキュメンタリーでもなく、厳かな風景でもない。ファンタジーの要素が入った作品が作れないかと思います」という。ここでいうファンタジーとは、『日常とは違う何か』という幅広い意味を持つようだ。

「いつまで写真を続けるんだろうと思いながら、面白いものと出会うと、撮らざるを得なくなってしまう。今回は山に登ったけれど、次は海に潜っているかもしれない。今回の撮影をしたことで、海や川、湖を違った感じで表現したいと考えています」

 デジタルカメラは永沼さんの中に潜んでいた感性を刺激し、これまでの方法論とはまったく違う一瞬を切り取らせようとしている。これこそ、デジタルがもたらす表現の一つなのだと、話を聞いていて静かに確信してしまったのだ。







URL
  永沼敦子
  http://www.anore24.com/
  新宿ニコンサロン
  http://www.nikon-image.com/jpn/activity/salon/
  写真展関連記事バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/exib_backnumber/



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/11/27 00:19
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