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谷角靖写真展「Screen of the Earth -US National Parks-」

――写真展リアルタイムレポート

アリゾナ州・ バーミリオンクリフにあるウェーブ。自然が生み出した造形美だ。このエリアへの入場は、環境保護のため1日10人に限定されている

※写真、記事、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は固くお断りします。





谷角さんが写真を撮り始めたのは26歳から。その後はまったくの独学で学んでいった
 谷角さんは「30歳までは好きなことをやろう」と考え、カナダに渡り、そこでオーロラに出会った。その美しさに感動し、素直な衝動から写真を撮り始めた。以降、写真はまったくの独学だ。オーロラが出ない夏に、一度は見ておこうと出かけたアメリカの大自然に惹きつけられた。

 「写真は引き算だと言いますが、アメリカの自然を見ていると僕は足し算だとしか思えません。とにかく壮大に広がる自然をどこまでも写しこみたくなります」という。彼は大判カメラで北米の大自然の重量感を捉え、人間の視角をはるかに越えたデジタルカメラによるパノラマ写真が広大なスケールを伝える。

 谷角靖写真展「Screen of the Earth -US National Parks-」は新宿ニコンサロンで開催。会期は2008年11月4日(火)~10日(月)。会期中無休。開館時間は10~19時(最終日は16時まで)。入場無料。ギャラリーの所在地は新宿駅西口から徒歩3分。

 11月8日(土)13時から14時まで、作者によるギャラリートークを行なう。参加無料。予約不要。また作者は毎日ギャラリーに在廊予定。


撮影の年間走行距離は2万5,000km

撮影地帯を氷河、山岳、乾燥地帯など6つに分けて展示
 谷角さんは現在、冬はカナダに住み、暖かい時期はアメリカ合衆国をピックアップトラックを運転して1人で旅している。日本に帰るのは2~3カ月で、その生活を5年続けている。

 撮影旅行では都市部には行かないので、日々、北米大陸の大自然に向き合っている。

「カナダではホワイトホースが拠点。ここで冬はオーロラを撮影するほか、オーロラツアーのガイドをしています。夏、アメリカ合衆国を回りカナダに戻ると、走行距離は2万5,000kmを超えていますね」と笑う。

 上の2点はカナダとアラスカの間にある氷河地帯で撮影したもの。この氷河は南極を除けば世界最大の規模で、道路はなく、空からか、海を渡っていくしかない。

 最初の1枚は、入江からカヤックで1週間ほどかかる場所にある。転覆したら、まず助からない水温だ。

「迎えに来てくれた船に戻ると、帰りは大時化で外洋は7m近い高波でした。1日遅れていたらと思うと、ぞっとします」

 次の1枚は、セスナからの空撮だ。彼が制作しているパノラマ写真は、デジタルカメラで撮影した3~7カットをつなぎ合わせたもの。この写真も手持ちで3カットをつないだものだ。

「撮影の時はスピードを落としてもらいます。それでも180kmぐらいは出ていますが」

 これが何度見返しても、キレイにつながっていて、ワンショットで撮影した写真にしか見えないのだ。


カナダとアラスカに横たわる氷河地帯。船が入れない入江で、ここまでカヤックで1週間かかる この視点は大河の中央からのもの。セスナでの空撮。手持ちで横に3カットスライドさせてパノラマ画面を作っているのだ

きっかけは不動産のウェブサイト

大判カメラによる写真の出力は銀塩方式のRPプリントで、デジタルパノラマ写真はラムダ。色調の違和感はない。じっくり見ると、描写はデジタルパノラマの方がシャープで硬めだ
 パノラマ撮影を始めたきっかけは、カナダで家を探そうとインターネットで不動産を見たことだ。

「物件がパノラマ写真で表示され、それがまったくつなぎ目のないキレイな映像だったんです」

 興味を惹かれ、その会社に電話を入れ、どうやって作ったのか聞いてみると、パノラマ写真を作る専用のソフトウェアがあるという。

「調べてみると、アメリカ製でいくつも出ていて、その中で自分にあったものを選びました」

 撮影は4×5か、6×9のフィルムカメラで行なっていたので、パノラマもフィルムでと思ったが、カメラが高い。

「デジタルカメラは2003年頃からニコンD100を最初に使い始めましたが、30秒程度の長時間露光が必要なオーロラ撮影には、ノイズが出てしまい、まだ実用的ではなかった。D200から使えるようになり、2006年からパノラマ撮影を始めました。今使っているD3はISO6400でキレイな映像が撮れるので、撮影範囲が広がりましたね」

 撮影には総重量がおよそ10kg程ある、パノラマ撮影用三脚と雲台を使い、正確に水平を合わせる。水準器は建築用のものを購入した。ほんの少しのズレでも6~7カット撮ると、大きな狂いが生じるからだ。

「できるだけ大きな画素数で撮りたいので、タテ位置で撮影します。レンズは20mmを使うことが多いですが、画角により、動かす角度を変えます。だいたい画面の10~30%ぐらいが重なるように撮っていきます」

 今回展示されているなかにも、270度のパノラマ写真がある。人間の視角を越えた世界だ。


イエローストーン国立公園。デジタルカメラでの撮影だが、撮影中、うまく撮れたかの確認はできない。「フィルムカメラのような緊張感があります」と谷角さん

ユタ州にあるキャニオンランド国立公園。長年にわたる川と風の浸食で作り上げられた光景

空撮、手持ちで3カットのパノラマ撮影

額装はアルポリックを選んだ。パノラマプリントは横1m20cm、大判カメラの写真は90cm
 空撮の手持ち撮影は練習の賜物だという。自分でチャーターしたり、ガイドとして搭乗することもあり、この光景は何度となく撮影してきた。

「最初はまったく使い物になりませんでしたが、繰り返し撮っていくうちに、うまくつながる写真が撮れるようになりました。だいたい1時間のフライトで400カットは撮りますね」

 谷角さんは努力の人であることは間違いない。たとえば最初にオーロラを撮り始めた時も、適正な露出とシャッタースピードを学ぶため、全カットのデータを記録した。「今はオーロラを見れば適正な数値が分かります」というほどだ。

 オーロラを中判カメラで撮影し始めた時も、平均でマイナス20~25℃という屋外でフィルム交換をしなければならない。手袋を外したら、15秒程度で寒さで手が動かなくなる。

「満月やかなり明るいオーロラ以外は、闇の中での作業になります。だから時間を作って、部屋の明かりを消して、15秒でフィルム交換ができるように、何度も練習をしました」






今後は北米以外の大自然へ

 今後、撮影フィールドは世界に広げていく考えだという。最近、初めてフィンランド、ノルウェーを撮影し、手応えをつかんできたところだ。

「フィルムの色が好きなので、まだまだ併用して撮っていきます」

 2003年、初めての写真展「オーロラの世界」を新宿ニコンサロンで開き、写真家としての道が開けた。今回、北米大陸の風景を初めて発表するにあたり、谷角さんの中では風景写真家として再スタートする意気込みだという。

「だから、今回は是が非でもニコンサロンでやりかたったんです」と話す。今後の活躍が楽しみな若手風景写真家の登場だ。




URL
  谷角靖
  http://www.yasushi-products.com/
  新宿ニコンサロン
  http://www.nikon-image.com/jpn/activity/salon/exhibition/2008/11_shinjyuku-1.htm



市井康延
(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。灯台下暗しを実感する今日この頃。なぜって、新宿のブランドショップBEAMS JAPANをご存知ですよね。この6階にギャラリーがあり、コンスタントに写真展を開いているのです。それもオープンは8年前。ということで情報のチェックは大切です。写真展めぐりの前には東京フォト散歩( http://photosanpo.hp.infoseek.co.jp/ )をご覧ください。開催情報もお気軽にお寄せください。

2008/11/06 20:02
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