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【インタビュー】 オリンパス E-300開発陣に聞く

〜E-300はなぜ冒険できたのか

 オリンパスの初心者向けデジタル一眼レフカメラ「E-300」は、ペンタプリズムを廃した特異な外観、レンズ込みで10万円を切る実売価格などで話題を呼んでいる。もちろん同社が提唱するデジタル一眼レフ専用規格「フォーサーズシステム」に準拠し、同社得意のダストリダクションシステムも搭載する。

 E-300開発陣に、山田久美夫氏が開発の苦労話やオリンパスEシステムの将来についてインタビューした。なお本稿は、2004年11月22日に行なわれた山田久美夫氏によるインタビューを、編集部が再構成したものである。

●参加者(敬称略)
映像商品企画部 松澤 良紀
映像開発本部 BCT開発部 濱田正晴
映像開発本部 BCT開発部 岩瀬 滋
映像開発本部 映像光学開発部 高頭 英泰
映像開発本部 映像開発部 豊田哲也
デザイン本部 漆畑 睦


左から漆畑氏、松澤氏、岩瀬氏 左から高頭氏、豊田氏、濱田氏

目標は「誰にでも使ってもらえるデジタル一眼レフ」

−−実際に使ってみたところ、E-300はエントリークラスとしては完成度が高くいろいろな工夫がされています。これだけ作り込んであるものが、なぜこの値段で売れるのでしょうか。

松澤 フォーサーズシステムという新しいシステムを普及させるためには、数を出してどんどん使ってもらわなければなりません。だから、当初から安く出すつもりでした。

 ただ、どのくらい安くできるかはわかりませんでした。10月末に工場を含めて収益をギリギリまで検討して、思いっ切りやろうということになりました。

 低価格ですが、「ハードルの低い本物」にしようと話し合っていましたので、カメラとしての本物感にはこだわっています。

 もうひとつ、開発者自身が気軽に買えるデジタル一眼レフを作りたいと。E-1ではさすがに気軽というには少し高すぎますから(笑)


E-1
−−フォーサーズシステムを買う場合は、レンズも新規に買わなければならないのが最大の弱みですが。

松澤 できるだけ多くのお客様にデジタル専用設計のレンズとボディのセットをお試しいただきたいという思いで、レンズキットという形で発売させていただいています。

−−フォーサーズシステムはもともと「低価格かつ高性能でデジタルに特化する」というコンセプトで脚光を浴びたと理解しています。本来は、E-300のような低価格機がフォーサーズシステムの第1弾で出るべきではなかったでしょうか。

松澤 コンパクトカメラでは市場の評価をいただいていますから、普通はコンシューマー向け製品からのほうが入りやすいといえます。しかし、オリンパスはシステム一眼レフカメラ市場でかなりのブランクがあります。その空白を埋めるために、目標を高くしました。オリンパスの本気を示すために、一番上のクラスのE-1から入ったのです。

 また、E-300はデザインで冒険していますが、これはトラディショナルなデザインのE-1があったからできたことです。最初から冒険していたら本気でないと思われてしまいます。デジタル一眼にアプローチする姿勢を、E-1で示せたと考えています。


E-300のデザインコンセプト

−−E-300のデザインは、もともとどういうところからきたものなのでしょうか?

漆畑 デザインのルーツはいろいろなところから来ています。E-10、E-1を継承した部分もありますが、カメラだけ見てデザインしたわけではありません。家電やハイエンドオーディオなどの世界を含めたものがルーツといえます。「高性能な本物の静止画をきれいに撮れる機械」が開発陣の合言葉でした。だから、最初から「カメラ」というわけではありませんでした。

−−一眼の象徴であるペンタプリズムが無いのは賛否両論ですが、デザイナーのこだわりはどうでしょう。

漆畑 E-300に関しては、“好きなようにやって良い”と上司から言われていました。E-1がしっかりしたカメラだったから“暴れる”ことができました。E-1があったから、ペンタプリズムを取り払えたのだといえます。

 賛否両論はウェルカムです。チャレンジャーは“泣かず飛ばず”が一番怖いので、市場で揉まれるのは狙い通りです。それがこだわりと言えます。

 ただ、ペンタプリズムを取ってしまったことで、トラディショナルなデザインのデジタル一眼がやっている、薄さの表現などができなくなってしまったのが残念なところです。が、これについても最大限工夫しました。

松澤 将来一眼レフがどうなっていくかを考えると、ペンタプリズムがあり続けるかどうかわかりません。今はEVFがペンタプリズムを置き換えるまでにはなっていませんが、EVFになって、ペンタプリズムがないのが一般的になったときは「E-300のマネだ」と言われたいので(笑)、先手を打ちました。

岩瀬  我々もペンタプリズムを無くすことには違和感がありました。かなり冒険でしたが、実際に使ってみるとかばんの中にしまったときや、出し入れがしやすくて便利です。


ファインダー構造と内蔵ストロボの秘密

E-300(右)の内部。左手前から奥へCCD、ファインダー部、ボディのフレーム

ファインダー部。右側が接眼レンズ

ファインダー部。前方から
−−光学ファインダは私も必須では無いと思っています。ファインダーに起因する、35mmと同じ不便さを抱えることになりますから。将来はEVFのクオリティが向上し、十分実用になる時代が来ると思います。E-300はEVF時代を先取りしたデザインで、よくできていると思います。

松澤 ただ、実現にはファインダーやメカの担当が苦労しました。

岩瀬  ファインダー構造はいろんな方式を検討しました。
 もともとの一眼レフの形は35mmの画面サイズがあり、フィルムがあり、それをよけながらファインダーや巻き上げ機構を配置するという制約で決まったものです。デジタルではこうした制約がなく、ベストのレイアウトを模索しました。製品になった方法以外にもいろいろな方法がありました。この中で、全体のフォルムとの兼ね合いで、現在の形に決まりました。

−−特に苦労した部分はどこですか?

岩瀬  通常、ミラーは短辺方向に畳むのですが、E-300ではミラーを横に向けて、長辺方向に畳んでいます。こうするとスペース側に苦しいので、機構を工夫して2段階に畳むようにしました。これは普通のカメラのミラーボックスよりは複雑な機構で、かつ安く大量に作らなければならないので、苦労しました。

高頭  ペンタ部をなくすという前提のため、ペンタプリズムをボディ内に折りたたむ必要がありました。まず思いついたのがコンパクトカメラでよくあるファインダーの折り方で、E-300はこれを採用しています。

 また、ペンタダハプリズムというのはコンパクトでリーズナブルにできているので、さらに小さくしたり、なくすことはできませんでした。光学的には折るスペースさえあればポロタイプでもいけるのですが、通常のミラーですとやはり上にペンタ部が出てしまいます。そこでメカの担当者にミラーを横にしてもらいました。

 しかしコストの観点からプリズムが使えず、ミラーを使うことになりました。ミラーでは光路長が長くなるので苦労しました。

−−ミラーですが、ファインダーの見えがいいですね。

高頭  E-1より悪くならないという方向で、マットを含めトータルな性能を確保しました。むしろE-1よりよくなっているところもあるくらいです。E-1で指摘されていたことは改善しましたから。

岩瀬  せっかくファインダーを付けているのに、見えが悪ければ意味がありません。見えはゆずれないところです。

−−ただ、視野率が狭いのが残念です。

松澤 視野率を確保しようとすると、ダイレクトにボディの高さにひびきます。性能を確保するためには、ミラーをすべて大きくしなければなりません。

漆畑 ファインダーの上にアクセサリシューなどが載っていますが、ここにいろいろなアクセサリを載せるためには、この部分の強度も譲れません。そうすると、高さが倍倍で増えていってしまいます。

松澤 視野率に関しては、これからも工夫していきます。


−−内蔵フラッシュがこのクラスにしては高く上がりますね。

松澤 E-300は背が低いために、普通のフラッシュではレンズにけられてしまい、1.5mとか2mまでしか届かなくなります。どうしても1mまではけられないフラッシュにしたかった。そのためにスライドしながらポップアップする機構を考えました。これは、ファインダーの次に苦労したところです。

漆畑 CADによる図面を見たら、無理だと思うような機構でした。手で内蔵フラッシュを持っても大丈夫、という強度も確保しているから、本当に大変でした。華奢なつくりにしておけば簡単だったのですが。

岩瀬  ストロボのポップアップは何数類も機構を考えました。パンタグラフ型とかシグマ型とか。

松澤 ガイドナンバーも競合製品に負けないようにしましたし、前から見たときにフラッシュ内部の金属部品や基板などが見えないようなたたずまいにも気を使いました。ポップアップしたときの音にもこだわりました。最初はカキーンという安っぽい音だったんですが。

−−E-300は全体に音がいいですね。

松澤 デジタルカメラですから当然巻き上げモーターは入っていませんが、シャッターチャージ音が巻き上げ音のように聞こえるんです。「この効果音はオフにできないのか」とPhotokinaで言われました。

濱田 今のカメラの音は、ミラーの音が支配的なのが一般的ですが、このカメラはミラーの音が小さいので、音にはこだわりました。


ダストリダクションは譲れない

E-300の基板。右側の丸い部分がCCDで、その上にダストリダクションユニットが載っている
−−ダストリダクション機構はE-1と同じということですが。

松澤 そうです。コストはかかりますが、譲れないところでした。ダストリダクション搭載は、最初のコンセプトの段階からの条件でした。

濱田 レンズマウントを金属にすることで、ダストリダクションを2重に完璧にしました。プラスチックマウントよりもレンズ交換時に発生するダストを減らしました。

 ユーザーのことをきちっと考えていないと、デジタル100%とは言えません。ダストリダクションシステムがユーザーに支持されることは、E-1の経験で裏づけが取れていました。
−−これまでデジタル一眼レフを使ったことがない人には、ダストリダクションがなぜ必要なのかわからないのが難点です。むしろデジタル一眼レフ経験者にとって魅力的かもしれません。

松澤 なんの心配もせずに使ってもらえるカメラなのですが、そこはアピールしにくいポイントですから、いくつか工夫しています。
 たとえばダストリダクションは電源を入れても音がしないし、動いているのかどうかよくわからない。9月の日程ギリギリのところで、「ダストリダクションが動作しているときに光るランプをつよう」と提案されました。

濱田 あまりにスケジュールがないので、背面液晶に表示するという案もありましたが、どうせ付けるならと青LEDにしました。

漆畑 最後のほうでインターフェイスの大改造もしました。メーカーの押し付けでないように、ボタンの配置、メニューのグラフィックなどを変えました。

松澤 実は、メニューの中のカメラアイコンにはペンタプリズムが付いているんです(笑) 普通の人がカメラだと思うのはペンタ付きですから。

−−ひとつひとつ、お金がかかるほうに動いていますね(笑)

松澤 アルミダイキャストやステンレスフレーム、ダストリダクション、金属マウントなどはコストがかかっても妥協できない。

濱田 OLYMPUSロゴもスミ入れになっています。手で入れて拭き取っているから、コストがかかります。

 一方、E-1と比べると、防滴では無いし、プラスチックの使用率も増えました。基板の枚数を減らし、フレキにも部品を乗せない。安くできるところは徹底的にやっています。

豊田  ASICをTruePic Turboにリニューアルし、ASICの集積度を上げて基板のスペースとコストを改善しました。インターフェイス系ではIEEE 1394を削りました。


高画素化とノイズ

−−E-300の絵作りはどのように決まったのですか?

豊田  E-1に対してどのようなチューニングをするかを議論してきました。E-1は素材としていいのですが、撮っただけですぐ使うという点では弱かった。そこでE-300では、E-1比でシャープネスを+2から+3くらいの設定にし、解像感を出しました。ノイズも心配になります、TruePic TurboでE-1並みに抑えました。

−−800万画素というのは早い段階で決まっていたのですか?

松澤 はい。それによって電気回路などの設計が変わってくるので、決めておく必要がありました。800を500にするのは楽でも、500を800にするのは大変です。

岩瀬  500万画素という案もありました。コスト的に有利だから。

−−800万画素らしい解像感も出ていて、わかりやすいですね。

松澤 E-1のレンズをE-300で使ったらどうなるのかとやってみたら、そのままプリントすればE-300のほうがよく見えました。画像を編集する場合は、E-1の画質のほうに素材としてのメリットはありますが。

−−800万画素のネックは感度で、ISO400どまりですね。ISO800、1600は拡張設定になっています。

豊田  実は画素数は増えたましたが、ノイズは増えていませんから、ISO800まで標準にしてもよかったのです。ただ、スキルの低い人が不用意にISO800、1600にしてノイズが多いと感じてしまうこともありえます。ユーザーのことを考えてISO400をリミットとしました。ISO800までは実用域として使えます。

松澤 ユーザーが気が付かないで使える、ということの安心感を重視したわけです。

−−セットのレンズが少し暗いので、ISO800までは普通の人でも使える、というふうにすれば、使い勝手が変わります。開放F2.8だったらISO400どまりでもよかったのですが……。ところで800万画素センサーはE-1に積むんでしょうか。

松澤 今のところ予定はしていません。

濱田 議論をして決めようとしているところです。画素数が増えると連写速度などに影響が出ます。トータルバランスで判断しなければならないので。


−−レンズがもうちょっと小さく、寄れるようにならなかったのでしょうか。E-300に移行してくるであろうコンパクトユーザーは寄れるのが大前提なので、E-300でも寄れたほうがよいでしょう。

高頭  E-1と同等かそれ以上の画質を狙ったのと、付けたときのバランスを考えて、その大きさになりました。設計的にはもっと寄れますが、コストダウンの中で描写性能を上げるには、最短撮影距離38cmが限界でした。

松澤 画質としてある一線を守りたかったということです。

岩瀬  レンズが大きければ内蔵フラッシュももっと高い位置に上げなければならない。最初はレンズがもっと大きかったのですが、ボディ側からの注文で小さくなりました。

−−ボディ単体はなぜ来年発売なのでしょう?

濱田 同時に発売するのが基本ですが、残念ながらレンズ資産が市場にありません。レンズキットにして、なるべく多くの方にレンズと一緒に使っていただきたいと考えました。ボディ単体も早く提供できるように努力しているところです。


短期間で開発

−−ところでE-300はいつごろから作り始めたのですか。

松澤 作業が始まったのは今年の1月です。

−−よくできましたね(笑)

松澤 スケジュール管理担当から、1カ月かかる仕事を「4週間」にされたんです。そうすると1カ月に3日短くなる(笑) ダストリダクションやAFをはじめ、E-1の技術で使えるものはみんな使って、作業期間を短縮しました。ただし、E-1の部品は高いので、同じ部品は使えなかったのですが。

 たとえば、ダストリダクションユニット自体はE-1と同じですが、電源ユニットは違います。実績のあるユニットは極力使い、日程と信頼性を確保したのです。

−−35mmフィルムの一眼レフカメラをずっとやってきた人たちから見たら、その日程はクレイジーもいいところですね。コンパクトカメラと大差ない。

濱田 社内でもケンカ状態で大変でした。ゴールデンウィークも夏休みもありませんでした。

−−そういえば、ペンタプリズムは必要でしょうかと1月にきかれたような(笑)

濱田 PMA後に、米国中で話を聞きました。大きな賭けでした。


E-1とE-300の間

−−今後について伺います。まずE-300。もっと小型化できませんか?

漆畑 大きさについては国によっても要望が違います。海外では「300mmレンズを付けてもグリップだけで持てるように」と、グリップが重視されることもあります。

濱田 小型化するとおもちゃっぽくなる危険もあります。E-300のサイズは難しい決断でした。

−−AFや測光の改善はどうですか?

松澤 システムAF一眼についてはブランクがありますが、技術開発が楽しいところでもあります。

豊田  オートホワイトバランスは赤に対して弱めなのがうちの考え方です。屋外重視で人工光源にはあまり強くない。この点についてはわれわれもわかっているので改善中です。

濱田 ユーザーの好みを反映させるインターフェイスも課題ですね。わかりやすい、誰にでもわかる言葉のインターフェイスなどもこのクラスでは大切でしょう。

−−手ブレ補正などの技術はどうされますか?

濱田 手ブレ補正は非常に重要な機能です。思想としては、ボディ側で手ブレ補正するのを最終目標としますが、当面はレンズ内でやるのがで現実的でしょう。ボディでやるにはセンサーが小さいほうが有利ですし。

松澤 とりとめのない話になりましたが、要は補正方式を含めて検討中ということです。

−−レンズ一体型のフラッグシップ、C-8080はどうなるんでしょう。

濱田 レンズ一体型では、画質や機動性が評価を受けています。レンズ交換式はシステムとしての広がりが大事ですが、C-8080はひとつのカメラにすべてが凝縮されたところが魅力です。違ったニーズに対して棲み分けていきます。一眼と一体型の値段が逆転してもかまわないと思っています。レンズが交換できないから安い、というものでもありません。

−−ボディのラインナップはどうなりますか? E-300のポジショニングは微妙になっています。エントリーなのか中級なのか。値段はエントリーだが機能的には中級です。この先Eシリーズはどこへいくのでしょう。

濱田 Eシリーズのラインナップは今は2機種しかありません。もう1機種必要かもしれない。これらにどんなプライオリティをつけていくか。E-1とE-300の間を埋めるものが必要かもしれませし、とにかく今後のオリンパスに期待してください。



( 山田久美夫 )
2004/12/13 00:04
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