特別企画
SIGMA Iシリーズレンズの使い方 -スナップ編-
24mm F3.5 / 35mm F2 / 45mm F2.8 / 65mm F2の4本をα7R IVで撮り歩く
2021年9月27日 12:00
シグマがミラーレスカメラ専用設計として、とくにビルドクオリティにこだわって送り出したIシリーズレンズの登場は、コンパクト化したフルサイズミラーレス機にマッチするレンズを求めていたユーザーにより喝采をもって迎えられた。2021年初頭にYouTubeを通じてライブ配信した発表イベントには夜9時という時間帯ながら熱いユーザーが集い、コメント欄を大いに賑わせた。つい先日も24mm F2 DG DN|Cと90mm F2.8 DG DN|Cの追加が報じられたばかりだが、今回は先行した4本の長期使用レビューをお届けしていきたい。
Iシリーズをフルサイズαで使いたいワケ
IシリーズレンズにはソニーEマウント用とライカLマウント用の2種類がある。ラインアップは、24mm F3.5 DG DN|C、35mm F2 DG DN|C、45mm F2.8 DGDN|C、65mm F2 DG DN|Cと、上記2本を加えた6本で構成されている。区分としては、各レンズともにContemporaryラインに属するレンズ群となっている。
ボディ側の電子補正を積極的に活用していくことで、光学性能を追い求めながらもコンパクト化を実現している、というのが特徴。Lマウント用はSIGMA fpとのマッチングの良さはもちろん、ライカSLシリーズや同T・TL・CLシリーズ、パナソニックのLUMIX Sシリーズで使用できる点もポイントだ。Lマウント用ならではの特徴として、専用のUSBドックを用いて細かなカスタマイズに応えてくれるという点も、ユーザーエクスペリエンスを大切にするシグマならではの配慮となっている。
今回はEマウント用を試用していったが、フルサイズミラーレスαシリーズを使用しているユーザーの最大の悩みは、画質を追求していくと、どうしても大きくて重くて、オマケに高価(苦笑)なGMシリーズに行き着くということにあるのではないだろうか。
ボク自身も50mm F1.2をはじめとしたGMレンズは何本か使用しているが、常にこれらが必要かというと決してそのようなことはない。むしろ、こうした画質追求型のレンズは一通り揃えるだけでも、相応の金額を投じる必要もあるので、TPOや経済面に応じて適宜サードパーティー製レンズで補っていきたい、というのが正直なところだ。
では、シグマのIシリーズを使いたい理由とは何か。それは画質に優れる一方で、小型・軽量性、そして質感の各ポイントが極めて高い次元で両立されているからだ。特にコンパクトなフルサイズミラーレスαでは、GMレンズは少々大きめ。35mm F1.4や24mm F1.4などコンパクトなレンズも登場してきているが、旅先でさっと付け替えて使えるかというと、そこはやはりIシリーズレンズのほうが便利だと感じる。
Iシリーズレンズの嬉しいポイントは、画質はもとより重量バランスや使い勝手も求めたい、というワガママな要求に見事に応えてくれるところにある。ボク自身、この長期レビューを進めている途中で65mm F2を自ら購入してしまったほどだ。価格と画質のバランス、取り回しの良さが、まさに「ちょうど良い」ことを使う度に実感している。
さて、前置きが長くなってしまった。さっそく実写からその画質をお伝えしていこう。
24mm F3.5 DG DN|C:常にカバンに入れておきたい1本
今回の撮影では、輝度差の激しい逆光条件や光量が乏しくなる夜景など、ちょっとイジワルかつ厳しめのシチュエーションを多めにしているが、解像力や耐逆光性能、AFの速度など、スナップシーンでの使い方では充分かつ満足の上を行くレベルであった。
1点目の作例は24mm F3.5 DG DNで捉えたものから。Iシリーズ中、最もコンパクトかつ軽量な1本で、最短撮影距離10.8cmと1/2の撮影倍率を活かしたワイドマクロ的な超近接撮影も可能。つい先日開放絞り値をF2としたレンズもIシリーズのラインアップに加わったが、ポケットにも入りそうな本レンズのコンパクトさは大きなアドバンテージ。常時カメラバッグに入れっぱなしにしても苦にならないサイズ・重量であることが魅力だ。
今回の撮影では通常の仕事道具も抱えながら撮影を行ったが、Iシリーズ全てを持ち歩けない日も実際にはあった。が、このレンズだけは全日程で連れて歩いていたほど、そのサイズ感には助けられた。
都会のビル街では例えば10mm台の超広角レンズを使ってさえも収まらない被写体が多いので、かつては超広角とされていた24mmくらいがワイドレンズとして定番化してきているのも時代を感じる。
35mm F2 DG DN|C:頼りになる万能選手
続けて35mm F2 DG DN。24mmがワイドレンズとして定番化したように、もはや35mmの焦点距離は「広角レンズ」と呼ぶほど広くはない印象。ユーザーによってはこの広さをもって標準レンズとする人も少なくない。
24mm F3.5に比べれば決して軽いとは言えないが、パースが抑えられた画角は万能レンズとしての側面もある。ここではF8まで絞っているが、シグマらしい解像感の高い描写力が画面端に至るまで見事に発揮されている。光と影のトーンも素敵だ。
広角の中でも標準に近い35mmの開放値ではフォーカスした背番号10のキャッチャー以外はなめらかにボケ味を発揮して奥行きを充分に感じさせてくれる。金網のボケも自然だ。
45mm F2.8 DG DN|C:肉眼でとらえたシーンをそのまま描き出す
45mm F2.8 DG DNは、シグマ渾身の異能の名機「SIGMA fp」とともに誕生したレンズで、他のIシリーズ3本に加えてグループに加えられた1本だ。後から加えられたとはいえ、金属素材をふんだんに使用したデザインは、Iシリーズそのものだ。
明るさ自体はF2.8と控え目ながら、携帯性を優先したのだろう、Iシリーズ中最軽量となっている。45mmという焦点距離は、絞り込むことでワイド感の遠景描写ができるほか、中距離程度で用いる場合は、画角がヒトの目に近いせいか自然な感覚で使用できるところもポイントだろう。
瞬間を捉えるスナップ撮影では50mmよりもほんの僅かに広い画角が使いやすい場面がある。たった5mmの差でしかないが、微妙なアングルを探る“間”を与えてくれないシーンで余裕をもたらしてくれるのだ。その意味では第2の標準レンズとも言える焦点距離でもある。
65mm F2 DG DN|C:あと1歩の距離感を埋めてくれる
65mm F2 DG DNは、筆者を含めて50mmと85mmの中間の焦点距離を使いたいというファンにとって嬉しい1本だ。独特な焦点距離で馴染みも薄いために少々面食らうかもしれないが、実際に使用してみると50mmではちょっともの足りない距離感を埋めてくれる、絶妙な焦点距離であることが実感される。分類的には準標準というべきなのか、準望遠と呼べばいいのだろうか。ちょっと分からないけれども、ボクにとって、これまで欠けていたポジションを埋めてくれたステキレンズとなってくれた。
開放絞り値はF2で、Iシリーズの中で24mm、35mm、65mmと「ちょっとワイドから、ちょっと長めの明るいレンズ」まで3つの使いやすい焦点距離が揃うことになる。これはソニー純正にはみられない大きな強みだろう。
撮影には24mm F2は間に合わなかったが、35mm F2とセットで持ち歩くだけでもたいていのものが撮れる相性の良いコンビネーションを築くことができる。重量は約400gとシリーズとしてはやや重いものの、α7R IVとの重量バランスは優秀で、撮影時に負担を感じることはなかった。
ここでは主役である外灯にフォーカスしているが、中望遠的な感覚で背景のビル群から立体的に切りとるといった使い方も容易。主役を引き立たせたいけれども、85mmでは長すぎる、そして背景もボカしすぎない描写が欲しいといった絶妙な加減がしやすい。
横浜を代表する三塔のひとつで通称“キング”の名で親しまれている昭和3年竣工の建築物。20世紀初期に流行したアールデコの建築様式が採り入れられていてデザイン面でも大好きな建物のひとつである。夜はライトアップされ、昼間とは印象ががらりと変わる。1世紀前の姿を彷彿とさせるリアリティに富む描写だ。
IシリーズにArtラインを加えると?
Iシリーズレンズは、いずれも金属素材がふんだんに使用されている。ビルドクオリティの追求という言葉からも伺い知れるように、シグマという企業が有する技術の底知れなさが反映された精巧かつ高級な造りが手に伝わってくる。
さらにバヨネットマウント部分には真鍮素材を用いるなど、美的観点と耐久性を兼ね揃えた構造には長期の使用にも応えてくれそうな信頼感が宿る。
絞りリングの節度感も手に心地良い。同社の公式ホームページ上で山木社長が自ら「正直、やり過ぎました。」と伝えているように、“モノ”としての大事な要素であるデザインや品位の高さは折り紙つきだ。
質実剛健かつシンプルなデザインには一貫性があり、シリーズの“貌”とも言える特徴を成している。絞りリングは撮影時に左手の指が自然に触れる位置にあるし、例え使わなくてもホールディングストッパーとしても心地良い。引き算のデザインに使い勝手を凝縮した造りは、プロダクトとしての完成度がいかに高いかを示している。
ちなみに、今回の長期試用では105mm F2.8 DG DN MACROも織り交ぜて使っていった。今回の撮影時点ではまだIシリーズに望遠系がなかったことが理由だが、ワイド系をメインに持ち歩いていると105mmに付け替えただけでも望遠感を意識した作画ができて表現の幅を大きくひろげることができる。少し絞り込んでも圧縮効果は充分に感じられる。
シグマのマクロレンズは昔からキレッキレの描写力が定評であるが、9枚羽根の円形絞りを開放付近で使えば柔らかい描写にもなる。105mmという焦点距離はスナップから風景、ポートレート用にも出番の多い焦点距離である。マクロレンズ=近接撮影用という慣用句に囚われることなく街や海へと屋外ロケーションに連れ出さなきゃ勿体ない。
都会のスナップでは寄りたくても寄れないシーンがあるので、少し長めの焦点距離のレンズが1本手元にあると心強い。やはり望遠レンズは欠かせないのである。
24mm F3.5と35mm F2の使い勝手を比べてみる
スカイツリーと鯉のぼりは24mmで逆光のアングルで見上げて撮影。気になるような弱点は見当たらないがレンズの描写性能だけじゃなく、このレンズはとにかくコンパクトなのでこうしたアングルでも疲れないというのもメリットといえよう。
室内へ差し込む光線を逆光で捉えてみるが暗部から高輝度のカーテンまでディティール描写に優れていることがわかる。
ちなみに、24mm F3.5と35mm F2の近接撮影時の描写は以下のようになる。逆光ぎみの条件だが、どちらのレンズも描写に破綻はない。24mmでは広角マクロならではの、35mmもデフォルメがつきすぎない効果で様々な場面や使い方に応えてくれる。
再び35mm F2。明るい開放F値のおかげで夜景を手持ち撮影したい時にもISO感度を極端に上げる必要がない。手ブレが出てきそうなギリギリのシャッタースピードでも撮影者の技術次第で撮影シーンは大きくひろがる。
この日の撮影を終えて帰ろうと駐車場まで来たら西の空へちょうど夕陽が沈もうとするタイミングだったので慌ててバッグからカメラを取り出してシャッターを切った。輝度差が激しい場面だが明るい空からシャドー部までディティール描写に満足だ。
このダイヤル式南京錠はわずか3cmほどのごく小さなものである。24mm F3.5の特徴でもある最短撮影距離をいかしてクローズアップ。倍率はハーフマクロだが、こうした表現ができるのもポイントだ。
日没後の暗がりの中でも高い描写性能だ。対象物があると遠近感を感じさせる写真を作ることも楽しい。この後も空が完全に真っ暗になるまで延々と撮り続けていた。
35mmに持ち替えた。もう10年以上も撮影している土手に沈む夕陽。ずっと撮影しているのでここでの完全逆光で、逆光耐性や描写力の善し悪しがよくわかるボクにとっての定番ポイントだ。結果はこのレンズも勿論クリアなものだった。
45mm F2.8と65mm F2の使い勝手を比べてみる
大阪には東京では考えられないようなカラーリングの建物によく出会うので、ちょっとした外国気分を味わえるので街歩きがとても楽しい。
ほぼ標準レンズの45mmであっても被写体の選び方やアングルの決め方次第ではワイドレンズのようにも使える。
65mm F2を完全逆光で試した。フォーカスした部分のシャキっとした部分からアウトフォーカスへの独特のやわらかいボケ方が素晴らしい。
続けて65mmを3段絞ったF5.6にセット。解像のピークは、だいたいこのあたりだろうか。今回掲載している作例はスナップショットのみだが、広告用のブツ撮りや人物撮影などでも色々と試したボク自身の実感値でもある。
標準レンズよりもちょっとだけ長い65mm。中望遠のように浅い被写界深度をいかした使い方もできる。
Iシリーズと相性の良いArtラインのマクロ「105mm F2.8 DG DN」
休日の夕暮れの光景を捉えてみた。普段は近距離にあるモノや動植物などのクローズアップで威力を発揮するArtラインの105mmマクロを「望遠レンズ」として使ってみた。
東京タワーと桜。開放値がF2以上の明るいレンズには適わないがマクロ撮影を主体とするレンズでの遠景フォーカスと前ボケとしては充分すぎるくらいの描写である。せっかくのマクロレンズでなぜ花のアップを撮らなかったのかと後悔する程すっかり望遠レンズとしてしか認識していなかった(笑)。
今回使用した2本の望遠系レンズの開放での描写比較。同じ位置からフォーカスポイントはベンチの手前のエッジに置いている。
まとめ
長らくボクは手持ちの各レンズ(50mm・55mm・85mm)間の焦点距離を埋めるレンズを探していた。そこで出会ったのが65mm F2。ずっと探していたこともあるが、今回の長期試用を通じて特に気に入った1本となった。実際に購入したソレは、ポートレートからブツ撮りまで仕事の多くの場面でも活躍してくれているが、本当に満足のいく結果を生み出してくれている。
それにしても悩ましいのは、焦点距離や明るさなどそれぞれ異なる個性を持った素晴らしい描写の単焦点レンズが一気に登場したことだ。複数本を持ち歩いて違った表情のシーンを捉えるというのも楽しい。これもコンパクトサイズゆえに可能になったことだし、何よりも、それぞれの個性は違いながらも“モノ”としての完成度の高さが持つ喜びを感じさせてくれる。これは実に嬉しいことだ。
Eマウントユーザーにとって悩ましいのは、同じくコンパクトなサイズを追求したソニー純正のGシリーズレンズの存在だろう。FE 24mm F2.8 Gをはじめ、FE 40mm F2.8 G、FE 50mm F2.5 Gの3本が、シグマのIシリーズ3本(24mm F3.5 DG DN、35mm F2 DG DN、65mm F2 DG DN)の発売後すぐに登場。フルサイズαと組み合わせる小型軽量レンズの選択肢が純正とサードパーティー製レンズで一気にひろがっている。
選択肢がひろがった反面で悩みも倍増したわけだが(笑)、両メーカーともに10万円以下で購入できる価格帯であることもポイント。APS-C機をメインにしているミラーレスαシリーズユーザーにとっても嬉しいレンズラインアップになっている。
個人的なIシリーズへの希望としては、フィルター径を67mmに統一しているタムロンのソニーEマウント用レンズシリーズのように、フィルター径を揃えてほしいということだ。径が揃っているとレンズキャップの付け外し時に戸惑うこがないし、NDフィルターなどを使用する際にも共用できるメリットがある。このコンパクトなサイズ感におさめながらも光学性能も追求しているのだから、過度な要望ではあるけれども、ユーザーメリットを追求するシグマなら、いつかきっと応えてくれるのではないかと、勝手に期待している。
本レポートでまとめた長期試用の後で、Iシリーズに新たに2本のレンズが追加されるとの発表があった。24mm F2 DG DN|Cとコンパクトな中望遠90mm F2.8 DG DN|Cだが、個性が光るユニークな単焦点レンズが続々と登場するのはカメラファンにとって、実に嬉しいニュースだ。今回は単焦点レンズに絞っているが、こうしたサイズ感と画質のバランスを高次元でまとめあげている同社の新しいズームレンズのラインアップにも期待が広がる結果となった。ますます楽しみな展開になりそうだ。