特別企画
ペルセウス座流星群を撮ろう(後編):撮影時の設定やワンステップ上の表現を狙うためのポイントを伝授
2021年8月12日 12:00
8月13日未明にペルセウス座流星群が極大を迎える。極大とは時間当たり流星が飛ぶ数が最大になることだ。ペルセウス座流星群では1時間当たりおよそ50個ほどの流星を見ることができるのだ。夏の過ごしやすい時期であることとあわせ、天文ファンにとっては年間を通しての一大イベントである。流星群自体は毎月のように何かしらの流星群があるのだが、明るい流星が多いことから、流星の写真を撮りやすい。また、三脚さえあれば手軽に撮影できるものであるので、今夏ぜひ挑戦してみよう。後編は具体的な撮影方法と設定、ステップアップのためのコツをお伝えしていきたい。
撮影方法
流星の撮影は、ズバリ運である。流星が流れるタイミングは予測できないし、見えてからシャッターを切ったのでは間に合わないからだ。また、画面の端に写っても見栄えはしない。
そこで対策はただ一つ。たくさんのシャッターを切ることだ。構図を決めたらあとは動かさずにずっとシャッターを切り続けるのである。写野(画角)も広い方が良いし、露出時間も長い方が良いが、日周運動で星が流れて映るので、焦点距離は24mm前後にセットして、露光時間は8〜10秒、14mm程度であれば、15秒程度までが星が点として写る限界だ(星は想像しているよりもずっと速く動くからだ)。
よって焦点距離によって露出時間をあらかじめ決めておき、適正露光は絞りと感度で決めるようにしたい。
撮影手順
Step1:カメラの設定
流星に限らず、星空の撮影は全てマニュアルで行う。チェックポイントは以下のとおりだ。撮影前に忘れずに必ずフォーカス、手ブレ補正、WB、長秒NRの各設定をチェックしておこう。
1:ピント合わせはMF(マニュアルフォーカス)
2:WB(ホワイトバランス)は「太陽光」もしくは手動設定で「4,000K前後」に(試写して決める)
3:露出モードはマニュアル
4:手ブレ補正はオフ(設定できる場合)
5:長秒時NRをオフにする
6:RAW撮影推奨
Step2:ピントを合わせる
一部のレンズ以外ではAFの機構をスムーズにするため、レンズは無限遠を行きすぎるようになっている。そのため、無限遠マークにあわせても星にピントが合うとは限らない。星のピントはライブビューを拡大して慎重に行う必要があるが、とは言え難しさがあることも確か。そこで、コツとなる手順を解説しておこう。この際、ライブビュー画面(背面モニター)をより拡大して見るためにルーペを用意しておくと重宝する。また、レンズヒーターを使う場合は先に取り付けてからピント合わせを行うことがポイントだ。
1:感度をISO 3200程度にして、いったん露光時間を30秒に設定する
2:絞りを開放にして、焦点距離をテレ端側にする(ズームレンズの場合)。
3:明るく、なるべく白い星を視野の中心に入れる。一眼レフカメラの場合はこの調整は光学ファインダーを使うとやりやすいだろう。
4:ライブビューもしくはEVFで明るい星を最大まで拡大する。
5:シャッター速度を星が引き締まって見えるように速くしていく。
→Point1:星の明るさやカメラの仕様にもよるが1/125秒程度
→Point2:カメラによっては拡大中にシャッター速度を変更できないものもある。
→Point3:その場合は一度拡大を中止する。
6:ピントリングを適当に動かしてみると、星の周りに赤、もしくは緑のフリンジが見える。
7:慎重かつゆっくりとピント位置を前後に動かしていくと、星が最も小さくなったときに、赤もしくは緑のフリンジが消えて、星が「白く」見えるポイントが見つかる。
8:さらにピントを慎重に前後させると星が最も小さくなったと同時に、さらに暗い星が見えるポイントがある。そこがジャストポイントである。
→Point:モニターにはノイズも見えるので、カメラを少し揺らしてみるとノイズと暗い星を判別できる。ノイズの位置は動かないのだ。
Step3:露出とWB
露出とWBは薄雲のかかり具合、水蒸気、光害、月明の影響などを要因として千万変化し、いつも同じというわけにはいかず必ず試写して決める必要がある。
ひとつの基準としてはISO 3200、F2.8くらいから試写を始めてみるといいだろう。また絞りに関していえば、収差によって周辺部の描写が変わってくるので、大口径単焦点レンズでは1段から2段絞った方が、写野全面に渡って好ましい描写となる。
例えば開放F値が1.4ならF2もしくはF2.8に絞った方が良いということだ。一方、ズームレンズではF2.8の大口径ズームであっても、F4程度の標準ズームであってもこの数年のものであれば、開放から収差が少なく、星空の撮影であっても絞り開放で構わない。シャッター速度は前述の通り日周運動の影響から、24mmの時は長くても10秒ほどなので、結局のところ適正露出はISO感度を変更して行うことになる。
露出を決める試写と同時にWBも設定を変えて好みの設定を決める。ただし、RAW撮影を基本にする場合はWBは拘らなくて良い。ノイズ処理や光害の抑止を含めるとできればRAWで撮影しておく方が良いだろう。
流星撮影はよくも悪くも「かず撃ちゃ当たる」形式なので、流星の写っていないたくさんの要らないデータが溜まってしまう。とはいえ、せっかく手間暇かけて撮ったもの。そこで、流星が写ったカットの前後を使ってタイムラプス動画を作ってみよう。色々なやり方があるのだが、一番シンプルなのはPhotoshopで作る方法だ。
読者諸氏はLightroomを使っている方が多いと想像するが、同じサブスクリプションでBridgeとPhotoshopも利用できるので、まずこれら2つのソフトをインストールしてみよう。BridgeでRAWデータを調整したら現像せずに閉じて、Bridgeの「メニュー」→「ツール」からPhotoshopにファイルをレイヤーとして読み込む。後はPhotoshopでタイムラインアニメーションに変換して動画に書き出すという流れだ。今回は詳しい手順を解説することはしないが、これで閃いた方はぜひ挑戦してみて欲しい。
撮影方法
カメラを三脚に乗せ、ピント合わせ、露出、構図を決めたらいよいよ撮影開始だ。最もシンプルで失敗の少ない方法は、ケーブルレリーズを使って連写することである。カメラのドライブ設定を連写モード(Cなどの表記があるはずだ)にして、レリーズを押しっぱなしにすれば良いのだ。
ちなみに高速連写にする必要はない。仮にシャッタースピードを8秒とした場合、1時間でおよそ400枚の写真を撮ることになるので、記録容量が十分にあるメディアを用意しよう。昨今はダブルスロットのカメラも増えているので、メディアを2枚挿しにして、記録モードを「順次記録」にするのも良い。
レリーズで撮る
ケーブルレリーズにはレリーズのロック機構が付いている。この機構があるタイプであれば、シャッターが切れるまでレリーズボタンを押し下げたら、そのまま上に押し上げれば良い。これで、メディアがいっぱいになるまで、連写が続く。あとは自分で時間を計って、適宜構図を変えたりメディアを交換して撮影を続けていこう。
レリーズがない場合
ケーブルレリーズがない場合は、カメラのインターバル撮影機能を使う。タイムラプス動画の撮影機能を搭載しているたカメラもあるので、混同しないようにしたい。インターバル撮影は、あくまでも「静止画を連続して撮影する」機能の方だ。
現行の機種であれば、おそらく入門機以外ではほとんど全てといっていいカメラに実装されている機能だ。メーカーごとに使い方にやや違いはあるが、以下に主な機種ごとの設定画面とともに解説しておこう。
【キヤノンEOS R5の場合】
キヤノン製のカメラにおいてはシンプルなUIで設定内容が簡単である点が特徴だ。
ここではEOS R5を例にしているが、キヤノン機の場合、「撮影間隔」は露出終了後から次に露出を開始するまでの待機時間を指す内容となっている。例えば「撮影間隔」を最小値の1秒、露出時間を8秒と設定すると1サイクルは9秒となる。「撮影回数」の最大値は99回。「00」と設定すると無制限となり、メディアがいっぱいになるか、バッテリーが切れるまで撮影が続く。
シャッターボタンを押すと即時撮影開始となるので、1枚目がブレないように注意したい。カメラのドライブからセルフタイマーと併用することもできるが、「撮影間隔」に加算されるので注意する。「撮影間隔」を1秒、セルフタイマーを2秒とした場合、最後まで3秒間の待機時間で撮影することとなる。
【ソニー FX3の場合】
ここでは「FX3」を例にしているが、撮影実時間を把握しやすく使いやすい。
[1]はインターバル撮影の1枚目を開始するまでの待機時間、いわばセルフタイマーである。カメラのドライブモードでセルフタイマーを設定していても無視され、こちらの設定が有効になる。最小値は1秒。
[2]撮影間隔の考え方が他社と違っており、この間隔はレリーズとレリーズの間隔を設定している。例えば「撮影間隔」を8秒、露出時間を8秒と設定すると、露出終了と同時に次の露出が始まる。「撮影間隔」を10秒とした場合は露出終了の2秒後に次の露出が始まることになる。つまり、「撮影間隔」は露出・待機の1サイクルの時間を設定するので、実際の撮影時間を計算しやすい。また、誤って「撮影間隔」を露出時間より短く設定した場合は、露出時間が優先される。つまるところ、「撮影間隔」もしくは露出時間、いずれか長い方が1サイクルの時間となる。
[3]「撮影回数」での設定値は1〜9999。無制限はないが最大値が大きく実質無制限となっている。そのほか「AF追従感度」の設定もあり動体のインターバル撮影にも配慮されている。
【ニコンZ 7の場合】
細やかな設定ができる充実したインターバル撮影機能がニコンの特徴だ。
「開始日時の設定」をチェックしたら、後は実動に関わる設定をしていく。[1]「撮影間隔」はキヤノンと同じ考え方で1サイクルの待機時間である。設定は最小値0.5秒、最大24時間である。
[2]「撮影回数」には「コマ数」の指定もあり特徴的だ。「撮影回数」はサイクル数であるが、「コマ数」は1サイクルで何コマ撮影するかである。動きのある被写体でシャッターチャンスを狙うときに使う。今回のような星景・流星の撮影に使うことはないだろう。撮影回数の最大値は9999であり、無制限はない。
[3]「露出平滑化」もニコンならではの機能だ。電磁絞りではないレンズでは露光のばらつきが大きくなる。そのほか、雲の通過や車のライトなど不意に大きな明るさの変化があった際にも、前のカットとの露光の変化が穏やかになるようにする機能だ。これは常にONで良いだろう。
流星・星景撮影の大敵はなんといっても夜露である。季節を問わず悩ませられる厄介な問題だ。一番効果の高い対策はレンズヒーターであるが、今回のペルセウス座流星群に間に合わない、という方も多いことだろう。そこで夜露対策で実際に使っているアイデアを記しておきたい。
アイデア1:ハンディウォーマーを使う。平たくいえばバッテリー式カイロの活用だ。写真のものでは黒い部分が温まる。使い捨てカイロも限定的ながら役にたつ。これを粘着テープやマジックテープでレンズにくくりつける。
アイデア2:AC電源が使える環境ならヘアドライヤーの温風でレンズ前端を中心にレンズだけを温めておく。
アイデア3:車で移動しているなら、エアコンでレンズを温める。エアコンはONにして温度・風量ともに最大にしてレンズだけを温める。2、3の方法では温めすぎに注意。手で持てる温度に留めておかないとコーティングを痛めてしまう可能性がある。また2.3の方法では夜露が付いてしまってからでも解消できるが、夜露を防止できるのは2〜30分ほどだ。
アイデア4:風を当て続ける。モバイル扇風機などで写野にかからないところからレンズに風を当て続けると夜露の付着をある程度防ぐことができる。この方法では既に付いてしまった夜露を取ることはできないので、夜露がつかないうちから風を当て続ける必要がある。
以上4つのアイデアを紹介した。ポイントは「温める」か「風を当て続ける」かのいずれかである。覚えておくと、緊急時などでもリカバリーに使えるテクニックなので、参考にしてもらいたい。
総括
以上のように各社のインターバル撮影機能にはそれぞれ特徴があり、使い慣れていないと現場では戸惑いがちだ。本稿を参考に、現地にいく前に基本的な設定を済ませておいたほうが良い。いずれにせよ、流星の撮影では、間断なく多くのシャッターを切ることが必要である。そのためには1サイクルのうちの待機時間を短くすることが必要となるので「撮影間隔」を最小値に設定する。
また数を打つことが必要だが、バッテリーの持ちも考慮して「撮影回数」も設定しておこう。筆者は8秒露光+待機時間1秒でほぼ1時間の行程となる400コマとすることが多い。
各機種で多少の違いはあるものの、インターバル撮影の場合、実際のバッテリーの持ちも4〜500コマであることがほとんどだ。もし持っているなら、予備バッテリーやバッテリーグリップも用意すると良い。最新のカメラではUSB端子経由で給電しながら撮影できるものも増えてきたので、自分のカメラにその機能がないか、今一度チェックしてみよう。いずれにせよ、準備は万端整えてあとはカメラ任せで撮影するのだ。そして、その時間にたっぷりと肉眼や双眼鏡で星空と流星の美しさを楽しむこと。それこそが流星・星景写真の王道である。