特別企画
実はこんなに簡単に撮れる! 夏の星空撮影
デジタル一眼レフカメラで天の川を撮ろう
2018年7月31日 12:00
夏の夜空に輝く天の川。多くのカメラ好きの人々にとって、天の川は憧れの被写体のひとつに挙げられるものだろう。しかし難しいと思われている天の川など星空の撮影でも、デジタル一眼カメラであれば実はそれほど難しい撮影ではない。そこで今回は星空撮影入門として、PENTAX K-70を使っての天の川撮影にチャレンジする。
用意する撮影機材&アイテム
今回の撮影で使用するカメラは「PENTAX K-70」である。K-70は有効画素数約2,424万画素でAPS-Cサイズのイメージセンサーと光学ファインダーを搭載したデジタル一眼レフカメラだ。小型軽量でありながら高画質と防塵防滴・耐寒性能に優れたアウトドア対応機としても定評がある。
レンズは、キットレンズの「smc PENTAX-DA 18-135mmF3.5-5.6ED AL[IF] DC WR」と広角ズームレンズの「smc PENTAX-DA 12-24mmF4 ED AL[IF]」の2本を用意した。
星の撮影に欠かせないのはしっかりとカメラを固定できる三脚である。長秒露光が必要となる星撮影においては三脚のぶれは大敵となるため、K-70は軽量なカメラではあるが、できるだけ中型クラスの三脚を使用したい。カメラの高さは撮影者の目線に合わせると、楽な姿勢でライブビュー撮影を行える。カメラのセッティングが済んだら、バリアングル液晶モニターを活用して、背面液晶モニターを見やすい角度に調整しよう。
また、K-70には周囲の暗さに慣れた目への刺激を抑えられるよう液晶モニターの表示色が変わる「赤色画面表示」機能が搭載されている。赤色画面表示への変更方法は、Fx2ボタンを押すだけだ。
撮影機材のほか、スマートフォンも有効に活用したい。
長秒撮影が必要となる星の撮影ではカメラのぶれが大敵となる。そのためカメラのシャッターボタンを押しての露光スタートでは、押したときの振動がカメラに伝わってしまうので画像がぶれる原因となりやすい。オススメはカメラに直接触れることなく露光スタートが可能なリモートケーブルやリモコンを使うことだが、最近のカメラにはスマートフォンをWi-Fi接続し、アプリからリモート撮影を行う機能も用意されている。K-70でも専用アプリの「Image Sync」を使用することで、K-70に触れることなく露光設定を変えたり露光をスタートさせることができる。
これ以外にもスマートフォンは、コンパスアプリでの方角の確認や、星座アプリで恒星や月が現れる方向の確認などができるので、星の撮影にはとても重宝するアイテムとなる。また、スマートフォンの懐中電灯アプリも暗い場所では役に立つ。もっとも、これらのアプリの機能は簡易的なものなので、安全面を考慮しなければならない本格的な山登りをしながらの撮影などには向かないことも念頭に入れておいてほしい。
真夏の屋外撮影となると虫刺されの対策も忘れないようにしよう。撮影を始める前には虫除けスプレーで予防する。
また夜間の撮影といえども気温が高い中で長時間の撮影を行うと、気が付かないうちに脱水症状に陥る可能性もある。あらかじめ飲料水を用意するようにしよう。
場所選びとセッティング
星の撮影では夜空が暗い場所が圧倒的に有利となる。理想的なのは街の灯りが届かず大気中の水蒸気が少ない高い山の上などになるが、関東地方のように大都会が近い場所でも、少し郊外まで足を伸ばせば、意外なほどきれいな星空を見つけることができる。
今回の撮影は、都心から車でおよそ1時間半ほどの山里にある公園にて行った。周囲に民家も幹線道路もあるが、うまい具合に公園の周囲を木々が囲っているので、カメラには不必要な光が届かない。ただし、大声を出すなど周辺の迷惑になるような行為は厳禁だ。夜間真っ暗な場所に人がいるだけでも警戒される原因となることを念頭に入れて行動しよう。
天の川は東南から南西の方向を、地平線から天頂にかけて川の流れのように広がる。この記事が公開される7月末から8月初旬にかけては21時頃に真南方向に見えるので、暗い空であれば比較的容易に見つけることができるだろう。
カメラの設定
星空の撮影においての基本的なカメラ設定は、ISO感度とシャッター速度、レンズの絞り値の組み合わせである点は一般的な撮影となんら変わりはない。ただし極端に光量の少ない星々の光を確実に受け止めるには、可能な限り絞り値を明るく設定したうえで、ISO感度を上げて撮影することが重要となる。
カメラを三脚に固定していても、夜空の星々は地球の自転に合わせて時間とともに移動するため、長秒露光を行うと本来は点であるはずの星の光が、光の線として写し取られる。これを防ぐためには極力短い露光時間とし、点とみなせる程度に星の移動を収める必要がある。
一般的に星を点として記録するには、広角レンズで15~30秒程度、標準レンズでは10秒程度の露光時間とする必要があるといわれている。これらを念頭に、カメラをマニュアルモードにセットし、絞り値はレンズの開放絞り(F2.8~4程度)に、シャッター速度は焦点距離に合わせ10~30秒に設定したうえで、ISO感度を1600~3200の間で設定を変えながらテスト撮影を繰り返し調整するとよいだろう。
冒頭の作例は広角レンズなので、レンズの絞りを開放値(ここではF4)に、シャッター速度を30秒に設定したうえで、ISO感度を1600~3200の間で変えながらテスト撮影を行った。ISO感度を上げればより暗い星も写るが、空全体が明るくなってしまう場合はISO感度を下げて調整する。ISO感度を上げるほどノイズが発生しやすくなるので、極力抑えめにするのがコツ。また、ホワイトバランスはオートでもよいが、白熱灯モードやマニュアル設定で4500K程度にすると、空全体が青みがかりクールなイメージの星空になる。
K-70では、出荷時のモードダイヤルのUSERモード3(U3)に、星を撮るための設定「ASTROPHOTO」がプリセットされている。撮影モードがバルブタイマーに設定されるなど、より簡単に設定を行えるので、積極的に活用しよう。
手ぶれ補正などのカメラの設定も、撮影前に確認しておこう。
三脚にカメラを据え付けて星空撮影を行うときは、手ぶれ補正はOFFにする。また高感度ノイズリダクションはONに、カスタムイメージは星の色が引き立つ「鮮やか」にセットする。また、後からの画像調整を念頭にRAW+JPEG同時記録にしておきたい。
フレーミングとピント合わせ
星空撮影ではライブビューモードでの撮影がオススメだ。まずは使用するレンズのズームを広角端にセットしてできるだけ広い範囲で天の川をとらえるようにする。カメラのAF/MF切り替えスイッチでMFに切り替え、レンズのピントリングを回し背面モニターに写し出された星がにじまない、いちばん小さな点となるように調整する。このとき、できるだけ明るい星を画面に入れて、モニターの部分拡大機能で星を大きくして確認すると正確に星にピントを合わせることができる。
ピント合わせを済ませた後は、レンズのピントリングもズームリングも触らないように気をつけながら、撮影したい方向へカメラを向けるようにしよう。カメラの画角にどこまでの空が入っているのか判別するのは難しいが、テスト撮影を繰り返しつつカメラを向ける方向を微調整するとよい。
RAW現像のポイント
K-70で撮影した画像を確認して、夜空に淡い雲のような星の塊が写っていれば、それが天の川と思ってよいだろう。ただカメラで記録したJPEG画像そのままでは、光が淡すぎて物足りなく感じてしまうかもしれない。そのような場合はJPEGと同時に記録したRAW画像を、K-70に付属されているRAW現像ソフト「Digital Camera Utility 5」などを使用して、よりクリアに天の川を引き出すようにRAW現像を行うとよい。
RAW現像時の調整ポイントとしては、画像の露出(増減感)を上げて空の明るさを引き出し、トーンカーブのハイライト側を上げ、シャドウ側を下げるS時カーブにすることで、空の暗部を引き締めると同時に、星の明るさを引き立てる。
こちらがDigital Camera Utility 5でRAWデータを調整してJPEGに現像して仕上げた画像だ。使用したレンズはK-70のキットレンズ「smc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6ED AL[IF] DC WR」である。
星空をきれいに撮るには最上位機種と高価なレンズを導入する必要があると思っているカメラユーザーも多いが、実際にはK-70とキットレンズの組み合わせでも、これだけ立派な天の川写真を撮ることができるのだ。ポイントは正確なピント合わせとぶれのない撮影、適切なRAW現像にある。ちなみに画像左側にある明るく赤い星は、この夏地球に大接近している火星である。
アストロトレーサーを使う
さらにワンランク上の撮影を目指す場合、GPSユニット「O-GPS1」をK-70に装着することで「アストロトレーサー」機能が利用できる。
アストロトレーサー機能は、地球の自転とともに移動する星の動きに合わせてイメージセンサーを動かすことで、星が線になってしまうような長秒露光であっても、星を流すことなく点として撮影することができるペンタックス独自の機能だ。通常そのような撮影をするには、赤道儀と呼ばれる機器を併用する必要があるが、ペンタックスのアストロトレーサー対応デジタル一眼レフカメラでは、O-GPS1との組み合わせだけで、簡易的ながらも星を点像として撮影することができる。なお、PENTAX K-1シリーズやK-3 IIは本体にGPSユニットが内蔵されており、アストロトレーサー機能も搭載されている。
通常撮影とアストロトレーサー機能を使用した撮影を同時に行うと、下のような違いが出る。
この写真は、牡牛座のプレアデス星団(すばる)を焦点距離135mmで撮影したもので、露光時間は120秒だ。通常の固定撮影では左の写真のように星が流れ、線として記録されてしまう。かといってISO感度をアップすると高感度ノイズが増えてしまうので、それも避けたいところだ。アストロトレーサー機能を使うことで、右の写真のように星を流すことなく、感度も低く設定したままで点として撮影することができる。
星景撮影が目的ではなくても、出掛けた旅行先で息をのむような美しい星空に遭遇したことがある方も多いと思う。そんな時、いつものカメラとレンズ、三脚とO-GPS1さえあれば、簡単に点像で高画質な撮影ができるアストロトレーサー機能を活用できるので、星空撮影の楽しみがさらに広がるだろう。
アストロトレーサーについて詳しくは…
アストロトレーサーのメリットや作例については、天体撮影の専門家による視点でリコーイメージングのサイトにも詳しく解説されている。
比較明合成
星景写真としてよく目にするのが、星の周回運動を線として描く写真だ。だが実際に周回運動をとらえようと長時間露光を行うと、山奥の真っ暗な空のような特別な条件でない以上、空全体が露出オーバーで真っ白になってしまう。そこで星景撮影では、星が写る最小時間の露光を幾度も重ねて行い、それを画像処理で合成する「比較明合成」という手法が一般的に活用されている。
現行のペンタックスデジタル一眼レフではこの「比較明合成」撮影をカメラ内でリアルタイムに行うことができる「インターバル合成」モードが用意されており、これを活用すれば誰でも簡単に星の軌跡の撮影ができてしまうのだ。
まとめ:星空の撮影はキットレンズでも始められる
今回撮影に使用したK-70はPENTAX一眼レフの中でも最も気軽に入手できるモデルだが、上位機と同等のタフ機能を備え、新開発のアクセラレーターユニット搭載で、高感度域での優れた描写が可能だ。レンズはキットレンズのsmc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6ED AL[IF] DC WRでも、十分に星空撮影を楽しむことができることがわかる。
もちろん開放F値の明るいレンズを使用すれば、ISO感度を上げずに済んだり、より暗い星までも撮影できたりとメリットは大きくなる。また、より広角なレンズを使えば、広い範囲の夜空をとらえることができる。さらに魚眼レンズなどを使用すれば、全天に広がる天の川を写真に収めることさえできてしまう。
手持ちの機材でいろいろと試すところからスタートし、求める表現に合わせてよりハイクオリティな機材を検討していくのも星の撮影の楽しみだ。まずはこの夏、南の空に立ち上る天の川を、あなたのカメラでとらえてみてはいかがだろうか。
制作協力:リコーイメージング株式会社