特別企画

世界初の快挙!iPhoneでモノブロックストロボを発光させる「Profoto AirX」を試す

iPhoneで本格的なストロボライティングに挑戦した今回の撮影。その結果は……

今回、僕がチャレンジしたのはプロフェッショナル向けの照明用具で絶大な人気を誇るスウェーデンProfoto社の「Profoto AirX」という技術だ。

これは、簡単に言ってしまえばプロ用の大型フラッシュをiPhoneに同調させる技術。最近、侮れない性能に進化したと誰もが感じているiPhone撮影時に、LEDライトの100倍ものパワーを持つキセノン管フラッシュを使ってクリエイティブな光を駆使することを可能にした世界初の技術だ。

スマートフォンのカメラには物理的なシャッター幕がなく、センサーのスキャンによって光を取り込むということ、スマートフォンにはシャッターの瞬間をフラッシュに伝えるケーブルが用意されていないことなど、フラッシュ撮影には意外と大きな技術的な壁があったのだが、この「Profoto AirX」で見事実現されたというわけだ。

早速、私物の「Profoto B10」を使って「iPhone 11 Pro」でのポートレート撮影にチャレンジしてみた。

コンパクトでバッテリー搭載のモノブロックストロボ「Profoto B10」。最新のアップデートでiPhoneからの発光・調光が可能になった。
こんなふうに女性モデルのポートレート全カットをiPhoneで撮影。いつもカメラを使っていることを考えると極めて特殊な撮影といえる。モノブロックストロボによるライティングを除いては。

自然光のような柔らかい光

ところで、多くの人はこの時点で大きな疑問を抱くかもしれない。

「iPhone内蔵の小さなLEDフラッシュでも光が硬くていい雰囲気で撮影するのが難しいのに、大パワーのプロ向けフラッシュではさらに硬い不自然な写真しか撮れないのでは?」と。

そこでひとつめの作例を見てほしい。窓からいっぱいの光が差し込むハウススタジオでの撮影だ。一見、美しく柔らかな自然光での撮影に見えるが、これは「Profoto B10」によるフラッシュ撮影の写真だ。実際に自然光だけでの撮影では下の作例のような感じになった。

Profoto B10なし
Profoto B10あり

ここでのポイントは、自然光だけでは顔が暗くなってしまう&露出補正で全体を明るくすると窓の外は真っ白に飛んでしまう条件下で、「Profoto B10」を白い大きな壁に打って撮影したということ。光の硬さというのは、実は大部分が光源の大きさに比例するものなのだ。

つまり、直径数mmしかないiPhone内蔵LEDフラッシュも、発光部の直径が10cmほどの「Profoto B10」の発光部も、人物に対して直射すれば相対的に小さい面積の光源なので硬い光になってしまう。

そこで「Profoto B10」の光を白い大きな壁に当て、その大きな面からの跳ね返りを光源として使えば柔らかい光として使えるというわけだ。

こうした反射を使うテクニックを「バウンス」と呼び、今回のは一般的に「壁バン(壁面バウンス)」と呼ばれるテクニックになる。

光の強さは光の硬さ/柔らかさと関係がないのだが、LEDライトや小光量のフラッシュでは壁にバウンスさせると光が弱まりすぎ、光源として役に立たない場面が多い。大光量のフラッシュが使えるということは、柔らかな光を創る上での自由度が小さい光量のLEDやフラッシュよりも高まるということでもあるのだ。

操作手順も至って簡単。iPhoneにAppStoreから「Profoto」アプリをインストール。アプリを起動したら、B10の電源をオンにするとProfotoアプリ画面に「B10」という文字が現れるので、あとはその横の「Connect」ボタンをタップするだけ。これでアプリとフラッシュはペアリング完了だ。同様に僕はもう一台の「Profoto B10」もペアリングし、2灯がコントロールできるようにした。

Profotoアプリの画面例。この画面から「Profoto B10」とのシンクロ撮影が可能になる。

この状態でProfotoアプリから「Profoto B10」のほとんどの機能がコントロールできるようになる。フラッシュの発光量はもちろん、モデリングランプのON/OFFや光量、色温度までが手元で行えるのだ。

そして今回の撮影のようにiPhoneカメラを使う場合は、これまたProfotoアプリの中の「Camera」メニューをタップすれば可能に。iPhoneの標準カメラアプリと違い、フルオートでの撮影はもちろん、シャッター速度/ISO感度/ホワイトバランスの各項目をひとつでも、全部でもマニュアル設定できるので思い通りの明るさと色が設定できる。

僕の撮影対象は人物が多く、ひとつのシチュエーションでも表情狙いで何枚もシャッターを切る。その時にオート撮影はコマ毎に明るさや色合いが変わりがちなので、普段から撮影はマニュアル露出で行なっている。iPhoneでも使いやすいインタフェースのマニュアル撮影ができるのはとても便利に感じられた。

この「オート」という機能にフォーカスしてみると撮影条件に合わせてフラッシュが適切な発光量で光ってくれる「TTLオート」には対応していない点は残念なところ。Profotoのフラッシュはプロ用のスタジオフラッシュまで現行機種は全てTTLオートが搭載されており、発光量の目安を決めるのにこのTTLオート機能はとても便利に使えるだけにiPhoneでもぜひとも対応して欲しかったところ。

ただしProfotoのテクニカルチームはこの機能を現在、開発中とのことでアプリのアップデートにより近い将来、TTLオート機能も実現されそうだ。

木漏れ日を再現する

次に、試してみたかったのがただ柔らかいだけでなく、ムラのある光。窓のブラインドから差し込む光や木漏れ日など、光そのものに強弱があり、陰を感じさせる光の演出だ。

Profoto B10なし
Profoto B10あり

今回は、床に寝かせたモデルに微妙にムラになった光を当ててみようと、椅子の背を「Profoto B10」とモデルの間に置いてみた。事前に抱いていたイメージでは、モデルの顔にくっきりとした縞状の影が落ちるのではなく、微妙にフラットでない光が当たっているものだった。

そこで今回の撮影ではメインの「Profoto B10」にもうひとつ「Profoto B10」を加え、壁にバウンスした光をプラスすることで光と影のコントラストを和らげている。

照明で、影を作りたいときのポイントはひとことで言えば「距離」にある。木漏れ日を演出したいとき、光源であるストロボに木の葉をつけても影はほとんど感じられないはず。影を作るための物体(=この場では椅子の背)は出来るだけ光源から離し、被写体であるモデルに近づけると影がくっきりと落ちるわけだ。

屋外でハイスピードシンクロ

そして、Profotoのフラッシュといえば超高速シャッターでもきちんとフラッシュを同調させられる「ハイスピードシンクロ」機能も特徴のひとつだが、もちろんAirXでもこれに対応している。iPhoneは通常のフラッシュ同調速度は1/60秒以下だが(機種により若干の差がある)、「iPhone 11 Pro」の最高シャッター速度である1/25,000秒までシンクロさせることができるのだ。

超高速シャッター、というとスポーツなどの激しい動きの撮影をまず思いつくものだが、今回、僕が思いついたのは日中シンクロ。この撮影当日は夏の日中だが雲が多いという条件。ハウススタジオの外に出て空を写し込んだ撮影をしたかったが、空は雲で青空には写らず、モデルの立ち位置は建物の日陰で顔が暗く写るという状況。

そこで思い浮かんだイメージは、暑い夏なのにちょっとクールな庭にいる人物というもの。そこでB10の発光面にOCF IIカラーフィルターの「ハーフCTO」を取り付けて撮影に挑んだ。

Profoto B10なし
Profoto B10あり

カメラには広角レンズを選択、感度は最低のISO 32、シャッター速度は明るい空の雲のディテールが飛ばない暗さにするために1/4,000秒とした。

そしてホワイトバランスは画面全体がクールなブルーに写るように低くセットし、モデルの顔と建物の壁には「Profoto B10」を直に照射した。

ホワイトバランスで全体がシアン(水色)っぽくなったところに、ハーフCTOというアンバー(薄橙)色の光を照射することでお互いが相殺され、顔は健康的な肌色に、建物の白壁は白いままに撮影できる。本当は酷暑ではあるのだが、ちょっと涼しげな雰囲気が演出できたのではないだろうか。

屋内でハイスピードシンクロ

最後に、Profotoの大きな魅力ともいえるライトシェーピングツールを取り付けて、スタジオビューティーポートレートを撮影してみた。明るいハウススタジオ内での撮影になる。

150種類ほどもあるというシェーピングツールが自由に使える「Profoto B10」だが、今回チョイスしたのは「RFi Softbox 4’Octa」と「RFi Softbox 1×6’」のふたつ。これをモデルの正面から上下に組んでの2灯ライティングとした。

通常、この手のビューティーポートレートのスタジオ撮影では、スタジオを暗くしてフラッシュの光だけが写るようにして行うものだが、今回撮影した日中のハウススタジオは窓が大きくて暗くはできなかった。

照明なしで、iPhoneカメラでそのまま写したのが下の写真。

Profoto B10なし

これに、「Profoto B10」の2灯を加えたのが次の写真だ。

Profoto B10あり(通常発光)

これだけでもずいぶんと写りをコントロールできるわけだが、背景の黒布のシワが目立ってしまい、全体のコントラストもコントロールできていない。これはなぜかというと、iPhoneカメラには物理絞りが搭載されておらず、通常のシャッター速度で撮影するとその場にある、窓からの太陽光が大きく影響してしまうからだ。

そこで、ここでもHSS(ハイスピードシンクロ)機能を使い、1/500秒のシャッター速度とすることで太陽光の影響をほぼなくし、撮影したのが下の写真だ。

B10あり(ハイスピードシンクロ)

透明感のある発色と、美しいグラデーション・階調で定評のあるProfoto B10とライトシェーピングツールによる光が、iPhoneでも存分に活かされることが実感できる描写になった。

まとめ

今回の撮影を通して、iPhoneのカメラでもProfotoのフラッシュを使って、光を自由にコントロールすることが可能になったことを実感できた。

一眼レフやミラーレスといったカメラを既に使っているので、それらのカメラと同様なフラッシュ撮影が「iPhoneでできるだけでしょ?」と思われてしまうかもしれない。けれども、これまではできなかったことが高度な新テクノロジーによって実現できたことは素直に喜ばしい。ここから先の可能性はメーカーでなく、撮影者やクリエイターが広げていくもの。僕はこれまで不可能だった本格的なフラッシュ撮影がスマートフォンでおこなえるようになったことで、どんな写真がこれから先、撮れるのかにワクワクしている。

協力:プロフォト株式会社
モデル:小野あかね(GATHER)

吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年よりカメラグランプリ外部選考委員。