特別企画

プログレードデジタルのCFexpressは「EOS R5」をどこまで快適にするか

ポートレートで動画・連写を検証 一瞬の内に潜む、更なる瞬間をつかまえるために

今年7月に発売されたキヤノンEOS R5は約4,500万画素の高画素センサーを搭載しながらも、メカシャッター12コマ/秒、電子シャッター20コマ/秒と高速連写機としての側面も併せ持つハイスペックカメラだ。さらに動画性能に関しても8K 30pのRAW記録や4K 120pによる撮影にも対応するなど、35mm判ミラーレスカメラの世界で最高水準のスペックを誇る。

私自身、EOS R5を発売日に購入して以来、かなりの枚数の撮影を行ってきているが、その撮影体験は想像を遙かに超えるものだった。フルサイズ高画素機らしい余裕のある描写性能や、思い通りに被写体にピントが合うAF性能、高速な動体にも対応する連写性能などを、EOS 5Dシリーズを踏襲した操作系が支えるといった具合だ。すべての面で基本性能が高いレベルに仕上がっていることが、快適な撮影体験が得られる主な理由になっているわけだが、実はもう一つ撮影体験に大きな影響を及ぼす要素がある。それがCFexpressカードによる超高速な書き込み性能だ。

そこで今回はEOS R5とCFexpressを組み合わせて使用すると、その撮影体験がどれくらい快適になるのかを、実際に私が使ってきた感想や具体的なポートレート撮影、検証の結果を交えながら紹介していきたい。

本検証で使用したEOS R5は最新ファームウェア「Ver1.1.0」(8月27日公開)以前のものです。

CFexpressの使用は撮影を変えるか

今回はEOS R5で連写を積極的に使ったポートレート撮影を行った。これまでの撮影に比べて、得られる結果がどのように変わるのか、その違いはあるのか、を検証している。使用したCFexpressカードはProGrade DigitalのCFexpress Type B Cobalt 650GBだ。

Cobalt 650GB。W1,500MB/秒、R1,700MB/秒の高速な読み書きに加えて、最低書き込み速度1,400MB/秒を実現。SLCタイプの内部メモリーを使用することでバッファ解放でも有利になるなど、利点が多いカードだ

筆者は以前、EOS-1D X Mark IIIのカード書き込み性能について、以下記事のとおり検証したことがあった。この時にもProGrade DigitalのCFexpress Type B Cobaltカードを使用している。この時のカード選択の理由は、キヤノン公式のEOS-1D X Mark III紹介Webページ上の仕様表において、「当社試験基準325GB CFexpressカードを使用」して連続撮影可能枚数を測定しているとの記載があったためだ。直接的にProGrade Digitalの製品を使用しているとの記載があるわけではないが、現在市場に流通しているCFexpress Type Bカードで325GBの容量をもつ製品は、Cobalt 325GBが唯一。事実、検証では「1000枚以上」と記載のある枚数を超えて、無限連写が可能だった。今回のEOS R5の検証ではこの実績をもとに、Cobaltカードを評価軸とすることとし、また画素数が向上していることや、8K動画記録が要求するであろう厳しい書き込み性能に鑑みて、さらに高速化したProGrade Digitalの第2世代CFexpress Type B Cobaltカードを用いて検証することにした、というわけだ。

ところでポートレート撮影で連写というと、真っ先に動きまわるモデルの一瞬の表情やしぐさを捉えたいシーンが思い浮かぶ。たとえば次の写真のようなシーンだ。

EOS R5 / RF28-70mm F2 L USM(70mm) / 絞り優先AE(F2・1/4,000秒・±0EV) / ISO 100 / WB:オート

モデルにカメラに向かって水をかけてもらい、EOS R5の高速連写+(12コマ/秒)を使ってベストなタイミングを撮影。前後のコマを含めるとこのような状況だ。

顔+追尾優先AF(瞳認識あり)を使用。ピントはすべてカメラ任せとしている

前のコマでは水の勢いが弱く、次のコマになると水しぶきが顔にかぶってしまった。このようなカットは、10コマ/秒以上の高速連写で撮影するとベストなタイミングで撮影しやすい。

この3コマを見るだけなら、今まで通りSDカードでも良いのではないか、とも思ってしまうが、実はこの1枚を撮るために何度も水のかけ具合を調整しながら撮影しており、実際に撮影したデータは次のように膨大だ。

短いインターバルで何度も水をかけてもらいながら高速連写を繰り返すような撮影だったが、書き込み待ちのストレスはゼロ。撮影中にバッファが詰まってしまうことが無かっただけでなく、撮影後に画像確認をしようと思ったときにはすでにアクセスランプは消えている状態。連続撮影→画像確認の流れが極めてスムーズに行えた。

バッファクリア“待ち”がなくなる

これまでの高画素機を使った撮影を思い返してみると、テンポ良くサクサク撮っていきたい現場では必ずデータの書き込み完了を待って次に撮影を行う流れとなっていた。時代にあわせて高画素機の定義は2,000万画素の時もあれば4,000万画素の時もあったが、私自身の経験に即して言えば、RAW+JPEGで連写する必要があるときは、いつもバッファフルにならないように注意し、それでも書き込み終了まで少し待つ、というのが一つの作法となっていた。

撮影の間でインターバルのように発生する、こうした“待ち”は、もう当たり前になりすぎてしまい、「高画素機での撮影はこんなものなんだ」と思い込んでいたところが、正直なところあった。しかし、EOS R5にCFexpressを挿して撮影してみるとデータの書き込みを待つ、というお作法を意識する瞬間がなくなった。

かなり厳しい撮り方をすればEOS R5でもバッファがフルになることもあるし、カードへの書き込み時間も多少は発生する。しかし、少なくとも私の撮り方では「データの書き込み」を意識することなく、撮りたい瞬間に撮ることが出来るようになったと言える。次の写真も連写で撮影しておいて良かったと思えたシーンだ。

モデルを手前の噴水と絡めながら撮影していたところ、風が一瞬だけ吹き、ワンピースの裾が良い感じでなびいた。前後2コマを含めた連続カットは以下の通り。時間にして0.42秒ほどの間にワンピースの形が大きく変わっていることが見てとれる。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(200mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/3,200秒・-0.3EV) / ISO 640 / WB:5000K

このような動きの少ないシーンで数百枚もの連写をするのはナンセンスだとは思うが、ポイントごとに5~10枚くらいの連写をしておくと、後でベストなタイミングのカットが選びやすくなる。

また、このシーンで印象的だったのはEOS R5の被写体認識能力の高さだ。このようなモデルが小さく写っているシーンでも顔+追尾優先AFに設定しておくだけでカメラが自動で被写体を認識し、ピントを合わせてくれる。

このカットに限らず、今回掲載している写真は、すべて顔+追尾優先AFで撮影しており、ピントは基本的にカメラ任せ。私がやったことといえば、構図を整えてシャッターボタンを押すことだけだ。連写と被写体認識により、シャッターチャンスとピント合わせの両方をカメラへアウトソース出来てしまう。ピント合わせや書き込みといった不安要素がなくなることで、撮影により集中できるようになる。

ところでEOS R5に搭載されている、この被写体認識機能「EOS iTR AF X」はディープラーニング技術を取り入れることで、その機能を大幅に強化しており、従来機種よりも顔や瞳の検出精度が大幅に向上している。被写体が後ろ向きとなったシーンであっても、人物の頭部を検出してくれるのだ。

これまでのカメラでは、動きのあるシーンで連写をしている時に、モデルの顔が見えなくなってしまうと、ターゲットそのものを見失ってしまっていたが、EOS R5であれば顔が見えなくても頭部を検知してくれるのでターゲットロストの可能性が大幅に低減しており、再び顔が見えたときの復帰も早い。

次の写真はモデルにその場でクルクルと回ってもらいながら連写した中の1コマだ。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(142mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/400秒・±0EV) / ISO 500 / WB:オート

さすがにこのくらいシンプルなシーンでは顔が見えなくてもピントが背景に抜けてしまう可能性は少ないが、これまでなら後ろを向いた瞬間にワンピースに測距点が移り、再び顔が見えても測距点が顔に復帰するまで時間がかかってしまうケースが少なくなかった。

今回の撮影では連写中つねに顔(場合によって瞳)、頭部を検知し続けてくれピント精度も十分な結果だった。一連の撮影結果をアニメーションにしてみた。ファインダー内の見た目はこのようなイメージだ。

20コマ/秒の使用感は

続いて試したのは電子シャッターによる20コマ/秒の連写撮影だ。モデルに自由に動いてもらいながら手前の花壇の上を舐めるように手持ちでカメラを移動させた(RAW+JPEG撮影)。撮影した静止画を20fpsでアニメーションにしてみたのがこちらだ。

コマ送りアニメーションというよりは通常の動画に近い滑らかさだ。合計69コマ(約3.5秒間)の中から3枚をピックアップしてみた。通常の静止画を撮ったので当たり前ではあるが十分なクオリティの写真が得られた。

EOS R5 / RF28-70mm F2 L USM(70mm) / 絞り優先AE(F2・1/800秒・+0.7EV) / ISO 100 / WB:オート
EOS R5 / RF28-70mm F2 L USM(70mm) / 絞り優先AE(F2・1/800秒・+0.7EV) / ISO 100 / WB:オート
EOS R5 / RF28-70mm F2 L USM(70mm) / 絞り優先AE(F2・1/800秒・+0.7EV) / ISO 100 / WB:オート

4,500万画素のRAW+JPEG(このシーンでは1カットにつき平均で約50MB)を秒間20コマで撮影した場合に発生するデータ量は、毎秒約1GBととてつもないサイズとなるのだが、このくらいの連写までなら止まらず撮影出来てしまうのがCFexpressの良いところだ。さすがにバッファは溜まってしまうが、ProGrade DigitalのCobaltシリーズはバッファの解放も速く、すぐに次の撮影に移ることができる。

撮影では電子シャッターを使用しているが、心配していたローリングシャッター歪みもこのくらいの移動スピードなら全く気にならない。

8K切り出し

EOS R5の目玉機能の一つである8K動画からの切り出しもチェックしてみよう。EOS R5の8K RAW動画は12bitのRAW画像が連なった構造となっているので、撮影後に動画内の1フレームを切り出して編集することができる。

8K DCI 30pのRAWで撮影後、約13秒のクリップから1枚を切り出したのがこちらだ。

EOS R5 / RF70-200mm F2.8 L IS USM(135mm) / 絞り優先AE(F2.8・±0EV) / ISO:オート / WB:オート

8K RAWで撮影したデータを8K動画として編集する場合、処理が非常に重くなるため、それなりに覚悟して取りかかる必要があるが、切り出しであればDigital Photo Professional 4(以下DPP4)でも可能だ。PCに求められる性能も、そこまで高くないところもポイントだ。

撮影したRAWファイル(.CRM)をDPPで開き、ツールパレットの歯車アイコンをクリックし「RAW動画のフレーム選択」から目的のフレームを選択。後は通常のRAW現像と同じように編集して静止画に書き出すだけでOKだ

もし動画として処理したい場合はキヤノンが提供するCinema RAW Converterを使うと良いだろう(静止画データが書き出されるので最終的には別ソフトを使い一般的な動画形式に書き出す必要がある)。

8K RAWファイルを動画として書き出したものは以下のようになる(非常に重いので4Kにダウンコンバートしている)。

8K RAW撮影は内部の発熱が大きく、連続した撮影を行った場合、熱警告によりスムーズに撮影が出来ない可能性があるので、しっかり計画的に撮影しよう。

なお、8月27日付でEOS R5向けの新ファームウェアVer1.1.0がリリースされている。この最新バージョンのファームウェアでは動画撮影時の温度検知および撮影可能時間制御の改善が図られている。これからEOS R5を用いて動画撮影を実施したいと考えている人はぜひアップデートしておこう。

検証編

ここまで、実写を通してEOS R5とCFexpressの可能性を紹介してきたが、室内でもう少し定量的な検証も行ったので最後に紹介しておこう。検証ではRAW+JPEG設定での連写可能枚数と8K RAW動画の撮影可能時間をテストしている。使用しているカードは、ProGrade DigitalのCobalt 650GBカードだ。

テスト時の機材セッティングはRF70-200mm F2.8 L IS USMを組み合わせている。測定環境は室温が25度(メーカー公称:23度)だ

キヤノンのEOS R5製品ページで公表されている連続撮影可能枚数は、SD UHS-IおよびUHS-IIカード使用時の数値のみとなっており、RAW+JPEG撮影時にそれぞれ約64枚、約79枚となっている。

今回の検証を通じて、EOS R5の高速連写+(最大12コマ/秒)で撮影した結果、バッファフルまで撮影出来た枚数は129コマで、約11.3秒の連写が可能だった。SDカードを使った公称値の約2倍の連続撮影ができたことになる。

なお、本検証で撮影した1カットあたりのデータサイズは約69MB(RAW+JPEG)だった。毎秒約590MBの書き込み速度での総書き込みデータ量(シャッター押下からアクセスランプが消えるまでの時間[約15秒]を元にして概算)は、約8.9GBとなる計算だ。データサイズは背景がシンプルだったりボケが大きなシーンなどでは1コマあたり55MB程度となることもよくあるので、撮影シーンによってはもっと連写枚数が伸びることもある。

ProGrade Digitalでは、CFexpressカードとSD UHS IIカードにCobaltとGoldの2種類をラインアップしているが、両シリーズともにCobaltシリーズはSLCメモリを採用している。

SLCメモリの特性を簡単に整理すると、書き込み時の速度変化がないことと、発熱量の小ささがあげられる。この2点は静止画はもちろん動画記録で真価を発揮する。仮に8Kレベルの動画は必要ないとするユーザーにとっても、この安定した記録速度がスタートからカードフルまで得られる点は大きなメリットをもたらすことだろう。というのも、CFexpress Type B Cobaltの最低継続書込速度が1,400MB/sと非常に高速であるためだ。約590MB/sというデータレートは、カードではなくカメラ側がボトルネックになっていることが考えられる。

キヤノンのRAW記録形式には、C-RAWという、データ容量が軽くなるタイプも用意されており、よほど激しい現像をしなければこの形式でも十分な品質が得られる。同じ条件で記録形式をC-RAW+JPEGにした結果、連続撮影可能枚数は198コマ(16.4秒)と大きく伸びた。この時の1カットあたりのデータサイズは約43MB(C-RAW+JPEG)。総書き込み容量は8.5GBだった。

EOS-1D X Mark IIIのようにカードフルまで無限連写、というわけにはいかないが、約4,500万画素の高画素機を使い、かつ12コマ/秒の連写をこれだけの枚数でこなせれば十分すぎる結果だと思う。しかもバッファフルからの解放時間は約4秒と激速だ。

実際の撮影では、そこまで連写しないというユーザーであっても、このバッファ解放までのロスタイムの少なさは大きな魅力になるだろう。テンポよく撮影をしていくうえでも、撮りたい瞬間にシャッターが押せない、というのはチャンスを逃すだけでなく、大きなストレスだ。こうした点でも、CFexpressカードがEOS R5の快適な撮影性能実現の一つのキーデバイスとなっていることが実感できる。SDカードでしか運用していない、という人は、ぜひ一度使ってみてほしい。

最後に8K RAW動画の撮影可能時間についても紹介しておこう。EOS R5の8K RAW動画のビットレートは約2,600Mbps(約325MB/s)ととてつもなく大きく、CFexpressカードであっても安定した連続書き込みが維持出来なければ、途中で止まってしまう恐れもある。この点でも前記したとおりSLCメモリを採用するCobaltカードのメリットがいきてくる。今回のテストでは、Cobalt 650GBの場合、カメラが熱で停止するまでの約17分30秒の撮影が可能だった。データ容量は342GBとCobalt 325GBの容量を超えていたので、よりカメラの熱発生が少ない条件であれば、さらに長時間の撮影も可能になることだろう。記録停止直後のカードの発熱も約55度と、きわめて低かったこともお伝えしておきたい。

8K DCI 30p RAW設定で停止するまで撮影。停止した時の最後の1コマを切り出した

まとめ

以上、実写と検証を通してEOS R5とCFexpressを使った撮影の可能性について紹介してきた。今回の撮影では、途中SDカード(ProGrade Digital Cobalt 256GB)も使用してみた。ポートレート程度であればSDカード(UHS-II)でも今まで通り、大きな不自由なく撮影が出来そうだという感触はあったものの、CFexpressを使ったゼロストレスな撮影を一度体感してしまうと、もうSDカードには戻りたくないという気持ちが強くなってしまう。

今までの記録メディアは、撮影中に「今頑張ってますよ!」と赤いアクセスランプを点滅させながら、その存在を主張していたが、CFexpressは撮影中にその存在を感じさせず、でも仕事はしっかり遂行する優れた裏方のような存在になっている。

50万円近くするEOS R5の性能をメモリーカードが制限してしまうのは非常にもったいないことだ。CFexpressは高価だと考えている人も多いと思うが、SD UHS-IIカードと比べれば容量単価は10~30%程度しか変わらない。

この高速性能が少しの出費で手に入るのは非常に価値のあることだと思うので、EOS R5を手にしているユーザーはぜひCFexpressを使った快適な撮影を体感してみて欲しい。

制作協力:ProGrade Digital
モデル:大川成美

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。