特別企画

CFexpressの最高速度を引き出すために

プログレードデジタル製Thuderbolt 3対応カードリーダーの実力を探る

ProGrade Digital Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー

昨年末から各社ハイエンド機を中心に記録メディアのシフトが徐々に進んでいる。CFexpressカードへの置きかわりだが、ファームウェアアップデートによって同カードに対応したパナソニックLUMIX S1シリーズや、ニコンZシリーズなどもそうした流れを象徴する機種だ。今年2月にはキヤノンEOS-1D X Mark IIIが最初からCFexpressに対応して登場し、ニコンのD6もCFexpress対応をアナウンスするなど、一眼レフカメラ、ミラーレスカメラを問わず、各社フラッグシップモデルでの採用が相次いでいる。

撮影体験が変わった。だが、その後は?

CFexpressカードは、読み書き能力がこれまでのCFやSDカードよりも飛躍的に向上したメモリーカードだ。これを記録メディアとして採用したことによって、対応カメラは本来持っていた撮影能力をフルに発揮できるようになった。もちろん、画質が改善されたという意味ではない。撮影可能枚数や連写枚数、そしてそれらの制約から撮影行為が解き放たれたことで得られるようになった撮影体験の変化という意味でのことだ。

筆者は、前記したCFexpress対応カメラ「EOS-1D X Mark III」にCFexpressカード(ProGrade Digital Cobalt 325GBカード)を組み合わせて、CFexpressカードがどこまでカメラの撮影性能を引き出し、撮影体験を変えてくれるのかを検証していた。Cobalt 325GBカードはSLCメモリを使用しているということもあり、これまでのカメラでは不可能だった撮影を可能にしてくれていた。まだご覧いただけていない方は、ぜひあわせてご覧いただきたい。CFexpressカードがカメラにもたらした新しいステージを感じていただけるはずだ。

このように、新しい記録メディアの登場によって、カメラ側の性能をフルに引き出すことが可能となったわけだが、次に懸念される問題が、“撮影後の処理をどうするか”ということだ。高速な記録処理が可能なカードは撮影ストレスが少ない分、撮影枚数が増えがちだ。自然と記録データ容量も大きくなる。昨今の高画素化をふまえると、撮影後にPC側へ取り込むデータ量の肥大化は避けられない問題だろう。そう、今回検証していくテーマは、CFexpressカードからパソコンへのデータ転送速度についてだ。

今回はProGrade Digitalから発売されたばかりのThunderbolt 3対応カードリーダー「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー」を使って、その転送速度を検証した。転送速度の違いがワークフローにどのような変化を与えるかを紹介していきたい。

高速なカードの性能をフルに引き出すために

現在市販されているCFexpress対応のカードリーダーはUSB3.2(3.1)接続に対応した製品が多く、転送速度も高速だ。が、それでも超高速なCFexpressカードの読み書き速度を引き出すことはできていない製品が多い。つまり、せっかくの高速転送が魅力となるカードを使っていても、その速度メリットに対してカードリーダー側がボトルネックになってしまっている、というわけだ。

例えばProGrade Digitalの「Cobalt 325GBカード」の公称スペックは、読み出しが1,600MB/sと、とんでもなく速い。がしかし、USB3.2(3.1)Gen1の理論上の最高速度は5Gbps(625GB/s)、Gen2で10Gbps(1,250MB/s)で、数値上からもCFexpressカード(Cobalt 325GBカードだけでなく、CFexpressカードの転送速度はそのほとんどが、1,600MB/s前後となっており、Gen2の理論速度を上回ってしまっている)のスペックには及んでいないことがわかる。

そうした状況下に登場したのが、今回紹介するProGrade Digitalの「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー」だ。2020年3月末に登場したカードリーダーだが、特徴は最大40Gbps(5GB/s)の高速データ転送が可能なThunderbolt 3に対応したという点だろう。同社でもCFexpressの性能をフルに発揮できると強調している。また、別途ドライバをインストールすることでXQDカードにも対応する。XQDカードを所持しており、今後も使用していきたいと考えているユーザーにとっても、高速な読み書きが得られる次世代リーダーだ。

なお、Thunderbolt 3専用リーダーは、Thunderbolt 3に対応しているパソコンだけで利用できるので、注意が必要だ。

外観

デザインは従来のProGrade Digital製カードリーダーと同じだがサイズが大きくなっていることが特徴だ。同じく3月に発売された「USB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー」とくらべると、そのサイズ感の違いがお分かりいただけることだろう。

左がUSB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー、右がThunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー

筐体が大型化した理由をメーカーに確認したところ、Thunderbolt 3への対応によるものとのことだった。同社ダブルスロットリーダーの筐体には、どうしても基板が入りきらなかったのだそうだ。

カードの差し込み口は1つのみ。筐体が大きくなったおかげで、カード挿入時に完全にリーダーの中に収まる機構となっており、作業中にうっかりカードが抜けてしまうという心配がないのが嬉しい。裏面はThunderbolt 3用のUSB Type-C端子のみと、シンプルな作りだ。

速度検証

Thunderbolt 3ポートを備えるパソコンは、Macがはやくから対応していたこともあり、ノートブックタイプとデスクトップタイプで対応製品が多い。が、インテルは第10世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Ice Lake)でCPUにThunderbolt 3コントローラを統合。Windows機でも同CPU搭載製品が続々発表・発売されており、Thunderbolt 3ポートを備えるパソコンが増えてきた。もはや、高速転送に対応する環境は、一部機種・メーカーだけのものではなくなってきているのだ。

今回の検証では、MacBook Pro(2016)を使って「Thunderbolt 3専用(CFexpress B)カードリーダー」の転送速度を検証した。

はじめにベンチマークを実施した。比較用に同社「USB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー」での結果も紹介する。検証に用いたカードはCFexpressカードが「ProGrade Digital Cobalt 325GBカード」、SDカードは「ProGrade Digital SDXC UHS-II Cobalt 128GBカード」だ。テストサイズはいずれも4GBとしている。

左からCFexpress Cobalt 325GB、SDXC UHS-II Cobalt 128GB

結果は「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー」が読み出し1,492.3MB/sと圧倒的なスピードを記録した。これはUSB3.2 Gen2の理論上の最高速度を上回る速度だ。USB3.2 Gen2対応リーダーでも読み出し899.4MB/sと速いのだが、Thunderbolt3に比べると40%も遅い結果となる。これまで高速メディアとして認識されていたSD UHS-II(254.8MB/s)とは比ぶべくもない。

CFexpress「Cobalt 325GBカード」の転送速度:Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー使用
CFexpress「Cobalt 325GBカード」の転送速度:USB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー使用
SDXC UHS-II「Cobalt 128GBカード」の転送速度:USB3.2 Gen2対応 (CFexpress B/SD) ダブルスロット カードリーダー使用

続いて、実際の撮影後を想定してメモリーカードからパソコンへの写真転送速度についても検証した。使用したデータはEOS-1D X Mark IIIで撮影したRAW+JPEGデータ2,000カット(4,000ファイル、約52GB)だ。値は3回測定した平均値を採用している。SDカードでもCFexpressで使用したものと同じデータをあらかじめ書き込んで測定している。使用しているパソコンはMacBook Pro(2016)だ。

ここでもThunderbolt 3対応リーダーが圧倒的な速さを見せつけ、4,000ファイル、52GBのRAW+JPEGデータの転送が37.2秒で完了してしまった。撮影後のデータ転送は待ち時間で一息つくという読者も多いと思うが、Thunderbolt 3対応リーダーを使うと、一息つく間もなく転送が完了してしまうのだ。SD UHS-IIのおよそ5.5倍の転送速度だ。

転送時間(秒)転送速度(MB/s)
CFexpress:Thuderbolt 337.21,397
CFexpress:USB3.2 Gen259.1879
SD UHS-II:USB3.2 Gen2206.6252

まとめ

以上のことから、ProGrade Digital Cobalt 325GBと「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー」を使えば、撮影時から撮影後に至るまで、メモリーカードの転送速度をスポイルすることなく快適に撮影ワークフローを構築できることが分かった。

転送速度が速ければ、それだけ編集作業にまわせる時間をたくさん確保できることは言うまでもない。毎日大量の撮影を行うという人も、土日しか撮影しないという人でも、画像を短時間で取り込めるメリットは大きいはずだ。何よりも、画像のセレクトや現像の試行錯誤に時間を費やせるようになることは、多くのユーザーにとって大きなプラス効果をもたらしてくれることだろう。

なお、CFexpressの性能をフルに享受するためには、受け手となるパソコン側のストレージ環境も、それなりのスペックが必要となることは覚えておきたい。CFexpressの転送速度は外付けHDDはもちろん、SATA接続のSSDの速度をも凌駕する(2.5インチSSDは、ほとんどがSATA接続となっている。一部M.2 SSDにもSATA接続製品があるので、よく確認したい)。そのため、使用するパソコンがThunderbolt 3に対応していることはもちろん、受け手のストレージがNVMe接続に対応したSSDとなっているかどうかも、チェックしておこう。また、使用するケーブルもThunderbolt 3対応のものでなければ、十分な速度が発揮されない可能性があることもポイントだ(Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダーには、Thunderbolt 3対応ケーブルは付属している)。

パソコン側のストレージ速度が十分に速ければ、ProGrade Digitalの「Thunderbolt 3専用 (CFexpress B) カードリーダー」を使う事で、異次元のデータ転送を体感できるはずだ。これだけ転送速度が速ければ、高速連写で大量に撮影を行ったり、4Kや5.5KのRAW動画撮影の転送も苦にならない。CFexpressカードを使う際は、Thunderbolt 3対応リーダーを検討してみてはいかがだろうか。

協力:ProGrade Digital

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。