特別企画

SD UHS-IIカードはα7S IIIの撮影性能をどこまで引き出すことができるのか

静止画と動画で実写・検証 体感値と検証値で徹底検証

約5年ぶりに刷新されたソニーα7Sシリーズの最新機種であるα7S III(ILCE-7SM3)は、常用でISO 102400、拡張でISO 409600の超高感度性能を備え、4:2:2 10bitの4K 120p内部記録を実現するなど、暗所撮影や動画撮影に特化したモデルである。画素数は先代とほぼ同じ約1,210万画素と控えめながら、裏面照射型に変わり、画像処理エンジンもExmor Rへと進化。像面位相差AFにも対応したことで静止画、動画共に高速で安定したAFを行うことが可能になった。

本機は4K動画性能の向上が大きな話題となっているが、静止画撮影機能も先代に比べ大きく強化されていることも忘れてはならない。連写性能ではα7S IIの2.5コマ/秒を大きく上回る10コマ/秒(AF、AE追従)となり、αの強みであるリアルタイム瞳AFにも対応。その精度はα最高レベルになっている。今回はこのα7S IIIを使い、ポートレート撮影をしたインプレッションをお伝えすると共に、α7S IIIの機能を十分に引き出すためのSDカードの選び方についても考察を行ったので紹介していきたい。

カメラの性能をしっかりと引き出すカード選び

α7S IIIは静止画向けミラーレスカメラにおいてはじめてCFexpress TypeAに対応したカメラで、CFexpress TypeAとSDカードを共用できるユニークなカードスロットを備えている。当然、より高速なCFexpress TypeAを使った方が快適に撮影できるはずだが、画素数が控えめなこともあり高速なSDカードでもかなり快適に撮影することが可能だと思われる。今回の撮影ではα7S IIIをSDカードで運用した場合の快適性を確かめるために、ProGrade DigitalのSDXC UHS-II Cobalt 256GBと同Gold 256GBを使用した。

Cobalt 256GBはSLCメモリーを採用したメモリーカードで、同社のSDカードシリーズの中でフラッグシップモデルに位置づけられているカード。リード300MB/s、ライト250MB/sの高速性能を誇る。ビデオスピードクラスもV90に対応した高速タイプだ(※ビデオスピードクラス:カードにデータを継続して書込できる容量速度を示す表示。V90なら90MB/sのデータ量を継続して書き込める、という意味)。対するGold 256GBもCobaltと同じUHS-II対応のSDカードで、リード250MB/s、ライト130MB/sとUHS-IのSDカードよりも高い性能を誇る。両者の大きな違いは、CobaltがSLCメモリーなのに対し、GoldはTLCメモリーであることにある。

α7S IIIは控えめな画素数といっても、非圧縮RAW+JPEG(エクストラファイン)の組み合わせだと1枚あたり30~35MB程度のデータ量となり、連写速度が10コマ/秒と高速である事を考えあわせると、カメラの性能を十分に引き出すには高速書込に対応したカードが必要になることが分かるはずだ。

動画撮影でも編集耐性に優れる4:2:2 10bitの4K 120p(XAVC S / XAVC HS)ならビットレートは280Mbps(35MB/s)となりSD UHS-IIカードのV60以上のスペックが必要となる。

All-Intra記録の4:2:2 10bit 4K 60p(XAVC S-I)で撮影するなら600Mbps(75MB/s)となり、V90以上のフラッグシップクラスのカードが必須となる。

なお、α7S IIIで最高ビットレートとなる「S&Qモード」で120pに設定した時、XAVC S-I 4:2:2 10bit 4K 60p記録では1,200Mbps(150MB/s)と非常に大きなビットレートとなり、この場合はVPG200以上(VPG:Video Performance Guarantee)のCFexpress Type Aカードが必須となる(SDカードではカメラ側でロックがかかる)。

実写インプレッション

前置きが長くなってしまったが、ここからは実写のインプレッションをお伝えしていきたい。α7S IIIを静止画撮影用途で使用する場合、一番気になるのはその画素数ではないだろうか。私もこのところ4,000万画素以上の高画素機をメインで使用していたため約1,210万画素の絵は物足りないことになりはしないだろうか? と思っていたのだが、撮影してみるとそんな心配はふきとんでしまった。

瞳AFで手前の目にバッチリとピントが合っておりシャープさとボケのメリハリがきちんと出ている
α7S III / Planar T* FE 50mm F1.4 ZA / 絞り優先AE(F1.4・1/500秒・±0EV) / ISO 80

ご覧の通り、しっかりピントを合わせて撮影すれば全く問題ない写真が得られる。撮影後のトリミングを考えないのであれば約1,210万画素でもほとんどの場合で十分なはずだ。4Kモニターでセレクトしていても特に違和感はなかった。写真のシャープさは画素数よりもレンズの性能やピント精度、シャッター速度の影響が遙かに大きいからだ。

日なたにあるピンク色の花を背景に入れた。白飛びして色が出ないことを心配したがしっかりと色が残っている。日陰にいるモデルの肌の階調もなめらかに出ている
α7S III / FE 70-200mm F2.8 GM OSS(133mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/500秒・-0.3EV) / ISO 640

余裕のある画素数のため、輝度差の大きなシーンでも階調は極めて滑らかで安心してシャッターを切っていける。α7S IIIではグリップやボタン類もα7R IVやα9 IIと同等の形状になっており、重めのしっかりしたレンズを付けて撮影しても疲労感が少ないのもポイントだ。シャッターショックもよく抑えられていて、シャッターフィーリングも良好だ。

このシーンではα7S IIIの特徴であるバリアングルモニターを活用して地面スレスレから撮影している。

高速連写を活かしてフワリと体が浮いたような一瞬を狙った
α7S III / FE 70-200mm F2.8 GM OSS(200mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/640秒・+0.3EV) / ISO 640

これまでαで採用されてきたチルト式モニターでは撮るのが大変だったシーンだ。モデルに自由に動いてもらいながら10コマ/秒で連写したところ、体が地面からわずかに浮かび上がっている瞬間を撮ることができた。

ちなみにこの前後2コマの写真は以下の通りだ。体が宙に浮いているのはこのコマのみで先代のα7S II(2.5コマ/秒)ではこの瞬間を捉えるのはなかなか難しいだろう。

後述のラボテストで詳しく述べるが、UHS-IIのCobalt 256GBでも非圧縮RAWとJPEG(エクストラファイン)の組み合わせでは10コマ/秒の連写だと120コマ程度でバッファフルとなってしまう。だが、圧縮RAWとJPEG(ファイン)の組み合わせなら、ほぼ止まることなく好きなだけ連写しながら撮影することが出来たことも付記しておきたい。

高性能な瞳AFの精度も健在で、次の様な輝度差が大きく手前の腕にピントが持って行かれやすいシーンでも連写中瞳を離すことなく撮影することが出来た。

このときは髪に動きが付いた瞬間を狙って連写で撮影していたのだが、髪を持ち上げている直前のシーンでも思いがけず良い表情を撮ることが出来ている。

α7S III / Planar T* FE 50mm F1.4 ZA / 絞り優先AE(F1.4・1/1,250秒・±0EV) / ISO 400
α7S III / Planar T* FE 50mm F1.4 ZA / 絞り優先AE(F1.4・1/1,000秒・±0EV) / ISO 400

動画撮影では?

次は動画撮影時に新しく搭載されたアクティブモード手ブレ補正を試してみた。この手ブレ補正を使うと画角が少し狭くなってしまうが、通常の手ブレ補正よりもより安定した手ブレ補正効果が得られる。電子式ではなく従来のボディ内手ブレ補正をより発展させたものだ。画質はSDカード利用時に最もビットレートを高くできるXAVC S-I 4:2:2 10bit 4K 60p(600Mbps)を使用している。

アクティブモード手ブレ補正の効果

効果は動画を見ても分かるようにかなり高いと感じた。ゴリラポッドにα7S IIIを取り付け早足でモデルを追っていく、という撮り方をしているが、明らかに通常の手ブレ補正よりブレ(身体+手のブレ)が軽減されていることが分かるはずだ。

もちろん完全にブレを吸収できているわけではない。とはいえ、これまでジンバルを必要としていたシーンのいくつかは手持ちで対応できるようになるかもしれない。また、お互いに動きながらの撮影であったが当然のように顔にピントを合わせ続けてくれる瞳AFも見事だ。

動画に関してはCFexpress TypeAが必須となる「S&Qモード」120p設定時、XAVC S-I 4:2:2 10bit 4K 60p記録を除けば、通常の4:2:2 10bit 4K120pはもちろん、All-Intra記録の4:2:2 10bit 4K 60pでも、Cobalt 256GBは全く問題なく記録することができた。動作も安定そのものだ。

ラボテスト

続いてスタジオ内でカードの書き込み性能をより定量的にテストしてみた。2つの性能の異なるSDカードを使い、連写出来る枚数がどう変化するのか検証を行った。

テストの様子

使用したSDカードは、実写で使用したProGrade DigitalのSDXC UHS-II Cobalt 256GBと同Gold 256GBだ。

10コマ/秒(Hi+)設定でバッファフル(連写が止まるまで)の枚数(3回の平均)を計測している。RAWは非圧縮、JPEGはエクストラファイン設定だ。結果は以下の通りとなった(※CobaltのRAWのみは2回測定の平均)。

RAW+JPEG(枚)RAWのみ(枚)
Cobalt(256GB)1265518
Gold(256GB)5164

結果はCobalt 256GBの圧勝となった。最高画質のRAW+JPEGでも120枚を超えて連写が可能で、RAWだけなら、ほぼ無限連写といっていい数値となった。Goldの名誉のために言っておくとSDカードを記録メディアに用いた10コマ/秒クラスのカメラの連続撮影可能枚数は通常30~50枚程度なので、この数字が特段悪い結果となったというわけではない。Cobaltの性能が非常に高いが故に、両者の違いがはっきりと数字に表れる結果となったのだと考えるべきだろう。

α7S IIIではRAW(非圧縮)+JPEG(エクストラファイン)の組み合わせだと1枚あたり30~35MB程度のデータ量(うちRAWは約25MB)となる。今回の条件だとRAW+JPEGで約300〜350MB/sのデータが発生するため、SDカードの書き込み速度限界を超えてしまうが、10秒以上の連写ができれば通常のシーンであれば、まず困ることはないだろう。バッファ解放も数秒(約3秒ほど)で終わるため快適だ。

Cobalt 256GBで連写した場合。連写ストップから、バッファ解放までを記録している

SLCメモリーの優位性が際立つ

もう一つ注目すべきポイントは、RAW単体での連写結果の差だ。RAWのデータ量を約25MBとして計算すると、Cobalt 256GBは約250MB/sのデータ量が継続して書込処理されていることになる。この250MB/sというのはCobalt 256GBの公称最大書込速度と同じである。つまり、カードの最大書込速度が長時間継続して発揮されている、ということでもあるわけだ。

このような最大書込速度と継続書込速度がほぼ同じである理由は、Cobaltが高速なSLCメモリーを採用しているからだといえるだろう。通常のTLCメモリーの場合ではこうはいかかない。

今回のテスト結果から考えると、Cobaltならα7S IIIの最大ビットレートである1,200Mbps(150MB/s)の4K撮影も問題なくこなせそうだという感触が得られた。事実、ソニーが公表している各機能の動作対応メモリーカードリストにも、V90以上かつスローモーション撮影ではないという条件つきではあるが、対応することが明記されている。

また、今回スタジオでの検証はしていないが、少し画質を抑えたRAW(圧縮)+JPEG(ファイン)の組み合わせの場合は、データ量が20MB/枚以下となるため10コマ/秒での撮影で連写が止まることはなかった。

XAVC S-I・4K 60pはSDカードでも問題ない

動画撮影についても簡単に検証してみたが、Cobalt 256GBはビデオスピードクラスV90であり、600Mbps(75MB/s)のXAVC S-I 4:2:2 10bit 4K 60pを全く問題なく記録することが出来た。

XAVC S-Iで4K 60p記録設定にして、Cobalt 256GBを挿入した状態。1枚の記録可能時間が55分と表示されている

一方、Gold 256GBはビデオスピードクラスV60となっており、XAVC S-I 4:2:2 10bit 4K 60pはカメラ側で制限され、記録することができなかった。α7S IIIでSDカードを使った動画撮影をする場合は、あらかじめマニュアルに規定されているスピードクラス以上のカードを用意しないと、カメラ側で制限がかかるようだ。

XAVC S-Iの4K 60p記録に設定した状態でGold 256GB(V60)を挿入したところ。V90のSDカードかVPG200以上のCFexpressカードを使用するように、というメッセージが表示されて、撮影にロックがかかる

まとめ

以上、α7S IIIでポートレート撮影をしたインプレッションとProGrade Digital SDXC UHS-II Cobalt 256GBを使用したラボテストの結果をお伝えした。

α7S IIIの優れたパフォーマンスを最大限引き出すには世界初対応のCFexpress TypeAカードを使うのが良いとは思われるが、現在の所CFexpress TypeAは入手性やコストパフォーマンスなどにやや難がある状態だ。今回の検証結果から考えていくと、SD UHS-IIカードの中でも、とくに書き込みが速いCobaltならα7S IIIの性能を十分に引き出しながら快適に撮影出来ることが分かった。

一方、同じUHS-II対応カードでも、書き込みが遅いカードの場合は、α7S IIIの性能を一部制限してしまうこともわかった。ましてやUHS-Iカードを使った場合は、高価なボディの性能を大きく制限する結果となるだろう。α7S IIIに限らず最近の上級機を使う場合は、カードの書き込み性能が十分に高い製品を使うことが、カメラのパフォーマンスをしっかりと引き出すことにつながっていく。連写性能やバッファクリアまでの時間、動作の安定性などに疑問を感じたら、カードを変えてみるというのも、カメラとつきあっていく上でのポイントでもあるだろう。

制作協力:ProGrade Digital
モデル:日向恵理

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。