特別企画

カードを変えるとカメラも変わる。SD UHS-IIがひらくEOS R6/R/RPの可能性

実撮影と検証から見えてきた、今UHS-IIカードを使いたい理由

今回のテストでは、SD UHS-IIカードをメインの記録メディアとするEOS Rシステム3機を用いて検証を実施した

デジタルカメラで使われている記録メディアとしては、近ごろではCFexpressカードが台頭してきているが、いまだそのメインストリームを占めているのはSDカードだ。このSDカードも入門機にはUHS-I対応のSDカード、中〜上級機はより高速なUHS-II対応のSDカードといった具合に、カメラの位置づけによって対応するカードの速度で差別化が図られていることが一般的だ。しかし、最近はカメラの高画素化と連写速度の高速化が進んだこともあり、入門機〜中級機でもUHS-IIに対応したカードスロットが搭載されるケースが増えてきている。

今回は供給状況も安定し、またEOS R6、R、RPを対象としたキャッシュバックキャンペーンも実施される(Come on! SUMMER 2021キャッシュバックキャンペーン)など、ぐっと手にしやすくなったこれら各機種をテストベッドとして、それぞれの撮影性能をUHS-II対応のSDカードがどれほど引き出すことができるのかに着目したレポートをお伝えしていきたい。なお、テストは条件を揃えるためスタジオにて実施している。

快適な撮影が得られるSDカードの性能とは

静止画・動画カメラ向けのSDカードには現在、UHS-IIとUHS-Iの2つのグレードのカードが、より高速だということは読者の方々もよく知っていると思うが、同じUHS-II対応カードでもグレードにより速度が異なり、撮影体験が大きく変わってくることはご存じだろうか。

SDカードの購入時に注意するポイントのひとつとして、ブランドの安心感という側面もあるだろうが、同じくらい重要視したいポイントとして、読み書きの速度の違いがある。SDカードのラベルにはUHS-II対応カードであれば「250MB/s」であったり「300MB/s」と表記された製品が多くみられる。この数字が大きいほど、そのカードが高性能だと思っている人も多いことだろう。基本的にその認識は間違いではないが、その数値がどの速度を表しているのかについてもしっかりと意識しておくと、カード選びでの失敗が少なくなる。

SDカードの速度は大きく、リード(読み出し)速度とライト(書き込み)速度の2種類があり、一般的にライトよりリード性能の方が高く、カードのラベルに表示されている数字も基本的にリード速度となっている(一部リード/ライトを併記しているものもある)。

一方で、撮影時の快適さを左右する性能は大量のデータを遅滞なく書き込むためのライト性能だ。つまり、リード300MB/sと250MB/sのカードを比較して、撮影時の快適さは15%程度しか違わないというのは大きな間違いなのだ。撮影時の性能を意識したいなら、ラベルには書かれていないライト速度をよく調べて購入する必要がある。

今回使用したProGrade Digitalは、カードメーカーとしては珍しいくらい、カード性能を開示している。リード/ライトの性能はもとより、使用しているメモリーのタイプまで公表している例は極めて異例だ。256GBの容量でCobaltとGoldのカード性能を比較すると以下のようになる

リード(最大)ライト(最大)
Gold250MB/s130MB/s
Cobalt300MB/s250MB/s

この表を見ると、データの書き込み性能には約2倍の差があり、この差が撮影時の快適さに直結してくるだろうことが想定できる。ちなみに、なぜGoldとCobaltでライト性能がここまで違うのかというと、ProGrade Digitalの場合は使用しているフラッシュメモリーのタイプが異なっているところに理由がある。

Goldで使われるフラッシュメモリーは世の中で標準的に使用されているTLCメモリーで、1つのセルに3つのデータを書き込むタイプだ(トリプルレベルセル)。一方、Cobaltで使用されるのはSLCメモリーとなり、ひとつのセルにひとつのデータを書き込むタイプ(シングルレベルセル)。これによりデータを高速に読み書きできるようになっているのだ。同じ容量のカードでもCobaltはGoldの3倍のフラッシュメモリーを搭載しているということになる。

上に挙げた数値は、ある特定の測定条件下で観測された速度値であり、この速度が実際のカメラでも同じように発揮されるかを保証するものではない。今回はキヤノンEOS Rシステムを構成する3機種(EOS R、EOS RP、EOS R6)を使って実際にどの程度性能に差が出てくるのかという点について検証を行った。

実写検証

検証項目はシンプルで、バッファフルまで連写したときの撮影枚数とバッファ解放(連写終了後アクセスランプが消えるまで)の時間をGold、Cobaltの両カード(256GB)で比較した。参考にUHS-I対応カード(128GB)での数値も併記している。ちなみに、このUHS-Iカードは規格上限に近いライト最大90MB/sが謳われているカードを使用している。

撮影条件は定常光下でモデルに動いてもらい、カメラを最速連写の設定にしたのち、サーボAF(瞳AF使用)でバッファフルまで撮影している。記録形式はRAW+JPEG(L、ファイン)としている。なお、掲出している測定値は原則2回以上計測した平均値としている。

測定はデータ量を一定にするためスタジオを使用。連写撮影を考慮して照明には定常光(LEDライト)を用いた

検証結果の一覧は以下の通りだ。

連写可能枚数(枚)連写継続時間(秒)
CobaltGoldUHS-ICobaltGoldUHS-I
EOS R6119.587.5769.576
EOS R5333.528106.55.5
EOS RP482以上53.541120以上1410
バッファ開放までの時間(秒)
CobaltGoldUHS-I
EOS R69.52123.5
EOS R10.51316.5
EOS RP610.515.5

結果をみると一目で分かるように、連写可能枚数やバッファ解放時間はCobalt>Gold>UHS-Iとしっかり性能差があらわれている事がわかる。各カード間で性能差が明確に出ており、カード選びが撮影の快適さに大きく関わっていることが分かるはずだ。特にCobaltは他のカードを大きく引き離している。

EOS R6による検証の様子

考証:EOS R6

機種別にみていくと、高速連写機のEOS R6はカード性能が低いと連写できる枚数が減ってしまいチャンスを逃してしまう可能性が高まってしまう。仮にバッファフルまで一気に連写せず、2~3秒の連写を続けて行うような使い方をしたとしても、カード性能によっては連写が途中で止まってしまうこともあるだろう。

また、注目すべきはバッファの解放時間だ。Cobaltとその他のカードでは2倍以上の開きがある。公称のライト性能(Cobalt:250MB/s、Gold:130MB/s)に比例するような結果であり、EOS R6の書き込み性能はUHS-IIカードの性能をしっかりと出しきることができる設計になっているのだろうことが窺える。

考証:EOS R

EOS Rも連写可能枚数および連写継続時間はEOS R6と同じような結果だ。EOS Rの連写速度は、サーボAFで5コマ/秒程度となっており、EOS R6と比べると高速とは言い難い。しかし、有効画素数が約3,030万画素とEOS R5とEOS R6のちょうど真ん中にいる機種ということもあり、そのデータ生成量は自然と大きくなる。

つまり、秒間あたりのコマ数自体は決して多くはないとしても、カードに求める書き込み性能はEOS R6以上となることは想像に難くない(画素数の差分も枚数が増えるにつれて、積もり重なるからだ)。安定して連写をしたいのであれば、より高速なカードを使った方が、ストレスなく使用することができるだろう。

一方で意外な結果が得られたことも事実だ。バッファの解放時間はEOS R6のような大差がつかなかったのだ。理由はよく分からないが、もしかするとEOS Rはカメラ側でUHS-IIの性能をしっかり出し切れていないのかもしれない。

考証:EOS RP

エントリー機であるEOS RPの場合は、Cobaltを使うと120秒以上止まることなく連写が可能だったため、この環境ではRAW+JPEGの無限連写が可能であると考えられる(設定や被写体によってデータサイズは変わるのでいつも止まらないとは限らない)。連写速度は決して速いとは言えないけれども、Goldでも10秒を超える連写が可能だった。

バッファの解放時間は、Cobaltが今回のテスト中で最速となる約6秒を記録。まさにあっという間に次の撮影に向けたスタンバイ状態になった。GoldでもEOS R/RPと同じ程度の時間となっているのもポイントだ。

カードの性能差が撮影結果に及ぼす影響

ここまでカードの性能差を測定数値を中心にで見てみきたが、最後に実際の撮影結果も見てみよう。

やはり被写体が動いているシーンでは高速連写の効果は大きく感じる。今回はモデルに積極的に動いてもらったが、12コマ/秒で撮影出来るEOS R6だと表情や髪の毛の動きにあらわれ出る微妙な違いを、撮影後にじっくり選べる。例えば次の写真はEOS R6で撮影した連続した4枚で、この間の時間はわずか0.3秒ほど。EOS RやRPではこの間に撮影出来るカット数は2枚程度なので、表情の微妙な違いを選ぶ余地はぐっと狭まってくる。1枚でも多く撮れていれば、それだけ選択の幅がひろがることが実感できる瞬間だ。

組み合わせたレンズはRF24-70mm F2.8 L IS USMだ。

まとめ

筆者の経験上、連写の継続タイムが10秒を超えてくる場合、細かく2〜3秒の連写を繰り返したとしても、バッファが詰まってチャンスを逃してしまう、というシーンはほとんど無かった。バッファ処理の上手いカメラであれば話は違ってくるが、それでも解放にかかる時間が10秒を超えるようだと、やはり長く感じてしまう。これはCFexpress Type Bカードを使用するカメラをメインで使用するようになって、さらに強く感じるようになったことでもある。

このあたりの感覚は撮影内容や方法によっても大きく変わってくるため、その差の感じ方は人それぞれだ。だが、今回の検証結果からもわかるように、やはり書き込み速度が速いカードほどカメラの性能を引き出すことができ、チャンスに強くなることは揺るぎない事実であることが確認できた。

EOS RPなど、絶対的なコマ速が決して速いとは言えないカメラを使う人や、風景撮影などがメインで連写は多用しないから記録メディアはUHS-Iカードでも十分だという意見もしばしば耳にする。だが記録時は良かったとしても、PCなどに画像を取り込む際にもUHS-IIカードの恩恵が得られることを忘れることはできない。

今回の検証ではあまり触れてはいないものの、リード(読み出し)性能はライト性能が低めのGold(最大250MB/s)でもUHS-Iカード(最大95MB/s程度)と比べるとUHS-II対応のカードリーダーを用いる必要はあるけれども、トータルでのワークフローそのものを大きく変える力が得られる。まだ手にしたことがない人で、必要性を感じていないと考えている人ほど、一度UHS-IIカードを手にしてみて欲しいと思う。これだけでも別次元の差が感じられるはずだ。

UHS-Iのハイグレードモデルと、プログレードデジタルのUHS-II対応SDカード「Gold」は、現状でそこまで価格差があるわけではない。撮影後のデータ移動だけでもUHS-II対応カードを使うという選択肢は大いにあると思う。

せっかく買った高価なカメラの性能をしっかり引き出すためにも使用するメモリーカードは用途に合わせてしっかりと考えて選定するようにしたい。

制作協力:ProGrade Digital
モデル:いのうえのぞみ

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。