FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

標準レンズ2本の使い分けとは?ポートレート写真家・藤里一郎さんに聞く

XF35mmF1.4 R&XF35mmF2 R WR

藤里一郎さん。6月30日まで開催中の写真展、藤里一郎+鎌滝えり「23 〜ニジュウサン〜」4月の沖縄の会場で。

銀塩時代より優れた描写性能で知られる富士フイルムの「フジノン」レンズは、日本の写真史に深くその名を刻む名レンズである。

そして、2012年にミラーレスカメラであるXシリーズとともに誕生したXマウントレンズもまた、「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群であった。

以来、Xマウントレンズは6年という短期間にもかかわらず、着実にラインナップを拡充し、多くの愛好家を魅了しつづけている。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませるのが「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離でありながら併売されているレンズの場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなると言うものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみようというのが、この連載だ。

焦点距離35mmの単焦点レンズ

今回のテーマは焦点距離35mmの2本のレンズ。「フジノンレンズ XF35mmF1.4 R」と「フジノンレンズ XF35mmF2 R WR」だ。焦点距離が35mm(35mm判換算で53mm相当)であるレンズと言うのは、Xマウントレンズにとって標準画角のレンズとなる重要な単焦点レンズであることは言うまでもない。

XF35mmF1.4 R
XF35mmF2 R WR

XF35mmF1.4 RXF35mmF2 R WR
発売年月2012年2月2015年11月
実勢価格6万円前後4万円前後
レンズ構成6群8枚
(非球面レンズ1枚)
6群9枚
(非球面レンズ2枚)
焦点距離
(35mm判換算)
53mm相当53mm相当
最大口径比
(開放絞り)
F1.4F2
最小絞りF16F16
絞り羽根枚数7枚
(円形絞り)
9枚
(円形絞り)
ステップ段差1/3ステップ1/3ステップ
撮影距離範囲標準0.8m〜∞
マクロ28cm〜2.0m
35cm〜∞
最大撮影倍率0.17倍0.135倍
外形寸法65.0×50.4mm60.0×45.9mm
質量(約)187g170g
フィルターサイズ52mm43mm

両者の大きな違いはまず、開放F値だ。次に気になるのが大きさと重さ。もちろん、1EV分明るいXF35mmF1.4 Rが一回り大きく重くなるのは当然であるが、どちらも小型軽量な部類なので、十分に許容範囲内と言えるだろう。XF35mm F2 Rは防塵・防滴仕様でもある。

今回インタビューをお願いしたのは写真家・藤里一郎さん。XF35mmF1.4 Rを愛用することで知られる藤里さんに、XF35mm F2 Rとの違いやそれぞれの役割について聞いてみた。別のページではXシリーズボディのお話を伺っているので、あわせてお読みいただきたい。

愛用のF1.4と新投入のF2.0

−−まずは藤里さんご愛用のレンズを教えてください。

藤里:XF35mmF1.4 Rですね。いわゆる標準レンズですが、被写体となる女性との距離感が僕の撮る写真とピッタリなので愛用しています。

藤里一郎さんの撮影風景。都内で開かれたワークショップの一コマ。モデルはももかさん。

−−FUJIFILM Imaging Plazaで開催中の写真展でもXF35mmF1.4 Rを?

藤里:いえ、今回の写真展ではXF35mmF2 R WRをメインに使っています。

−−あえてXF35mmF2 R WRを使ったのは、どのような理由でしょうか?

藤里:今回の撮影の舞台は沖縄県の石垣島だったのですが、ロケの期間が雨がちの予報だったこと、そうでなくても湿度が高いことが予想されたこと、シャワールームでの撮影も予定していたことなど、かなり過酷な条件となることが初めから予想できましたので、「WR」以外のレンズはあらかじめ機材の準備リストから外していました。

−−なるほど、「WR」のフジノンレンズは防塵・防滴ですから、今回拝見した作品を撮るのには最適そうですね。

藤里:そうです。シンプルに機材を組みたいとも思っていたので、同じ「WR」レンズとしてXF35mmF2 R WRの他にも、XF23mmF2 R WRとXF50mmF2 R WRでセットを組んで臨みました。

−−実際の撮影において、XF35mmF2 R WRの使い心地はいかがでしたか?

藤里:予想以上に「よい」使い心地でしたよ。普段、XF35mmF1.4 Rを愛用していたこともあって、開放F値が暗く低価格なレンズにあまり期待していなかったというのが、正直なところだったのですが、本当に「よい」仕事をしてくれました。

先の防塵・防滴と言うこともありますけど、AFが速くて動作音がとても静かなところが気に入りました。

−−XF35mmF1.4 RはXマウントレンズでも最初期のレンズですものね。

藤里:写りは気に入っていますけど、XF35mmF2 R WRと比べるとウインウインという音も、AFスピードの差も気になってしまいます。全群繰り出しならではの画質を大切にしているということもあるとは思いますけどね。

藤里一郎さんが撮影で使っている2本の35mm。XF35mm F1.4 R(左)とXF35mm F2 R WR(右)。

−−ポートレイトの撮影では、やはりAFスピードも重要ですか?

藤里:そうですね。そこまで重要な要素かと言われるとそうでもなかったりしますが、やっぱり速いにこしたことはない。ストレスなく撮影できるという意味では重要になります。

例えるなら、最愛だけど口やかましい古女房的と連れ添っていたところ、静かな早乙女に出会ってハッとしてしまったと言ったところでしょうか(笑)。

−−面白いですね(笑)。しかしやはり、長年連れ添った元の鞘(XF35mmF1.4 R)も捨てがたいと言ったところでしょうか?

藤里:はい、その通りです(笑)でも「WR」の使い心地がとてもよかった。これは本当に本当です。

2本のレンズの違いとは?

−−今回はXF35mmF2 R WRをメインに使われたということですが、XF35mmF1.4 Rと比べて描写に違いはありますか?

藤里:違いますね。

−−XF35mmF1.4 Rの写りとはどういったものですか?

XF35mmF1.4 Rを愛用する理由のひとつに、ほどよく発生するフレアとハレーションがあります。特に、いい条件で太陽光が画面内に入ったときに出るフレアは僕にとって理想的です。

XF35mmF1.4 R
X-H1 / マニュアル露出(1/60秒・F1.4) / ISO 200

−− フレアというと偶発的に発生するイメージですけど、コントロールできるものなのでしょうか?

藤里:モデルさんがいて太陽光があってという条件でなら、どこに何を配置すればどういうフレアがどのくらい発生するか、XF35mmF1.4 Rのもつ個性は全部頭に入っています。ファインダーを覗けば“勝てる画”がすぐに見つかると言った感覚です。

僕の表現にとって、フレアを取り込んで全体を柔らかくするというのは、ソフトフィルターを使うのと同じくらい重要なこと。でもソフトフィルターを使うくらいなら、リアルな光を入れて表現したい。ですので、XF35mmF1.4 Rのもつ個性は手放せません。XF35mmF1.4 Rでないと撮れない写真があると言っていいくらいです。

XF35mmF1.4 R
X-H1 / マニュアル露出(1/125秒・F1.4) / ISO 200

−− XF35mmF2 R WRの描写傾向はいかがでしょうか?

藤里:XF35mmF2 R WRは僕の好みでいうと、ちょっと硬めかなという印象です。感覚的な表現で申し訳ないですが、擬音にすると「ギチッ」みたいな(笑)

−− 同じ条件で撮影した写真を比べると違うことが分かりますね。確かに、XF35mmF2 R WRの方が線が太くコントラストも少し高く感じます。

XF35mmF1.4 R
X-H1 / マニュアル露出(1/100秒・F1.4) / ISO 200
XF35mmF2 R WR
X-H1 / マニュアル露出(1/40秒・F2.0) / ISO 200

藤里:でも、防塵防滴という強みがありますので、XF35mmF2 R WRならではの表現手段があるのですよ。例えば、この写真はスタジオで撮影したものですけど、シャワールーム的なイメージを再現できないかと思い、モデルとカメラの間にジョウロで水を流してもらっています。

XF35mmF2 R WR
X-H1 / マニュアル露出(1/60秒・F2.0) / ISO 800

上の作品の撮影風景。蛇口から出る水を前ボケに利用。

−−水がいい具合に前ボケになっていて幻想的ですね。

藤里:もう本当にレンズ直前で水を流しています。「WR」なので多少の水の跳ね返りくらいなら大丈夫、という安心感をもって撮影できました。

−−安心感と言うのは大切ですね。

藤里:大切です。先にもお話しましたけど、XF35mmF2 R WRは、動作は速いし、描写もシャキッとしているし、コンパクト。総合力でいうと新しいレンズである分だけ信頼感が高くなっています。優等生なレンズですね。

−−描写傾向の異なるレンズを使うときに、注意されていることはありますか?

藤里:カメラの画質設定ですけど、XF35mmF1.4 Rの時は普段シャープネスを「-1」に設定しています。場合によっては1番弱い「-4」にすることも。XF35mmF1.4 Rに期待しているのは第一に柔らかさですからね。

XF35mmF1.4 R
X-H1 / マニュアル露出(1/1,000秒・F1.4) / ISO 800

でも、XF35mmF2 R WRの時は逆にメリハリを付けたいのでシャープネス設定は変更せずそのままとっています。

XF35mmF2 R WR
X-H1 / マニュアル露出(1/80秒・F2.0) / ISO 200

−−それぞれのレンズがもつ個性を、カメラ設定でさらに際立たせているということですね。

藤里:その通りです。

藤里さんオススメの35mmは?

−−仮に、35mmレンズで読者の方にオススメするとしたらどちらのレンズになりますか?

藤里:そうですね、まだ初心者だったり、初めての単焦点レンズだったりするのなら、絶対にXF35mmF2 R WRをススメます。

−−絶対ですか!

藤里:絶対です。実際に僕が担当している写真教室の生徒さんにもオススメしているのですが、最初の1本なら安心感の高いXF35mmF2 R WRで標準レンズの世界を知り、それ以上を目指したいとなったときにXF35mmF1.4 Rを買えばいいと思います。

僕自身はほぼ9割の撮影をXF35mmF1.4 Rでこなしていますが、AFがXF35mmF2 R WRほど速くないのでMFを多用しますし、フレアのコントロールも難しい。そういうことが納得できるようになってから次のステップにいくといいよ、という意味です。

−−そうですか、それなら僕もまずはXF35mmF2 R WRを買おうかな。

藤里:でも突き詰めると結局のところ両方のレンズが必要と言うことになります。XF35mmF1.4 Rは柔らかい描写で個性際立つ大口径レンズ、XF35mmF2 R WRは安心感の高い防塵防滴レンズ。それぞれに存在価値があります。だからこそ、開催中の写真展では、以前から愛用のXF35mmF1.4 Rをあえて外し、XF35mmF2 R WRをメインとしたのです。

藤里:僕にとって35mmのレンズは最も“闘える焦点距離”のレンズです。同じ焦点距離の2本ですが、撮影条件に応じてそれぞれの持ち味を活かすためにも、当然、両方が必要になります。

XF35mmF2 R WR
X-H1 / マニュアル露出(1/250秒・F2.0) / ISO 3200

まとめ

35mmは“闘える焦点距離”のレンズ。最後に聞いたこの言葉がとても印象的だった。それは、53mm相当の標準画角で女性と対峙する眼を完璧に構築されているということだろう。単焦点レンズを使うならかくありたいものだ。

富士フイルムにはそんな35mmレンズ(53mm相当)が2本あり、それぞれに特徴がある。ともすれば上位モデル、下位モデルの関係で片付けられそうな2本だが、今回のインタビューでそれぞれの役割や出番が明確になったのではないだろうか。

このページで掲載した藤里一郎さんの写真プリントが展示されます

6月1日に本格オープンした「FUJIFILM Imagin Plaza」では、藤里一郎さんがXF35mm F2 R WRで撮り下ろした写真展、藤里一郎+鎌滝えり「23 〜ニジュウサン〜」4月の沖縄が6月30日まで開催中です。会場限定の写真集も販売中。

また、そのギャラリーの入口には、ここで掲載した藤里一郎さんの作品がプリントになって展示されます(6月25日15時より展示予定)。2本のXF35mmの描写の違いを、大きなサイズのプリントでじっくり確認してみてください。

制作協力:富士フイルム株式会社
モデル:ももか

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。