新製品レビュー

Nikon Z fcのベストマッチレンズを探して(その1)

NIKKOR Z 28mm f/2.8とNIKKOR Z 40mm f/2 私たちはどちらを選べばいいのか

ニコン Z fcを手に入れた人にとって、もっとも悩ましいのは「Z fc用にどのレンズを購入すべきか?」ということではないだろうか。というわけで、ここではZ fcに似合いそうなレンズを純正から2本、サードパーティメーカーのTTArtisanから3本選び、Z fcとの見た目の相性やハンドリング、描写性などについて検証していきたい。今回は純正レンズの中でも特に悩ましい選択になるだろうNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)とNIKKOR Z 40mm f/2のうち、どちらを選ぶべきかという問題について筆者なりの見解をお伝えしていきたい。

Z fc使いにとっての最初の関門

ニコン Z fc(以下Z fc)は有効約2,088万画素のAPS-Cセンサーを搭載したミラーレスカメラだ。往年のフィルム一眼レフカメラ「ニコンFM2」のデザインを部分的に継承したとして、6月の発表直後から大きな注目を集めている。

そんなフィルムカメラライクなデザインを特徴とする本機を手にする人とはどのようなユーザーだろうか。筆者の勝手な推測だけれども、単純にカメラとしての実用面だけでこの機種を選んだ、または選ぼうという人は、実は少ないのではないだろうか。というのもニコン自らが“ヘリテージデザイン”を謳うように、「合理的すぎないモノとしての魅力をデジタルカメラでも楽しみたい」というモチベーションが本機を手にさせる最大の魅力ではないかと想像するからだ。

Z fcを手にする方法は3通り用意されている。ひとつはボディ単体で購入する場合。あとの2つはレンズキットで購入する場合だ。キットにはNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRとNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)がそれぞれ用意されている。7月の発売時にすぐに手にされた方の中には16-50mmキットを選んだという人も多くいることだろう。10月1日には待望のNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)キットも発売となった。

すでにNIKKOR Z 28mm f/2.8を手にされたという人も多くおられるとは思うが、今の時点でZ fcを楽しんでいる人の多くはキットズームのNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRを使っているのではないだろうか。同レンズは沈胴機構を採用した携帯性の良い標準ズームで、写りもなかなか良質。ズームであることの利便性も考え合わせると実用的な意味でZ fcで写真を楽しむことに何の問題もない優れたレンズだといえる。

ただ利便性に振っているところもあるから、趣味性の面でやや物足りなく感じる人もいることだろう。そこで個人的な嗜好を反映できるレンズが欲しいと考えるのは、ごく自然な流れなのではないだろうか。

また、Z fcはAPS-Cフォーマット(ニコン的ではDXフォーマット)カメラとはいえ、ニコンZマウントなので、数が揃ってきたNIKKOR Zレンズを使用することももちろん可能。だが一部の例外を除き、見た目とサイズ感でZ fcとはアンマッチなレンズが多いことも否めない。そうしたクラシックデザインにマッチしたレンズ選びの筆頭候補にあるのが、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)とNIKKOR Z 40mm f/2の2本というわけだ。

NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)

Z fcの源流ともなっている、ニコンFM2発売当時のMFニッコールレンズにインスパイアされたというデザインを採用したレンズが、このNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)だ。この特別デザイン版とは別にZシリーズのモダンデザインにあわせたノーマル版も開発が発表されているが、一足先にこのSpecial Edition版が登場することになった。

ノーマル版との違いは主に外観で、フォーカスリングのローレットパターンや、鏡胴中央にあるシルバーのリングなど、マニュアルフォーカスだった頃のニッコールレンズのデザインテイストがふんだんに盛り込まれたデザインとなっている。

ある意味Z fc用にリデザインされたレンズなだけに、見た目の相性は最高。往時のAiニッコールを使ったことがある人だと鏡胴の太さに違和感を覚えるかもしれないが、そこはFマウントよりも遥かに径の大きなZマウントなので気にするのはやめよう。

Z fcのキットレンズとしても設定されているため、本レンズをAPS-C専用レンズと思っている人もいるかもしれないが、そうではなくちゃんとフルサイズ対応なので、FXフォーマットのZボディと組み合わせれば、28mmの広角レンズとしても使用できる。レンズ全長が短めなので、ストラップで下げたときの前傾角度も少なく、携帯性も良好だ。

ストラップで下げたときの前傾角度は約9.3度。フロントヘビーになりすぎない角度で、ボディ側とのバランスの良さがよくわかる。

純正フードは用意されていないが、似合う既存フードを見つけることでオーナーの個性を主張できるかも知れない。ちなみにフィルター径は52mmが採用されている。

28mm F2.8:42mm相当の懐の深さ

NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)をZ fcに装着すると、画角は35mm判フルサイズ換算で42mm相当となる。このくらいの画角は準標準とも呼ばれ、多くの被写体やシチュエーションに対応できる懐の広さがある。レンズはボディに付けた1本だけで他に交換レンズは持たないという人にも使いやすい画角だ。

レンズ構成は8群9枚で、スペックの割には枚数が多い今風な設計が採用されている。描写は開放からなかなかシャープだ。
Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F2.8・1/800秒・±0EV) / ISO 100

写りは最新レンズらしく絞り開放からシャープネスは十分にある。恐らく絞り込むほど数値的な解像性能は向上するのだろうが、体感的には絞り開放とF5.6時の深度以外の解像差は少なめに感じた。つまり開放側から使っていける現代的な1本だというわけだ。

絞り開放でもかなりシャープな描写。周辺部でも解像力の低下は少ない。
Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F2.8・1/3,200秒・±0EV) / ISO 100
解像性能的にはF5.6くらいでマックスに達する印象。
Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F5.6・1/500秒・-0.7EV) / ISO 100

NIKKOR Z 40mm f/2

もう1本、Z fcと似合いそうな純正レンズがこのNIKKOR Z 40mm f/2だ。似合うと考える理由はサイズ感。ほとんどのフルサイズ対応ニッコールZレンズは大きさ的にZ fcとはアンマッチだが、本レンズはとても小型軽量に作られておりZ fcに装着してもサイズ的なアンバランス感はない。

ストラップで下げたときの前傾角度は約13.3度

ただし、デザインはSpecial Editionではないノーマル版のNIKKOR Z 28mm f/2.8(現時点では未発売)と同じで、デザインはモダンかつ今風なミニマル印象だ。その意味では前述したNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)よりZ fcとの相性度合いはちょい低め。ニコンには本レンズのSpecial Editionバージョンもぜひ期待したいところだ。

40mm F2:絞りによる描写変化が楽しめる1本

Z fcに装着した時の画角は35mm判フルサイズ換算で60mm相当になる。やや長めの標準レンズという画角で、NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)に比べると汎用性には欠けるが、それでも結構いろいろな被写体や撮り方をカバーできる。

やや引き気味の構図でも背景を明確にボカせる。自転車の車輪のスポーク部は軸上色収差が目に付きやすいのだが、このレンズはよく抑えられている。
Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F2.0・1/800秒・-0.3EV) / ISO 100

ポイントは、40mmという実焦点距離+F2の明るさから、その気になればボケを活かした撮影が比較的容易なこと。当たり前だが、この点ではNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)より明確に有利なので、アウトフォーカスを活かしたフワッとした写真が撮りたいと思う人にはNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)よりもマッチするかもしれない。

ほぼ最短撮影距離で撮影。絞り開放でこの距離では合焦部がけっこう柔らかい描写になるものの、当然ながらソフトフォーカスというほどではない。
Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F2.0・1/1250秒・-0.7EV) / ISO 200

写りは絞り開放からガリガリにシャープというわけではなくて、絞り開放では適度な柔らかさがある。絞り込んでゆくほどにシャープネスは上がるので、絞りの設定次第で描写を使い分けられるタイプだ。絞り開放とF5.6時の解像差はNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)よりやや大きめだと感じた。

絞り込むと解像力が明確に高まるタイプ。
Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F6.3・1/160秒・±0EV) / ISO 200

28mm F2.8:スナップで描写をチェック

深度が欲しかったためF5.6まで絞っているが、合焦部のシャープネスは絞り開放から高い印象だ。前ボケ後ボケともにざわつくことなくスムーズに描き出している。

Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F5.6・1/250秒・-0.3EV) / ISO 100

遠景の解像感も高い。フルサイズをカバーするイメージサークルの美味しいところを使っているのは確かだが、それでも細かいところまで精密に写し取る実力を窺い知ることができる。

Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F5.6・1/800秒・±0EV) / ISO 100

好みもあるだろうが、筆者としては35mm判換算42mm相当の画角は本当に使いやすいと感じる。

Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F5.6・1/1,000秒・-0.3EV) / ISO 100

空を飛ぶトンボまでかなりシャープに写っている。

Z fc / NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition) / 絞り優先AE(F5.6・1/1,250秒・±0EV) / ISO 100

40mm F2:スナップで描写をチェック

近景メインの撮影では背景をかなりボカすことが可能。ボケ味にクセなどはなく素直な描写だ。

Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F2.0・1/3,200秒・±0EV) / ISO 100

ある程度絞り込んで遠景を撮影。高い解像性能でシャープな描写が楽しめる。

Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F6.3・1/4,000秒・±0EV) / ISO 500

Z fcで使う場合、画角的には中望遠というほどではなく長めの標準レンズという感触。28mm F2.8ほどではないが汎用性は比較的高い。

Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F6.3・1/1,250秒・±0EV) / ISO 125

前ボケも積極的に楽しめるのがいい。比較的コンサバでシンプルな光学系ということで、ちょっとだけ軸上色収差が見えるが、そう気にするほどでもないと思う。

Z fc / NIKKOR Z 40mm f/2 / 絞り優先AE(F2.0・1/3,200秒・±0EV) / ISO 125

まとめ

最後に今回の試用で感じた28mmと40mmの違いを記しておこう。

まずはハンドリングだが、正直、優劣はほぼない。強いて言えばフォーカスリングへの指掛かりの良さや、レンズをボディに装着するときの容易さについては形状的にSpecial Edition版の28mmの方が多少やりやすいものの、じゃあ40mmはダメなのかといえばそんなことは全くなく、あくまでも「強いて言えば」のレベルである。ただ、Z fcとのデザイン的なマッチング度は断然28mmの方がいいのは本文にも書いたとおり。それゆえ、28mmと40mmのどちらか一方を見た目重視で選ぶのであれば、基本的には28mm(Special Edition)を勧めたい。

とはいえ、Z fcユーザーの多くはすでにNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRを持っているだろうから、16-50mmをキープしつつの次の1本を、という点では28mmより40mmを選んだ方が、そのボケ味の豊かな描写で撮影範囲を拡大できるのも事実だ。絞り設定で写りをコントロールしやすい40mmの性格も筆者的には好みである。

というわけで、筆者の独断で選ぶならば、16-50mmズームを持っていないならば28mm(Special Edition)を、16-50mmズームの次の1本として選ぶなら40mmが良いのではないかと思う。その場合、デザイン的にZ fcとはややアンマッチなのは目をつむるしかなくなるのが何とも心苦しいところ。繰り返しになるがニコンには40mmのSpecial Edition版もぜひ追加発売して欲しいところだ。

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。