ミニレポート

富士フイルムXシリーズ用NOKTON 35mm F1.2(前編):コンパクトなサイズに開放F1.2の魅力を凝縮。絞り別に描写はどのように変化するのか

株式会社コシナより、富士フイルムXマウント用の「NOKTON 35mm F1.2」が、この9月に発売される。同社が手がけるVoigtländer(フォクトレンダー)シリーズとしては初となるXマウント用だが、その描写はいったいどのような世界を見せてくれるのだろうか。X-Pro3に装着して感触を確かめていった。前編となる今回は、絞り開放時の描写と、絞りによってどのように描写が変化するのかを中心にお伝えしていきたい。

純正35mm2本との違い

富士フイルムXマウント用の35mm単焦点レンズには、AF対応の純正レンズとしてXFシリーズでは「XF35mmF1.4 R」と「XF35mmF2 R WR」の2本があり、XCシリーズでは「XC35mmF2」がある。いずれも35mm判換算で53mm相当の画角が得られる、いわゆる標準レンズとしての位置づけとなっている。

【2021年8月12日追記】記事初出時、純正AFレンズの記載にXC35mmF2が漏れておりました。お詫びして訂正いたします。

特にX-Pro1(2012年2月発売)とともに登場した、Xシリーズ黎明期の1本であるXF35mmF1.4 Rは、柔らかくも繊細な描写で多くの支持を得ている。そのことから、しばしばXシリーズユーザーにとって必ず手にすべき1本とまで評されているほどだ。

対してXF35mmF2 R WRは開放F値をF2とすることでコンパクトサイズを実現した1本。防塵・防滴・-10度の耐低温構造を採用し、インナーフォーカスとステッピングモーターの採用による高速なAF動作も特徴とした1本として2015年11月に登場した。

XF35mmF1.4 R
XF35mmF2 R WR

どちらのレンズもAF動作に対応しているということもあり、APS-C用レンズらしくコンパクトにまとめあげられているとはいえ、NOKTON 35mm F1.2と持ち比べてみると、少し大きめに感じられてしまう。

参考までに各レンズのサイズおよび質量をみておくと、XF35mmF1.4 Rは65.0×50.4mm・約187gで、XF35mmF2 R WRは60.0×45.9mm・約170gとなっている。対するNOKTON 35mm F1.2は59.6×39.8mm・約196g。意外にもNOKTON 35mm F1.2が最も重量があることがわかる。各レンズともに200gをきっていることもあり、微妙な差ではあるものの、手にした時の塊感や質感はワクワク感を呼び起こしてくれる。鏡筒の太さはF2レンズに近くほどよいサイズ感で、これよりも全長がより短めとなっているため、例えばX-T二桁シリーズやX-Eシリーズとの組み合わせでも良好なバランス感が得られることだろう。

電子接点の搭載に伴うX-Pro3でのパララックス補正対応など、そのスタイリングや機能面からX-Pro3との組み合わせた際のマッチングは高い。このことは、メーカーが配布しているカタログでも装着写真にX-Pro3が使われていることからみても、鉄板と呼ぶべき組み合わせなのだと言えそうだ。しかしながら、X-T4に装着した姿もマッチングは良好。決してレンジファインダースタイルならではの姿・形というわけでもない。使い勝手は、小ぶりなデザインながらフォーカスリングのスムーズながら重すぎないトルク感が手伝って、ピシッと合わせたいところで合ってくれる感触だった。

F1.2の描写

本レンズの光学系は6群8枚からなるダブルガウス型となっている。絞りの位置を中心に左右でほぼ対象となるように配置したというレンズは、その全てを球面にするというこだわりようだ。このことから、同社では“8枚玉のスタイル”との表現で本レンズの特徴を説明している。

安定した描写が得られるように設計したという絞り開放時の描写はどのようなものなのだろうか。以下2点はおよそ1m以内の距離感かつF1.2で捉えたカットだ。1枚目のカットはおよそ画面中央、グリーンのビンの側面エッジあたりにフォーカス。2枚目のカットは赤い背のひとまわり大型の本の背文字に合わせている。

VMマウント版のNOKTON Classic 35mm F1.4に近い描写と聞いていたが、確かに同レンズのような柔らかさが感じられる。一方で、同レンズのように合焦面の描写が滲むようなイメージになるのではなく、しっかりとエッジが見てとれる描写となっている。メーカーによれば同レンズよりも解像感は向上しているとのことで、実に絶妙な柔らかさでまとめあげられていることがわかる。

X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F1.2・1/420秒・±0EV) / ISO 160
X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F1.2・1/500秒・±0EV) / ISO 160

遠景では絞り開放から十分なシャープネスが感じられる描写が得られた。ここではフィルムシミュレーションをACROSに設定しているが、モノクロとの相性も良い。Xシリーズは暗部の描写に強い印象を抱いていたが、本レンズはよくその特性を引き出してくれているように思う。全体的にトーン豊かな描写が得られた。

X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F1.2・1/3,200秒・-0.7EV) / ISO 160

絞りで描写はどれくらい変わるのか

F1.2での描写を見てきたが、絞りで描写はどれくらい変わるのだろうか。

植物が生い繁る中に埋もれるようにして取りつけられている看板を見つけた。フォーカスは文字部分に合わせて、F1.2とF1.4での違いを見た。結果はご覧のとおり、たった1/3段絞っただけにもかかわらず、グッとシャープネスが向上している。全体に画がひきしまったものとなっているため、特に拡大せずとも印象の違いが見てとれるはずだ。

F1.2(絞り優先AE:1/900秒・-0.3EV・ISO 160)
F1.4(絞り優先AE:1/750秒・-0.3EV・ISO 160)

2車線の道路を挟んだ壁面。距離にして、7〜8mほどだ。ここではF1.2とF2.8での違いを見ている。F1.2では好ましい柔らかさで、柔らかな斜光と温かみのあるその場の質感がよく表現されている。

対して、F2.8まで絞ったカットはより硬質に。壁面のディティールや光が鋭さを増し、全く違った印象に変化している。筆者の感覚では、F1.2で捉えたカットのほうが肉眼で捉えた印象に近く感じられた。

F1.2(絞り優先AE:1/1,500秒・±0EV・ISO 160)
F2.8(絞り優先AE:1/300秒・±0EV・ISO 160)

筆者の感覚だと、F2からF2.8、F4あたりがスナップでは使いやすい印象だった。今回組み合わせたX-Pro3は、基本的にEVFで撮影をしていったが、F1.2でも十分にピントの立ち上がりが判別できた。例えば状況によって判別しづらいな、と感じたら少し絞るだけで、かなりヒット率が向上する。F2くらいからだと、構えて合わせて撮るの一連の流れがかなりスムーズだった。

かなりシャープネスが向上していたF2.8時の描写だが、近接でもその力が発揮される。排気口だろうか。サビの浮いたスリットからホースが2本外側に伸びている。ピント面は手前側のホース。このシーンでは前後の被写界深度が程よくマッチし、目で捉えた印象に近い再現となった。サビの浮き方や、塗装の剥がれ具合、色のノリなど、実にリアルだ。

X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F2.8・1/4,400秒・-0.7EV) / ISO 160

続けて絞りをF4にしたカット。鏡面の反射、支柱のハイライト部なども自然な雰囲気で描写されている。青空のヌケ感もよく、光の受けとめ方が巧みなレンズという印象だ。

X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F4・1/2,700秒・-1.0EV) / ISO 160

もう1点F4で捉えたカットを。場面によっては広角的に使えるのも標準レンズの面白さだ。換算50mm前後といわれても、35mmくらいで捉えたような印象がある。ピント位置はおおよそ、手前側の黄色いラインあたり。画面奥まで破綻のない描写が得られた。状況的にはかなりの逆光で、太陽を画面から外すようにして整えているが、コントラストがわずかに低下している。

X-Pro3 / NOKTON 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F4・1/900秒・±0EV) / ISO 160

後編へつづきます

後編では歪曲やボケ感、逆光などの各点にフォーカスをあてて、その描写をお伝えしていきます。また、階調再現やフィルムシミュレーションとのマッチング、X-Pro3におけるパララックス補正の動きなどもみていきます。

本誌:宮澤孝周