FUJIFILM Xレンズ 写真家インタビュー

35mm相当2本の使い分けを稲垣徳文さんに聞く

XF23mmF1.4 R/XF23mmF2 R WR

2本のXF23mm(35mm判換算35mm相当)をお使いの写真家・稲垣徳文さん。

2012年、Xシリーズの誕生とともに登場したXマウントレンズは、富士フイルムが誇る「フジノン」の名を冠した最高性能の交換レンズ群である。登場から6年という短期間にもかかわらず着実にそのラインナップは充実してきており、多くの愛好家を魅了しつづけているのはご存知の通りだ。

しかし、ラインナップが充実してくるほどにわれわれユーザーを悩ませるのが、「結局どのレンズを買うのが自分にとっての正解なのだろうか?」という問題である。特に、同じ焦点距離でありながら併売されているレンズの場合、どうしてもその真意を尋ねて納得したくなるというものだ。

そこで、スペックシートだけでは分からない特徴を導きたく、それぞれのレンズをリアルに愛用する写真家に聞いてみよう、というのがこの連載だ。

準標準レンズとも呼ばれるスナップの定番レンズ

今回のテーマは、

フジノンレンズ XF23mmF1.4 R
フジノンレンズ XF23mmF2 R WR

という焦点距離23mmの2本のレンズだ。

35mm判換算で35mm相当となるこの焦点距離は、人の視角に近い自然な画角をもつとされている。

広すぎることもなく狭すぎることもない"ちょうど良さ"が、伝統的にスナップ撮影や記念撮影などで広く愛用され、50mm相当の標準レンズに対し"準標準レンズ"と呼ばれることもある、定番単焦点レンズである。

XF23mmF1.4 R

このレンズが発売されたのは2013年10月のこと。Xシリーズ初のボディ「X-Pro1」の登場から約8カ月後で、レンズロードマップとしては比較的初期設計のレンズと言えるだろう。質量約300g、全長約63mmと、35mm相当の大口径レンズとしては圧倒的な小型軽量化を達成しているのが特長のひとつ。

初期設計のレンズながら、歪曲収差などはデジタル的な補正に頼らず極限まで低減するなど、「X-Trans CMOSセンサーの性能はレンズ本来の光学性能で引き出す」という、フジノンレンズらしい思想が詰め込まれた正統派の大口径単焦点レンズである。

XF23mmF2 R WR

対するXF23mmF2 R WRは、2016年10月に発売されたレンズ。非球面レンズ2枚を含む6群10枚構成の光学設計を採用し、単に小型軽量なだけではない、高画質な単焦点レンズに仕上がっている。

ステッピングモーター駆動によるインナーフォーカスで静音かつ高速なAFを実現していることと、「WR」の名が示すように防塵防滴構造を採用していることも特長となっている。

XF23mmF1.4 RXF23mmF2 R WR
発売年月2013年10月2016年10月
実勢価格
(税込)
9万3,000円前後3万9,000円前後
レンズ構成8群11枚6群10枚
非球面レンズ1枚2枚
焦点距離35mm相当35mm相当
最大口径比
(開放絞り)
F1.4F2.0
最小絞りF16F16
絞り羽根枚数7枚9枚
円形絞り
ステップ段差1/3ステップ1/3ステップ
撮影距離範囲標準60cm〜∞
マクロ28cm〜2.0m
25cm〜∞
最大撮影倍率0.1倍0.13倍
外形寸法72.0×63.0mm60.0×51.9mm
質量(約)300g150g
フィルターサイズ62mm43mm

写真家の目となる焦点距離23mmのレンズ

今回インタビューするのは、写真家の稲垣徳文さん。赤道直下の国々から南極まで、これまでに訪れた国・地域は50カ国を超えるという、まさにスナップ写真のエキスパート。焦点距離35mm相当のレンズの何たるかを聞くには、最も相応しい写真家の1人と言って差し支えないだろう。

XF23mmF2 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/1,000秒・F2.0) / ISO 200

――稲垣さんは23mm(35mm相当)のレンズをよくお使いになるとお聞きしました。勝手で失礼かもしれませんが、私自身も稲垣さんと言えば35mm相当のレンズという印象をもっています。

はい、僕にとって23mmは"自分の目になるレンズ"です。僕にとってはこれが標準レンズと言ってもいいと思います。

――富士フイルムの23mmは以前からお使いでしたか?

レンズ固定式のデジタルカメラですけど、初代X100が登場した時からずっと使っています。その後登場したX Pro1、XF23mmF1.4 R、XF23mmF2 R WRは、どれも登場した時から愛用しています。

――やっぱり稲垣さんと言えば23mmで間違いなかったのですね。他の焦点距離のレンズやズームレンズはお使いになりませんか?

いえ、他のレンズももちろん使います。ただ、あくまで自分の目となる標準レンズは23mmなので、使い勝手がよく写りのいい単焦点レンズがあるなら、ズームレンズよりも積極的にボディに付けることが多くなりますね。ズームレンズで画角を調整するのではなく被写体との距離を自分の足を使って測る、というのが僕のスタイルです。

――23mmを中心にシステムを組むということでしょうか?

特に海外でスナップ撮影をする時は、自分の中で撮影スタイルというか、ルールを決めています。ショルダー式の小さなカメラバッグに必要な機材一式を詰め込むようにしていて、今ですとドンケのF5-XBに、XF23mmF1.4 RあるいはXF23mmF2 R WRを装着したX Pro2をまず入れ、交換レンズとしてXF14mmF2.8 R、XF35mmF1.4 R、XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISなどを入れることが多いです。ここまで入れて、予備のバッテリーやメモリーカード、ポータブルHDDなども……

――これだけのシステムがこんな小さなバッグに収まるなんてすごいですね。

早朝から1日中歩き回ることになりますので、システム全体を小さくできることは本当に助かります。それと、機材の盗難や紛失といった保安上のこともあります。1日中撮影していて疲れてくるとどうしても注意力が落ちがちになるのですが、これなら常に身に着けていることができますので、機材やデータを守ることができます。小さなドンケを使い続けられる携帯性の良さも、私がXシリーズを選ぶ大きな理由になっています。

2つのレンズに共通する高い描写性能

――稲垣さんにとって2本のXF23mmの良さというのはどういったところでしょうか?

システムを小さくできるというのは先の話の通りですが、もうひとつ大切な理由として、やっぱり写りの良さというのがあります。XF23mmF1.4 Rが登場した時に強く実感したことですが、ディストーション(歪曲収差)が驚くほどよく補正されているので、街中でスナップをしたときに建物などが気持ちよく真っ直ぐに写ってくれます。

XF23mmF1.4 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / 絞り優先AE(1/50秒・F1.4・-0.7EV) / ISO 640

――富士フイルムのXレンズはデジタルカメラ内の補正処理に頼らず、きちんと光学的に補正していることで有名ですね。これはXF23mmF2 R WRも同じですか?

同じです。電気的な処理がどこまで入っているのかは分かりませんが、XF23mmF1.4 RとXF23mmF2 R WRはどちらも線が真っ直ぐに写ってくれます。それでいて解像力は高く、階調もしっかり表現してくれるので、やっぱり優れたレンズなんだな、というのが僕の実感です。

XF23mmF1.4 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/30秒・F1.4) / ISO 800

XF23mmF2 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F7.1) / ISO 200

――2つのレンズに描写性能、というより表現の違いというものはありますか?

写りの違いはあります。それぞれに個性があって、鉛筆で例えるならXF23mmF1.4 Rは「F」、XF23mmF2 R WRは「HB」あるいは「2B」と言ったところでしょうか。

――稲垣さんの「鉛筆の硬さと濃さの例え」個人的に分かりやすくて昔から大好きです。

ありがとうございます(笑)。もう少し具体的に言うなら、XF23mmF1.4 Rは「H」ほど硬質ではなく「HB」より繊細な描写力・表現力を持っています。ボケ味は柔らかくクセのない自然な描写が魅力だと思っています。

それに対して、XF23mmF2 R WRは、「HB」から「2B」くらいの鉛筆で描いたデッサンのように、コントラストのある、力強い描写が持ち味です。

XF23mmF1.4 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/250・f3.2) / ISO 200

XF23mmF2 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F3.6) / ISO 400

――なるほど。どちらの写りが稲垣さんにとって好みということはありますか?

いえ、写りの違いは感じていますけど、どちらの描写性能も優れていることに違いはありませんので、どちらか一方が特別に好みということはありません。

明るさ・AF・重量のバランスで使い分け

――それでは、2つのレンズをどのように使い分けているのでしょうか?

まず、XF23mmF1.4 RはXF23mmF2 R WRより1段分明るい大口径レンズですので、朝夕の光が少ないときに選択することがあります。普段はF4からF8くらいに絞って撮影することが多いのですが、その時ばかりは大口径レンズの特長を活かして開放F1.4で撮影します。

また、XF23mmF1.4 Rの繊細な描写特性が、朝夕の微妙な色合いを「情緒」として表現してくれるところも気に入っている点です。

XF23mmF1.4 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / 絞り優先AE(1/240秒・F5.6・-1.7EV) / ISO 400

――開放絞りでの撮影でも描写性能は大丈夫ですか?

XF23mmF1.4 Rに限ったことでなく、XF23mmF2 R WRも絞り開放から十分満足できる描写をしてくれます。

XF23mmF2 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/640秒・F2.0) / ISO 200

――ではXF23mmF2 R WRはどういった時に使われますか?

実のところ、最近はXF23mmF2 R WRの出番がかなり多くなってきています。それは、このレンズのコンパクトさが理由になっています。最近一番よく使っているボディはX Pro2なのですけれど、XF23mmF2 R WRだとボディとのバランスがよく、ストラップで肩や首に提げても"おじぎ"することなく、安定して携帯できるのです。長時間のロケで負担になることがなく、AFも速いので、チャンスにも強い。そういったこともあってX-Pro2に付けっ放しの常用レンズになっています。

――XF23mmF1.4 Rも35mm相当の大口径レンズとしてはコンパクトな方だと思いますが……

確かに同クラスのレンズと比べればコンパクトですが、それでも50mm相当のXF35mmF1.4(187g)に比べるとXF23mmF1.4 R(300g)はやっぱり結構重く、ロケでずっと使うレンズとしてはちょっと大きいと感じてしまうのが正直なところです。ボディとレンズのバランスを大切にするのも僕のルールのひとつですからね。

とは言っても、先にお話ししましたように、XF23mmF1.4 Rがもつ、繊細で優しい描写とF1.4の明るさは捨てがたい魅力であることに違いはありません。X-Pro2を愛用する僕にとって、常用レンズはXF23mmF2 R WRですが、ここぞという時の勝負レンズにXF23mmF1.4 Rというのが、2つのレンズの使い分け方になります。

XF23mmF2 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/250秒・F2.2) / ISO 400

XF23mmF1.4 R
X-Pro2 / 23mm(35mm相当) / マニュアル露出(1/160秒・F1.4) / ISO 1600

まとめ

稲垣さんが「鉛筆の例え」で分かりやすく説明してくれたように、XF23mmF1.4 RとXF23mmF2 R WRは、同じ35mm相当の画角をもつ単焦点レンズでありながら、描写の傾向は両者で明らかに異なっている。コントラストとシャープ感の強いXF23mmF2 R WRの方が高性能レンズとしての分かりやすさがあるものの、「情緒」性のある表現をする、繊細なXF23mmF1.4 Rの写りを好む人も多いのではないだろうか。

XF23mmF1.4 Rがもつ大口径ならではの明るさと、独特な優しい表現力を気に入ったのであれば、レンズ選びはこちらの一択となる。しかし、携帯性やAF速度といった使い勝手を重視するならばXF23mmF2 R WRに軍配があがることになるだろう。

また、X Pro2使いの稲垣さんがXF23mmF2 R WRを常用レンズにしているように、自分が使うボディとのバランスを考えることもスナップ撮影では重要となる。この場合、X-T20やX-E3のような小型ボディならXF23mmF2 R WRとなるし、グリップを付けたX-T2やX-T3、X-H1ならXF23mmF1.4 Rの方がよいだろう。

スペックの違いや描写傾向、ボディとのバランスなど、レンズ選びを総合的に考えることのできる、よいアドバイスとなる今回のインタビューであったが、共通して言えるのは、たとえどちらのレンズであっても、スナップ撮影に最適な23mm単焦点レンズであることに変わりはないと言うことである。

制作協力:富士フイルム株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。