新製品レビュー
SONY α7S III
最新世代の操作系+AFで快適な撮影性能
2021年1月12日 06:00
ソニーより、高感度・映像用途に特化したフルサイズミラーレスカメラ「α7S III」(ILCE-7SM3)が、α7Sシリーズとして約5年ぶりのフルモデルチェンジを果たし、10月に発売された。最近のカメラとしては長めとなる5年という年月を経て進化したα7S IIIは、画素数を抑えて暗所性能に強いという特徴をそのままに、ソニーの最新技術を数多く搭載したカメラになっている。今回、短時間ではあるが使用する機会を得たので、主に静止画撮影機能について本機を使ったインプレッションをまとめてみたい。
α7S IIIの位置づけ
最も早くからフルサイズミラーレスカメラに注力してきたソニーは、現在フルサイズミラーレスカメラだけで5つものシリーズをラインナップしている。シリーズのコンセプトはSpeed / Resolution / Sensitivity / Basic / Compactと定義されており、具体的にはそれぞれα9 / α7R / α7S / α7 / α7Cシリーズが該当する。今回のα7S IIIは「Sensitivity」に特化した最新モデルということになる。
最近のカメラは入門機でも2,000万画素、中~上級機は3,000~6,000万画素といった高解像度が当たり前という世界だが、α7Sシリーズは初代からずっと約1,200万画素の“低画素”センサーを搭載している唯一無二の存在だ。現在、主要なカメラメーカーの現行機としては最も画素数の少ないカメラである。
高画素化が進む現代において、画素数を抑えた設計となっているのは「Sensitivity」を追求した結果だ。画素数が少なければ1画素あたりに取り込める光の量が多くなり、高感度性能を高めやすくなる。
α7S IIIの有効画素数は約1,210万画素と先代のα7S IIとほぼ同等。最大拡張感度もISO 409600と両機ともに同じだが、本モデルではセンサータイプを新たに裏面照射型としたことで、さらに高感度画質の改善が図られている。
必要な画素数は用途や好みによるが、1,200万画素あれば日常の多くのシーンで困ることは無く、4K撮影(約800万画素)をするのにも十分な画素数だろう。
ボディデザインと操作部
まずはα7S IIIの外観をみてみると、これまでのα7Sシリーズを踏襲するデザインとなっており、正面から見るとあまり変わっていないようにも思える。しかし実際に手にしてみると、グリップ形状や背面のボタン配置が大きく変化していることなど、その違いがよく分かる。
サイズはα7S IIより僅かに大きくなり、重量は約699gとα7S IIから72g増えている。α7R IV(約665g)と比べると、ほとんど同じサイズ感と考えて良い(重量はバッテリーとメモリカードを含む)。
グリップ形状はしっかり握り込めるように大きくなっており、重量のあるレンズを付けて撮影しても安定してホールドできる。
α7S IIの背面デザインは2世代前(α7R II、α7II世代)のものだったが、α7S IIIでは最新世代(α9 II、α7R IV世代)と同様の作りになっている。マルチセレクター(ジョイスティック)が搭載されただけでなく、AF-ONボタンなど、よく使うボタンも大型化されており、背面のコントロールホイールもしっかりとした作りで、旧モデルから操作性が大きく向上している。
筆者はα7R IVを普段使用しているが、本モデルはこれとほぼ同じフィーリングで扱う事ができた。
本モデルならではの外観的特徴もいくつかある。最も大きな特徴は、フルサイズαシリーズとして初めてバリアングルモニターを搭載したことだ。これにより縦構図、横構図のどんなアングルで撮影してもモニターをしっかり見て撮影出来るようになっている。もちろん自分撮りも可能だ。可動性や可動範囲についても使っていて気になるような点はなかった。
さらにボディ上部の従来C1ボタンが配されていた場所にMOVIEボタンが置かれていることも特徴。本モデルは動画撮影用に使うユーザーが多いことに配慮して、アクセスしやすい場所に録画開始ボタンが配置されているのは嬉しいポイントだろう。元あったC1ボタンは、逆に従来機でMOVIEボタンが置かれている位置にきているため、ボタンの総数は変わらない。従来通りの配置で使いたい場合はボタンカスタマイズで好きなように機能を登録することも可能だ。
正面のAF補助光ランプが付いていた部分には、その隣に可視光+IRセンサーが搭載されているのもポイント。蛍光灯やLEDなど、これまでカメラが苦手としてきた光源においても正確なホワイトバランスが得られる。また、細かいポイントだがストラップ用の三角環が撮影中に動いてカチカチと音が出ないようになっているのもポイント。動画撮影ユーザーの中には三角環の音を嫌って取り外して使うというユーザーも多いが、α7S IIIではこのような細かな部分にも配慮した丁寧な作りになっている。
ファインダー
ファインダーの形状もα7S IIと比べるとアイカップが大きくなっている。一見するとα7R IVなど最新世代と同じように思うかもしれないが、内部は更に進化している。ファインダー解像度は世界最高の約944万ドットOLEDを採用しており、ファインダー倍率も0.90倍と非常に大きい。加えてアイポイントも25mmと従来から伸びている。
実際に覗いてみても、ファインダー内のドットを目視で識別するのはほぼ不可能なほど滑らかな表示が得られており、120fpsのハイフレーム設定も可能なため、遅延やカクつきもほとんど気にならない。現行のカメラの中でもハイスペックなEVFといえる出来だ。
メモリーカードスロットと端子類
α7S IIIは静止画向けミラーレスカメラにおいて、はじめてCFexpress Type Aに対応したカメラだ。カードスロットはコンパクトなボディサイズを維持しつつ、両カードに対応するため、たいへんユニークな構造が採用されている。
通常、カメラのメモリーカードスロットはカードの種類ごとに排他利用となるが、α7S IIIなら1つのスロットにSDカード、CFexpress TypeAどちらか好きな方を使う事ができる。これによりユーザーは従来通りSDカードをデュアルで使う事もできるし、性能の高いCFexpress Type Aカードを使う事も可能となる。2019年から本格的に普及がはじまったCFexpress Type Bカードを皮切りとしたメモリーカード世代交代時期のカードスロットとしてはとても良い設計だ。このあたりはかつてメモリースティックとSDカードの共用スロットを有していたソニーならではの発想でもあるだろう。
今のところCFexpressカードはひとまわり大型で、さらに高速なType Bが他社上級機を中心に普及しはじめている状況で入手性も良くなってきたが、Type Aは現在のところソニーからしか販売されておらず、価格も高止まりしているのがネックだ。今後の普及を期待したい。
正面左側の側面にはフルサイズのHDMI端子(HDMI タイプA)が採用されている点も嬉しい。従来のMicro HDMI(HDMI タイプD)は使用中の衝撃に弱く利用中に破損させてしまうことも多かったため、動画ユーザーを中心にタイプAの採用が望まれていたところだ。新たに高速転送や充電、給電に対応したUSB Type-C(PowerDelivery対応)も搭載されている。従来のマルチ/マイクロUSB端子も搭載されているが、充電や給電はUSB Type-Cからしか出来なくなっている点に注意しよう。
バッテリーは従来のNP-FW50から大容量のNP-FZ100に変更されている。α7S IIからは静止画撮影可能枚数が310枚から510枚に大きくアップ(ファインダー利用時)。実際の撮影ではもっと多くの枚数を撮ることができ、連写を併用した撮影ではバッテリー1本で数千枚の撮影ができた。
連続動画撮影時間も約135分(液晶モニター使用時)と十分だ。先代にあった動画の30分制限もなく、長回しの撮影にも対応する。
メニュー体系
メニュー体系が従来のαから一新されたことも本モデルの大きな進化ポイントだ。従来のメニューは大分類ごとに横にタブが並び、その中で多くのページ移動を強いられる方式であったが、新体系ではタブが縦に並び、大分類>中分類>個別設定と3階層となり、欲しい機能を見通しやすくなった。
待望のタッチ機能もはじめて搭載され、欲しいところへ直接ジャンプできるようになった点も嬉しい。ただし、大分類タブのサイズが小さく、手が大きめの筆者の場合だとタッチ操作への慣れが必要だと感じた。
実写
ここからは実写した写真を交えてのインプレッションを紹介していきたい。以下の写真はすべて撮って出しのJPEGだ(クリエイティブスタイル:スタンダード)。
約1,210万画素と聞いて解像度は不足しないのかと心配になる人もいると思うが、実際に使った感想としてはノートリミング運用が前提ならあまり気にする必要はなさそうだ。写真のシャープさは画素数よりもレンズの性能やピント精度、シャッター速度(ブレ)の影響が遙かに大きいためだ。
このような高周波な被写体でもしっかり細部まで表現してくれる。雲のハイライト部分も飛ばずに粘っているのもポイント。
きちんと丁寧に撮影すれば高画素カメラに引けを取らないきっちりした絵が得られる。α7R IVのような高解像度機と比べると若干線が太く感じるが、むしろメリハリのある分かりやすい絵に感じる。プリントを考えてもA3サイズまでなら全く問題ない解像度だろう。
本モデルで大きくトリミングするシーンは少ないと思うが、トリミング(拡大)すると線の太さが目立ってくる点には注意しよう。
このようなボケの多いシーンでもメリハリのある良好な結果が得られた。ボケ部分の階調も良好だ。
人物写真に関しては瞳AFがさらにパワーアップしていると感じた。α7S IIIの画像処理エンジンはBIONZ XRへと進化しており、瞳AFの精度もアップしていると謳われているが、実際に使ってみての筆者の感覚では、α7R IVの瞳AFよりもレスポンスが向上していると感じた。
このくらいの面積で顔が映っていればカメラ任せでもほぼ100%の精度で瞬時に瞳にピントが合うと考えてOKだ。メニューから瞳の左右どちらを優先するかの設定も可能。10コマ/秒の連写でも問題なくAFが追従してくれる。
なお、α7S IIIの人物撮影では以下の記事も参考にして欲しい
特別企画:SD UHS-IIカードはα7S IIIの撮影性能をどこまで引き出すことができるのか
→記事はこちら
霧が立ちこめたちょっと意地悪なシーンでもAFを試してみたが、迷いなく何の問題もなくピントが合ってくれた。
ハイライトからシャドウまで輝度差があり暗い暖炉でも良好な結果だ。このようなシーンは適正な露出がなかなか得られなかったり、おかしな色になることも多いが、-1/3EVと僅かに露出補正しただけでAWBのまま安定して撮影が可能だった。ISO 4000だがノイズの影響はほとんど感じられずクリーンだ。
高感度性能についてはISO 6400付近まではノイズを意識せずに使えるようなイメージで、それを超えてくるとボケなどコントラストの低い部分が若干ざらついてくる。しかしコントラストのある合焦部分に関してはISO 25600付近までかなりクリア。ISO 51200くらいから全体的にノイズが気になってくるがまだ十分使えるレベル。Webで小さく使うのであれば、ISO 204800でも十分いけると感じる人は多いと思う。最高感度のISO 409600ではさすがに全体がざらついて見えるものの破綻していると言うほどではない(ノイズ低減設定などはすべて標準で撮影)。
本モデルはイメージセンサーの読み出しも従来機から高速化が図られており、電子シャッター利用時のローリングシャッター歪みも低減されている。ホームに入ってくる普通電車を電子シャッターで横から撮影したのがこちらだ。
さすがに積層センサーを搭載したα9のように歪み無く写るということはなかったが、従来機に比べると大きくローリングシャッター歪みが改善されている。同じく読み出し速度を改善したキヤノンのEOS R5/R6と同程度の歪み方であり、通常撮影なら電子シャッターを使った運用も十分できそうだ。
まとめ
以上が短期間であったがα7S IIIを実際に使ってみた静止画撮影に関するインプレッションだ。
先代のα7S IIの静止画撮影機能に比べると新型の裏面照射型センサーで暗所性能に磨きがかかっただけでなく、握りやすいグリップや信頼性の増した背面操作系、新メニュー体系、圧倒的なファインダー性能、高速なCFexpress TypeA採用など撮影の快適さが大きく向上し、連写性能やリアルタイム瞳AFを始めとした基礎機能も向上している。
α7S IIが登場した頃のαは操作性などカメラの使い勝手に不満な点が多かったが、この5年の間にかなり使いやすいカメラへと進化している。今回のα7S IIIは新機能も多く搭載され、αシリーズのなかで最も快適に撮影出来るカメラに仕上がっていると感じた。
ただし、α7S IIIの魅力は静止画撮影機能だけでなく、圧倒的な動画性能によるところも大きい。動画撮影を積極的に行わない運用が前提であるなら、40万円を超える価格を考えると一般的な撮影用途ではあまりコスパの良いカメラとはいえないと感じる。やはりα7S IIIは4Kを始めとする圧倒的な動画性能を使ってこそのカメラだ。
もし本機で静止画撮影をメインで運用するのであれば、4K 16bit RAW(要外部レコーダー)や4K 10bit All-Intraからの静止画書き出しなど動画と静止画を融合させるような撮影にチャレンジするのが面白そうだ。
また、今回α7S IIIに搭載された新メニュー体系や圧倒的なファインダー性能、CFexpress Type Aへの対応などは、今後のαシリーズにも何らかの形で活かされると予想できる。そう考えると、そろそろ更新があっても良さそうなタイミングのα7 IIIのほかα7R IVの後継機なども充実したスペックになるのではないかと楽しみだ。